「移動」って一体なんなんだ!? 散歩と銭湯で“自分を取り戻せる”深〜い理由

2021.12.15

「移動」って一体なんなんだ!? 散歩と銭湯で“自分を取り戻せる”深〜い理由

コロナをきっかけに気になり始めた「移動」について、『歩く人。長生きするには理由がある』の著者でもある帝京大学の佐藤真治先生と、歩くと楽しい街・高円寺にある銭湯「小杉湯」の平松佑介さんと一緒に考えてみました。

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    こんにちは、編集者の徳谷柿次郎です。

     

    最近「移動」が減ってませんか?

    コロナでリモートワークになり、出社や通学がなくなったり、人と会うための外出が減ったり。最近、家に引きこもりがちだな、以前に比べて歩いてないなという人も多いのでは。

     

    逆に僕は仕事柄、人に比べてめちゃくちゃ移動しています。

    もちろんコロナ禍で出張も減りましたが、それでも取材のために全国各地を回っていて。車や飛行機、新幹線で移動しまくっていると、自分がわからなくなる瞬間があるんです。

     

    いっぽうでオンラインのMTGも増え、日に4~5件もZoomの予定が入り、一日中家のPCの前にいる……なんてことも。そんな風に動かなさすぎても、それはそれでキツくて気が狂いそうにもなる。

     

    しすぎると大変だけど、しなくても辛い。「移動」って一体なんなんだ????

     

    そんな疑問を抱えて、とある方達と話すことになりました。

     

    1人は生理学の観点から「歩く」を研究し、『歩く人。長生きするには理由がある』の著者でもある帝京大学の佐藤真治先生。

    もう1人は88年続く高円寺の銭湯「小杉湯」の三代目・平松佑介さん。高円寺は以前から、妙に歩くと楽しい街だなと感じていて。しかも平松さんは散歩好きらしいんです。

     

    そんな2人と話した結果、こんなトピックが飛び出しました。

    ・人間は食べるために歩き、エネルギーを生み出すことで、体がバラバラにならないよう維持している

    ・動物は歩くことによって、自分の生きている世界のイメージを構築する

    ・車や電車で高速移動するのは効率的だが、人間が本来持っている認知をゆがめてしまう

    ・高円寺は理想的なWalkable Cityである

    ・散歩と銭湯は、「自分が自分である感覚」を取り戻してくれる

     

    「???」な言葉もありますが、とにかく「移動」の世界は果てしなく深く、めちゃくちゃ面白かったんです。われわれの人生を豊かにする「移動」についての話をお届けします!

     

    【話を聞いた人】

    佐藤真治
    帝京大学医療技術学部教授。日本臨床運動療法学会 Exercise Is Medicine (EIM) Japan 理事。生理学に基づいた運動処方や、医療・介護サービスの地域連携に関する研究を行っている。著書に『歩く人。長生きするには理由がある』がある。

    平松佑介
    1980年、東京生まれ。昭和8年に創業し、国登録有形文化財に指定された老舗銭湯「小杉湯」の三代目。
空き家アパートを活用した「銭湯ぐらし」、オンラインサロン「銭湯再興プロジェクト」など、銭湯を基点にした繋がり、また、さまざまな企業や団体とコラボレーションした独自の企画を生み出している。2020年3月に複合施設『小杉湯となり』、2021年春には『小杉湯となり-はなれ』がオープン。

    体がバラバラにならないように、人間は移動している

    「コロナを機に、歩くことが減った人が多いと思うんです。仕事によっては家の中でできちゃうし、なかなか外に出づらいし……。佐藤先生、そもそも人ってなんのために歩くんでしょうか?」

     

    人間が歩くのは、エネルギーを生み出すためなんですよ」

    「生み出す?」

    「体を動かすから、逆にエネルギーは減っちゃいそうですね」

    「全てのものにはエネルギーが流れているんだけど、ぼくたちは歩くことを通じてエネルギーを交換しあい、地球の秩序を保っているんです」

    「……先生、SFの話かなにかですか?」

    「現実の話です(笑)。ちょっとだけ僕の専門分野の話をしますね。生理学的にいうと、人間の体はエネルギーがないとバラバラに飛び散っちゃうんです

     

    「バラバラに……!」

    「人間の体は60〜80兆個の細胞からできていて、常にものすごい速さでつくられては壊されている。この時、細胞にはバラバラになろうとする『熱力学第二法則』が働いているんです」

