「遊び」が、自分の内面を解放してくれる

「いやもう、盛りだくさんすぎるツアーで頭がパンパンです。ここまでで紹介したのも行程の一部なので」

「せっかく来ていただいたので、郡上の源流をできるだけ体験してほしくて。どうでしたか?」

「最初は水に入るのが怖かったけど、だんだん楽しくなっていきましたね。それで『泳げない』って呪いを自分にかけてたのかも? と思いました」

「ほうほう」

「クロールの息継ぎができない、みたいなレベルなので、いっさい水に入れないわけじゃないんですよね。でも『自分は泳げない、だから水にも入りたくない』って思い込んできた結果、その機会をどんどん遠ざけてたのかもなって」

「その結果、さらに水が怖くなっていた」

「はい。でも今は『泳げるようになりたい』って思ってますもん」

「おお、いいですね! 同じように過去に挫折体験があって、『蓋を閉じてる』人って意外と多いんじゃないかと思います。そういう人が郡上に来て、ガバッと蓋が開くケースが結構あるんですよ。僕もそうですし」

「岡野さんも?」

 

「僕は小学校で水泳をやってたんですけど、日本の体育教育って基本、競わせるじゃないですか。それで『これ以上先には行けない、勝てない』って壁にあたり、辞めちゃったんです。でも社会人になってメンタルの調子を崩して、自分の調子を整える方法を探していたときに、とある水泳のコーチに出会ったんですよね」

「ふむふむ」

「そこでは、いかに速く泳ぐか、ではなく、ゆったりリラックスして、なめらかに泳ぐ『TI理論』という泳法を教わったんです。それがまさに、『水に溶け合うように泳ぐ』ことで」

「溶け合うって、旅の中でちょこちょこ出てくるワードなような」

「そう、そこで『水と溶け合うってこんなに気持ちいいんだ』と気づいた。それって、競技としての水泳じゃなく、遊びとしての水泳に出会ったということだと思うんです」

 

「順位やタイムを競うために泳ぐんじゃなく、気持ちいいように泳ぐ。たしかに後者は『遊び』ですね」

「そしたら、また水泳が楽しくなったし、水に入ること自体が楽しくなった。その後、郡上の源流に心も身体も奪われて、移住までしちゃいました」

「もっと気持ちいい水の体験を求めて?」

「もっと川の感じを確かめたい、溶け合いたいと思ったんですよね。自分の内面の感覚に従ったというか。この郡上には、そんな風に内面の感覚に忠実な人が多いような気がします」

「どういうことでしょう」

 

「僕は広告会社で働きながら、一般社団法人も経営しています。東京でそう自己紹介すると話が広がるかもしれないけど、郡上で同じ風に名乗っても『よくわからん』となる(笑)。それよりも『ちゃんと腹からしゃべってるか』、もっと言うと『ちゃんと遊べているか』がよく問われてる気がするんですよね」」

「社会的な肩書きとかより、岡野さん自身がどんな人間か、を重視されるってことですか?」

「そうですね。1ヶ月前からホラ貝を家で練習しはじめたんですけど、その音を聞いた近所のお母さんが『岡野さん、そんなこともできるのね! 今度こんな催しがあるんだけど、そこで吹かない?』って話しかけてくれたんです。大して上手くもないんですよ?」

「ホラ貝きっかけで、ご近所さんからそんなオファーが」

『東京から来た岡野さん』じゃなく、『ホラ貝を吹くのが好きな岡野さん』のほうが地元の人と接点が生まれるんですね。ホラ貝も大事な『遊び』のひとつってことか」

「『遊んでるか』が大事にされるのは、子どもも同じような気がしますね」

「昨日、そういえばユルさんも言ってました! 学校の成績がよくなくても、鮎をめっちゃ獲るとか、飛び込みが上手とか、唄が上手とかでヒーローになる可能性が沢山あると」

「その人の個性を一番重視してるとも言えるし、踊りにも繋がる気がする! 昨晩、地元の踊りに参加したんですけど、上手い下手とかより、各々が好きに踊ってる印象で」

 

「他人を気にするんじゃなく、好きに踊ってる感じがあったかも」

「今回のツアーで、ずっと『無理しないで』『やりたいことをやって』と言ってたじゃないですか。あれも、もしかして自ら遊びだすことを大事にしてたってこと?」

「そうです。やらされるんじゃなく、自分がやりたいタイミングがくるまで待つ

「『開く』待ちされてた。気づかなかった」

踊りも川も、自分を開いて、遊ぶための装置ですよね。昔から遊びがあって、そこに惹かれた人たちが集まってきてるから、他者の『開く』瞬間にも敏感なんじゃないかな」

「自分を開いて、解放できる土地。それが郡上……」

 

見よう見まねで踊ろうとする柿次郎。他人を気にしていると、開くまではやや遠い?

 

郡上の自然は「激しいから優しい」?

「ちょっと僕の仮説の話をしていいですか。郡上の川って『激しいから優しい』と思ったんですよね」

「激しいから優しい?」

 

「ときには増水して災害にもなる激しさがあるけど、身を委ねたら、プカンと浮かせて包み込んでくれる優しさもある。自然って大体そうだけど、特に郡上の川はそこが特徴的な気がしてて。平水時も流れがかなり激しいし」

「沢登りをしてても『ここは危険』って場所があちこちありましたね。だいぶ激しかった」

「川の中でも、実は子どもや初心者が入れる場所のほうが少ないんです。僕自身、郡上の川の圧というか激しさに慣れて、他の土地の川に行くと物足りないですもん」

「その激しさと優しさって、裏表だと思うんよね。夜イカリも両方なかった?」

「夜の川だからそもそも危険だし、ユルさんも狩猟民族の顔になってるし(笑)。激しさはありましたね」

「でも、やっぱり自分たちなりに考えて、川での歩き方を覚えて、魚を見つけた時ってめちゃくちゃ嬉しかったやん。優しく手取り足取り教えてもらってたら、あんなに喜べなかった気がするんよね」

 

自分で考えて獲ったからこそ、この表情?

