
全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。
今回お話を伺ったのは、群馬県高崎市にあるREBEL BOOKS(レベルブックス)の荻原貴男さん。売れ筋のものから、高崎をテーマにしたZINE(自主制作本)など、バランスのよい選書が心踊る本屋さんだ。
東京から電車で約2時間。少し長く感じるかもしれないけれど、そんな時間も本があれば楽しめるというのが荻原さんの考え方。帰りの電車で読む本を遠くの本屋さんに買いに行くというのも、きっといい休日の過ごし方に違いない。
読みたい本を2,3冊持って都内から湘南新宿ラインに乗る。ほどよく読んだころに気づくと高崎に着いている。美味しい個人店でご飯、酒、コーヒーなどを楽しみ、レベルブックスで本を買う。どこに行っても混んでるゴールデンウィーク、こんな過ごし方がおすすめです。高崎は混んでません。
— rebelbooks (@rebelbooksjp) April 30, 2023
SNSで大きな反響を読んだ、REBEL BOOKSの投稿
意外と知られていない「歩くと見えてくる高崎」
「世の中が便利になりすぎた反動なのか、最近、歩くこと、散歩することが再評価されている気がします。
僕は、高崎って歩くのに最高なまちだと思っているんですよ。メイン通りから一本裏道に入ると個性的な個人店が多いし、看板建築と言われる昭和の建物もまだ残っていて楽しい。少し歩くと、烏川や観音山などの自然が豊かなエリアで一息つけますし」と荻原さん。
群馬に住む人は車で移動することが多い。だから「歩いて楽しい高崎」という視点は、意外と地元の人にも知られていないかもしれない。車のスピード感で通り過ぎてしまうちょっとした楽しみは、歩きや、自転車だからこそ発見できる。REBEL BOOKSで本を買ったら、街を歩き、そのなかで出会ったおいしい個人経営の飲食店や、豊かな自然のなかでゆっくり読んでみてはいかがだろうか。
REBEL BOOKSが推薦する、高崎でおすすめのスポット
「コタマブルワリー」
REBEL BOOKSから徒歩5分、昨年オープンしたクラフトビール醸造所。できたてのビールがその場で飲める。1階は、偶然隣り合った人とも気軽に話せるようなカウンター席で、2階は飲みながら本も読める落ち着いたフロアになっている。
荻原さんのおすすめメニューは、群馬産の梅を使った「STEAM TRAIN PORTER(スチーム トレイン ポーター)」。あまり知られていないが、実は、群馬は梅の生産量が全国2位。「ぬるくなってもおいしい」を掲げるコタマブルワリーのビール。注ぎたてのキンキンもおいしいけれど、温度が上がるにつれて甘い梅の香りが膨らみ、二度楽しめる。
コタマブルワリー
〒370-0813 群馬県高崎市本町117-3
https://www.instagram.com/cotamabrewery/
※「STEAM TRAIN PORTER」は期間限定商品のため、販売していない場合があります。
「高崎自然歩道」
烏川を渡ると広がる、なだらかな観音山丘陵。山名から少林山までの全長約22kmの間に、自然を満喫できる自然歩道が用意されている。市の観光課から「高崎自然歩道ガイドマップ」が発行されていて、トレイルランニングでしっかり身体を動かしたい人にも、軽い散策を楽しみたい人にもおすすめ。
荻原さんのお気に入りは、「高崎白衣大観音」を見て、「ひびきばし」に寄り道しながら日本庭園「徳明園」に至るコース。「徳明園」まで行かずに途中の階段を降りると行けるケルナー広場には、ドイツの遊具デザイナー、ハンス・ゲオルク・ケルナーさんの手がけた遊具がたくさんあり、子どもも楽しめる。
高崎自然歩道
https://www.city.takasaki.gunma.jp/page/3499.html (高崎市役所HP)
高崎で読むのにおすすめの本
『センス・オブ・ワンダー』
子どもたちへの一番大切な贈りもの! 美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目を見はる感性を育むために、子どもと一緒に自然を探検し、発見の喜びを味わう――(版元HPより)
「これは、『うちで一番売りたい本』として、開店当初からずっと推しているんです」と、荻原さん。
そういえば、REBEL BOOKSのステッカーにも「SENSE of WONDER」の文字が。
そんな大事な一冊に、荻原さんは20代の時に出会ったという。大学生の頃、友だちと夜からドライブに出て、明け方、海に着いた。夜明けの太陽の光が海一面を淡いピンクに染めているのを見た時、荻原さんは「ここも宇宙なんだ」と目を見張ったそうだ。その数年後に『センス・オブ・ワンダー』を読み、あの時の気持ちが言語化されていると驚いた。
前述した通り、個人店や古い建築が多く、自然豊かな高崎は、歩くのにもってこいのまち。『センス・オブ・ワンダー』を読み、世界を発見し、楽しむ視点を手に入れてからだと、街歩きがもっと楽しめるかもしれない。
『センス・オブ・ワンダー』
レイチェル・L. カーソン 著/上遠恵子 訳 新潮社
https://rebelbooks.theshop.jp/items/40509957
『ノースライト』
一級建築士の青瀬は、信濃追分に向かっていた。たっての希望で設計した新築の家。しかし、越してきたはずの家族の姿はなく、ただ一脚の古い椅子だけが浅間山を望むように残されていた。一家はどこへ消えたのか? 伝説の建築家タウトと椅子の関係は? 事務所の命運を懸けたコンペの成り行きは? 待望の新作長編ミステリー。(版元HPより)
『半落ち』『64(ロクヨン)』などで有名な小説家の横山秀夫さんは、群馬県の新聞社で記者を勤めていたこともある。そんな横山さんの作品『ノースライト』は、高崎に縁のある建築家ブルーノ・タウトが物語の鍵になっているミステリーだ。
1930年代、ナチスドイツから逃れるために来日し、高崎市に滞在したブルーノ・タウトという世界的な建築家がいた。彼が暮らした記憶は、高崎の街の随所にまだ残っている。タウトが暮らした少林山達磨寺の境内にある洗心亭という建物は、市街地から少し離れているがバスや電車でもアクセスできる。また、和菓子屋「九重ねぼけ堂」では、その名も「ブルーノ・タウト」という焼き菓子が人気だという。
タウトが関わった建物以外にも、高崎には旧井上房一郎邸や、群馬音楽センターなどの名建築が点在する(この2つは、日本のモダニズム建築に大きな影響を与えたアントニン・レーモンドに縁が深い)。「建築ミステリー」の要素を持つ『ノースライト』を読みながら、高崎の歴史的な建物を巡る小旅行に出かけてみてはいかがだろうか。
『ノースライト』
横山秀夫 著 新潮社文庫
本を持って街を歩く。そして、旅先の書店で新たな出会いを楽しむ。
今度の休日は、そんな過ごし方をしてみてもいいのかもしれない。
REBEL BOOKS
群馬県高崎市椿町24-3
HP:https://rebelbooks.jp/
X:@rebelbooksjp
Instagram:@rebelbooksjp
構成:荒田もも