千葉で生まれた「ミネラルじいさん」の土掘り物語

2020.09.16

千葉で生まれた「ミネラルじいさん」の土掘り物語

千葉県八街市にある「エコファームアサノ」の浅野悦男さんは、日本では珍しい西洋野菜やハーブを育てる農家。『プロフェッショナル』『情熱大陸』でも取材され、有名レストランのシェフたちが浅野さんの野菜を求めて畑を訪れています。”海賊シェフ” 鳥羽周作さんや“マッドサイエンティスト農家”山澤清さんとも親交のある浅野さんに、話を聞きました。

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    こんにちは、ライターの友光だんごです。この春からベランダで家庭菜園をはじめました。

    といっても、東京のアパートなのでベランダも小さくて。ジモコロでローカルを取材し続けていますが、旅先で見る土に比べて、なかなかどうして……

     

    ……………

     

    ちっぽけだな………………

     

    こんなんじゃ足りない………………………

     

    土…………

     

    そうして小さなベランダで途方に暮れていると、どこからかあの人の声が聞こえてくるんです。

     

     

     

    聞こえる。

     

     

    千葉で生まれた“ミネラルじいさん”こと、浅野さんの声が。

     

    いやもう「は? 土?」となっちゃいますよね。すみません。でも、もう少しだけ聞いてください。今年で76歳になる浅野悦男(あさの・えつお)さん、知る人ぞ知る、すごい農家さんなんです。

     

    どうすごいかをざっくりまとめると……

    ・有名レストランのシェフたちが、浅野さんの野菜を求めて全国から訪ねてくる

    ・日本では珍しい西洋野菜を千葉の畑で栽培

    ・農協などの既存流通に頼らず、“顔が見える”ネットワークのみで野菜を売る

    ・『プロフェッショナル』『情熱大陸』など、様々なメディアで取り上げられる

     

    『プロフェッショナル』と『情熱大陸』の両方で特集されてる人、なかなかいなくないですか? 

     

    どこで浅野さんを知ったかというと、あちこちから「千葉にヤバい農家さんがいる。会いに行ったほうがいい」とタレコミをいただいたんです。声の一部を紹介しますね。

     

    浅野さんには店をオープンする時に会いに行って。「エロい料理を作れ」と教わったんです。フェロモンが出てる料理を作れと

    ”海賊シェフ” 鳥羽周作さん

     

    軒並み有名レストランが「浅野さんの野菜を使いたい」と言って取引してます。野菜の質はもちろん、ご本人のパワーが一番の魅力ですね

    六本木ブリコラージュ ブレッド&カンパニー・シェフ 藤井匠さん 

     

    浅野さんは変人協会の会長! 俺が副会長なんだ

    “マッドサイエンティスト農家”山澤清さん

     

    とにかく「なんかヤバそう」の一点は理解いただけたかと思います。

     

    さて、そろそろ浅野さんのインタビューをお届けしますね。読み終えた時には「土を作るなんて、おこがましい」の意味もきっとわかるはず。

    浅野さんの言葉には、この不安定な世の中で生きていくために必要なことが、きっと詰まっていますから。

     

    「お金は後からついてくるんだよ」

    時はさかのぼり、2020年3月。僕は千葉の八街(やちまた)市にある畑に来ていました。ここが「エコファームアサノ」。浅野さんの畑です。

     

    しかしなんだか、あまり見たことない野菜ばかりある畑だ。何の野菜だろう?

     

    「キオッジャ」って何だ?

     

    なんてキョロキョロしていると、農作業中の人の姿が見えました。あの人が噂の!

     

    「こんにちはー!」

    「ああ、こんにちは。よくいらっしゃいました」

     

    「(ファンキーな格好をしていらっしゃる)」

    「今日はどうしたの」

    「千葉の浅野さんがすごい、という話を聞きまして。ぜひお会いしたくて来たんです」

    「そう。まず野菜、食べるかい?」

    「いいんですか。その紫の野菜、さっき見て気になってました」

    「食べりゃわかるよ」

     

    「ほら、どうぞ」

    「豪快に葉っぱをむしってくれた。ではいただきますね………」

     

    「おおっっっ!!!」

     

