
ネットミーム“バキバキ童貞”として有名なお笑い芸人「春とヒコーキ」のぐんぴぃ。YouTubeやお笑い、TVドラマなどで幅広く活躍するなか、現在公開中の、岐阜県関市のご当地映画『怪獣ヤロウ!』では主演を務めている。
そして今作の脚本・監督を務めるのは、ぐんぴぃのマネージャーである、八木順一朗さん。じつは八木さん、マネージャー兼映画監督、TVディレクター、構成作家という、謎のキャリアの持ち主なのだ。
彼らの所属事務所は爆笑問題を擁するタイタンで、タレントとマネージャーが主演&監督という前代未聞の座組みは、映画『怪獣ヤロウ!』にて製作総指揮としてクレジットされている社長・太田光代さんの辣腕によるものだという。
どうやら、八木さんがさまざまな仕事をできているのも、光代社長率いる事務所の特殊性によるものだとか……。

今回は、主にぐんぴぃから見て八木さんはどんなマネージャーなのか、幼少期に映画監督という夢を持っていた八木さんが、寄り道を経てどのように夢を叶えたのか。八木さんのふるさとであり、映画の舞台となった岐阜県関市の魅力などをじっくり聞いた。
そう、このふたりのツーショット取材にもかかわらず、主なテーマは八木さんのインタビューであり、ぐんぴぃは豪華なおまけ。
壮大なぐんぴぃの無駄遣いであるにもかかわらず、サービス満点のトークを繰り広げてくれたあたり、彼の人柄の良さが伝わってくる。
聞き手の堀越 愛さんは、お笑いWEBメディア『ワラパー』編集長で、春とヒコーキの連載を担当しており、ふたりとは顔見知り。ふだんは語らない、事務所の秘話やふたりの深い絆まで聞き出すことができたので、ぜひ最後までお読みいただきたい。
八木順一朗

1988年、岐阜県生まれ。芸能事務所・タイタンのマネージャーとして働くかたわら、映画監督、TVディレクター、構成作家としても活動。監督作は映画『実りゆく』(2020年公開)、『怪獣ヤロウ!』、構成作家としてNHK Eテレ『おかあさんといっしょ』の木曜コーナー、「しりたガエルのけけちゃま」などを担当。 X (旧Twitter) :@GODZILL07025338
ぐんぴぃ

1990年、福岡県生まれ。2017年にお笑いコンビ・春とヒコーキを結成。2019年、街頭インタビューを受けた際の動画がネットミーム化し、一躍有名に。YouTubeの「バキ童チャンネル【ぐんぴぃ】」の登録者数は約180万を誇るほか、映画『怪獣ヤロウ!』、『大病院占拠』(TBS系)などで俳優としても活躍
タイタンは、普通はダメな働き方を許してくれる場所

━━八木さんは、マネージャーとしてタイタンに在籍しながら映画監督などさまざまな仕事をしていますよね。主にどんなお仕事をされているのでしょうか?
「マネージャー・監督・構成作家ですね。あと『美の巨人たち』(テレビ東京)など、テレビ番組のディレクターもやってます。なにをやってるかよくわかんないですよね」
━━日々、どんな割合でお仕事しているんですか?
「本当に無茶苦茶ですね。例えば昨日は……朝6時に社長を車で迎えに行きNHKに送り届け、ラジオの収録にマネージャーとして立ち合い、昼に事務所に戻って『おかあさんといっしょ(しりたガエルのけけちゃま)』の脚本を書き、夜は『怪獣ヤロウ!』関連の原稿チェックをして……みたいな1日でした」
━━だいぶ特殊な働き方ですよね。タイタンのマネージャーさんには、ほかにもそういう働き方をしている人がいるのでしょうか?
「ほかにはいないですね。みんなは、ちゃんとしたマネージャーです(笑)」
「みんな敏腕です。タイタンは、マネージャーが少ないんですよ。八木さんが映画を撮るとしわ寄せが行ってしまうので、『あ~……また八木さんが映画撮るよ……』って顔をしてます(笑)」
「この働き方が許されるって、タイタンは変ですよね。普通はダメだと思います」
━━八木さんの、混沌とした業務を管理してくれる人はいるんですか?
「いないです」
━━では、八木さんは自分のマネジメントをしながら、芸人さんたちのマネジメントをしているんですね……。
「そうですね。自分のことは、全部自分でやらなきゃいけないですね」
━━かなり大変ですよね。
「大変ですね。でも、やっぱり楽しいです。お笑いも大好きですし映画も撮りたかったので、本当に理想的な環境というか。お笑いに一番近いところにいれて好きなこともやれるって、こんな状況はなかなかないですよ。感謝しなきゃ……と、自分に言い聞かせながらやってます(笑)」

