ライターの岡部ベイコです。
最近、日本各地で地震や豪雨などのニュースが目に入ってきますよね。災害大国の日本で暮らす私たちにとって、災害の備えは他人事ではないはず。
食料や水、バッテリーなどの備蓄をしている方は多いと思うのですが、みなさんはトイレの備えってしてますか?
2011年の東日本大震災では、3日以内に仮設トイレが届いた自治体はわずか34%(※)。過去の災害の教訓を活かし、自治体などでの備えも進んでいるようですが、それでも仮設トイレの配備に発災から1日程度はかかります。
※国土交通省HP「災害時のトイレ、どうする?」より

モンベルのO.D.トイレキット。吸水ポリマーと便袋、防臭袋がセットになっている
私は凝固剤入りの簡易トイレキットを常備していますが、成人のトイレ回数は平均で5〜7回。恐らくあっという間に消費してしまうことでしょう。
仮設トイレ配備までの、トイレ無し期間をどう乗り切っていくのか? 災害時には、食料以外だけでなく、こうしたトイレの備えもめっちゃ大切なんです。
というわけで今回は、災害時の備蓄と「トイレ事情」に焦点を当てていきます。
前半は山歩きが趣味の私が体験した「緊急時のトイレ対応」、後半は元自衛隊員の方をゲストに迎えて、災害時のトイレ作法と備蓄について話を伺いました!
土は全てを包みこむ

山グッズは防災に使えるものが多い。筆者が愛用しているSawyerの浄水器は、水に溶けた化学物質やウイルス以外の有害な病原体を99.99999%除去してくれる(公式HPより)
私は山歩きが大好きなのですが、登山道を外れて長く歩く時や、山奥のロングトレイルを何日も歩く時には、数時間歩いてもトイレがないことがしばしば。なので、携帯用トイレを使ったこともありますし、緊急時にやむを得ず野に放ったこともあります。そう、いわゆる野糞です。
※この記事は、けして山での野糞を推奨するものではありません。山域のルールに則ったトイレ利用と携帯トイレの準備を徹底しましょう。
とはいえ、絶対そのまま地面に産み落としてはなりません。もちろん作法があって、しっかり土を掘ってから埋めるのです。コンクリートの上に野糞したら分解されず、ただの迷惑ですが、土は優しく包み込んでくれます。たくさんの虫、菌類、微生物たちが土の中には生きていて、排泄物を分解して自然のサイクルに還元してくれるのです。

基本的には山に設置されたトイレを使用するが、僻地の山ではトイレがないことも
数時間歩いてもトイレはなく、携帯トイレも使い果たしてしまい、必要に駆られ初めて致したときのことをよく覚えています。コンクリートジャングルで文明人ぶっていたせいで、忘れていた感覚を取り戻しました。
森の中とはいえ、丸出し状態は生き物としてあまりに無防備。誰かに見られるかも、熊が来るかも、そんな生物としての五感が研ぎ澄まされ、聴覚が何倍にも発達します。警戒状態のなか、心地よい風がお尻を撫でていきハッとしました。植物に囲まれるようにしゃがみこんで、この瞬間、私は森と同化している。オレンジ色の西日が森に差し込んで、周囲を優しく包んでいました。

普段はボタンひとつで目の前から消えていく排泄物ですが、ちゃんとした手順で土に還した排泄物は、時間をかけながら循環して森の一部になっていくのが実感できます。
私が食べて消化したものが森になる。昔の人間たちは、こんな風に、もっと自然と近いところにいたはずなんですよね。
別に野糞過激派というわけではございません。便利で快適な生活も大事です。ただ、山歩きと普段の生活を往復するうちに、ずっと考えていることがあります。
文明とともに交通の便が発達し、町にはコンクリートが敷かれました。歩きやすいし、ミミズやモグラだって出てこない。でも、そんな中で災害が起きたら、トイレシステムが崩壊したら、身の周りに土を掘れる場所ってあるんでしょうか?
「どこでする?」「なにで拭く?」と、野糞を通じて災害時のシチュエーションをリアルに想像することで、備蓄にも生かせると思うんです。
ということで前置きが長くなりましたが、ここからは、元自衛隊員である野糞のスペシャリストをお迎えし、「備蓄と野糞」について考えていきます。

