「愛媛県では、蛇口からみかんジュースが出るらしい」

そんな話を聞いたことがないでしょうか。実際、愛媛県内を訪れると、松山空港や観光施設、イベント会場などに「みかんジュースが出る蛇口」が設置されている光景をたびたび目にします。

いまや愛媛観光の定番の一つといえる存在ですが、この「みかんジュースが出る蛇口」、いったい誰が最初に考えたのでしょうか?

現在、愛媛県内にたくさんある「みかんジュースが出る蛇口」。その元祖はどこで、いつ、どんなきっかけで誕生したのか。なぜ、わざわざ蛇口からジュースを出そうと思ったのでしょうか。

調べてみると、どうやらそのルーツは、いまから約20年前にさかのぼるようです。

えひめ飲料

そして、元祖はあの「ポンジュース」でおなじみの、株式会社えひめ飲料だそう。

そこで「みかんジュースが出る蛇口」の誕生秘話を聞くべく、愛媛県松山市のえひめ飲料を訪ねました。

お話を伺ったのは、管理部 管理課の担当課長・渡部 宏一(わたなべ こういち)さんです。

 

蛇口開発のきっかけは愛媛県民に関する「都市伝説」を再現するため?!

——そもそも「みかんジュースが出る蛇口」はどのような経緯で始まったのですか?

実は、愛媛県民に対する“ある都市伝説”が元になっているんです。愛媛県外の人のあいだで、まことしやかにささやかれていたものなのですが。

——愛媛県民の都市伝説?

「愛媛県民の家庭には、3種類の蛇口があり、青い印の蛇口からは水、赤い印の蛇口からはお湯、そして橙色の印の蛇口からはポンジュースが出る」というものです。

——そんな都市伝説があったんですか!?

いま50代くらいの世代の人が、若かったころだと聞いています。愛媛県を離れた人たちが、同級生や同僚から、その都市伝説について質問されていたそうですね。それで、弊社にも多くのメディアから「蛇口からポンジュースが出るのは本当なのか」と多くの問い合わせがあったと聞いています。

それ自体はありがたい話なんですが……当時、取材に対応した営業企画部の社員は「そんな夢のような話があったらうれしいですね」と答えるしかなかったそうです。

——たしかに、都市伝説で取材が来ても困りますね。

そしてあるとき、取材に来た方から「京都の宇治市には、お茶が出る蛇口が本当にある」というやり取りを繰り返しているうちに、悔しさを感じていたそうです。

——宇治はお茶の名産地ですが、まさか……。

真相は不明です。そこで、当時の営業企画部では「だったら本当にみかんジュースが出る蛇口をつくって、都市伝説を真実にしてやろう!」と思いついたのです。2007年ごろのことでした。

 

社員が総力をかけ、都市伝説実現のため試行錯誤を重ねる

——ポンジュースが出る蛇口は、常設は考えなかったのですか?

常設するには保健所等の許可だけでなく、必要な設備や人員、冷蔵庫なども用意しなければなりません。さらに、営業前後には衛生管理のための洗浄・清掃も必要です。

——よくよく考えてみると、えひめ飲料はメーカーだから、そもそも飲食店や小売店など、設置するための施設がないのでは?

そのとおりなんです! メーカーである私たちが一から常設設備を整えるには、場所もそうですが、管理する従業員が常に必要になります。場所については提供してくれる提案もあったんですが、従業員の問題もあり断念しました。

——あくまで本業はジュース製造ですから、勇気がいりますよね。

そこで常設ではなく、定期的なイベントなどで提供することにしたんです。常設だと、最初のインパクトはすごいと思うんです。ただ、日が経つにつれ、話題が落ち着いてさびれ、短命に終わる懸念がありました。

実際に使用されている、ポンジュースの出る蛇口

しかし、イベントなどで「神出鬼没」に現れることで、逆に面白さに拍車がかかると当時の社員は考えました。都市伝説という「虚構の世界」とも相性が良いと判断したそうです。

そして、ポンジュースが出る蛇口は基本的に無料で提供し、ポンジュースをご愛顧いただいているお客様への感謝の気持ちや、ポンジュースや愛媛県のさらなるPRを目的にして活動することにしたのです。こうして生まれたのが「ポンジュース蛇口」でした。

 

ついにポンジュース蛇口が完成。蛇口を目的に愛媛に来る人も!

初代のポンジュース蛇口(提供:えひめ飲料)

——えひめ飲料による「ポンジュース蛇口」の、初稼働はいつですか?

2007年に試験的に全農(全国農業協同組合連合会)のイベントで披露したところ、愛媛県職員の方の目に留まり、2008年1月に松山空港で期間限定で設置しました。これが好評を博し、翌4月から、定例で毎月第3日曜日に松山空港でポンジュース蛇口を設置することになりました。

私がポンジュース蛇口に関わるようになったのは2012年頃からですが、ものすごい行列ができ、大きな話題になっていました。旅行や帰省の方々から好評でしたね。

松山空港に設置された当時のポンジュース蛇口(提供:えひめ飲料)

——2か月後に再登場するとは、本当に好評だったんですね。

そうなんです。全国に広くポンジュース蛇口の話が広まって「ポンジュース蛇口を飲むことを目的に、愛媛にやってきました」と話す人まで現れたのは、驚きました!

