七輪(しちりん)。

それは古き良き日本の炭火焼き器。昭和の高度経済成長期頃まで、一般家庭の調理道具のひとつとして広く使われていたものです。

ガスコンロや電気グリルなどに慣れた現代人には、逆に新鮮な調理体験が得られるこの道具。肉でも魚でも野菜でも、時間をかけて焼くことで炭の香りや煙が食材に染み込み、独特の風味が楽しめます。

ジモコロ編集部の柿次郎です。

せっかく田舎に移り住んだので、庭先で火を使った焚き火や七輪にハマっています。夏から秋にかけて、旬の食材をじっくり焼いて、生ビールをごくごくと飲み干す。準備は少し大変だけれど、忙しい日常を送っている大人にマジでおすすめしたい。

多くの七輪で用いられる珪藻土は、高い断熱性と保温性が特徴

炭火の直射熱とも相まって、野菜は水分を保持したまま表面は香ばしく焼き上がるし、秋刀魚なんて焼いちゃったらもう口の中がうまみ溜まりになること間違いなし。一瞬でコップのビールが消失します。恐ろしい体験よこれは……。

みんなやったほうがいい! めちゃめちゃうまいから!

というわけで今回は七輪を使った料理に定評があるゲストハウスLAMP(長野県信濃町)のオーナー 兼 料理人のマメ君と、それぞれが思う七輪の「良さ」についてただただ語り合ってみました。ただ友だちと飲んだだけです。

話を聞いた人:岡本共平(マメ)

株式会社LAMP代表取締役社長。埼玉県出身。20代から東京で料理人として活動。長野県信濃町にあるゲストハウスLAMPで料理長・支配人を務めたあと、2020年より現職。

 

七輪で焼く手羽先は異次元のうまさ

柿次郎:今日は七輪について語り合いましょう!

マメ:急に呼ばれたと思ったら取材なの? ぜんぜん、いいけど。

柿次郎:マメ君はよく自宅で七輪料理を振る舞っているみたいだけど、七輪についてどういう認識なの?

マメ:一言でいえば、美味しい料理をつくるための道具かな。現代の家のなかにある一般的な道具ではたどり着けない調理が可能になるものだと思ってます。キャンプ用品の位置づけにしておくのはもったいないね。

柿次郎:火が使える環境は限られるけれど、普段使いしても全然いいものではあるよね。実際昔の人たちはこれを日常的に使っていたわけで。

マメ:そうそう。スイッチひとつで使えるガスコンロや電気コンロとは違うので、火おこしから自分でやらないといけない。それでも七輪でしか表現できない味わいがあるので、僕は積極的に使うようにしてます。

柿次郎:炭焼きの香りも付くし、ただ焼いただけの食材も一層うまく感じるよね。それはそうと、話しながらずっと焼いてくれてるその食材は……手羽先?

マメ:スーパーで買ってきたものなんだけど、最近めちゃくちゃハマってる食材で。むしろ七輪は手羽先だけでいいぐらい。まず食材を増やしすぎないのが七輪使いのコツなのよ。

柿次郎:BBQみたいに食材たくさんやるのは御法度なのか。そもそもスペースがないもんね。

マメ:食材によって火入れが違うから、ひとつに集中するのがいいよ。お、手羽先、そろそろ焼き上がったと思うので、食べてみてよ。

柿次郎:え。何これ、めっちゃうまい!! 皮がパリッと焼けてるのに中はしっとりふっくら。炭焼きの風味もついて、これまで食べたどの手羽先とも違う異次元の味わいだ!

マメ:よかった。七輪と手羽先の相性の良さ大発明なのよ

柿次郎:すごく食べやすかったけどこれ、骨も抜いてるよね??

マメ:抜いてます。簡単に言うと、脱臼させて引っこ抜くって感じですかね。抜くと食べやすくなるのでおもてなしにはおすすめですけど、抜かないなら抜かないで、ピーン! バーン!っていう食感を楽しめます。

くの字に曲がっている部分を脱臼させると骨が抜きやすい

柿次郎:どういうこと。独特な擬態表現だな。焼き方にもコツがある??

マメ:そんなに難しいことはないんだけど、焦がさないように遠火と近火をコントロールするのが大事。焼き鳥屋さんの動きに近いかも。

柿次郎:たしかに、マメ君は備長炭をレゴのように組み替えて火をコントロールしてたね。

マメ:近火だと直射熱、遠火だと遠赤外線効果が得られるので、食材の様子を見ながら調節する。網を重ねてひっくり返しながら両面を焼いていくという技もありますね。いろいろ工夫しながら焼くのが楽しい道具です。

柿次郎:手元に集中する時間が楽しめるのは、おじさんになった証かもな……。

マメ:七輪は40代の嗜みよ。

 

七輪には「厚み」がある

柿次郎:いやーこれ、貝を焼いてもうまそうだよね。

マメ:うまいよ。ハマグリとか、最高。大人数のBBQだと火力が強すぎるからうっかりすると干からびちゃったりするじゃん。でも七輪だとじっくり火を通せるから、ハマグリの水分を保持したままジューシーに仕上がるんだよね。

柿次郎:七輪はビールを飲みながら、時間をかけてゆっくりと一品ずつ楽しめるのがいいよね。BBQは一気に焼いて一気に食べるけど、個人的にはせわしなくて苦手。焦げたカボチャがそのまま捨てられているのは悲しすぎる。

