お正月などに頭を噛んでくれる縁起のいい生き物「獅子舞」。画像や動画でなんとなく見たことがあるという方も多いと思いますが、今回は改めて「獅子舞って何?」ということについて、考えていきましょう。

日本全国500件以上の獅子舞を取材してきた筆者が、獅子舞とは何なのか?をテーマに、その歴史や見どころなどを解説します。

 

獅子舞にハマったきっかけ

まず、筆者が獅子舞にハマったきっかけについてお話しします。

もともと旅が好きだった僕は、訪れた土地の歴史や風習などを知りたくて、毎回郷土博物館を訪れるのが趣味でした。そんな中、2018年の年末に獅子頭の展示にめぐりあい、その姿を5分以上凝視しても飽きないことに気づきました。「おお、これはなぜか惹かれる!」と思ったのです。

 

そこで石川県加賀市の獅子舞の担い手(知り合い)に会いにいき、獅子舞の話を聞いてみることにしました。2時間くらい話を聞いていると、「獅子舞は僕らの地域の誇りなんです!」と生き生き語る一方で、「人がいなくなっていて、いつまで開催できるかわかりません……」という話も聞きました。素晴らしい民俗芸能なのにもったいないなと思いました。

それから、次の地域、次の地域、という風に担い手を紹介してもらい、芋づる式に獅子舞を取材するようになりました。獅子舞の魅力を再発見する旅です。だいたい取材するときはこんな風に、神社や公民館に伺ってお話を聞いたり、お祭りの獅子舞を見に行ったりすることが多かったですね。

カメラを持っているのが筆者

取材を始めてすぐの頃、僕は獅子頭の鼻を撮影するのが趣味でもありました。

「獅子舞の鼻は人間に比べるととても大きくて、鼻の穴が気迫を感じるくらい膨らんでいるものもあれば、こじんまりしたものもあるんです。鼻って可愛くないですか!?」と言うと、「うわ〜変態!」と突っ込まれたこともあります。そんな風に、気が付くと獅子舞にのめり込んでいったのです。


この獅子頭の鼻は比較的こじんまりしているが、容姿が整っており重厚感を感じる

「ええ、こんなところに獅子頭あったんや!」と、50年以上も前に使わなくなった獅子頭がつい数日前に亡くなった住民の家の押し入れから出てきて、町中大騒ぎになったこともありました。

「そもそもうちの町、獅子舞やってたんか!」と驚く人々もちらほら。獅子舞を大事に想う住民の素朴な愛が感じられました。意外と獅子頭は町で眠ってることもあるんですよね。

 

獅子舞の「シシ」って何? 噛まれるとなぜラッキー?

さて、ここで獅子舞とはそもそも何かについて触れておきましょう。

今も昔も、日本人は食肉として捕獲する身近な獣の総称を「シシ」と呼びます。「シシ肉」という言葉もありますよね。日本でいう身近な獣といえば、猪、鹿、熊などです。これが古代の西アジアではライオンでした。獅子舞のルーツとなる獣は国や地域によって「鹿寄り」「ライオン寄り」などの傾向は異なるものの、そうした身近な獣全てが融合した想像上の生き物が「獅子舞」なのです。

 

獅子舞はよく頭を噛んでくれると言われますが、これは厄祓いのためです。人間には煩悩があるから、悩みの種(厄=人間への害)は頭の中にあります。頭はもともと、人間の中心にあるので、これは厄祓いしないといけません。

地域によっては、農村であれば「お米がたくさん取れますように(五穀豊穣)」、漁村であれば「魚がたくさんとれますように(大漁祈願)」などの願いと結びついてきました。他にも、学業成就、商売繁盛、健康祈願など、さまざまな願いと結びついていきました。願いの種類が増えていったのは、江戸時代以降の芸能の大衆化が関わっていると考えられます。


三重県伊勢市の伊勢大神楽(2022年12月取材)

本当にさまざまな願いを叶えてくれる獅子舞は、ある意味、都合の良い存在です。

戦後は獅子舞でいきなり家に押しかけて、勝手に舞い始めて「ご祝儀(お金)ください!」という押し売り風の獅子舞も日本の都市部で生まれました。ヤクザが結託してやったという噂もありますが、一歩間違えると犯罪にも手を染めちゃう感じが獅子舞の「都合の良さ」を物語っています。


埼玉県川口市で発行された「獅子舞お断り看板」(2022年12月撮影)

 

獅子舞はいつどこで始まったの?

