ジモコロライターのくいしんです!

 

 

真剣な表情でトランプ(?)をやっているのが僕です。

 

というのも、松本に、ちょっと大好きすぎるワインバーがあります……。

 

それが、peg(ペグ)!!!!

 

pegは、長野県松本市にあるナチュールワインのお店。菅沼博文さん(ひろさん)と摩利子さん夫婦で営まれています。

 

 

僕はそうやって聞かれたとき、即答しています。

 

「松本のpeg!」って。

 

なぜ?

 

ライターなんだからうまいこと言葉で説明したいのですが、これが……難しくて……。

 

pegって、本当にワインも料理もおいしいんですけど、「ここがこうで、ここがこうで、こうだから最高なんです!」って説明できない。いや、もちろん、ワインはどれもビックリするほどおいしいし、スイスイ飲んでも全然二日酔いしないし。

 

「お店の空気感や世界観がいい!」

「なんか居心地がずっといい!」

「行ったらいつも楽しい!」

「最高だ!」

 

とは思うんですけど、でも、具体的に説明できないんだよなあ。

 

そんなとき! そのpegが「進化系トランプをつくった」と聞いたんです。好きすぎるお店が謎の進化系トランプをつくったとのことで、聞いてきました!

 

「なんで変なトランプをつくったの?」

 

「というか、そんなこと考える? Tシャツとかでしょ、ふつう」

 

オーナーのひろさんに質問と解釈をぶつけること、約5時間

 

ようやくpegのすごさに辿り着きました。

 

それは、僕らはみんな、知らず知らずのうちにひろさんによって、「いい流れ」に操られていたということ。

 

「いい流れ」とは、自分のコンプレックスや社会からの視線を気にすることなく、子どものように遊んでいる状態のこと。

 

なぜpegはそんな状態をつくれるのか。その根本にはひろさんの「末っ子性」と、「遊び」への飽くなき探究心がありました。

 

身体性を伴った進化系トランプ「ペグンプ」とは

取材はpegと同じ長野県松本市内にあるゲストハウス「tabi-shiro」のラウンジを借りる形でスタート!

 

「今日は、ひろさんとペグンプをしながら、pegとペグンプの魅力を紐解いていきたいです。よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」

「そもそも、ペグンプってなんですか?『進化系トランプ』って勝手に解釈しているんですけど」

「ペグンプは、オリジナルカードを含めた66枚のカードからなるカードゲームです。内容は、大富豪をベースにしたオリジナルゲームになっています」

「大富豪の進化系をやるための、進化系トランプ!」

「とりあえず、やりながら説明していきますね」

「さっそくお願いします!」

 

ペグンプ、スタート!

 

「ペグンプならではのルールは、オリジナルカードにあります。『Take-out』は、指定した人の手札を一枚もらえる、テイクアウトできます。『MINNA MISETE』は、すべての参加者が一枚ずつ手札を場に開示する。『カンパイ』が出たら、みんなで乾杯します」

 

「ふむふむ」

「白紙のカードは4枚あって。自分たちで独自のカードを作ってもいいし、サンプルだと白紙のカードを出した人が誰かを指名して、あっち向いてホイをすることになっています」

「あっち向いてホイ!?」

「で、手札がラスト1枚になったときは、『ペグンプ!』と言わないと上がれません」

「UNOみたいな要素が入ってる」

「ペグンプッ!!!!」

 

ゲーム前半、3連勝して勢いに乗るジモコロ編集長の徳谷柿次郎

 

「これ、ペグンプ! って言えるの、めちゃくちゃうれしいですね。UNOでは『UNOって言いたい』とはそこまで強く思わなかったけど。語尾の発音が、UNOは下がるけど、ペグンプは上がるからか」

「高確率で勝てそうな手札が配られても、オリジナルカードの存在で急に勝てなくなるゲームバランスもおもしろいですね」

「さっき配られたのは弱いカードだったけど、意外と勝てたのはおもしろかったな」

通常の大富豪よりも、『何が起こるかわからない感じ』が格段にアップしてる印象です」

「オリジナルカードによって、いろんなイベントが発生するので」

 