    「なにそれこわい」

    この熱力学第二法則に逆らって、約60兆個の細胞が秩序を維持するために、僕たちの体にはエネルギーが必要なんです」

    「細胞が常にバラバラになろうとしてるの、やばいですね」

    「でも、そうならないための『エネルギー』って何なんですか? 根性?」

    「違います。そのエネルギーは『食事』によって生み出されています。だから、『人はなんのために歩くのか?』という問いへの一番の答えは、『食べるため』になる。歩いて移動しないと、食事にありつけないじゃないですか」

    「移動しないと食べられない。つまり人は食べるために移動している……禅問答みたいですね」

    「僕たちはエネルギーを生み出すために食べなければならず、そのために歩くんです。動物は1日に移動する距離が決まっていて、人間は2km(約30分)以上歩くようにできています

    「ということは、歩かずに食事できちゃう状況って生き物としてはあんまりよくないんですか?」

    「そうですね。エネルギーとは、単に体を動かすためのパワーだけを指すんじゃなく、『流れ』や『秩序』をもたらすものでもあるんです」

    「なるほど?」

    人が移動すると、まちに『流れ』が生まれる。すると、まちとしての『秩序』も保たれるんですね

     

    移動すると、誰かとの思わぬ出会いも生まれる

     

    「先生の言うエネルギーが、ぼんやりと理解できてきたかもしれません。つまりコロナで外に出れない生活がつらいのは、いままで人が出歩くことで生まれていた『流れ』が無くなったから?

    「そうですね。街が人で活気づいている状態は、エネルギーが流れているということ。誰も外を出歩かない街で、エネルギーが流れない生活を過ごしていると、そりゃあ鬱々としますよね」

    「人間が歩くことで本来得られたはずの身体エネルギーを失うだけでなく、街もエネルギーを失ってしまう。だから歩かないとダメなのか……!」

     

    「歩く」に適したウォーカブルシティ高円寺

    昭和8年に創業した高円寺の銭湯「小杉湯」

     

    「そういえば『小杉湯』のある高円寺って、歩いてる人が多いですよね」

    高円寺って歩くのにちょうどいい街なんですよね。歩いて30分でどこへでも行けるサイズ感ですし、路地が入り組んでいるから、自転車ですら走りづらい」

    「駅の南北に商店街が走っていて、路地も含めて魅力的なお店がたくさんありますよね。ぶらぶら歩いてまわるのに、すごく楽しいなと」

    高円寺は理想的なWalkable Cityだよね」

    「ウォーカブルシティ!『歩きやすい街』ってことですかね」

    「そうそう、そこにはからくりがあって。人間は2kmを移動するようにできているけど、高円寺の街のサイズはちょうど半径2kmぐらいに収まっているんです」

    「人間の生き物としての感覚的にも歩きやすいわけですね」

    「歩くのにちょうどいいからこそ、高円寺の街には活気が溢れているんだろうね」

     

    「あと高円寺は、自分の生き方を持っている人が多い街だなあと思います」

    「たしかに。先日『アメトーーク!』で高円寺大好き芸人の特集を観たんですが、個性的な人がとにかく多いと話してました(笑)。街には古着屋、ライブハウス、安い居酒屋とか、小さな個人店もたくさんある。みんながやりたいように生きている感じがしますよね」

    「高円寺という街は、戦後の焼け野原に生まれたんです。みんなが混乱して無秩序状態だった間に、個人が思いのまま好き勝手に街をつくった。その歴史がいまでも受け継がれているんですよね」

    「つまり、高円寺は行政側の都市計画みたいなものが起点ではなくて、『こんなことをやりたい』という個人の想いが集まって街が生まれているわけですね」

    「トップダウンではなく、ボトムアップで生まれてる街だと言えますよね」

    「個人の想いからボトムアップで生まれた街は、路地が入り組んでいて、生命的なつくりが多い。あと、徒歩の移動がちょうどいいと感じられる、広さや距離感、密度になっている。高円寺を歩くと知り合いとすれ違うし、偶然の出会いがあるんだよね」

     

    撮影:小林直博

     

    「アメリカのポートランドや、日本だと京都でも同じことを感じますね。歩いて30分以内でご飯を食べに行けて、お喋りできるカフェがたくさんある。ポートランドにはNIKEやWieden+Kennedyのオフィスがありますが、『クリエイティビティを求める企業は、歩きに適した街に拠点を置きたがる』のは面白いですね」

     