頭に葉っぱを添えて森に擬態する、野糞のスペシャリスト。よく見ると手にしているのは高圧洗浄機
話を聞いたのは、自衛官として10年間勤務し、分隊長(チームリーダー)・格闘指導官を担当していた、しゅうとさん。
砂埃にまみれながら重い荷物を背負って数週間も行軍し、時には真冬の八甲田山でも訓練をする。血と汗と涙にまみれながら、常に最悪の状況を想定していたからこそ、彼らは災害というハードな環境にも耐えうるスペシャリストなのです。
<登場する人>
徳谷柿次郎:長野県信濃町に移住して7年目の編集者
くろやなぎてっぺい:飯綱町在住の映像作家。最近引っ越して備蓄放出パーティーをした
しゅうと:信濃町のサウナ&宿『LAMP』スタッフ。10年間の自衛隊生活で培った野糞技術と、備蓄の重要性を語れる貴重なサバイバル人材。新婚の妻を青森に置いて修行中。
自衛隊歴:10年/野糞回数:約1000回/体重:75kg/体脂肪率:12%/好きな食べ物:煮干しラーメン(故郷青森の味)
※以下のパートは2026年5/21に開催されたトークイベント「備蓄と野糞」の内容を元に再構成したものです。
野糞という手段をリアルに想像してみる

ミリタリープレス70kgで鍛えた三角筋がチャームポイント
「しゅうと君は、自衛隊時代に電気もガスも水道もない状態で長期間生活してたんですよね?」
「してました。有事の際を想定した訓練ですので」
「当然トイレも無いわけじゃないですか」
「無いですね。野糞一択です」
「単刀直入すぎる。でも、水洗トイレって実は当たり前じゃないもんなぁ」
「今回このテーマを選んだのも、実はそこなんです。災害に限らず、エネルギーとかインフラって、この先ずっと継続できるとは限らないよねって危機感があって。インフラゼロの状態を実際に経験してる人から話を聞くのが一番早いなと」
「サバイバル経験豊富なしゅうと君の出番というわけだ。自衛隊の訓練ってかなり過酷そうですね」
「食料や武器など、約40kgの荷物を担いで数週間訓練することもありました。テントで眠れる日はラッキーで、衣服のまま土の上で就寝する状況にも慣れています」
「すごすぎる! 素晴らしい筋肉だけど、得意技ってあったりします?」
「格闘指導官をしていましたので、肉弾戦が得意で、タックルと投げ技には自信があります。自衛官からは離れましたが、どんな時も人を守れるようにトレーニングを続けているので、今日は災害時の助けとなる話ができれば幸いです」
「めちゃめちゃ頼もしい。先日しゅうと君に、僕の家の裏山でエア野糞を実演してもらったんですけど、思ったよりも土を掘るんだなと」
「和式便器くらいの幅と深さを想像してもらえれば。大体これでトイレ2〜3回分です」

跨げるくらいの幅で、20〜30cmほど掘っていく
「ガーデニング用の小さいスコップしかない家が多そうだけど、けっこう土を掘るから大きなシャベルを準備しておくのもひとつの手だなって」
「たしかに、小さいスコップで掘ってたら間に合わない。これって、排泄したらまた埋めるわけですよね? 」
「そうです。土ってすごくて、歴代の自衛隊員が野糞してきた訓練用の山があるんですけど、いくら掘り返しても出てこなかったんですよ」
「自然の分解力ってすごい! すぐに掘り返しちゃったら大惨事だから、埋めたところに枝を刺しておいて目印にしてもよさそうですね」
「たしかに。実際にエア野糞してみて思ったんですが、普段洋式トイレに慣れているせいか、久々にしゃがんだら結構ツラくて!」

山の斜面となると、しゃがむ難易度はさらに上がる。シャベルを支えにして安定感アップ
「そもそも今の人たちは和式でする習慣がないですよね。しゃがんだほうが直腸の角度が真っ直ぐになるので、実は排便しやすいんですけど」
「そうなんだ! 洋式トイレと便秘も関係ありそうですね。野糞用の筋力トレーニングってどうしたらいいんですか?」
「やっぱりスクワットですかね。現代人の生活はしゃがむ動作自体が少ないので、しゃがんで立ってを繰り返すだけでも十分鍛えられます」

日々筋トレに励むしゅうと君のフォームは美しさすら感じる
「野糞スクワットだ! 僕は最近トレーニングのために四股を踏み始めたんですけど、朝に5分するだけで血流がよくなるのを感じます」
「ちゃんと野糞に備えている……」
いざというとき、きちんと出すために
「野糞って外でするわけですよね? いざってとき、ちゃんと出るのかなぁ〜」
「切羽詰まってたら出ると思いますよ。それしか方法がない状況なので」
「快便の僕からアドバイスすると、お腹でやるんじゃなくて脳内イメージが大切です。柿次郎流のイメージは『テトリス』とか『ぷよぷよ』みたいに上から降ってくる感じ」
「それ連鎖して消えちゃうやつ。僕流のイメージを見つけよう」
「あまり限界になってから土を掘り始めると間に合わないので、そのへんのタイミングは大切ですね。あと、訓練だったというのもあるんですけど、排便中ってかなり無防備なのでめっちゃ警戒してました」
「だだっぴろい場所はよくないと」

