こんにちは。ジモコロライターの田中嘉人です。

現在、ジモコロ編集長のギャラクシーとネタ探しのドライブ中で、東京湾アクアラインを走っているのですが……

 

「田中くんどうしたの? 顔色悪いよ」

「いや、もし……もしもですよ?」

 

「こんな海の底で交通事故に遭っちゃったらどうします?」

 

「ちょっと! 怖いこと言わないでよ」

「いや、映画とかで巨大トンネルが崩落するなんてよくあるパターンじゃないですか」

「映画と現実は違うけど、万が一ってことはあるかもね」

 

「あ……そうこうしてたらもうすぐ海ほたるですね」

「ちょっと休憩して行こうか」

 

ということで海底トンネルを抜けた先にある海ほたるへやってきました。うーん、気持ちいい!

 

「あ、田中くん! ちょっと! これこれ!!」

 

「なにこれ? 東京湾アクアライン裏側探検?

「今ホームページも見てみたんだけど……」

『万が一、海底トンネルで交通事故や火災が起きたら、どこに逃げるの?』

東京湾アクアラインには、一般にはあまり知られていない建設の工夫や安全確保の仕掛けがたくさんあります。「東京湾アクアライン裏側探検」では、専属のガイドが普段は立ち入れない裏側をご案内します!

「……だって! さっきの疑問、ここで解決できるんじゃない?」

「これだ! ツアーを取材させてもらいましょう」

 

というわけで、東京湾アクアライン裏側探検ツアーに密着し、ガイドの斉藤さん武内さんにいろいろと話を聞いてみたいと思います!

※本来は事前予約が必要です

 

 

東京湾アクアラインってそもそも何?

「今日はよろしくお願いします! 早速なんですが、海底トンネルで事故が起きたらどうすればいいんですか?」

「気になるところだと思いますが、本題に入る前に私から質問です。東京湾アクアラインがどのようにつくられたのかってご存じですか?」

「え? そ、それは……たくさんの人の努力とか……その~熱意とかで……?」

「『事故が起きたらどうすればいいの?』という疑問を解決する手がかりにもつながりますので、まずは東京湾アクアラインの計画や工事の過程などをご説明しますね」

 

映像を見ながらアクアラインについて学んでいきましょう

 

「プロジェクトの始まりは1966年。戦後の高度経済成長とあわせて車社会が急速に発展した時代です」

「そんな昔から構想があったんですね!」

「その後、30年という月日を要して、人間の知恵と最先端の技術が数多くつぎ込まれ、1997年に東京湾アクアラインは開通しました」

 

「アクアラインといえば、海ほたるを挟んで千葉側が、神奈川側が海底トンネルですよね。どうやって海の底にトンネルを掘ったんですか?」

「東京湾アクアラインの海底トンネルは、当時最新技術として注目されていた円筒形のシールドマシンを使った工事が採用されました」

「シールドマシン?」

「地中深くの土や水の圧力に耐えるために、頑丈な鋼鉄製のシールドに周囲を覆われた円筒形の掘削機です。計画ルートの地盤は軟弱で、地震多発地帯でもあります。前例のないトンネル工事に挑むために、当時世界最大級の大口径シールドマシンが開発されました」

 

海ほたる1Fに展示されているモニュメント。実物大のシールドマシンの先端部分です(本来は円形ですがモニュメントなので左側が欠けたデザインになっています)

この刃が回転しながら掘り進むわけですね。ちなみにこの巨大なマシンが合計8基使用されたそうです

 

「工事は川崎側から始まりました。あの川崎浮島ジャンクションから東京湾アクアラインに入るときのピラミッドみたいなところですね」

 

本来はピラミッド型だったが、羽田空港の新滑走路建設に伴い、2010年にてっぺん部分が切り取られてしまった

 

「同じタイミングで造られたのが、『風の塔』と、今私たちがいる『海ほたる』です」

「『風の塔』……というと、川崎と海ほたるの中間くらいにある施設ですよね? あれってトンネル内の換気をするための設備じゃないんですか?」

 

海ほたるから川崎方面に目線を送ると、遠くに見える『風の塔』

 

「おっしゃる通り、現在は海底トンネルの換気施設が収容されていますが、当初はシールドマシンの発信基地でした。『海ほたる』も同様で、パーキングエリアとしてではなく、道路がトンネルから橋に移り変わるための接続部分として造られました」

