
こんにちは。ジモコロライターの田中です。
先日、音楽番組を観ていたときに、ふと思ったことをお伝えさせてください。


「……編曲って何?」
作詞はわかります。楽曲の歌詞を作ることですよね。作曲は曲のメロディを作ること。じゃあ編曲って……?
・そもそもどういう仕事が編曲?
・音楽が作られる時のどこからどこまでが編曲って言うの?
・作詞や作曲と同じように印税はあるの??

らちが明かないのでプロ……それも日本一の編曲家と言っても過言ではないヤマモトショウさんに話を聞いてみたいと思います。
ヤマモトショウさんといえば、FRUITS ZIPPERの大ヒット曲でTiktok総再生数は30億回以上という「わたしの一番かわいいところ」を作詞・作曲・編曲し、日本レコード大賞最優秀新人賞を獲得。
さらにFRUITS ZIPPERの「NEW KAWAII」、「かがみ」で優秀作品賞を受賞。「世界一かわいい音楽を作る」と言われる音楽プロデューサーです。
最近では地元・静岡でアイドルグループ「fishbowl」をプロデュースしたり、「しずおか大好きまつり」を監修したりと、地方での活動にも力を入れています。
私・田中と同郷で、ジモコロ的にも深い話が聞けること間違いなし! ということで、ヤマモトショウさんのスタジオにおじゃまして、いろいろと話を聞いてみたいと思います。
楽曲のクレジットにある「編曲」って何をしているの?

「早速なのですが、『編曲』って何をしているんですか? 作詞は歌詞を作ることで、作曲はメロディーを作ること……じゃあ編曲って何をするんでしょうか?」
「編曲はそれ以外のすべてです」
「……ん? すべて???」
「そう。全部です。わかりやすく言うと、作詞家が歌詞を作って、作曲家がメロディをつけたその曲を……ピアノで演奏するのか、ギターならコード進行はどうするのか、イントロはどうするのか、シンセを加えたりオーケストラっぽくしたり、それらすべてを考えるのが編曲家の仕事です」
「極端に言うと歌が入る部分のメロディ以外すべてってこと!?? イントロも編曲家の仕事なの!!?? てっきり、そのあたりは作曲家さんの仕事かと思っていました。」
「あの〜、ちょっといいですか?」
「おや、カメラマンとして同行してくれたジモコロ編集長のギャラクシーさん、どうしました?」
「今のお話を聞いていると、編曲家って作業量の比重が大き過ぎないですか?」
「確かに、世間のみなさんが思っている以上にやることは多いかもしれません」

「しかも、あらゆる楽器に精通していないといけないわけですよね。この世の楽器を全部理解しているということですか?」
「それこそ、ハープやシタールを使うことになったら、さすがに専門家の方に助けてもらうんですか?」
「楽器ってある程度共通してる部分があるので、専門外でも全くわからないってことはないですね。そもそも、あり得ない理屈で動いている楽器が少ないので。たとえばハープであればハープのソフトに弾いてもらいます」
「『全くわからないってことはない』という感覚がわからない……」
「ただハープならではの奏法もあるので、プロの奏者の方に弾いてもらったほうが早いパターンもあります。そのあたりは予算との兼ね合いですね。基本的には勉強と経験でなんとかしてます」
「勉強で言うと、どんなことをしているんですか?」
「販売されている楽曲のアレンジを聴いて、『いいな』と思ったら自分のパソコンのソフトで再現しながらなんとなく学びました。もちろん、師匠のところで勉強する人もいれば、感覚的にできちゃう人もいると思います」
「経験のない楽器のパートを編曲したときに、バンドメンバーの方から『ドラムこんな細かく叩けねぇよ!』みたいなクレームは出ないんですか?」
「あります、あります。ソフト上で作ると理論的には1秒間にドラムを100回叩くことも可能ですし。僕自身は『再現性よりもいい音楽をつくることにこだわりたい』と思っていますが、バンドセットでの演奏を考えてアレンジする人もいます」
「なるほど」
「ただ、僕もライブで自分がアレンジした曲をギターで演奏するときに『弾けない!」ということもあります。アレンジのときは少しゆっくり弾いたり、つなぎあわせたりできますが、本番は自分で弾くしかないので。『こんな難しいフレーズを誰がつくったんだ!』と過去の自分に苛立ちながら演奏しています(笑)」
編曲はクリエイティブというより職人気質な仕事?

