生ゴミの処理、困っていませんか?

気温が高くなると匂いが気になるし、虫がわくこともある。燃えるゴミの日まで、どこに置いておくか悩む人もいると思います。

そんな悩みを解決する方法のひとつが「コンポスト」です。

コンポストとは、生ゴミなどを微生物の働きで分解し、堆肥に変える仕組みのこと。 最近はバッグ型をはじめ、マンションやアパートでも取り入れやすい商品が増えてきました。

僕が神奈川県藤沢市のアパートで使っているのは「キエーロ」です。

家のベランダに置いているキエーロ

キエーロも微生物の働きで生ゴミを分解する点はコンポストと同じです。ただし、主な目的は堆肥づくりではなく、生ゴミを“消す”こと。黒土に生ゴミを埋めて使う生ゴミ処理容器として使う人が増えてきています。

そもそも生ゴミは、なぜ土の中で分解されるのでしょうか。 一度にどれくらいの量を入れてもいいのか。分解が遅くなったり、虫がわくのはどうしてなのか。使っているうちに、いろいろな疑問が出てきました。

そこで今回は、自然ガイド・パーマカルチャー講師の松村岳史さんに、コンポストとキエーロってどんな仕組みなのか聞いてきました。生ゴミと土のあいだで何が起きているのかをたどっていくうち、話はやがて、自然を思いどおりに管理しようとする「マネジメントマインド」からどう離れるかという問いにまで広がっていきました。

松村岳史……1992年静岡県出身。自然ガイド・パーマカルチャー講師。オーストラリア滞在中にタイマニアにてパーマカルチャーを学ぶ。2019年よりフリーランスガイドUNITEDとして活動。

 

自然界では、生ゴミは「宝物」だった

だんご:僕の使っている「キエーロ」は、黒土に生ゴミを埋めるとその名の通り消えますけど、あれってどうしてなんですか?

松村さん:まず、だんごさんは自然界でいう生ゴミにあたるものって何だと思いますか?

だんご:自然界の生ゴミ? うーん、動物の死骸とかですかね。

松村さん:いいですね! あとは熟して落ちた実や、緑色の葉っぱも生ゴミなんです。

だんご:放っておくと勝手に腐ってしまうもの、ですね。

松村さん:僕たちにとって生ゴミって、“いらない”ものですよね。でも、自然界での生ゴミって貴重で、いろいろな生きものが欲しがるものなんです。

だんご:欲しがる?

松村さん:動物の視点で考えると、落ち葉や枝ばかりの森の中で、フルーツや野菜があれば食べたいじゃないですか。

だんご:たしかに! 僕たちにとってはゴミでも、自然界では立派な食べ物なのか。

人間にとっての生ゴミは自然界では貴重な“食べ物”

松村さん:少し化学的な話をすると、放置すると腐ってゆくもの(生ゴミ)や、生きものがそれを食べたあとに排出する糞尿には、窒素が多く含まれています。一方、落ち葉や木の枝、稲わらなど、分解に時間がかかる茶色いものには炭素が多いんです。

だんご:自然界で生ゴミが貴重ってことは、そこに含まれる窒素も貴重なんですか?

松村さん:そうなんです! 自然界で生きものが利用できるかたちの窒素は限られていて。生ゴミが分解されて土へ還る過程でも、窒素が大きな役割を果たすんです。

 

分解のカギは、窒素と炭素のバランス

だんご:窒素が分解で果たす役割って、一体なんですか?

松村さん:僕がパーマカルチャーのワークショップに参加したとき、先生が、馬の餌の牧草ブロックに窒素肥料をかけたんです。要するに稲わらのような炭素の多い有機物の塊に窒素をかけた。どうなると思います?

だんご:うーん。稲わらは、そのまま残りそうですけど……。

松村さん:実は、微生物が稲わらを徐々に分解して、最終的には土になるんです。稲わらの状態にもよるので、分解にかかる時間は一概にはいえませんが。

だんご:稲わらが土に!

松村さん:微生物が調子良く働くための条件を整えること。これがコンポストとキエーロに共通する基本的な仕組みです。 動物が死ぬと土に還る仕組みも、窒素を多く含む死骸に、炭素分の多い枯れ葉などが重なり、微生物などに分解されていくからなんです。

だんご:自然界では、窒素は循環を進めるキーマンなんですね。

松村さんのコンポスト。窒素を多く含む生ゴミに、炭素を多く含む落ち葉を重ねて微生物が働く環境を整えている

松村さん:ただ、窒素だけが多ければいいわけではありません。窒素分の多い生ゴミばかりを入れると、土の中の微生物だけでは分解しきれず、それを求めて虫やハエが集まってきます。

