実は沖縄向けに生まれた「金ちゃんヌードル」。なぜ全国の“飛び地”でソウルフードなのか?

2022.10.17

実は沖縄向けに生まれた「金ちゃんヌードル」。なぜ全国の“飛び地”でソウルフードなのか?

1973年に発売された徳島製粉の「金ちゃんヌードル」。素朴ながらもクセになる、おなかに至上の喜びをくれるカップヌードルです。そんな金ちゃんヌードルが愛されている土地は、なぜか飛び地になっています。徳島製粉にその理由を聞くと、面白い話がたくさん聞けました。麺がしっかりしているのは、農作業の合間に食べやすいから?

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    1973年に発売された徳島製粉「金ちゃんヌードル」……不思議なラーメンである。

     

    お店のラーメンを再現するような最近の商品とは一線を画し、実に「カップめん」然とした味わい。

     

    麺の量は72gとたっぷり。素朴だがクセになる、スッカラカンのおなかに至上の喜びをくれる一杯だ。

     

    最近では関東でも少しずつ置かれるようになり、筆者も見つけたら買って、貪るようにすすっている。

     

    しかも、愛されている地域はもっぱら西日本の飛び地だ。地元の四国をはじめ、沖縄、静岡、富山、広島……中でも沖縄、静岡などでは「国民食」と呼ばれるほどに愛されているとも。

     

    金ちゃんヌードルがよく食べられている所を表した地図

     

    沖縄県宜野湾市で。箱買いもできるなど、沖縄各店ではものすごい勢いで置かれている

     

    いったいなぜ、金ちゃんヌードルの愛される地域はこれほど散らばっているのか? もうすぐ発売から50年、その勢力図を少しずつ広げる徳島製粉に話を伺った。

     

    答えてくれるのは、徳島製粉の執行役員営業部長である、椎野利夫さん。同社の重鎮の知見を拝借しよう。

     

     

    最初は「沖縄のため」に生まれた

    「いったいこの金ちゃんヌードル、どのように生まれたんでしょうか?」

    「1973年6月、金ちゃんヌードルは弊社初のカップ麺です。そして、沖縄のために作った商品が、金ちゃんヌードルといっても過言ではございません」

    「なぜですか?」

    「金ちゃんヌードルは沖縄が日本に返還されるときに出たラーメン。我々が沖縄の風土を学んで生まれた商品なんです

     

    「なぜ沖縄に?」

    「もともと市場として興味があったのと、『遊びがてらゴルフにも行こうよ』とも思いまして……」

    「正直だ!」

    「ただ、そのゴルフでいろいろな人と意気投合できて。今も商品を取り扱ってくれている販売代理店の方に『もし沖縄に来てくれるなら、沖縄県に向いた商品を作ってくれ』と言われたそうです」

    「そこから沖縄向けの金ちゃんヌードルが生まれるのか……!」

    「そうなんです。たとえば金ちゃんヌードルって麺がちょっと固めですよね?」

    「麺がしっかりしていますよね」

     

    「おかげで時間が経っても麺はのびにくいんですが、これも沖縄と関係ありまして」

    「どう関係あるんですか?」

    当時の沖縄県は農作業に従事する方がとても多くて。そのとき、『キリのいいところまで仕事をしてから食べよう』というのが結構あって、“のびにくい麺”にしたそうです

    「そこがあの麺の由来だったんですか……!」

    「そして、金ちゃんヌードル特有のフタもそうなんですよ」

     

    ……農作業時にも食べやすい?

    「そうなんです! 時間がたっても麺が冷めにくいですからね」

     

    手に熱を感じさせない金ちゃんヌードルの二重カップ。これも暑い沖縄での普及に役立ったかもしれない

     

    あふれる「マンパワー」が静岡と広島を大消費地にした

    「そのほかの地域でも、局地的に愛されていますよね」

    弊社は営業マンが全国的に少なくて、しばらく3名だったのもありますね。今は17名いますが」

    「3人で各地を回していたとは……! ほかに静岡でもソウルフードと語られますよね」

    「ええ、久保田利伸さんにも愛食いただいていました」

     

    静岡出身のシンガーソングライター・久保田利伸さんも金ちゃんヌードルがソウルフード

     

    「他メディアの記事によると、『静岡県民は東洋水産の進出などでカップ麺に馴染みがあり、かつほかに大手の同業者がおらず参入しやすい地域だった』とそのワケが語られていますが、どうでしょうか?」

    「それもあると思います。が、静岡のある問屋さんが弊社の商品を気に入ってくれて、すごく力を入れて売っていただいたのも大きいです」

    「問屋さんがキーマン!?」

    「徳島製粉と金ちゃんヌードルにほれてくださって、『とにかく売る』と。かつては豪快な方が多かったんです」

    「さらに、商品にほれた営業マンは強いと」

    「はい。そうして、今まで並んでなかったスーパーさんとかにも、どんどん並んでいったんです。弊社の静岡県の礎を作っていただきました」

    「金ちゃんヌードルがそこまで人を動かしたわけですね」

     

    広島市・十日市町にて

     

    「同じ理由で、広島でもよく売れますよ。広島には全国区になる前の、地元だけでとても力をもった問屋さんが多くあって、ガッツでたくさん売ってくださったんです」

    「あ、そうだったんですか? 以前『広島県民が愛するご当地フード』と書かれたビラがSNSでツッコミが入っていましたが、あれはホントだったんですね!」

    「ええ。金ちゃんヌードルと金ちゃんラーメン(袋麺)の5食パックが、広島は異様な数字で売れますから

     

    四国で絶対的な牙城を築けたワケ

    「四国も品ぞろえがいいですよね。徳島はもちろん、ほかの3県でもたくさん置かれています」

    「四国ではおそらくどこのスーパーでも置かれているはずです」

     