開けた場所は野糞に適さない
「もう最悪です。人に見られちゃうし、訓練だと敵に見つかっちゃうので。植物が生い茂っていて、上も覆われているのが理想ですね。周りに植物があるところだと、トイレットペーパーの代わりにと葉っぱで拭くこともできますし」
「そうだ、何でお尻を拭くかの問題もありました」
「実はトイレットペーパーは分解されにくいので、土には埋めないほうが良くって。その点、葉っぱはそのまま埋められるのでおすすめです。中にはウルシとかかぶれちゃう葉っぱもあるので注意が必要ですけど」

しゅうとさんのおすすめは「ホオノキの葉」。大きくて柔らかいので拭きやすい
「トイレットペーパーの備蓄が尽きたり、いざ野糞する時に紙が無い可能性もありますもんね。体にいいもん食べてたらいい肥やしになりそうだけど、保存性の高いコンビニ飯ばかりの現代人の肥やしは使えなさそう」
「油分が多くて分解されにくい、みたいなのもありそうです」
野糞で災害を考える
「災害に備えて備蓄もしているけど、電気やガスが止まる状況って実際には想像しにくいじゃないですか。その点、野糞ってリアリティがあるなって」
「スコップを持って森に入って、頭より先に体が理解しますよね。野糞は、生活インフラが止まった世界を想像する装置になりうる」
「お二人はどんな備蓄をしているんですか?」
「10年間保存できる水とか、食料とかはひと通り備蓄してます。賞味期限も確認して入れ替えないとな〜と思って、先日家族みんなで古い食料を食べました」
「備蓄の定期的な確認はめっちゃ大切! 僕は災害時に体を洗えないのがストレスになると思って、目隠し用のテントと湯沸かし用のペール缶を買いました。冬だと寒すぎるので、テントの中で湯を沸かして、サウナみたいに蒸気で温めながら体を拭こうと思って」
「ちゃんと想像してますね〜。目隠しテントは野糞の時にも使えるので良さそうです」
「うちは小さい子もいるので、きちんと野糞を教えられる父親になりたいですね! まだまだ想像の余地はありそうです」

「ちなみに災害時の生活インフラの復旧って、電気が一番早くて。東日本大震災の時も能登半島地震のときも、水の復旧に一番時間がかかったんですよ。ちなみに人間一人当たりが飲んだり使う水の量は1日3リットル必要です」
「じゃあ、4人家族だと1日12リットル!?」
「飲む水だけじゃないもんなぁ。1週間分の備蓄となると倉庫とかが必要になってきますね」
「電気が止まって携帯電話の充電もできないとなると、調べ物もできなくなる。普段から周辺の湧水を調べておくのもめっちゃ大切です。僕は雨水を貯めるシステムを家に作っていて、飲用はできなくても体を洗ったり、畑に水やったりできるようにしてます」
「災害への想像力がすごい! 物資だけじゃなくて、情報集めの備えも大切なんだ。僕は近くに湧水ポイントがあるんですけど、実際に汲むための道具がないなって気がついて」
「2リットルの空ペットボトルでもいいけど、全然足りないですよね」
「何回も汲みにいくのも大変だし、組み立て式のポリタンクを買いました。50〜60リットル入るからめっちゃ便利。何かあってからだと物も届かないので、平時から準備しておくのが大切だなって」

「以前、訓練中に水が尽きたときがあって。頭ではダメってわかってるんですけど、泥水や川の水、実はおしっこも飲んだことがあります。人間って極限状態になると頭の中が『水飲みたい』で埋め尽くされるんですよ」
「壮絶すぎるけど他人事じゃないんだよな……」
「上流の川なら飲めそうな気もするけど、わからないですよね」
「湧水も全部が全部飲めるわけではないので、電波があるうちに水質検査の情報とか集めておいたほうがいいですね」
「とはいえ、自分ごとにするのってやっぱり難しいじゃないですか。防災訓練で野糞を必修にしたほうがいいんじゃないのかな」
「非常用の簡易トイレを備蓄していたとしても、実際に使ったことある人は少なそうですよね」
「持っていても使い方が分からないと意味がないですよね。ちなみに近くに山がない環境だったら、排泄物を新聞紙に包んでおいて、あとで山の迷惑にならない場所へ埋めにいくって手もあります。新聞紙は土に還る素材なので」

「最近は新聞を取っていないひとが増えてますけど、やっぱり新聞紙っていろいろ使えて便利ですよね」
「燃やしたり、体に巻きつけて暖を取ったり、あらためて新聞紙ってすごい。いや〜、野糞のおかげで想像力が広がりましたね」
「一部の人間が完璧に準備していたとしても、備蓄を盗られたり譲らなきゃいけない状況になったりって話も聞きます。多くの人が災害を自分ごとにして準備しておくことで、周りも自分も困らなくなっていくと思います」
「まずは野糞から想像してみましょう!」

編集:木村衣里



















