「順番としては作詞・作曲が終わってから、編曲するイメージですか?」
「基本的にはそうです。でも、僕のように両方やる場合はどっちもやりながら。たとえば、ドラムを入れて『ここのメロディーをもう少し変えたいな』みたいなことはあり得ます」
「“編曲”がかなり幅広いお仕事だというのはわかりましたが、では逆に“作曲”って、最低限どこまでがお仕事なのでしょう? 」
「基本的にはメロディーを作るだけなのですが、現代においては作曲家も簡易的なデモ音源を作ります。メロディーだけでは、編曲側も曲の雰囲気がわからないので。具体的には、リズム、コードの雰囲気、使用する楽器などを取り入れることが多いですね」
「それって……実質、編曲ですよね」
「そうですね。以前は作曲や編曲がパソコンでできなかったので分業されていましたが、今はある程度までなら仕上げられますからね。重なり合ってる部分もあります」
「いずれにしても編曲が後の工程になるということは間違いないですよね? ということは、作詞・作曲が滞ると編曲家のスケジュールがキツキツになるのでは?」
「そうなりますね……」
「いや〜、共感します。田中くんはいつも記事の提出がギリギリで……編集サイドが苦労してるんですよ」

「そ、それは……」
「(笑)でも、編曲家は仕事が早いんですよ。理由は、ゼロからイチを作る作詞や作曲と比べて、編曲には型があるからです」
「型?」
「音楽をやっていない人にとっては『音楽理論や楽器とかを全部覚えるなんて!』と思うかもしれませんが、音楽をやっている人にとっては『こういうジャンルの楽曲ならこういう演奏』みたいなある程度のパターンがあります」
「ええ!?」
「ミスなく演奏できるなら、実質楽器の個数分の時間でアレンジの仕事は終わります。作詞や作曲のように何度も直すことはないので。僕がよく編曲をお願いする音楽家・宮野弦士さんは3時間ぐらいで仕上げてくれたこともあります」
「アイドルの元気なダンスチューンとか、アメリカっぽいバンドサウンドとか、もっと単純に南国っぽい曲とか、それぞれ型があるってことなのかな」
「そういう意味ではクリエイティブというよりもかなり職人気質な仕事と言えるかもしれませんね」
印税じゃないの? 知られざる編曲家のギャラ事情

「ヤマモトショウさんといえば超がつく売れっ子編曲家……ということは夢の印税生活ですよね。憧れちゃうなぁ」
「あ、印税じゃないですよ」
「え??」
「作詞家や作曲家は、著作権のルールに基づいて、CD販売枚数の何%かが収入になるみたいなパターンです。これが印税ですよね。一方、編曲家は『1曲アレンジして○○万円』という形態です」
「なんか、フェアじゃない気が……」
「いえ、これには良い面もあります。作詞家、作曲家は曲が売れなかったら微々たる額になることもありますが……編曲なら確実にギャラを得られる。作曲で同じぐらい稼ごうと思ったら、結構ハードルが高いんですよね。だから、編曲が儲からないわけではありません」
「なるほど」
「でも僕らの感覚だと“編曲も作曲と同じように著作権収入あるべき”なんですよね。たとえば、Deep Purpleの『Smoke On the Water』のイントロのフレーズなんか、みんな知ってるじゃないですか。でも、その部分を作るのは概念上は作曲ではなくて編曲です」
「曲名よりもイントロのフレーズのほうが有名なぐらいですよね」
「ギター一本で弾き語りする場合も、『弾き語り』という編曲ですからね。『編曲家がいなければ楽曲が完成しない』という意味では、もっと編曲について理解されてほしいなとは思っています」
「実際、編曲ってどういうふうにやるんですか?」
「基本的に僕はソフトを使っています。ここに4人組グループのボーカル+コーラスとかもすべて録った状態のトラックがあります。全部で130ぐらいのトラックがあり、アレンジで使うのは50〜60ぐらいですね。ちょっと音色をいじったり、ギターのトラックにアンプを入れたり」
「50も!? イラストをパソコンで描くときに“腕”“影”などレイヤーを分けたりしますが……50も管理するのは大変そう」

なんと実際にソフトを操作して編曲している様子を見せてくれました
「最初の頃はイメージしている音への近づき方がわからなくて苦労しましたね。『○○風にしたい』というイメージはあるけど、どの楽器をどのように鳴らせばそうなるかがわからず、時間がかかっていた時期はありました」
「どう乗り越えたんですか?」
「とにかく“数”をこなしました。やりたいことはいくらでもあるので、手数を増やしているうちに慣れてきて、イメージに対して最短距離でいけるようになりました」

「編曲にもトレンドはあるんですか?」
「時代ごとに新しいアイデアがあります。最近のトレンドで言うと……」
「おぉ……音色が変わると曲の印象が一発で変わりますね!」
「一説によると、ボカロPは活動を始めるときにお金がなくて高価なソフトは買えない。だから、安価なソフトでおもしろい音源を作ろうとして流行ったと言われています。でも、カッコいいですよね。こういうのも理屈を知らないと再現ができない」
ヤマモトショウが好きなアレンジとは?