    「どうだい?」

    「これは……白菜ですね! みずみずしくて、とても甘い。紫色の白菜があったとは知りませんでした」

    「サラダにしたらおいしいよ。たしかに、スーパーや八百屋ではあんまり売ってないかもね。うちは日本で珍しい西洋野菜やハーブを作ってるんだ

    「というと、農協を通して卸して……」

    「いや、レストランに直接売ってる。他にはない野菜を作ってると、色んなシェフが訪ねてくるんだ。みんなが食べたいと思うものを作るのよ。そしたらマーケットには出さずに、直接食べる人に渡す。その代替でお金をもらえばいいじゃん」

    「ほほう……?」

    「よく言うんだけどね、野菜もアートなんだよ。普通の農家はそんな意識でやらないけれど、お金は後からついてくるんだから。人よりいいもの、他にないものを作ればいいだけなんだよ」

    「ちょ、ちょっと色々気になるので、座ってお話ししていいですか」

    「うん、じゃあ事務所に行きましょうか」

     

    マッドサイエンティスト農家と「変人協会」を結成

    「………………」

    「どうした、お腹痛いの?」

    「いえ、圧倒されちゃって。浅野さんの事務所、すごいですね。壁一面に写真が」

     

    「ああ、いろんな人が訪ねてくるからね、写真を飾ってるの。うちで修行してた子たちとの写真もあるな」

    「いやあ、壁の圧がすごいです。それに、後ろのヌードカレンダーが気になっちゃって。ああいうの久しぶりに見ました」

     

    浅野さんの背後に、もう1枚ありました ※モザイク加工しています

     

    「ああ、あれはね、俺の元気の素なんだよ。毎年正月に送ってくれるの」

    「元気の素。まあ、生命の源というか……?」

    「そうだね、うちの人参も見てよ」

     

    「これは(笑)! ジモコロ的にギリギリですね、たぶん」

    「こういう形で土に埋まってたんだ。いいでしょう? 人間、欲ってもんはいくつになっても必要なの。三大欲求の中でも、そういう欲さえ持ってれば老けない」

    「つまり、性欲ですね」

    「触ったりとか、いやらしいもんじゃないよ? 欲に溺れて、自然ではない状態になってはダメ」

    「なるほど。あの、僕がジモコロで前に取材した農家さんも『欲』の話をされていて。しかも浅野さんにめちゃくちゃ似てるんですよね」

     

    20万平米の農場で野菜やハーブを栽培し、大企業の研究所にも招かれる一方、ポールダンスで乳首を上げる計画も語る山澤さん。ジモコロでは勝手に「マッドサイエンティスト農家」と呼ばせていただいている

     

    「山形の山澤清さんって方なんですが……」

    「ああ、山澤くんね! 知ってるよ」

    「知ってた!」

     

    『日本変人協会』の初代会長が俺で、次期会長が山澤くん。『兄弟ですか?』ってよく言われるな」

    「ほんとに似てます……。というか『日本変人協会』とは???」

    「山形の鶴岡に『アル・ケッチァーノ』って有名なイタリアンがあるでしょう。そのシェフの奥田くんに紹介されて、山形で会ったの。それで意気投合してね。会ったのは一回きりだけど

    「めちゃくちゃ意気投合したんですね」

    「10年以上前、まだ奥田くんも有名じゃなかった頃だなあ。俺も山澤くんも農家としては変なことばかりしてるからね」

    「変なこと、ですか」

    「ガキの頃からそうだもん。人と同じことをやるのはあんまり好きじゃない

    「それでこの千葉で畑を?」

    「畑は昔からだな。浅野家が代々、ここで農家をやってっから。両親は落花生と麦を作ってたのよ。でもさ、それじゃ1年で2回しかお金が入ってこない。夏に麦を売って、秋に落花生を売るんだけど、麦は安いし、なかなか割りに合わないよな」

    「じゃあ、お金になる野菜を作ろうと、珍しい西洋野菜を……」

     