マメ:美味しいものをちょっとずつ味わうのは大事な姿勢だよね。おれたち、もうおじさんだし。

柿次郎:アイスも箱アイスの小さいやつでいいもんな。

柿次郎:七輪は音も静かだし、落ち着きがあっていい。侘び寂びがある。都会の河原とかに集まって大人数でBBQをしてる連中は早くこの良さを知った方がいい。特に多摩川。焼き網を適当に捨てる光景は忘れられない。

マメ:BBQに何か恨みでもあるの? おれはシンプルにBBQグリルよりも美味しく焼けるからいいなって感じで使ってるかな。「外パリ中ふわ」を一度の加熱調理でできる道具って、めっちゃ合理的だと思う。

柿次郎:プロの料理人が言うんだから間違いない!

コン、コン、コン……(七輪を指で叩く音)

柿次郎:この「厚み」も好きなんだよなぁ。

マメ:あ〜確かに分厚いかも。厚みがあると熱の伝わり方も違ってくるので、このタイプの七輪ならではの良さがありそう。

柿次郎:友だちから聞いた話なんだけど、以前京都にとんでもなくうまい老舗のお好み焼き屋があったらしく。常連で通ってたんだけど、他のお店のお好み焼きと何が違うのかずっと考えてたんだけど、閉店時に歴史と油が染み込んだお店の鉄板を受け継いだんだって。そしたら鉄板の厚みがとんでもなかったと。

マメ:なるほど。美味しさの秘訣は鉄板の厚み、つまり熱の伝わり方がすごかったのか。

煌々と燃える炭火を眺める時間も七輪の良さのひとつ

柿次郎:そうそう。京都のお好み焼き屋の鉄板も、切り出し七輪もそれぞれに「歴史」があるわけだけど、そういうものってなぜか分厚くて重い。工業製品化せずに、職人の技術で手間暇かけた道具が貴重な時代なんだろうな。

マメ:わかるわ〜。

柿次郎:ジモコロで取材した長野市の名物ハンバーグ『ドンキホーテ』も、南部鉄器の鉄板で提供しているから、遠赤外線のおいしい熱がなかなか冷めない。

マメ:わかるわ〜。

柿次郎:あと七輪には情緒があるから好き。焚き火で得られる感覚に近いものがあると思う。焚き火は人間の根源的な営み。僕らの脳にはDNAレベルでその「良さ」が刻まれているのかもしれない!

マメ:それもわかるわ〜。

柿次郎:なんでも肯定してくれる。

 

七輪をどう捉えるか

炭はガスと違って余計な水分を出さないので、外はパリッと、中はふわっと焼きあがる

柿次郎:なんか壮大な話になっちゃった。語り過ぎた。秋刀魚もうますぎる。なんだよもう。

マメ:つい盛り上がっちゃったな。七輪はあっという間に時間が経っちゃう。ストレスから解放してくれるような感覚もあって。

柿次郎:それはあるよね。何でだろう。

マメ:それこそ火の力であり、道具の力じゃない? 目の前で起きている現象に、意識が強制的に集中させられるというか。「絶対においしく調理するぞ! おれの手で!」みたいな。サウナが熱いとか、水風呂が冷たいとかと一緒。自然のパワーに向き合うのが大事で、日頃いろんなことを考え過ぎちゃう人には特にいいんじゃないかな。

柿次郎:マインドフルネス的だ。釣りとか草刈りとか薪割りとかも結構近いもののような気がする。

マメ:柿次郎君もそうだけど、いわゆる経営者の人たちってこういうの好きだよね。日頃どうしたって考えちゃうじゃん。売上が〜とか、税金が〜とか、従業員が〜とか。

柿次郎:いやほんと、考えちゃう……。経営者にはいい意味で「判断停止」させてくれる道具が必要……。

マメ:考え過ぎるといいことないからね。食材を選んで、それをただ自分のために、大切な人のためだけにじっくりと焼く行為は、柿次郎君のような人に向いてるんじゃない?

柿次郎:七輪がおれを癒やしてくれている。

マメ:何事も捉え方ひとつってことなんじゃないかな。七輪は調理に時間がかかるから不便な道具だと思うか、マインドフルネス的に癒してくれる道具だと思うか。どう捉えるかでその価値は全然変わってくるわけで。

柿次郎:実際、備長炭の火起こしの時間と食材で焼き上げる時間を足したら、食べ始めるまでに1時間以上かかるもんな。

マメ:そのゆとりを楽しめるかどうかもある。

柿次郎:その時間軸だから七輪を囲んで会話するときのBPMがゆったりとしていて、ぽつりぽつりと焚き火を囲むときのような良い雑談が生まれるのも好きだな。

マメ:1000年前の時間軸がそのまま残ってるんじゃない?

柿次郎:「書を捨てよ、町へ出よう」ならぬ、「スマホを捨てよ、七輪で食材を焼け」だ。

マメ:うん、キレの悪い例えだね。なんにせよ自分で火を起こして、食材を焼いてみれば分かることだと思う。

柿次郎:そうだね。特に現代のスピード感に毒された人にはめちゃくちゃおすすめしたい道具だから、ぜひやってみて欲しいなと思います。今日はありがとう! また定期的に七輪会やりましょう!

撮影:小林直博