「しかも、『カンパイ』カードが出たら乾杯するとか、白紙カードであっち向いてホイとか、めちゃくちゃ身体性に溢れたゲームですね」

「これ、横井軍平さんの『枯れた技術の水平思考』じゃないですか?」

「えっ?」

「どういうことですか?」

「元任天堂のゲーム開発者の横井さんの製作哲学に、『枯れた技術の水平思考』というのがあって。世の中に流通して認知された技術やアイデアを、15度だけズラすとめちゃくちゃおもしろくなるっていう」

「へえ!」

「そういうことが書かれた本があるんです。ペグンプは、大富豪という日本人によく馴染んでいるカードゲームがベースだからこそ、スッとルールが入ってきますね」

「ハードルはけっこう低いですよね」

「ベースがあって、そこにオプションを足して。さらに乾杯とか、あっち向いてホイとか、身体性のコミュニケーションをなぞることが詰まってる。だからこんなにスッと入れて、熱中できるのか!?」

 

 

末っ子のゲーム性溢れる人生

ひろさんのお店「peg」に移動して取材を再開!

 

「そもそもゲームは昔から好きだったんですか?」

「ボードゲームは好きでしたね。だからドンジャラとか結構やってました。あとは将棋も、小学生で父親に勝ったりしていた記憶があります」

「ふつう勝てないですよね。テレビゲームは?」

「テレビゲームはそんなに。あんまり得意じゃないっていうのもあるし、声を出したりとか、視線を読み取ったりとか、人の温度感を感じたりとか、そういう五感を感じるゲームのほうが好きというのもあって」

 

もともと身体性を伴った遊びのほうが好きだったんですね」

「そうですね。それで、ドンジャラとかもやり込んでいるうちに勝つのが見えてきちゃうから、自分でどんどんルールをつくっていました

「自分でルールを! 子どもの頃からペグンプをつくった今のようなことをやってたんだ」

「言われてみればそうですねえ。僕は姉と兄がいるんですけど、姉がギャルっぽくて兄もやんちゃで。そうなったら自分はおもしろいほうにいくか、みたいな考え方もあったかも」

「ゲームを与えられて、新しいルールをつくるのって、基本的に末っ子じゃないですか?」

「そうかも」

 

お先、いただいております

 

「僕自身、男3兄弟の長男なんですけど、長男長女はゲームをつくらないといけない側じゃないですか」

「うんうん。で、末っ子はそのお下がりはイヤだってなりがちだよね。『お兄ちゃんとお姉ちゃんがやり尽くしたゲームなんかおもしろくないから、自分で改変したい!』って話だ」

「たしかに。『同じはイヤだ!』みたいな気持ちは強かったかも。同じことが続くとイヤなんですよ。それに近い話で言うと、道草とかもよくしてましたね。学校から同じ道では家に帰らない、みたいな」

つまり、『末っ子酒場、peg』ってこと?

「全然思ってもいないところに着地(笑)。もう少し解釈していきましょう。新ルールをつくっちゃうご本人としては、その気持ちはどこから湧いてくるんですか?」

「ゲーム自体が簡単すぎるだとか、飽きちゃうとかそういうんじゃなくて。もっと裏切られたくて」

 

「裏切られたい!?!?」

みんなが『えっ!』と驚くことをしたい。そこにドラマがあると思って、ルールを新しくつくってましたね。小学校の頃から」

「そんなこと考えてゲームする小学生います?(笑)。道草の話もそうですけど、予定調和だとつまんない、と」

「僕は20代前半の頃に演劇をやってました。演劇のために、その後、ワインと出会う仕事をすることになる下北沢に住んだり。で、演劇をやっていてちょっと自分のポテンシャルに疑問を感じていたときに、バイト先の中国人のスタッフに感化されて、バンクーバーに留学を決めたんですよね」

「ほう……」

 