━━八木さんの多岐にわたる仕事に関して、なにか事務所からのバックアップはあるのでしょうか?
「映画にタイタンが出資してますし、けっこう面白がってますよね。ただ、八木さんはマネージャー以外にもいろんな仕事をしてますけど、そのぶん給料をたくさんもらってるわけではないんですよ」
「映画が爆裂大ヒットしても、僕が儲かるわけではないです(笑)。売り上げは、全部会社に……」
「すごい構造で働いてる」
「マネージャーの月給で、大暴れしてます」
「そう。その代わり映画に出資してもらえたりするんで、八木さんはそれで全然OKと言ってます。まぁ、とはいえ八木さんはイカれてると思いますねぇ。給料のために働いていたら、できないことだと思います」
━━これだけマネージャー以外の仕事があるなら、独立したほうが財産は増えると思っちゃいませんか? 八木監督として名前も売れてますし……。
「僕はずっと言ってますよ。『タイタン辞めなさい』と。だって、監督として『はいカットー!』とか言ってる直後に、電話でどこかのメディアの人に『もしもし、ネコニスズ(※タイタン所属のコンビ)をお願いします…………』って。ネコニスズの世話なんかするな!と思って。
まぁでも、タイタンにいるから映画も撮れるみたいなところもありますもんね」
「そうですね。2020年に映画『実りゆく』を撮らせてもらえたのは、本当に社長のおかげだと思ってます。となると、映画監督の夢を叶えられたのはタイタンがあってこそなんですよ。だから僕は、タイタンにできる限り恩返ししたいんです。
社長から『もう独立して良いよ』と言われたら、そこで初めて独立を考えようかなと。今は恩返しの時期ですね」
「八木さんはタイタン愛があるんですよね」
売れっ子に慣れていない事務所、タイタンの特殊性
━━芸人として所属していても、タイタンは特殊な事務所だと思いますか?
「思いますね。マネージャーが本当に少ないですし……。あの、吉本興業って可愛いマネージャーがいるじゃないですか。可愛いマネージャーが芸人のYouTubeに出てちやほやされる……みたいなことに本当に憧れてるんですけど、タイタンは女性のマネージャーがいないんですよ」

「あと、このタレントには専属でこのマネージャーっていうのもないんです。映画系の仕事だと八木さん、ラジオだとAさん、書き物だとBさん……みたいな感じなんで、ほかの事務所とは違いますね」
━━そういう体制だからこそ、八木さんが監督業などマネージャー以外の仕事ができるのかもしれないですね。
「そうだと思います。専属でタレントについていたら、こういう働き方はできないですね。マネージャーみんなで芸人を見てるからこそ、『この現場ちょっと頼むわ』ができるので」
━━マネージャーは今、何人いるんですか?
「事務所全体で7人ですね。爆笑問題にふたりが専属でついていて、文化人にひとり。で、4人でほかの芸人たちを見てます」
━━所属している数十組の芸人を4人で見てるんですね。このなかに、M-1王者のウエストランドさんも含まれてるんですよね?」
「ウエストランドさんがM-1で優勝した直後は、パンクしてましたよね」
「ヤバかったですね(笑)」
「タイタンって売れっ子に慣れてねぇんだ、っていう(笑)。僕は、初ドラマのときもひとりで現場に行きましたし」
「そうでしたね。『ごめんね』って言って、ひとりで(笑)」
「『僕よりウエストランドさんの現場行ったほうが良いっすもんね』とか『もう今日休んで良いっすよ!』とか言ってました。不思議な体制ですね」
カウボーイになってストレス発散?
━━マネージャーは究極の裏方業だと思うんですが、八木さんは監督として表に出る仕事もありますよね。この裏と表のバランスって、容易に取れるものなんでしょうか。
「う~ん。さっき僕がこの格好(カウボーイ)で、マネージャーとしての電話をしてるのを見て、ぐんぴぃが面白がってましたけど……やっぱ変ですよね」
「情けなかったな。カウボーイの格好で『シティホテル3号室(※タイタン所属のコンビ)もですね、最近うまくいってまして……はい、ぜひ! 失礼します~!』とか言ってて。カウボーイが、情けないよ……」

「自分のなかで『切り替えよう』みたいなのはまったくないですね。表と裏の仕事を地続きでやってるの、傍から見たら変だと思うんですけど……」
「『タイガー&ドラゴン』(TBSテレビ制作のドラマ)みたいなとこありますよね。夜はヤクザで、昼は落語家みたいな」
━━マネージャーの仕事には、芸人さんの精神的なケアも含まれますよね。
「そうですね。なるべく気持ち良く仕事をしてもらうのも、マネージャーの仕事のひとつです。だから、映画を撮ってるときも、普段マネージャーをしているがゆえに気になってしまうことも多くて……。
たとえば、撮りながら『あの役者さんそろそろ入る時間だけど、楽屋準備できてるかな、大丈夫かな』とか思っちゃったり。監督だし、映画撮りながらそんなこと考える必要ないんですけど(笑)」
━━こんなにいろんな仕事をして、各所に気を配っているのに、八木さんのケアをしてくれる人はいないんですよね……。どうやって自分のご機嫌をとっているんですか?
「こうやってカウボーイの格好をしたりするのが、はけ口になってるのかな」