「ショウさんにとってアレンジが好きな曲はありますか?」
「難しい質問ですね。アレンジだけが好きな曲はなかなかない。やはり曲に合っていたり、曲をいい形で表現していたりするアレンジがいいと思います」
「なるほど」
「最近僕はJUDY AND MARYを聴いていたんですが、全然古くないんですよね。基本ドラムとベースとギターとボーカルだけで多少鍵盤が入っていますけど、『ギターがアレンジの幅を広げてるな』『ボーカルの存在感が成立させているな』と感じます。一方で、オーケストラのようにたくさんの楽器がバランスよく成立していても凄みは感じます」
「どんな楽曲にも編曲家の方たちのアイデアが隠れているということか」
「そうですね。僕自身、歌詞やメロディはそこまでトレンドを追いかけていなくて、むしろ普遍的なものとして捉えています。特にいいメロディには何かしらのロジックがある。でも、編曲は新しいアイデアがあり得ます。たとえば……」
「これはNew Order『Blue Monday』のイントロですが、これってただただ、キックを16ビートで連打しているだけとも言えます。でも、当時は新しかったんですよね。人力でキックをこのスピードで打つことは現実的ではないので、ドラムマシンが生まれたことによって偶発的に誕生したフレーズなのではないでしょうか」
「なるほど〜!」
「コードもなければメロディもない。『キックを16ビートで連打する』ってどちらかというとダサいやり方です。でも、音楽になっている。アレンジそのものが楽曲になっているという点で、『Blue Monday』は革命的ですね。『音楽ってこれでいいんだ。これでも音楽じゃん』と(笑)」
「音楽家だからこそ汲み取れる部分なのかもしれませんが、すごくカッコいいですね。ショウさんは編曲という仕事は好きですか?」
「正直、編曲家として仕事しているのは不思議な感覚です。楽器をちゃんと習ったことがないから、上手に弾ける楽器もさほどないし、音楽の素養もあまりない。コードの理論も詳しくないので、『プロじゃない』と言うつもりはありませんが、むしろコンプレックスを感じる場面のほうが多いです」
「えええ〜!!」
「自分の強みは王道ではないルートから音楽の世界に飛び込んで、歌詞とかは他の人とは違うアプローチができる点だと思っていますが」

「一応、作詞・作曲・編曲で日本レコード大賞をいただいているので(笑)」
「パワーワードすぎる」
「編曲が本職でない感覚はあるので『編曲家』と名乗ることはあまりないんですが、『音楽プロデューサー』みたいな感じで頑張っていこうと思います」
作詞や作曲と比べて、編曲のおもしろさってどんなところ?

「作詞・作曲と編曲とで頭の使い方は違いますか?」
「かなり違いますね。同時にやっている部分もありますが、自分のなかでも『今は作詞が楽しい時期だな』とか『編曲が楽しい時期だな』とかはありますね」
「作詞・作曲と比べたときの編曲のおもしろさは?」
「作詞・作曲は過去のものを真似しちゃいけないのに対して、編曲は『っぽい』のはアリなんですよ。『オマージュ』『インスパイア』という言い方もあるし、カッコよければむしろ評価されることもある」
「確かに、作詞・作曲で真似したらパクリ扱いですもんね」
「編曲においては、自分がこれまでに受けてきた影響を再解釈して表現することを前向きなものとして捉えられるので、いいアレンジを聴いたときの『その発想があったか!』という気づきもたまらないし、『この曲とこの曲を足してアレンジしてみよう』というアイデアを思いつくこともある。経験とセンスの両方が問われる点が好きですね」
「そう考えると、編曲家になるってハードルが高そうですね」
「いや、そうでもないと思いますよ。作詞・作曲は楽曲が売れないと仕事にならないですが、編曲は納品すれば仕事になるのでビジネスとしては取り組みやすい。ある程度“型”もあるので、技術さえ身に付ければ」
「てっきり音大を卒業しているような方でないと難しいかと……!」
「今はAIでもかなりのものができるので、超えるようなものができないと存在感は発揮できないかもしれませんが、ソフトはかなり優秀になっているので参入障壁は低いです」
「ちなみに、ソフトはおいくらぐらいですか?」
「2~3万円くらいじゃないですかね。パソコンが多少いいスペックじゃないと動きが遅くなりますが、普通のMacで充分です。誰でも編曲家にトライできますよ」