「それで帰国してからは、石垣島で三味線を半年間習いました」

「えっ?」

「そのあとに、介護福祉士にもなったんです」

「予定調和がイヤだって話でしたけど、人生がしっちゃかめっちゃか過ぎません!?!?(笑)」

ひろさんはめちゃくちゃ道草を食いまくってきた人生だったんだ」

目先の楽しいことを第一優先にしてきて、遊ぶような感覚で生きているんだと思います。自分の心がワクワクすることに、一番パワーが出るタイプなんだろうなー、って」

「ペグンプをつくったのも遊びの延長みたいな感覚ですか?」

「そうですね。つくるのに2年くらいかかって、周りの人たちからも『飲食やりながらよくつくるね』と言われたりもしてたんですけど。それよりも自分の中の楽しさが勝っていたので。結果、いい仲間の協力もあって、できちゃった」

「ペグンプを通してpegというお店のことを知ってほしい、みたいな気持ちはあるんですか?」

「知ってもらえるなら知ってもらいたいですけど。まあ、ペグンプはペグンプで知ってもらって、どこかの流れで『飲食店がつくったんだ、わー!』ってなったらいいかな、くらいですね。なので別にお店のことを知ってもらいたくてつくったということはまったくないですね」

「ペグンプは、pegのグッズではないってことですよね」

「そうそう。ペグンプは、ペグンプなんで」

 

「飲食店がグッズとして出すTシャツとかはカルチャー的な見せ方もあるけど、やっぱり販促として回り回ってお店の収入の一部になるっていう大前提があるわけじゃないですか。でもペグンプはお店のことが外に出ない」

「まあ、身に付けるものではないですからね」

「しかも価格は2200円。原価を考えたら利益が出るようなものでもない」

「利益は残んないですね!(笑)」

ただ楽しんでほしいっていう40歳ひろさんからの提案っていうのが純粋に表れてますよね。『みんな、遊んだほうがいいじゃん!』っていう。今までの経歴からここに行き着いていること自体が、めちゃめちゃおもろい」

 

見えないコミュニケーション

「もともといろんなことに興味があって、いろんなお仕事を渡り歩いたりして。でも、松本の町でずっとpegをやっていることには、飽きないわけですよね」

「ワインは毎年味が違うっていうのがまず飽きないところで、肉料理もシャルキュトリが変わるので。いつも新しいメニューを考えてつくっているし、それがワクワクします」

(*編集部注 シャルキュトリ=食肉加工品全般の総称。ソーセージやパテなど、肉に火を入れた料理全般を指す)

「お店をつくったのは、何年前でしたっけ?」

「2016年なので、2022年で7年目になります」

「7年前ってナチュールワインという言い方していたのかわからないけど、当初と今って全然、ナチュールワインの人気とか、社会的に違いますか?」

「松本では、うちがナチュールワインの1号店なんです。東京では当たり前になっていたけど、松本ではまだワインを立って飲むという文化もあんまりなくって。市民からも、『ナチュールってなんだ?』みたいな状態」

「うんうん」

 

「でもその浸透してなさがすごくよかった。都会だと、『誰々がつくったこのワインを飲んだ。だから満足』っていう状態になりがちで、それはワインを飲んでいるっていうより、ブランドを飲んでいることになっちゃっているような気がしていたので」

「この名前のブランドで飲むみたいな状態は違う、と」

「間違いなく正解なブランドだって念押しされていたら、純粋な美味しさを感じづらくなっちゃう気がして。『なんだこれ、うまっ!』みたいなことにはならないというか、純粋な反応になりにくいというか」

「なるほどなあ。そこも『裏切りがなくなっちゃうからイヤだ』ってことですね」

「はい。なので、今は有名な人のワインがすぐ売れちゃったりするんですけど、pegとしては、ちゃんと美味しい状態に持っていくことを大切にしていて。ちゃんと寝かせて、落ち着いた状態で出すことを意識しています。すると、『やっぱりこの人のワインは素晴らしい』とお客さんの評価が変わることは全然あるので」

「pegのワインの美味しさの秘密がひとつ示されましたね。誰よりもワインに向き合った上で、生産者さんにも寄り添っているってことなんだ」

 