「つまり、まずは川崎のピラミッド型の『浮島換気所』と『風の塔』と『海ほたる』を造って海底トンネルのコースを決めたわけですね」

「そうですね。それぞれの場所から掘り進め、地中で接合させました」

「でも、キロ単位で掘り進めていて、誤差なく接合できるものなんですか?」

 

興味深く説明を聞く僕。ちなみに隣にいる子は―

 

NEXCO東日本のマナーアップキャラクター「マナーティ」です。かわいい

 

「最先端の測量機器を用いても200ミリ以上の誤差が考えられており、『いかに少なく抑えるか』が最大の課題でした」

「200ミリってわずか20センチですよね? ペットボトル一本程度なら別にいいのでは?」

「そのぐらいはしゃーなしでしょ(笑)」

しゃーなしでは済まないので、掘り進めながらズレを計測し、修正、調整を繰り返すことで、最大180mmあった誤差を接合地点では数ミリに抑えることができました

接合のタイミングに、隙間からうっかり海水が入ったりしなかったんですか? 先ほど地盤が軟弱という話もありましたし……」

「隙間から海水が入らないように、周りの地盤を凍らせました」

「こうして、無事トンネルが貫通したんです」

「パチパチパチパチ〜(拍手)」

 

 

海ほたるの地下に、「緊急避難通路」への入口があるらしい

「で、本題なのですが……トンネル内で万が一のことがあったらどうすればいいんですか?」

「じゃあ、答えを知るために行ってみましょうか。秘密のトンネルに……」

 

武内さん&斉藤さんに連れられ、海ほたるをスタスタ。一体どこへ連れていかれるの?

 

「こちらです」

 

ドーン!!

 

海ほたるの駐車場脇、こんなところにトンネルがあるなんて知らなかった!

 

「これって何のためのトンネルなんですか?」

「先ほどご説明したシールドマシンを入れるための作業用トンネルでした。普段は週末などに臨時駐車場として使っています」

「へぇ〜」

それにしても、トンネルをこうして歩けるって非日常で楽しいですね。写真映えもしそう」 

 

特撮ヒーローものっぽい写真を撮って喜ぶ編集長のギャラクシー

 

振り返って入口を見るとこんな感じ

ちなみに地面が濡れているのは、前日雨が降ったから。海水がトンネル内に漏れているわけではないのでご安心を

 

さらにグイグイ歩みを進めていき……

 

見慣れない景色にいちいちキャッキャしていると……

 

「こちらがアクアトンネルで事故に遭ったときに使用する、緊急避難通路への入口です」

「緊急避難通路って一体何なんですか?」

「トンネルで交通事故や火災が発生した場合に、避難したり、消防や救護活動のための車両を走らせたりするための通路ですね

 

アクアトンネルは円筒形のトンネルの、上約3分の2が車道で、下約3分の1が緊急避難通路になっているそう

 

僕らが普段走っているあの道の真下に、こんな通路が通っていたんですね」

「利用者が避難するだけではなく、緊急車両がアクセスするためのルートでもあるのか」

「ちなみに、みなさんがいつも走っている車道と、緊急避難通路とを隔てている部分の厚みは約40cmしかありません」

 

「たったの40cmくらい!? 専門家が計算してそれで大丈夫ってことなんだろうけど、数字だけ聞いたら『ほんとに大丈夫なの!?』って思っちゃうな」

ほんとに大丈夫なのでご安心ください。では実際に緊急避難通路をご案内します」

「こんな大きい扉、開けられるかな」

 

「あ、大きい扉は車両用ですので、人間はこちらの小さい扉から入ります」

「HUNTER×HUNTERのゾルディック家みたい」

 

 

アクアトンネル車道の下に、緊急避難通路があった!

「おじゃまします!」

 

「うわぁ……! 異世界感ハンパない。これ、どこまで続いてるんですか?」

「川崎まで続いています」

「じゃあずっと歩けば川崎に行けるということですか?」

 

「はい。このツアーでは入口周辺までしか行けませんが……だいたい10km歩けば川崎まで行けます」

 

緊急避難通路内にはこのような看板が設置されているので、どっちの方向に逃げれば近いのかわかるようになっている

 

「それにしても、海底トンネルって聞くと涼しいイメージでしたが、外と同じくらい暑いんですね(取材したのは7月)」

「気温は外とほぼ同じです。外気を強制的に取り込んで、気圧を高くしてるからですね。上の車道で火災が起きた時に、火や煙が入り込むのを防ぐためです」

※空気や煙は、気圧の高い場所から低い場所へと流れる性質がある

実際に車道で事故や火災に遭ってしまったら、どうやってこの通路まで降りてくるんですか?