「やりたいことはやらせてもらってますもんね。まったく映画と関係ない格好で映画のプロモーションに出るから、みんな困惑して、最初の5分くらい『なんでカウボーイなんですか?』みたいな話になって。でも別に理由はないので、『カウボーイが楽しくて』みたいな、絶対に使えないことしか言わない」
「こういうのでストレス発散してるのかもしれないですね(笑)」
「自分らしく生きてるというね」
光代社長は「なんか面白そう」でフルスイングしてくれる
━━こうやって見ていると、八木さんとぐんぴぃさんの関係ってすごく良いですよね。ぐんぴぃさんから見て、八木さんはどんなマネージャーですか?
「クリエイターの目線も持ってる人なんで、話がめっちゃ合うんですよ。うまくモノを作れる・作れないみたいな話もわかってくれるし、かといって話下手でもない。八木さんが初めてマネージャーとして現場についてきてくれたのが、King Gnu井口さん主演のYouTubeドラマ『GOSSIP BOX / ゴシップボックス』(2021年配信)に僕が出演したときで。
僕は井口さんとどう話したら良いかわかんなかったんですけど、八木さんが『ご出身が長野なんですよね、僕、長野のこういうのが好きで……』と盛り上がってるんですよ。コミュ力お化けでありつつクリエイターの気持ちもわかるんで、マネージャーとして痒い所に手が届く人だと思います」
「あ~、たしかにあのとき初めて一緒に行ったんですよね」
「助かりましたよ、マネージャーとしてすごいなぁと。『うちに所属してる松尾アトム前派出所も長野出身なんですよ』という、僕だったら絶対言えない弱い話題をガンガン言ってて(笑)。向こうも『えー!そうなんですか!』ってなる感じ、すげぇなと」
「マネージャーは初めて会う人にもガンガン営業に行かなきゃいけないので、それで鍛えられたのかもしれないですね」

━━以前八木さんにインタビューをしたとき、春とヒコーキさんはYouTuberとして順調な反面、本当は「ネタで売れたいと言っている」とお話されてましたね。そこまで本質的に理解してくれるマネージャーって、そう多くはないのではと思いました。
「本当にそう思います。『良いじゃん、YouTubeで稼げるんだから』みたいな人もいますよ。でも八木さんは『クリエイターとしてそこは外せないっすよね、お金じゃないっすよね』とわかってくれるんです。普通のコンサルだったら、『お笑いを減らしてYouTube増やしましょう!』って言うと思いますよ」
━━八木さん自身がお金第一ではない働き方をしているのも大きいんでしょうね。
「お金優先じゃない人は嬉しいですね。そもそも、タイタン自体が『まずお金』ではない」
「社長も『稼げるからこれをやりなさい』って人では全然ないんです。だからこそ映画をやらせてくれてるんだと思うんですけど、『なんか面白そう』とか『今までと違うな』ってところに、バーンとフルスイングしてくれる。
これって会社のトップとして、すごくカッコいいなと思うんですよ。光代社長は爆笑さんを売り出した人だしマネージャーの先輩でもあるんで、見習うべきポイントはいっぱいありますね」
━━確かに、光代社長は爆笑問題さんのマネージャーでしたもんね。
「爆笑さんは、社長が取ってきた仕事になにも文句を言わないんです。で、社長は爆笑さんの漫才になにも文句を言わない。本当に信頼し合ってないとできない関係性だし、すごくきれいに歯車が回ってるんだろうなと。この関係性を、自分も実現できたら良いなと常々思ってますね」
「でも光代社長は、とち狂ったことを言う人でもありますよ。僕、体重が128キロあって、ずっと社長に『痩せなさい痩せなさい』って言われてるんです」

「昨年、曙さんが亡くなったときの体重が228キロくらいだったらしく、社長に『あんた、曙と100キロしか変わらないじゃない!! 痩せなさいよ! 死ぬよ!』ってめちゃめちゃ怒られて……。いや、100キロも違うんだけど、とは言えなかったですね(笑)。
『ちょっとみんな、100キロしか違わないのよ~!』って本気で言ってらっしゃるので、面白いなと思います」
「そうそう、本気なんですよね」
「本気だから良いですよね」





