「そもそも、pegはワインリストもないですよね」

「ワインリストはないですね」

「なぜですか?」

「以前は黒板にワインリストを書いてたんですけど。でもそのやり方だと、はけないボトルが出てきてしまう。そうすると、自分が一番美味しいと思う状態で飲んでもらえない。だから、ワインリスト自体、やめちゃったんです」

「なるほどなあ」

「それが意外に楽しんでもらえて、今のような形で続いています」

「ないことを気にしたこともなかったです。たしかにないなって、今、思ったくらい。いつもスッと飲んでた」

 

pegには紙のメニューもなく、料理のメニューは黒板のみ

 

「ワインリストを見せられることもある種、ワインリストの中から選ぶことになっちゃってる。自分で得る感動の大きさを考えたら、そうじゃないほうがいいってことですよね」

「あまりワインを飲まない人は、過去に飲んだ美味しいであろうものを選びたくなるじゃないですか。けど、毎回違うものだったら、こんなワインもあるんだ。これも美味しいんだなっていうのを知ることで、その文化自体を好きになるっていうことにつながりやすい」

「ワインを出すときは、どういうことを意識しているんですか?」

「辛口だとか甘口だとかの大雑把な好みは聞いて。で、そのときその人が食べているものとかで判断して、合わせていくみたいな感じですね」

「共通項はあるんですか? これを食べていたらこのワイン、みたいな」

そこにマニュアルはないですね。その時々の閃きみたいなもので判断しています。話している会話とか、今、何が求められているのかとか、暑かったり寒かったりの気温や気候でも左右されるものなので」

 

ワインセラーから取り出したと思ったら、氷水で冷やしたり、室温の状態に少し放置したり。いつもワインのベストな状態を引き出してくれるひろさん

 

「ワインリストがないこととか、そもそもマニュアル自体がないこととか、すごく情報を少なくしているように感じるのですけど……」

「たしかにワインの話は、お客さんとの会話の中で1割もしていないと思います。引き算しているのは、やっぱり根本に裏切りたいというのがあるからですかね」

「ひろさんの裏切りたいの意識は、子どもの頃からあったと思うんですけど、いったいどこから来るものなんですか?」

「やっぱり裏切るのがおもしろいと納得できたのは、演劇ですかね。同じ演技を規定のテンポでやっていてもおもしろくなくて、ちょっと違ったテンポにした瞬間に観客が『えっ?』ってなるほうが、演劇としておもしろくなる。みんなの目線が変わることで、その場自体がおもしろいものになるんです」

 

「そういうちょっと、目線を変えるようなことをpegでもやりたいので、フードとかも、若干その人が思っている理想を超えたものを出そうとしていますね。そのほうがお客さんとしてもインパクトが残るだろうと思って」

「pegバーグとか、ハムエッグとか。『こういうものが出てくるだろう』っていう想像とちょっと違ったものが出てくるところがpegのおもしろさですよね」

「帰ったときに、『あのお店ってどういうお店だったんだっけ?』って頭に残る。当たり前は当たり前になっちゃうので、そこをどれだけ壊しながら自分の中の表現をするかっていうのがすごく大切で」

「あー、なるほどなあ。そっか」

「足し算するのもおもしろいけど、引き算するのがおもしろいですよね。引き算をしていった中で、こういうハンバーグってあるんだとか、どこまで感じてもらえるか。それはすごく大切にしているかなと思いますね」

 

ひろさんの末っ子コミュニケーション

「ひろさんはめちゃくちゃ人を見てワインや料理を提供しているってことですよね。通っていて、ホントにそう思います」

「たしかに」

「だって、ワインとか料理が『こんなのも来るんだ!』って驚きをくれるだけじゃなくて、水のサーブ力も高すぎますもん。『今、水がほしい』ってタイミングでスッと水が出てくる」

「人はたしかに、見てるかもしれないですね」

「すごい。純粋に、『見ている』ってことなんだ」

ひろさんが人をよく見ているのは、末っ子だからなんじゃないかと思うんですよね」

 