    「ううん、違うよ! 実はさ、『これが金になる』なんて野菜はないんだよ。何を作るかがじゃなくて、人よりいいものを作るのが大事ってこと」

    「というと……?」

    「仕事の成果を出したら、そのぶんたくさん報酬をもらえたほうがいいじゃん。日本も最近、やっとそういう会社が増えてきたけど」

    「年功序列で給料が決まるんじゃなく、成果報酬みたいな」

    「そうそう。農家もそれと一緒だよ。せっかく汗水垂らしていい野菜を作ったのに、既存の流通にのせるときに『玉ねぎはキロ○円』って決められちゃうのはおかしいと思う。だから俺は自分で販路を作って、自分で値段を付けて売りはじめたのよ」

     

    2.5haの畑で、年間200種類の野菜やハーブ、食用花を栽培。毎年、新しい品種にチャレンジしているそう

     

    「皿の上」を想像して、野菜をつくる

    「既存の流通を使わず、自分たちで販路を作るには『人よりいいものを作る』のが大事なわけですよね。そのために、浅野さんは何か意識してますか?」

    例えば『色』は意識してるかな

    「色、ですか?」

    「俺は食用の花も作ってるの。ミニ金魚草ってのがあるんだけど、色んな色を作っておくのよ。それで、レストランに卸す時にシェフに言ったの。『グラスに一輪ずつ入れておいて、乾杯の前にシャンパンを注いでみな。その時に、お客さんの服と金魚草の色を合わせておくようにね』って」

    「そうすると……?」

    「シャンパンと一緒に、自分の服の色をした金魚草が浮いてくるのよ」

    「めちゃくちゃ粋な演出ですね!」

     

    「それでみんな嬉しがるでしょう。普通の料理でも、『色』はすごく重要なの。だから毎年、春にはパリコレやミラノコレクションの新作をチェックして、トレンドの色は何か知っておく。その色に合わせて野菜を作ってるんだ」

    「そこまで『料理に使われること』を意識されている……」

     

    野菜に付加価値をつけるのはシェフ。シェフが欲しがれば、野菜の値段も上がっていくからね。『皿の上』を想像して、野菜を作ってるんだよ」

    「なるほどな〜〜〜〜」

    「食べること自体、他者を体内に入れるって意味でセックスと同じだから。料理もフェロモンが出るような、エロさが大事だよね」

    「それ、聞いたことあるな……そうだ! ジモコロで取材した鳥羽さんが言ってたんでした」

    街で噂の海賊シェフ「鳥羽周作」は、料理業界に革命を起こす

     

    鳥羽周作くん? 自分の店をオープンするときに会いにきたよ。そのときに同じ話をしたかなあ」

    「また知ってた! 鳥羽さんもジモコロで『海賊シェフ』ってニックネームをつけさせていただいて。その後、すごく活躍されてますね」

    「Facebookで見てるよ。にぎわってるね」

    「Facebookも見られてるんですね。そういえば浅野さん、腕につけてるのはApple Watchじゃないですか?」

     

    「うん、これは血圧測るのに使ってる。FacebookはiPadだね。うちへ研修に来てたやつに設定してもらったんだ。シェフと注文のやりとりをメールでやったり、あとはメッセンジャーとかね」

    「いろいろ今風ですね。ファッションもかっこいいなと思ってました」

     

    胸元には鹿の角のネックレス。Tシャツは畑でイベントをやった際に作ったものだそう

     

    「農家だって舐められたくないからね。さっきも言ったけど、野菜作りだってアートなんだから。そういう意識が大事だよね」

    「レストランの料理も、食材を切って調理して、繊細に組み合わせてるじゃないですか。あれもまさにアートですよね」

    「料理もアートだね。でもさ、野菜ってのは切った瞬間からまずくなるんだよ。だったら丸ごと食べるのが一番いいよ」

     

    「え、野菜を切ると味が落ちちゃう?」

    「そうだよ。なのにわざわざ大きい野菜を作って、細かく刻んでるんだから。品種改良して味や香りを弱くして……ミネラルも乏しくなってるよ。本来、人間に必要なのはミネラルなんだから」

    「ああ、栄養は大事ですよね……」

    「いいや、ミネラルと栄養は違うの。栄養なんていらないよ」

     

    「大事なのはミネラルなんだよ」

     

    「????????」

     

    「栄養じゃない、ミネラルが大事」浅野さんの言葉の意味とは?

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    友光だんご
    友光だんご

    編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。犬とビールを見ると駆けだす。

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