 

「こちらの避難用スロープを使います」

「普段、上の車道を走っていると、定期的に『非常扉』の明かりがありますよね? あの扉を開けると、こちらのスロープに繋がっています」

「それにしても、この避難用スロープ、どこかで見たような……なんかの映画かドラマだっけ……???」

「よくぞお気づきで! 映画『シン・ゴジラ』の冒頭シーンはこちらで撮影されました

「うわそれだ!!! 言われてみたら確かにここだ!!! なんか感動……!」

防災について学べて、聖地巡礼もできちゃうなんて最高のツアーですね」

 

 

緊急避難通路だけじゃない!万が一に備える設備の数々

「事故が起きてこの避難通路に降りてきたとして、当然、どこかに連絡をとった方がいいですよね?」

 

「その場合はこちらの非常電話をお使いください。非常電話は上の車道には150mごとに1ヶ所、緊急避難通路内には300mごとに1ヶ所設置されております」

「高速道路でもよく見かける電話だ。これってタダでかけられるんですか?」

「もちろんです! 受話器を上げると道路管制センターにつながるので、状況を教えてくれたら救急車も消防車もすぐに手配します」

 

道路管制センターはこんな感じ。NEXCO東日本管轄の高速道路網が一目瞭然。NERVみたいでカッコいい

 

「足をケガして非常電話までたどり着けない場合は?」

「スマホで110番、119番してもいいですし、道路緊急ダイヤル(#9910)にかければ道路管制センターに直接つながります

「#9910は高速道路だけではなく、一般道でも使える番号なので、覚えておくと役立ちますよ」

 

道路緊急ダイヤルの番号は非常電話にも表記されているので、忘れちゃった場合も焦らなくて大丈夫

 

「あとは消火栓ですね。トンネル内には自動で火災や熱を感知する設備やスプリンクラーも備えられていますが、利用者さまの初期消化対応のために設置されています」

「火災が起きたら積極的に消化活動した方がいいんですか?」

「いえ、積極的な使用はおすすめしていません。車両火災は大変な危険を伴うので、必ずご自身の安全を最優先にしてください。あくまで万が一のための備えですね」

「念の為使い方を教えてもらえますか?」

 

SOSボタンを強く押すと、道路管制センターにつながります。そしてハンドルを引くとノズルのついたホースが入っているので、放水できる体制に構えたらレバーを下げてください。そうすると、水が出ます」

「消火器と比べて、レバーを下げている間ずっと真水が出続けることが消火栓の強みですね」

「ただ、とにかく水の勢いが強いので、女性や小柄な方は水圧に負けて飛ばされる危険性もあります。ノズルと持つ人とレバーを下げる人は2名体制でのご使用をお願いしています」

 

「ちょっと気になっていたんですけど……車道から降りてくるためのスロープとは別に、ここにもスロープがありますよね? こっちは何のためのものなんですか?」

「緊急避難通路を通って現場へ駆けつけた消防隊員の方たちが、車道の事故現場まで上がるためのスロープです」

「ストレッチャーを運んだり、消火栓のホースを引いたりするため、避難用のスロープと比べて幅広く設計されていることがわかりますよね」

「事故や救助のプロが使うためのスロープか……」

「せっかくなんで、特別にちょっと登ってみますか?」

「いいんですか!?」

 

ということで、今回は特別に消防隊員の方たちが車道の事故現場まで行く際に使うスロープを登らせてもらいました。スロープを登り切ると……

 

本当に普段走っているアクアトンネルだった!

 

「ちなみに、これまで緊急避難通路はどのぐらい使われたんですか?」

数件ですね

「え?」

「基本的には、車道で片付いてしまいますからね。ただ万が一のために絶対必要なものですから」

 

 

なぜ木更津方面は、海底トンネルではなく橋梁になったのか

「素朴な疑問なんですが、アクアラインって、海ほたるを挟んで神奈川方面はトンネルで、千葉方面はになってるじゃないですか?」

「はい。東京湾アクアラインの全長は15kmありますが、神奈川側のおよそ10kmは海底トンネルで、千葉側のおよそ5kmは橋になっています」

「なぜ全部を橋にせず、川崎側だけトンネルにしたんですか?