「末っ子話に戻ってきた」

「というと?」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんの成功している姿や失敗している姿を、ABテスト的に比較しながら見て育っていますよね。人を見て、サンプルの中で最適解を出すっていうのが末っ子のコミュニケーションにもつながっている気がする」

「それってある種、DJっぽくもありますね。誰かを見て自分の行動に移すっていうのが、ベースにあるってことか」

「そう。立ち回りが上手いっていうのも人を見て行動することがベースにあるからだと思っていて、それも末っ子性。これは聞いた話なんだけど。末っ子が家族の中の不調和、『なんかギスギスしてるな』っていうのを感じ取って、和やかなキャラクターでそれを調和するっていう役回りになることが多いらしくて」

「ほお……」

 

「もちろん全部の兄弟姉妹がそうじゃないけど、そういうコミュニケーションを取ることが多いのは末っ子。末っ子って、愛されやすいじゃないですか」

「愛されキャラだから、調和をつくれる?」

「愛されキャラだから仲裁しやすい。特に3兄弟っていうのも一個ありますよね、たぶん。わからないですよ、僕なりの勝手な末っ子論です」

 

客席よりキッチンのほうが床が低い理由

「兄弟論・末っ子論が盛り上がり過ぎたので、お店自体の話を聞いてもよいですか?(笑)」

「はい、もちろんです」

「pegはキッチンの床の高さがちょっと変わってますよね。多くのお店は、お客さんと店主が同じ目線か、店主のほうがちょっと高いかだと思うんですけど。pegは僕たちのほうが高くて、ひろさんのほうが低くなっている。これも何か、コミュニケーションに影響しそうだなって感じたんですけど」

 

これは自分たちの黄金比でつくったんです。僕が所属していた東京のお店はお客さんと同じ高さだったんですけど。そこで、お客さんも自分もすごくエネルギーを消費することに気づいたんです。たぶん、お互いを意識しすぎちゃうから」

「なるほど」

「それでカウンターの高さとか、椅子の高さとかを妻とふたりでいろんなお店に行ってすごく研究したんです。座る高さと自分たちの高さがあって、ちょっと間合いをつくっているんですよ。だから実際の距離よりも、若干、遠くに人がいるように感じるんじゃないかな」

「なんかちょっと、ナチュールワインのお店とか、いわゆるちょっといいお店だと、店主の顔色とか気にしちゃうことってあるじゃないですか。正直、ひろさんのことは気にしたことなかったですね。ひろさんは、客やお店と一体化しているような印象」

「お客さんも自分もですけど、同じくらいのいいテンションでいられたらいいなと思ってますね」

 

「これは友人から聞いた話なんですけど。あるナチュールワインのお店の店主さんが言うに、同じカウンターの人々で分け合うアルコールって、基本的にワインしかないんだと」

「うんうん」

「だからワインは、その場でしか生まれないものを生む、最高のコミュニケーションツールということを話されていたんです」

「たしかに」

「ひろさんがワインというアルコールを選択して自分のお店を始めたこと自体もそうだし、pegにはマニュアルがないとか、予定調和にならない『裏切り』とか、全部がその場所・その時間でしか生まれないコミュニケーションにつながってるんだろうなってことを思いました」

「ペグンプは、ワインみたいなコミュニケーションツールっていう話でもありますね、それは」

 

流れ

「結局、なんで僕たちってpegに来ると毎度、『あー、楽しかった!』っていう感想しか残らないんでしょうね。こんなに魅力たっぷりなのに」

「ここまでの話で答えが出たんじゃない?」

「と、言いますと?」

「それは、ひろさんが、流れの人だから…

 

流れ!?!?