    散歩と銭湯が生み出す「コモンズ」

    「そういえば、散歩と銭湯はよく似ているんです。散歩も銭湯もコミュニティではなく、コモンズなんだよね」

    「コモンズって初めて聞いたんですが、どういう意味ですか?」

    「簡単に言えば、『何も話していなくても、つながり合って心地よい感覚や、なにかを共有している一体感が得られている状態』かな」

    「たしかに、銭湯には『一人だけど一人じゃない』感覚がありますね。最近小杉湯に来る人の中には、中距離の程よい関係性を求めている若い人も多くて」

    「ああ〜、お風呂で隣の人が黙って気持ちよさそうにしていると、直接話はしなくても、同じ気持ちよさを共有できている気がして居心地がいい……みたいな感じですかね」

     

    「おっしゃるとおり。人間にはミラーリングという、他人の動きと自分の動きを自然に同調させる脳の働きがある。ふたり以上で一緒に散歩すると、散歩の歩幅やリズムが合って、呼吸も揃っていく。これはミラーリングの働きですね」

    「銭湯でも、お客さん同士がミラーリングしあっているということですか?」

    「そうそう。たとえば誰かがルールを決めなくても勝手にマナーが生まれて、みんなが同じような動作をしているよね。タオルを湯船に入れないように気をつけたり、腰に手を回して牛乳を飲んだりとか」

    「小杉湯でも同じ湯を共有して、常連さんの動きを見ながら、新しいお客さんが銭湯での正しい振る舞いを学んでいる部分はあるのかも。つまり、ミラーリングをすることで、お風呂の秩序が保たれている

     

    「よく考えれば、知らない人とお風呂に入るってけっこう怖いことなんだよね」

    「たしかに。みな無防備な状態で油断しまくった状態……」

    「それが成り立ってるのは、実はすごいことなんです。会話が交わされているわけではないけど、不思議な一体感がある」

    「だからこそ、偶然の出会いが起きやすいのかもしれませんね。ミラーリングが生む無意識下の親近感があるから。小杉湯でも、常連さん同士が仲よくなったりすることも多くて」

    「言い方を変えれば、銭湯は自分を内省する『プライベート』な空間であり、他人と関わる『セミパブリック』な空間でもあるんじゃないかな」

    「銭湯に来るのは一人だけど、見知らぬ他人と空間を共有することで、心地よい感覚や一体感を得ることができる」

    「まさに。ここでもエネルギーが流れているんですよね。その点において、銭湯と歩くことは似ているんじゃないかなと」

     

    「最近、小杉湯に集まる人を見ていると、日々の暮らしや自分が生きていることが『自分ごと』に感じられなくて、寂しがっている人が多いと思うんです」

    「自分の人生が『自分ごと』化しない……。高円寺の街がボトムアップで成り立ってきたのとは対照的ですよね」

    「住んでいる街に愛着が持てないと、家は仕事するだけ、寝るだけの場所になるんですね。すると、会社と家を往復するだけの生活になり、いつの間にか『これが私の人生なの?』と納得感がなくなってしまう」

    「でも、小杉湯って本当に愛されてますよね。エネルギーが流れている空間で、若い人たちは元気を取り戻していく?

    「そうなんです。面白いのは、みんないつの間にかただの『お客さん』ではなく、小杉湯の秩序を身につけていくことですね。掃除をはじめたり、タオルを片付けてくれたり、汚れをきれいにしてくれたり……。小杉湯が自分ごとになって、高円寺が自分ごとになっていく。すると、いつの間にか寂しさが消えていってるんです」

    「ひとつの時間や空間を他者と共有するなかで、自分の中にエネルギーが流れていく。歩くことや、銭湯に入ることで、自分の人生を『自分ごと』にできるキッカケになるんですね」

     

    プロセスへの意識が、脳内世界や時間感覚を培う

     

    「ここまで歩くことを中心に話してきたのですが、個人的な相談をしてもいいでしょうか?」

    「どうぞどうぞ」

    「僕は国内をめちゃくちゃ移動している身なんですが、移動しすぎて自分のことがわからなくなりやすいんですよ。『自分ってなんだろう』って、移動するほど考える機会が増えるし、旅先で刺激を受けすぎて、自分の枠組みも常に変わってしまう」

    「それは、昨日の自分と今日の自分がつながっている実感がなくなっている……って感覚じゃないですか?」

    「あ、それです! 新幹線や飛行機で移動を繰り返してると、本当に自分が自分じゃなくなる感覚に襲われるんですよね」

     

    撮影:藤原 慶

     

    「人間の脳はプロセス重視で、ストーリーを作りたがるんですね。それは、人間の身体が移ろいやすいからです。柿次郎さんは、『昨日の自分は今日の自分と同じだ』という感覚を担保してくれる、脳が作り出す物語が移動によって失われているんです」