 

「川崎は水深が深く、工業地帯なので大きな船舶の往来が多いんです。そのため橋が航行を邪魔しないようにトンネルにしたんですね」

「大きな船が通過できるように、天にも届くような超巨大な橋を作ったらだめなんでしょうか?」

「残念ながら、羽田空港が近いため高い建造物は建てられないんです」

「では逆に、木更津側(千葉)も海底トンネルにするという案はなかったんですか?」

「木更津側は水深が浅く、主に小型船や漁船の航路なので橋でも大丈夫なんです。また、干潟が広がっているため環境保護の観点からも、橋梁になりました」

「あと最大の理由は経費の問題ですね。海上に橋を1km造るのにいくらかかったと思いますか?」

「え~、見当もつかないな……」

「当時の金額で約200億円です」

 

「……はい?」

「アクアラインは全長15km。そのうち橋は5kmなので、1000億かかってるってこと……」

「そして、トンネルは橋を造るよりさらにお金がかかります。同じ距離を造るのに橋梁の2.5倍かかると言われています」

「つまりトンネルは1km約500億円なので……10kmで5,000億円です」

「トンネルやばwww」

「単純に橋とトンネルを作るだけでその費用なので……東京湾アクアラインにかかったすべての費用は1兆4,400億円です

 

「想像がつかなすぎて言葉が出てこない」

「イメージしやすいようにわかりやすくご説明すると……」

 

「偶然にもここに100万円の札束があるんですが(注:もちろん偽物です)、100万円の札束って厚さが1cmなんですよ」

「へ!?」

 

厚さ1cmの100万円の札束を、東京湾アクアラインの川崎方面から立てて並べていくと、アクアラインとちょうど同じ長さになると言われています」

 

「なんかわかんないけどウケますね(笑)」

「ということで、先ほどのご質問への回答としては、金銭的な事情もあり、本当に必要な部分だけ海底トンネルを建設することになったということですね」

「では、そろそろ地上に戻りましょうか」

「はぁ~い」

 

思わぬ学びがたくさんあって楽しかった~~!!

 

 

消防隊員や救急隊員はどこで待機しているの?

帰りは120段も続く階段を上って―

 

運動不足の太ももがパンパンになりながら地上に戻ってきました

 

シールドマシンの先端部分のオブジェが出迎えてくれました

 

「最後にご案内するのがこちらです」

「あ、消防車だ。けど、ちょっと違和感がありますね」

「こちらは東京湾アクアライン専用の消防車です。緊急避難通路を通るため、通常よりひと回りコンパクトな車両なんですよ」

 

緊急避難通路の撮影時に、メンテナンスのための車が通ったのですが、普通の乗用車だとこれくらいのサイズ感です

 

「消防隊員の方や救急隊員の方は常駐しているわけではなく、今は木更津の金田料金所近くの消防の詰所で待機しています」

「緊急時は、時間にして10分ちょっとでここまで駆けつけてくれます」

「はやっ」

「ちなみに……消防や警察の管轄はどうなってるんですか? ここは海の上だし、木更津から川崎まで伸びてる道路って、誰が管轄するのかなと」

消防に関しては、橋梁部分(木更津)の上下線と海底トンネルの上り線を木更津市消防が、そして、海底トンネル(川崎)の下り線を川崎市消防が管轄しています」

警察の場合、管轄は川崎側から海底トンネルに入って7.2kmのところで神奈川県警と千葉県警に分かれます

「ややこしいけど、そこをはっきりさせとかないと、イザという時ごちゃごちゃしちゃうもんね」

 

「以上で『裏側探検ツアー』のすべてのご案内が終了となります。気になっていたことを知ることはできましたか?」

「はい! そもそも緊急避難通路があるなんてことを知らなかったし、非常電話や消火栓もあってすごく安心しました。でも……」

「でも?」

「でも、一番大事なのは、私たち利用者が事故を起こさないことですよね。もちろん、海底トンネルに限った話ではありませんが、東京湾アクアラインを通るときってちょっとテンション上がりがちだから、意識的に気をつけたいと思いました」

「ありがとうございます。そこに気づいてくれたのなら何よりです」

「またぜひ気軽に立ち寄ってくださいね! ありがとうございました」

 

 

おわりに

アクアライン裏側探検ツアーは、緊急時の避難方法から歴史・工事の裏側まで学べて防災意識も爆上がり! 巨大構造物好き探検気分を味わいたい大人子どもの社会科見学にも超オススメでした!

 

東京湾アクアライン裏側探検

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