これは、坂口恭平さんの流れ論なんですよ」

 

 

「急に坂口恭平さん出てきた」

「坂口さんは、毎日毎日絵を描き続けていて、めちゃくちゃうまいんです。坂口さんにとって、描いた絵が他人にどう映るか、他者評価は関係ない。気にしない」

 

 

「ホントだ、『ただただ好きなこと』と言っていますね、坂口さん。キャリアを積み上げてもその都度、何かもっと楽しいことを優先してきたひろさんの経歴と重なる部分がここに!?」

自分で自分の流れを止めないってところが、共通しているんだよね。多くの人は他者評価の中で、自分のコンプレックスとか自信のなさとかで悩んで止めてしまうんだけど、ひろさんはそんなことは気にしないんだってこと。いや、僕の解釈ですよこれは」

 

「おもしろい」

 

「だから、僕らはこの場で編集視点を持って、この店の思想がどうこうって好き勝手に解釈をするんだけど。それもひろさんとしては、お客のひとつの流れにすぎない。結局は、ただ楽しく飲んで、うまいもん食って、くだらない話をして、『いやー、よかった、peg!』ってなる流れにされているという」

「ひろさん自身が流れの体現者だから、僕らの流れも見えてるんだなあ〜。ひろさんの手のひらの上で転がされているとも言える。舌の上で転がるワインのように。僕らの流れがよくなるように、ワインとか料理とか水とか、コミュニケーションを合わせてくれてたんだ、ひろさんは」

「たしかに、空気に任せるって大切だなって思ってます。そのときに一番流れに乗っていることで遊んだほうが、みんなが一番幸せになれるかな? というのはありますね」

「うんうん」

 

自分だけがいい思いをしようとすると、流れって悪くなるんですよね。でもみんなが楽しい、いい流れに乗ると、みんながすごく応援してくれる流れになるとかもそうだし」

「本当にこの取材自体、完全にそのスタイルでしたよね。ふつうはこうやっていろんな解釈をぶつけていると、『いや、それはそうじゃなくて』ってなるんですよね。僕らは、その否定によって正否を見定めているところもあって」

「それもあるなあ」

「でも一度もそうなってない。ひろさんが『違う、違う! そうじゃない!』って一度も言ってない。すべて、サーッと流れるように受け入れてもらった上で、的確に返答してくれている。お客さんとのコミュニケーションもたぶん一緒なんだと思う」

 

いい流れって、遊んでいる子どもみたいな状態のことなんですよね。みんなでワーっと楽しい思いをして、帰るだけ。で、情報が何も残ってないっていう」

「まさに今の僕たちのことじゃないですか!」

「あるいは、僕らが普段、如何に『情報から入っているか』ということも考えさせられますね」

「あー、なるほど。『これが間違いないからこの店に行け』『この店主の話を聞け』『これが間違いないから食え、飲め』みたいな」

「そう、そういった情報ばかりで動きすぎているから、pegみたいな遊んだ感覚にならずに、情報が残留する

遊びって、目的がないということでもありますよね。この店主に会いたいとか、このワインを飲みたいとかっていう目的がない。目的が生まれた瞬間に遊びじゃなくなるじゃないですか。遊びって本当に、ただその場が楽しいっていうそれだけなもので」

pegもペグンプもまさにそれ

「pegに来ると、子どものようないい流れで時間を過ごすことができて、そのいい流れとは突き詰めると、遊び。ひろさんはいつも遊びをつくってきたし、遊んできた。だからpegは、遊びを体現したお店ってことだ! ひろさん今日はありがとうございました、5時間も!」

「楽しんでもらえたなら、よかったです!(笑)」

 

おわりに

大好きなお店、pegに取材できてすごくうれしかったのに、ひろさんの話を深堀りするというよりは、勝手に解釈しまくってpegのすごさを勝手に解剖していく時間でした。

 

ペグンプを楽しんだのちに、ひろさんの手のひらの上で転がされていた僕らは、いつの間にか「解釈ゲーム」にのめり込んでいたんだと思います。

 

pegには、「いいワインを飲みに行く」じゃなくて、「遊びにいく」からめちゃくちゃ楽しい。「楽しかった!」という気持ちがただただ心に残る。僕はこの取材の最後の最後に、こんなふうに思いました。

 

「遊ぶことは、生きていくこと」

「遊んでいるように生きていこう!」

 

みんな、仕事ばっかしてないで、もっと遊ぼう!

 

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☆この記事はエリア特集「信州大探索」の記事です。