全国各地にある、センスが光る独立書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

今回お話を伺ったのは、神奈川県小田原市にある南十字の成川勇也さん。

「南十字」は、出版業界・書店員経験未経験の3人が2022年にはじめた、小さいながらもゆったりとできる書店だ。

運営メンバーは、本と音楽を愛する選書担当の成川さん、「合同会社前途洋々」代表で、UXプランナー/Webディレクターの剣持貴志さん、ひとり出版社「風鯨社」を立ち上げたグラフィックデザイナーの​​鈴木美咲さん。3人は、地元の高校時代からの友だちなのだという。

数えきれないほどの本のなかから一冊に出会い、自分の関心や感情を知り、また次の本に出会っていく。そんなふうに、本を通じて「自分だけの星座をつくって欲しい」。店名にはそんな思いが込められている。

新刊や古本、自主制作本(ZINE)の販売のほか、一箱本棚コーナーなどもあり、カフェスペースではコーヒーや軽食を提供している。

今回は、そんな南十字の選書担当である成川勇也さんに、小田原で読むのにぴったりの本と、本を携えて出かけるのにぴったりのスポットを教えてもらった。

 

小田原は「観光地」から「自分たちの日常を豊かにする街」に変化している

小田原で生まれ育った成川さん。

3年前にこの地で書店を開いたが、それ以前の印象は「保守的な街」だったという。

しかし、コロナ禍で毎日のように通っていた東京に出られなくなり、足元にある風景に目を向けるようになった。豊かな海と山に囲まれ、箱根や湘南にもほど近い立地。小田原城を中心に、歴史を感じさせる町並みも残っている。そうした環境を「観光客のための街」ではなく、「自分たちの日常を支える街」として改めて捉え直すきっかけになった。

同じような感覚を抱いた人は少なくなかったのだろう。最近の小田原には、観光客向けではない個人店が生まれ、地元の人や移住者、さらにはふらりと訪れた旅行者までもが気軽に立ち寄れるハブのような場が増えつつある。以前よりも風通しがよく、人と人がつながりやすい街へと変化しているのだ。

成川さん、剣持さん、鈴木さんの3人もまた、ライフステージの変化を経て、自然と小田原で集う時間が増えていった。そんなある時、ひとり出版社を始めた鈴木さんの提案と、剣持さんの「おもしろい街には、おもしろい本屋が必要だ」という思いが、書店「南十字」をはじめる大きなきっかけとなった。

 

南十字 成川さんがすすめる、小田原のおすすめスポット

「小田原に来たらお城を見つつ、まずは南十字へ。おすすめスポットをたくさん教えられます」と成川さん。南十字で読みたい本をチョイスしてから、小田原の街に遊びに行こう。

himono stand hayase

創業110年の老舗干物屋「早瀬のひもの」の2代目が始めたhimono stand hayaseは、昔ながらの「ひもの」を、おしゃれに提供しているスタンド。

アジやサバを使ったオリジナルバーガーは若い世代や海外からの旅行者に人気で、店内のイートインでは焼きたてを頬張ることができる。

「創業100年を超える干物の老舗『早瀬のひもの』のカフェスタンド。南十字のある通り沿いを歩いてすぐの立地で、オープン準備の期間にはさばバーガーやあじバーガーばかり食べていました。がっつり店内でお弁当メニューを食べてもいいし、バーガーをテイクアウトしての小田原散策もおすすめです」

himono stand hayase
神奈川県小田原市本町3-12-21(南十字から徒歩4分)
https://www.instagram.com/himonostandhayase/

 

sent.