    姉妹品の金ちゃんラーメンとともに並べられる金ちゃんヌードル

     

    「地元といえども、なぜここまで選ばれるんですか?」

    大きな島のようになっている四国は物流コストが高くて、大手が参入しにくいんです。だから四国発の商品がよく売れる、独自の商品文化があるんですよ

    「へえ!」

     

    瀬戸大橋の完成後も四国の市場は特殊性を持ち続けている(Photo by Tzuhsun Hsu

     

    「だからえひめ飲料さんのポンジュースとかも、四国では異様に売れるんですよ。『地元の商品を売ろう』との意識もありますから」

     

    長崎や富山、東海3県も隠れた金ちゃん熱愛地域

    「金ちゃんヌードル、九州のイメージはないですよね」

    「じつは九州の中で、長崎県だけ異様に売れます

     

    「西の端ですよね……なぜ?」

    「昔から、金ちゃんヌードルのCMを流していましたので」

    「なぜCMが?」

    長崎のテレビ局の方と、弊社の創始者との関係が良好だったんです

    「長崎でも、人との関係性で販路が育ったのか……ほかにも愛されている地域はありますか?」

    富山です。30~35年ぐらい前から、北陸3県の中でも人口もそれなりにいるし、寒くてラーメンが売れそうだからと販売に力を入れた県でした」

     

    「富山ブラックなんかでラーメン文化もありますもんね」

    「売り上げが増えてきたので、27~28年くらい前に、北陸に営業マンを置くようになりました」

    「フォロー態勢もできて、金ちゃんヌードルがますます浸透したわけですか」

    「北陸では現地採用して、石川、福井を合わせた3県で営業マンが2人いますよ」

    「あと、愛知・三重あたりでもよく見ますね」

    「ええ、あと岐阜を加えた東海3県でもそこそこ並んでいます

     

    筆者が名古屋滞在中に見た金ちゃんヌードルのCM

     

    東日本大震災から関東にも本格進出

    「金ちゃんヌードルといえば、西日本中心の展開ですよね。最近は関東でも少し買えるようになりましたが」

    「でもその歴史は古いんです。セブン-イレブンさんが『西と東で売れる商品を取り替えよう』って企画が30年ぐらい前にあって」

    「斬新な企画だ」

    「それはペヤングさんが西に初進出したきっかけなんですが、金ちゃんヌードルもはじめて東に流れたんですね。それで飛ぶように売れまして

    「東日本進出のきっかけになりそうですね……!」

    「ただ、徳島から東日本へ売りに行くのは輸送コストが悪いのと、返品やお申し出への対応が難しいので、あきらめました

    「ケアが行き届くエリアに集中して、さながら西日本限定品のようになったんですね」

    「それでもコアなお客さんが若干ついてて、東北や関東の一部にはずっと置かれていたんですよ。たとえば関東だとスーパー・カスミさんのある店舗だけとか」

    「そこから、関東でも少し置かれるようになったのはなぜですか?」

    2011年の東日本大震災からです。忌まわしい過去なんですが……風評被害で東の商品を避け、西日本の商品を買う風潮がありましたから

     

    Photo by Koshi2016

     

    「異常な状況でしたね……!」

    皮肉なことにそれが関東進出のきっかけになって。そこから5年ほどして関東への営業体制を強化し、今ではそれなりに置かれるようになりました」

    「たしかに、ドン・キホーテあたりではときどき見かけますね」

     

    都内でもドン・キホーテではときおり見かける

     

    「そんな金ちゃんヌードルですが、全体の売り上げはいかがでしょうか?」

    「おかげさまで毎年、ほぼ前年を超える売り上げです。販売地区をじわじわと広げていますからね」

    「少しずつ勢力範囲を広げているんですか」

    「我々が販売を強化するのに加えて、西日本で金ちゃんヌードルを愛してくれたバイヤーさんが全国にパラパラと散らばって、『無いならウチで出す』とがんばって売ってくれるんです

    「そこも局地的なんですね」

    「ええ。『おいしかった』と記憶をもってくださる方には、『こんなにまで』と全力で売ってくれるんです。ありがたいですね」

     

    筆者オススメの「しお」。濃くないのにしっかり味がある

     

    金ちゃんヌードルが愛される地域。これ以外にもエリアは拡大中

     

    徳島を知らしめる金ちゃんヌードル

    「最後に、徳島って少し地味な印象があるんですけど、徳島の名前を知らしめる存在こそが『徳島製粉』ですよね」

    「徳島は人口も少ないうえに高齢化が進み、全国の企業さんばかりになってきて。地元の企業さんはなくなってしまうところも多いです」

     

    「危機感を感じていると。ただ、僕らにとって金ちゃんヌードルは、もはや阿波おどりと並ぶ徳島発の名物です」

    「ありがとうございます。いま徳島県と連動して、徳島らーめんのカップに徳島県マスコットの『すだちくん』を載せています。徳島県の知名度を少しでも上げたくて」

     

    右下のキャラが「すだちくん」。徳島名物のすだちから生まれた。徳島製粉はひそかに徳島愛を叫ぶ

     

    「そうか、金ちゃんヌードル以外にも商品はたくさんありますよね。この『徳島らーめん』もなかなかの味でした」

    「そうそう……うちは売り上げの半分が金ちゃんヌードルのしょうゆ味ですが、ほかも売れてほしいですので。我らが徳島県と金ちゃんヌードルならびに、ほかのフレーバーやほかの商品もよろしくお願いします(笑)!」

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    辰井裕紀
    辰井裕紀

    卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。著書に『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』 (PHPビジネス新書)。

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