「でも、編曲の腕を磨く機会ってなかなかないですよね。そもそも楽曲がないとできないので」
「基本的にはコピーですね。世の中にある曲のアレンジをどんどん再現する。自分の好きな曲を聴いて、『こういうギターが入っているな』とか『シンセの音作りはこうだな』とかをパソコンで再現できるようにアレンジすることはいい練習になるはずです」
「確かに、絵画も最初は模写からスタートしますしね」
好きじゃない地元でアイドルやイベントをプロデュースする理由
「せっかくの機会ですので、編曲以外の話も聞かせてください。ショウさんは地元・静岡でアイドルグループfishbowlをプロデュースされたり、『しずおか大好きまつり』を企画されたりしていますよね」
「田中くんと真逆だね。最近は実家にも帰っていないんでしょ?」
「帰省してもなんか物足りないんですよね。でも、ショウさんがそれほどまでに想いを注いでいるのなら、僕の知らない魅力があるような気がして」
「あ、一緒ですよ」
「え?」
「ほうぼうで言っていますが、なんなら僕は静岡が全然好きじゃないんです」
「ええーー!」

「だって、静岡ってアーティストもライブをやってくれないじゃないですか。おもしろいものが少ないから、東京へ来てしまっているわけですから」
「静岡にもいいところいっぱいあるのでは……?」
「じゃあ『静岡のいいところ』ってパッと何か思いつきます? 僕は『人が優しい』とか日本全国どこでも言えるようなことしか言えなくて、それがいやだった。だって『この県、人が冷たいな』みたいな街なんてないじゃないですか(笑)」
「同郷の僕にはめっちゃわかる。でも、なぜそんな静岡でアイドルをプロデュースしようと?」
「『ローカルアイドルにやれることがまだあるんじゃないか』と感じたからです。確かに、コロナ禍によりアイドルと会えなくなったことで“ローカルアイドルが東京を目指すストーリー”が意味をなさなくなっていました。でも、だからこそ静岡という会える場所で戦うチャンスだと思い、fishbowlを始めました」
「やってみてどうでした? 」
「発見は、静岡のたくさんの人に出会えたこと。僕が会っていなかっただけでおもしろい人はいるし、おもしろい会社もある。変化は、fishbowlの活動をきっかけに、他のアイドルも静岡でライブをするようになったことです」
「すごい」
「努力次第で変わるんですよね。だから、少なくとも『やる価値はある』という確信が生まれました。『今までは下北沢で当たり前に行なわれていたようなことが、静岡でもできるかもしれない』という感覚ができつつあります」
「静岡が下北沢のようなカルチャーの発信源になる未来か……」
「とはいえ、アイドルだけではなかなか広がらない部分もあるので、企業の方も含めてみんなで静岡を盛り上げる旗を立てるために『しずおか大好きまつり』を始めました。お祭りって、行くよりも参加したほうが楽しいじゃないですか。文化祭も、本番前日が一番楽しい。あの雰囲気をつくりたくてやっています。まったく儲からないんですけど(笑)」
しずおか大好きまつりでは、今年もさまざまな音楽企画を開催します!
そのひとつとして、fishbowlが静岡にゲストを迎える企画「YOKOSO!SHIZUOKA!」シリーズを開催。
今年はしずおか大好きまつり特別版として、スペシャルなゲストを迎えてお届けします。
YOKOSO!SHIZUOKA!Special LIVE in… pic.twitter.com/d1hds0i9lt
— しずおか大好きまつり (@szok_daisukifes) June 5, 2026
「2026年で3回目ですよね。続けているということは、何かしらの成果も出てきているのでしょうか?」
「県内に加えて県外からの参加者も増えました。ライブイベントだけではなく、グルメのイベントや映画のイベントなど、みんなが思う静岡のおもしろいものを内外に発信する際の枠組みになってきています」

「ショウさんがそこまで静岡のために頑張れるのはなぜですか? 正直やらなくても……」
「そう、やらなくてもいいですよね(笑)僕の場合はたまたま静岡でやらせてもらえていて『自分はこんなことも知らなかったんだ』ということがまだあると気づいた。さわやかやサウナしきじは全国区の知名度ですが、静岡はまだまだ深掘りできるはずです」
「深堀り……そういえば静岡の魅力ってちゃんと考えたことなかったな……むしろあえて目を背けていたかも」
「『静岡はつまらない』みたいな思い込みはよくないですよね。『静岡はまだまだ面白いね』と思っていきたい」
「ぐうの音も出ません。これが郷土愛ってやつですか」
「いや、まだ愛というほどじゃないです(笑)静岡のことを好きになりたいから頑張っている段階ですね」
おわりに

「編曲」という仕事の奥深さや知られざるギャラ事情を明かしてくれただけではなく、地元・静岡でアイドルグループ「fishbowl」をプロデュースしたり、「しずおか大好きまつり」をオーガナイズしたりする想いの深い部分にも触れてくれえたヤマモトショウさん。
生まれ故郷から目を背け続けていたせいか、「静岡を好きになりたい」というショウさんの言葉が、やけに胸に刺さりました。
(おわり)






