南十字から徒歩10分ほどの場所にあるセレクト雑貨店「sent.」。「日々の暮らしに永く寄り添う」雑貨を、国内外問わずセレクトしている。

店主の秦美咲さんは、移住者でありながら、小田原のことを訊くにはうってつけの存在。地域のおすすめスポットや美味しいごはん屋さんを知っている。小田原の地域の人とのつながりを大事にしながらお店を営んでいるのがよくわかる。

「いい意味で小田原らしくない素敵な雑貨屋。店主は、根府川で定期的に開催されているマーケットイベント『Local Market』主催でもあり、お店での展示や飲食イベントと合わせ小田原内外を豊かに繋げてくれているお店です」

sent.
神奈川県小田原市本町3-1-6(南十字から徒歩9分)
https://www.instagram.com/sent.__shop/

 

good music and life. cafe ももすけ

ブラジル音楽を愛する店主が営む「good music and life. cafe ももすけ」。金曜の夜だけバー営業を行うこの店は、気づけば小田原で暮らす人々や移住者が集まる“ハブ”のような存在になった。

「金曜夜の居酒屋営業時には小田原内外の音楽好きや愉快な人たちが集まる音楽カフェ(普段は夕方までのカフェ営業)。

文化的な面において小田原のハブになっていると個人的には思っており、『金曜夜に来ると何かしらおもしろいことがあるよ』と友人・知人に喧伝しています。ライブも定期的に開催され、よくDJをさせてもらったりしています。

7年前にももすけが小田原に出来たおかげで、コロナ禍に東京へ出れなくなった時に腐らずに済みました」

金曜の夜は深夜まで開き、地元の人が飲み歩くコースの終着点になることもしばしば。

good music and life. cafe ももすけ

神奈川県小田原市栄町1-17-31(南十字から徒歩14分)

https://www.instagram.com/matsuokayasushi/?hl=ja 

 

小田原で読むのにおすすめの本

『日本に住んでる世界のひと』

いろんな国から来た、隣人たちの生活物語。

アイスランド、南アフリカ、スペイン、バルバドス、メキシコ、中国、イタリア、ミャンマー、セネガル、モルディブ、韓国、エストニア、フィリンピン、アルメニア、東ティモール、北マケドニア、アメリカ、中国・内モンゴル自治区、コンゴ民主共和国……
来日した理由はさまざま。暮らしぶりも十人十色。 一人ひとりのストーリーを通して見えてくる普段の生活、そして難民問題、地球温暖化、ジェノサイド、民主化運動、差別の歴史など。(版元HPより)

「文筆家、イラストレーターの金井真紀さんによる、日本で暮らす18組の外国人の紹介とインタビュー。3年前(2022年)刊行の本ですが、今このタイミングでこそまた読んでもらいたいなと、南十字でもたくさん並べています。

未知から始まる分断にげんなりすることが多い昨今、本を読み、知ることで静かに抗っていきたい。金井真紀さんの視点は鋭くも優しくて、他の著作もおすすめです」

『日本に住んでる世界のひと』
金井真紀 著/大和書房

 

『泳ぐように光る』

『転職ばっかりうまくなる』が出版され、適応障害になった春。はじめて食中毒を経験した夏、胃腸炎の秋、大腸の内視鏡検査を再びすることになった冬……。不調とともに過ごしながら、書くことに向き合った日々の記録。

『転職ばっかりうまくなる』の執筆をはじめた2023年4月1日から、『ひらめちゃん』の発売を控えた2025年3月31日までの2年間の日記ほか、あとがき、索引を収録しています。(著者サイトより)

「作家·ライターとして活動する、ひらいめぐみさんの2冊目の日記ZINE。心身の不調とそれでも書くことと向き合う日々が、飾らない日記の言葉で記録されています。サイズ感含め、カバンに入れていつも傍らに置いておきたい一冊。

誰かの日々がまた他の誰かを励ますこともある。自分もメモ程度でも記録を残しておこうかなという気持ちになります。電車移動日記でもありますね」

『泳ぐように光る』
ひらいめぐみ/自主制作

 


小田原という街の魅力を見つめ直しながら、本と人、人と街をつなぐ「南十字」。本や人との出会いは、旅をより豊かにしてくれるはずだ。

南十字
〒250-0013 神奈川県小田原市南町2丁目1-58
https://minamijujibooks.com/
X:@minamijujibooks
Instagram:@minamijujibooks