 

「あ〜、自分たちで試行錯誤して正解に辿り着いたほうが、喜びが大きい。『激しいから優しい』って、『厳しさは優しさの裏返し』みたいなことですね。教育の話にも聞こえてきた」

「昨日ユルさんが案内したと思いますが、郡上八幡の橋には、『不慣れな方の無謀な飛び込みは自粛を』と注意書きがあるんです」

『禁止』じゃなく『自粛』って書いてありましたね」

 

「禁止しちゃったほうが安心なような」

「誰だって自分の子どもには怪我してほしくない。でも、限界ギリギリに挑戦して、乗り越えたときに人間が一番成長するのを皆知ってるから、その成長領域を大人が消さないためにあえて『自粛』と書く」

「大人がグッと堪えて、子どもの成長を願っている……」

「今年の夏にうちも6歳の長男が3mくらいの岩から初めて飛んだ時、雄たけびをあげたんですよ。あれを見たときはなんかぐっとくるものがありましたね。ああいう場面を見てしまうと僕もホロリときそうになっちゃいました」

 

「春樹さんがお父さんの顔になっている」

郡上って、激しいからこそ、生き物としての元々の強さを引き出してくれる土地なのかもしれないですね。子どもたちが川で遊ぶ力も、元々持ってるものじゃないですか。自然に近い郡上みたいな土地で生きるなら、生き物本来の力が問われる気がするなあ」

「僕は10年くらい都会で生きてて、だいぶ衰えてる気がします。生き物本来の力」

「実際、だんごさんが引っ越したのも『都会から離れたい、自然に近づきたい』ってモードなんですか?」

 

「あるっちゃあるんですけど、すごく切実ではないです。そこも含めて、やっと『どういう場所で生きていこう?』ってテーマに頭が向きはじめた段階ですかね」

「だとしたら、今回の旅で『開いた』結果どうなるか、めちゃ気になるな」

「そうなんですよね。気づいてなかった欲求が自分の中にもっとありそうで。その内なる欲求に向き合っていくと、『こう生きたい』も変化していく気がしてます

「僕も郡上に移住するまで、こんなに川好きになると思わなかったですしね。ホラ貝も吹いてないでしょうし」

 

取材中も、おもむろに川へ飛び込む岡野さん。ちなみにホラ貝は山伏の方をツアーに招いた時、吹いている姿を見て「やりたい!」と思ったそう

 

「まだまだ郡上の『遊び』のほんの一部しか見ていただいていないので、ぜひまた来てほしいですね」

「別に移住しなくても、年に数回遊びに来るって方法もあるしね。移住だけが人生を変える手段じゃない。今だとワーケーションもあるし。『自分の気持ちいい場所に働きに行く』ための大義名分がワーケーションじゃない?」

「たしかに! コロナをきっかけに、『今いる場所はあんまり気持ちよくないかも?』と気づいた人は多そうですね。僕の引っ越しもそうなのかもなあ。もっと気持ちいい環境に行きたい!という欲求」

「鮎って、川の環境にめちゃくちゃ敏感らしいんです。気持ちいい温度や水質があるから、そこに合わせて移動している。鮎も人間も、気持ちいい方向に行きたいのは同じなのかも」

「『気持ちいい』感覚に素直になるには、自分を開いて、内面の感覚に向き合うことが必要ですね。今回の旅は、その第一歩だった気がします!」

 

おわりに

岡野さんと話してたら僕も無性に入りたくなって、最後に川へ飛び込みました。郡上に来るまでの僕は、こんな全身びしょ濡れになることも嫌だったはずなんですが。『水、気持ちいい!』と思うなんて。

 

「自分はどう生きたいのか?」と考えるとなんだか難しくて、ずるずる思考の沼に落ちてしまうことも(僕はそうでした)。

 

ただ、郡上で学んだ「遊んで、開く」方法は、とってもシンプル。自分を開いて、「気持ちいい」という感覚に耳を澄ませる。自分の欲求に、素直に向き合う。きっとその先に、「こう生きたい」もあるんでしょう。

 

郡上では、たくさんの「遊び」が待っています。今の環境にモヤモヤしている人は、郡上の自然に飛び込んで遊んでみたら、何かの蓋が開くかも。それは移住じゃなくても、ワーケーションでも、数日間の旅行でも可能なはず。源流の御師たちが、皆さんを待っていますよ。

 

☆今回のツアーに関する情報まとめ

・岐阜県郡上市で進める「源流ワーケーション」WEBページ
https://genryu-workation.com/

・一般社団法人長良川カンパニー 企業研修ページ
https://genryu-yugyo.com/for_corporates

関連動画:長良川カンパニー 夜イカリの動画
https://www.youtube.com/watch?v=bTvykZ6_43k&t=208s

関連記事:なぜクリエイティブな人たちは源流であそぶのか
https://ideasforgood.jp/2021/08/05/genryu-creative/