松山空港のポンジュース蛇口(提供:えひめ飲料)

松山空港のポンジュース蛇口には多くの人が並び、盛況だった(提供:えひめ飲料)

——「お客様への感謝」「ポンジュースや愛媛県のPR」という目的は達成できましたね!

本当にそう思います。今では県内の観光地など、さまざまな場所に、弊社以外の企業・団体様が、同じようにみかんジュースが出る蛇口を設置されています。私たちが考えたものが、愛媛県の観光コンテンツの一つになっているのは、とてもうれしいことです。

だから、私たちの愛媛をアピールするという一定の役目は終えたのかなと感じ、2017年7月をもって、第3日曜日定例開催のポンジュース蛇口の設置は終了しました。

なお、松山空港では現在、別の事業者の方が同様の蛇口を常設しております。弊社のポンジュースではありませんが、みかんジュースが出る蛇口自体は松山空港でお楽しみいただけますよ。

2025年1月開催のえひめ・みかん祭りの様子(提供:えひめ飲料)

2025年1月開催のえひめ・みかん祭りの様子(提供:えひめ飲料)

——えひめ飲料のポンジュースを蛇口で飲むには、どうすればいいのでしょうか?

ご安心ください。完全になくなったわけではありません。毎年1月に、いよてつ髙島屋様で開催されている「えひめ・みかん祭り」で、ポンジュース蛇口を設置しております! こちらでも、毎年多くのご家族連れの方などが訪れ、大変好評です。

 

都市伝説の再現度のため、細部の造形にまでこだわる徹底ぶり

——現在まで、ポンジュース蛇口は改良していますか?

マイナーチェンジはたびたび行っていて、現在のポンジュース蛇口は4代目になります。移動式なので、折りたたんだり、分解・組み立てをしたりします。ですから、強度を高めたり、分解や組み立てがスムーズになるようにしたり、軽量化したりといった改良が加えられています。

——今では県内各地で見かけるようになったみかんジュースが出る蛇口ですが、えひめ飲料のポンジュース蛇口はどのような点が特徴ですか?

一つ目は移動式であること、二つ目は都市伝説の再現度が高いこと、三つ目はポンジュースが出ることですね。

まず一つ目ですが、移動するために折りたたんだり、分解・組み立てをしたりするため、洗浄・殺菌もしやすくなるのがメリットです。

——移動式にそんなメリットがあるとは。

みかんジュースは、念入りな洗浄・殺菌をしないと雑菌の繁殖などにつながりますので、これは大きなプラスだと思っています。

二つ目の都市伝説の再現度ですが、これはとてもこだわりました。都市伝説の再現が本来の目的でしたから。単にポンジュースが出るだけの蛇口ではありません。よく蛇口を見てください。

赤い印の蛇口、橙色の蛇口、青い色の蛇口が並んでいるでしょう!

——たしかに! これは都市伝説と全く同じですね!!

もちろん、真ん中の橙色の蛇口からポンジュースが出てきます。実際に赤と青の蛇口から水やお湯は出ませんが、都市伝説の再現にこだわるため設置しました。

——細部の再現まで徹底するとは、想像以上のこだわりを感じました!

また、蛇口が付いている壁を、昔の台所でよく見られたようなタイルにしているのもこだわりです。

三つ目のポンジュースが出ることですが、やはりポンジュース自体が弊社の最大の売りですから。公式にポンジュースが出るのは弊社の蛇口だけです!

蛇口から注いで飲むと、なぜか通常のポンジュースよりおいしく感じてしまう

 

実は何度も変化しているポンジュース

1952年発売時のポスター(提供:えひめ飲料)

——えひめ飲料がポンジュースを製造し始めたのは、どういった背景があったのですか?

ルーツをさかのぼると、弊社は愛媛県青果販売農業協同組合連合会(青果連)の青果加工部門としてスタートしました。1952年(昭和27年)に工場が完成し、飲料の製造を開始。これがポンジュースの始まりです。

——ポンジュースの「ポン」ってどういう意味なんですか?

命名したのは、ジュース製造開始時に愛媛県知事を務めていた、久松定武氏です。「日本一のジュースになる」という願いを込めて、ニッポンの「ポン」から命名されました。

ちなみに、久松氏はフランス在住経験があったので、フランス語の「ボンジュール」と「ポンジュース」の響きが似ていることも理由だという説もあります。

——ユニークな知事だったんですね。昔と今とでは、同じポンジュースでも特徴は違っていますか?