松村さん:反対に、未分解の稲わらや枯れ草など、炭素分の多いものを畑の土に入れすぎると、微生物が分解のために土の中の窒素を使い、作物に窒素が行き渡らなくなる「窒素飢餓」状態になってしまう。

だんご:そういえば、マメ科の植物は空気中の窒素を取り込むから、痩せた畑には豆を植えるといいと言われますよね。

松村さん:おっしゃる通り。大切なのは、自然の摂理から外れてしまっている人間が、自然界の原理原則である窒素と炭素のバランスを調整できる存在であることなんです。ちなみに海外のパーマカルチャーでは、直感的に理解できるよう、窒素を多く含むものを「グリーン」、炭素を多く含むものを「ブラウン」と呼んでいます。

だんご:なるほど。キエーロも、自然界で起きていることを小さな箱の中で再現しているわけですね。

松村さん:そうなんです。キエーロを発案された方は、腐葉土にするために落ち葉をためていた場所に、生ゴミを挟んでみたら分解されたと。それがきっかけで開発を始めたと話していました。まさに、自然界で起きていることですよね。

 

キエーロは「ゴミ捨て場」ではない

だんご:キエーロが自然界で起きていることを小さな箱の中で再現したものだとすると 「なんかうまく分解されないな」というときは、自然界の原理原則から外れてしまっているんでしょうか?

松村さん:おっしゃる通り、生ゴミを入れすぎているケースは多いですね。一方で、自然界にも、微生物による分解が進みにくい環境があります。

だんご:分解が進みにくい環境?

松村さん:たとえば、山小屋のように標高が高いところや、北海道のように緯度が高くて寒いところ。極端な例を挙げると、ロシアなどの永久凍土では、微生物の働きが鈍く、有機物が分解されないまま残ります。キエーロも同じで、冬になると分解が遅くなるんです。

だんご:なるほど。キエーロも一年中同じ量を処理してくれるわけではないんですね。

松村さん:一方で、温暖で雨の多い日本は、微生物や虫などの分解者が多く、キエーロと相性のいい風土です。だからこそ、虫が発生しやすくもあって。

だんご:そう言われると当然の摂理なのに、キエーロになった途端、生ゴミの捨て場所のように捉えてしまう。土の中で何が起きているのかに目を向けずに使っている人も多そうです。

松村さん:そうかもしれません。キエーロ=生ゴミを入れれば自動で消してくれるものだと考えて、微生物が分解できる量を超えて一気に入れてしまう。 分解されるだろうと、円形型のコンポストにそのままの生ゴミをたくさん入れてアメリカミズアブを大量にわかせてしまったという話は聞きます。

だんご:そういえば、僕のキエーロではアメリカミズアブを見たことがないんですよね。

松村さん:それはすごいです! だんごさんは、生ゴミをどれぐらいの間隔で入れているんですか?

1回あたりの投入量は、少ない時でこれくらい。多い時は丼いっぱいくらいの量

だんご:家庭で出る生ゴミを全部入れているわけではなくて、キエーロの中に6ヶ所ぐらい埋める場所を決めて、まだ分解途中のところは避けています。いっぱいになりそうなときは燃えるゴミとして出すので、入れるのは週2回くらいですね。

松村さん:だんごさん、センスの塊です!

だんご:え、本当ですか?

松村さん:キエーロを調子よく使うには、一定の条件がそろう必要があって。だんごさんは6ヶ所を順番に使い、土の状態を見ながら、次に生ゴミを入れる場所を決めている。だんごさんは土の中にいる微生物の働きを観察しながら上手に使っているんです。

生ゴミを投入するタイミングは分解が進んでいるかどうかを観察しながら決めていた

だんご:そうだったんだ! 分解途中の塊を見て「ここに入れても分解されないだろうな」と避けていたら、自然とそうなっていました

松村さん:素晴らしいです。ちなみにキエーロの蓋は完全に密閉されるタイプですか?

だんご:いや、横に隙間が空いているタイプですね

松村さん:本来はその隙間から虫が入りやすいんです。それでもアメリカミズアブを見たことがないなら、生ゴミが表面に出ないよう、十分な厚さの土でしっかり覆えているんでしょうね。

だんご:生ゴミと土をきちんと混ぜて、上から土をかぶせるようにはしています。

松村さん:いや~、上手に使っていますね

だんご:今までのジモコロ取材でセンスが培われたのかもしれません(笑)。でも、アメリカミズアブをはじめとした虫は見た目こそ不快なものの、生ゴミを食べて、分解を進めてくれる存在でもあるんですよね?

松村さん:そうなんですよ。彼らがいると、分解はめっちゃ早いですよ。

だんご:分解してくれるなら、アメリカミズアブも一概に悪者扱いできないような?