    「高速で点から点へ移動すると、その間のストーリーが抜け落ちるから、自分が自分であるのかすら曖昧になってしまう?」

    「そうなんです。ここでも大事なのは、歩くことです」

    「ふむふむ」

     

    撮影:藤原 慶

     

    「動物はものを見る時に、体全体でそれが何かを理解しているんですね。五感のセンサーがフル稼働して、景色や足の凸凹の違いから情報収集し、視覚から得た情報と統合している。僕たちが見て感じている世界は、歩くプロセスを通して、脳内に世界のモデルを作り上げることでできている

    「歩くスピードで、脳が世界を認識している。つまり、僕は早く動きすぎていたから認識が追いつかなくなっていた???」

    「その通り。世界のモデルをゆっくり構築するプロセスが大事なのに、目的思考だけで高速移動しつづけると、自分の身体が今どこにあるのか実感できなくなる。そして、喪失感が生まれる……ということですかね」

    「なるほどー! 生き物としての体が耐えきれないスピードで移動しちゃってたのか……『自分がわからなくなる』は本能的な体の悲鳴だったんだなあ」

    「でも、柿次郎さんは取材の時にはあえて自分の足で歩くよう心がけているんですよね?」

    「そうですね。そういえば、取材の時だけは時間が濃密でリアルな感覚がします」

    「五感を研ぎ澄まして、微細なシグナルを無意識的に得ようとする、プロセスに集中できている状態だからですね」

     

    「これまで何となく感じていたことがすべて繋がって、めちゃくちゃ感動してます……移動ってすごい!」

    「けっこう難しい話なんですが、こんなに共感してくれて嬉しいです(笑)」

    「あと、移動って目的が達成されないとストレスを感じるじゃないですか。『配達、10分も遅れてきてる!』みたいな。でも、そもそも自分が歩いてご飯を食べにいけば、気持ちよく過ごせますよね。もしかしてプロセスを意識すると、イライラしなくなる……?」

    「それはすごくありますね。海外を飛び回るビジネスマンはすごく移動しているぶん、イライラすることも多いと思いますよ」

    「つまり、移動によって人が感じる時間の尺度が全然違うということ?」

    「たとえば、いつも銭湯にいる平松さんがイライラしてるところを見たことがなくて。僕たちみたいなイライラする人間は、『1年後どうしよう』とか考えますが、平松さんは、勝手に時間を区切っていない」

    「まあ、100年後まで小杉湯を残すにはどうしよう、みたいなことをいつも考えてはいます(笑)」

    「すごく長い時間軸で思考してるんですよね。だから毎日、高円寺まで1時間かけて歩くぐらい、プロセスを楽しむ余裕があるんだと思います」

    「たとえば、平日は都会で忙しく仕事して、週末は弾丸旅行で観光する。そんな生活は効率的で楽しいかもしれないけど、どんどん時間を感じるスピードが早くなって、毎日『時間がない』とイライラしはじめてしまう?」

    「そうそう。だから『どこで何をしたか』ではなく、『どうやってそこに辿り着くか』のプロセスを楽しむと、あとで思い返した時に時間を長く感じられるんです。そのためには、やっぱり歩くことが大事です」

    「日々を忙しく過ごしていると、歩く余裕はなかなか生まれない。だけど、そこをあえて歩くように心がけると、四季の移り変わりや、身近な音や匂いを楽しむ余裕が生まれる。その積み重ねが、『自分が自分である』感覚を取り戻してくれる」

     

    「そのとおりです。だから、みんな毎日歩く時間をつくりましょうね」

    「僕ももっと歩きます!!!」

     

    おわりに

    ここまで「移動ってなんだろう?」を考えてきましたが、「歩く」を考えるだけで、視界がグッと広がり、今まで見えていなかった全体像が見えてくるのは面白いですね。

     

    エネルギーや、健康や、セレンディピティを求めて人は歩く。銭湯にいく。そこにコモンズが生まれる。そして効率よく移動することにこだわらず、歩くプロセスを楽しむことで、人間の身体に良い作用が働く。

     

    最近では、自分が1日どこを移動したか記録できるアプリもあります。夜に1日の移動記録を見ることで、過去と現在を貫く、自分という存在を確認できる。

     

    この日々の簡単な振り返りが、自分の人生が「自分ごと」である感覚を取り戻してくれるかもしれないですね。

     

    構成:石田哲大

    イラスト:ヤマグチナナコ

    協力:人と移動を考える『I:DO』

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    この記事を書いた人

    徳谷柿次郎
    徳谷柿次郎

    ジモコロ編集長。大阪出身。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。

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