もちろん違いはあって、大きな変更もあります。気づきにくいかもしれませんが、細やかなマイナーチェンジはたびたび行っているんです。

現在のポンジュースは、みかんとオレンジの果汁をブレンドしています。比率は、時代のニーズに合わせて見直しを行っていますね。

パッケージや容器も、何度も改良が加えられている(えひめ飲料提供画像を加工)

——そんなに変化していたんですね、気づきませんでした……。

直近(2026年8月取材時)では、2024年にリニューアルしました。それまでみかん果汁よりオレンジ果汁の比率が高かったのですが、みかん果汁の比率をオレンジ果汁より高くリニューアルしています。

2024年にリニューアルしたときのポンジュース(提供:えひめ飲料)

——最近も変化があったんですね。では、大きな変化だと、例えばどのようなものがあったのでしょうか?

一つは果汁100%の販売です。1969年(昭和44年)に、果汁100%のポンジュースを発売しました。果汁100%ジュースの発売は、全国の飲料の中でもかなり早いほうだったそうです。

——さすが、みかんの産地・愛媛県の会社ですね!

もう一つの大きな変化は、減酸処理という酸味を抑える技術ですね。

果汁100%のみかんジュースは、どうしてもみかん特有の酸味が強くなってしまいます。減酸処理によって、みかんの風味を維持しながら酸味を抑え、酸っぱいのが苦手な人も飲みやすい果汁100%のポンジュースが実現できました。

酸味を抑えたジュースは「ソフトタイプ」として発売しました。減酸処理によるソフトタイプジュースは、ポンジュースが日本初です!

——愛媛県はみかん(温州みかん)だけでなく、多彩な柑橘類が年中収穫できるため「柑橘王国」と呼ばれています。えひめ飲料では、みかん・オレンジ以外のジュースは製造していますか?

もちろんラインナップしています。「河内晩柑(かわち ばんかん)」「はれひめ」などがあって、これらは期間限定商品として販売しています。

愛媛県の公立小学校では、特定期間、給食に出る「POMみかん・いよかんジュース」は、県民懐かしの味(提供:えひめ飲料)

渡部さんのお気に入りの、愛媛県産みかんのみを使用した「愛媛みかんストレート」(提供:えひめ飲料)

そして実は、ポンジュースには柑橘以外にも「アップル」や「グレープ」もあるんです。

2026年8月現在の主要な商品ラインナップ(提供:えひめ飲料)

——愛媛県の会社なので柑橘類のイメージしかなかったので、驚きです! ちなみに、ポンジュースは全国区に展開しているのですか?

はい。ポンジュースは、全国で販売をしています。実は、西日本より東日本の方が売れているんです。

——愛媛県の会社なので、西日本の方が売れていると思い込んでいました…… 。

2025年度の販売では、西日本47%、東日本53%という割合でした。全国のお客様に愛されており、ありがたいですね。

 

「まじめ」な会社だからこそ、馬鹿げたことも本気でやる!

「こだわりは、まじめです。」がキャッチフレーズのえひめ飲料

——そういえば、えひめ飲料さんは、昔から「まじめ」をキャッチフレーズにしていますよね。ポンジュースの蛇口のようなユニークな取組からは「まじめ」なイメージが想像できません。

かなり昔から「まじめ」を掲げていますが、それは愛媛県の県民性に由来していると聞いています。愛媛県民は昔も今もまじめだと言われています。まじめな愛媛県民・愛媛企業がつくっている、まじめなジュースだというアピールですね。

——柑橘栽培もまじめな県民性に向いていそうですね。

そして、えひめ飲料自体もとてもまじめな企業だと私は感じています。それは、製造工程での衛生管理の徹底などに現れています。私も入った時に「ここまでやるんか」っていうくらいものづくりに対して真摯だと思いました。

「都市伝説を再現する」といった取組は、端から見たらとても馬鹿げた取組です。そんな馬鹿げたことにも真剣に取り組んできたからこそ、ポンジュース蛇口が話題になったのだと思っています。ポンジュース蛇口は、まじめな弊社ならではの取組だったのではないでしょうか。

製造風景(提供:えひめ飲料)

——そう言い切れる渡部さんも、とてもまじめだと思います!  最後に今後の展望や目標をお願いします。

2027年でポンジュース発売75周年を迎えます。それに向けて、何かユニークな企画を考えたいですね。

実は、県内の伊予市にある老舗食品メーカーのマルトモ 株式会社さんと共同開発した、「ポンジュース香る寄せ鍋つゆ」を発売しました。

鍋つゆ(提供:えひめ飲料)

このようなコラボの展開を今後もやっていけたらいいなと思っています。ほかにも、SNSを上手に活用して、75周年をアピールできたらいいなと考えているところです。

あと、“元祖・みかんジュースが出る蛇口”の「ポンジュース蛇口」でポンジュースを飲みたい方は、毎年1月の「愛媛みかん祭り」に、ぜひお越しください!

編集:友光だんご

 

愛媛県で働きたい方はこちらから