松村さん:ただ、それをひとつの「収穫」と捉えられるか、「ちょっと無理」と思うかは人それぞれです。都市生活では、なおさら歓迎しにくいですよね。

だんご:確かに……。

松村さん:環境負荷を減らす生活を探求するエコビレッジでは、アメリカミズアブがどうしても湧いてくることがあるようで。幼虫をフライパンで炒って食べてみたら、ピーナッツのような味がして意外とおいしかったと聞いたことがあります。

だんご:邪魔者扱いするんじゃなくて、美味しく食べちゃったんですね。

松村さん:人間が食べ続けるのも大変なので、ニワトリの餌にしているところもあるそうです。コンポストがあり、そこで生まれたアメリカミズアブをニワトリが食べる。そこまで循環ができると、めっちゃパーマカルチャーだなと思います。

 

ままならないものほど、実は面白い

だんご:いや〜、身近なもののそもそもの仕組みを知るって、面白いですね。

松村さん:だんごさん、さっきから目が輝いていますもんね(笑)。「黒土じゃないと分解されないの?」「腐葉土だとどうなるの?」と、自分ごとにして探究できるようになると、キエーロとの付き合い方は超楽しくなると思うんですよ。

だんご:僕は海の近くに住んでいるので「土じゃなくて砂だとどうなるのかな」と気になってきました。マンションやアパートのベランダで自由研究ができちゃいますね。

松村さん:トライアンドエラーを重ねて理解を深めていく。めっちゃいいですね。

だんご:子どもがもう少し大きくなったら、土に触れてほしいと思ってて。でも、都会には自由に触れられる土が少ないんですよね。

松村さん:都市型キエーロは身近な「土」としていい教材だと思います。

松村さん自作のコンポスト

だんご:そもそもキエーロとコンポストって、どう選べばいいんでしょうか?

松村さん:大きく分けると、生ゴミを消すことが目的ならキエーロ、肥料を作りたいならコンポストですね。生ゴミを消したいのか、肥料を作りたいのか。目的に応じて方法を選ぶのがいいと思います。

だんご:目的が違うんですね。松村さんが都会でも使いやすいと思うコンポストには、どんなものがありますか?

松村さん:バッグ型のコンポストですね。僕はコーヒーかすや、茶殻など少量のものをバッグ型コンポストで処置し、量の多い野菜くずなどは箱型のコンポストで処理しています。コンポストが2つあると、違いを実験しながら楽しめますね。

バッグ型コンポストも屋外に設置するが、台所へ移動させて生ゴミを入れられるのが便利(出典:LFCコンポスト

松村さん:たとえば、梅ジュースを作ったあとに残る大量の梅や、タケノコを丸ごと茹でたときに出る皮は箱型のコンポストに入れて、日々のちょっとした食べ残しはキエーロで処理する。生ゴミの量や種類によって、処理方法を使い分けてもいいと思います。

だんご:そっか、ひとつに絞らなくてもいいわけですね。

松村さん:自然界では100年かかるような土づくりを、人の手を加えることで数ヶ月に縮められるのがコンポストなんです。目的に応じて方法を選び、デザインしていくのがいいんじゃないでしょうか。

だんご:小さな自然を育てるように楽しむ視点もあるわけですね。だから“正解”を探すのではなくて、実際にやってみて「このくらいなら大丈夫なんだ」と確かめながら試していくのがよさそうです。

松村さん:やっぱり観察が一番大事ですね。パーマカルチャーの原則の一つに、「Observe and Interact(観察と対話)」があります。自然の時間に入るためには、こちらが相手の仕組みを知らなければいけません。まず科学的な仕組みを知り、そこに「やっていて楽しいな」「こんな仕組みなんだ」という情緒が乗ってくると、習慣として続いていくんだと思います。

だんご:僕も生ゴミが分解されるのが面白いと思ったから、続いているところはありますね。

松村さん:多くの人は消費者として「この生ゴミを早く消したい」「土に埋めれば、あとは勝手に消してくれるんでしょう?」と考えてしまう。自然を、自分の思いどおりに動かそうとするマネジメントマインドでいると、都市でも田舎でもうまくいかないんです。

だんご:あ〜、それはめっちゃ根深い話ですね……。

松村さん:だんごさんは都市に住んではいますが、田舎マインドというか、自然を面白がる心の余白がある。観察しながら探究して、感覚的な違和感をもとに使い方を修正できる人だったんだと思います。

だんご:そうしたマネジメントマインドからどう抜け出していくのか。都市で暮らす多くの人にとって、大きな課題なのかもしれませんね。

松村さん:ままならないからこそ面白いので。キエーロやコンポストが小さなきっかけになったら嬉しいです。