紀元前から西アジアでは家畜を襲うのはライオンであり、そのライオンを狩ることで権威を示すということがよく行われていました。

中国にはライオンがいなかったものの、シルクロードを通じてその情報は伝わっており、次第に想像上の獣「獅子」が作られました。それが仮面舞踊に取り込まれたのです。それが伎楽という芸能のひとつとして、朝鮮半島を経由して日本に伝わったのが612年。日本でいう飛鳥時代、聖徳太子の時代でした。


紀元前1100年頃、古代オリエントでライオンを狩る様子。出典:メトロポリタン美術館

一方で、日本ではもともと、身近な獣として猪、鹿、熊などは食料として、自然の恵みとして感謝したり、畏れを抱いたりしました。一方で、田畑を荒らす悪者として、「退治したい!」と憎まれることもあり、それに伴った舞いや踊りがありました。そこに大陸型の獅子が合流して日本独自の「獅子舞」が生まれたのです。


猟師さんから捌いた鹿肉をいただく事もある

それにしても、大陸経由の獅子と日本固有のシシは、どちらも発音が「シシ」だったのは偶然の一致で、民俗学者の柳田國男も『獅子舞考』という文章でそのことを記しています。

さらに不思議なのは、獅子舞の獅子の考え方はアジア各地に分布しており、どれも読み方が「S音から始まる」という謎があります。発音も伝播したというのはわかりますが、全部S音から始まるのも偶然です。
(参考:高橋裕一『獅子舞の定義と構造・分布』藝能学会編集委員会編「藝能」第5号、藝能学会、1999年)

<獅子の発音の違い>
日本…獅子(シシ)
沖縄…シシ、シーサー
韓国…サジャ
中国…獅子(シズウ)
シンガポール…シンガ
チベット…センゲ
インド・ネパール…シンハ


香港で10年に1度開催される厦村鄉甲辰年太平清醮に登場した獅子舞(2024年11月取材)

 

なぜ獅子舞は日本全国に根付いたのか

さて、日本に大陸の獅子がたどり着いたのが聖徳太子の時代だという話をしましたが、その後、「日本全国47都道府県に根づいたのはなぜか?」と疑問に思うことでしょう。

きっかけになったのはまず奈良時代の752年「東大寺大仏開眼供養」です。ここで日本全国の人々が参列して、その場で伎楽の獅子が舞われて人気を博したうえ、仏教行事と獅子は密接に結びついていきました。それもあってか、東大寺から全国の大寺院にまず伝播しました。

でもまだ平安時代の頃には民衆まで浸透したとは言い難く、大衆化したのは鎌倉時代です。貴族から武士の世の中になって、京都の石清水八幡宮、そして鎌倉の鶴岡八幡宮などに代表される八幡信仰が盛んとなり積極的に獅子舞(獅子の芸能)を取り入れたほか、仏師の台頭が顕著で木工技術がどんどん発達・伝承しました。

そして鎌倉時代以降、名前や年代の記された獅子頭が全国的に急増します。あとは熊野信仰が修験者によって東北各地まで浸透し、獅子の流れをくむ権現舞を広めました。


最も古い年代が記銘された鎌倉時代の獅子頭が発見された愛知県愛西市日置八幡宮(2021年3月取材)

そして、江戸時代以降には獅子舞の娯楽化が進みます。お伊勢参りの参詣を促す「伊勢大神楽」が大ヒットして、日本各地を舞い歩き、それを真似するように大神楽の獅子舞が増えました。伊勢大神楽のように、江戸時代にも超優秀な営業マンがいたわけです。

江戸時代、浮世絵に描かれた獅子(喜多川歌麿作)。出典:メトロポリタン美術館

明治維新後は、大正天皇や昭和天皇などの即位を記念したご大典記念などのタイミングで獅子舞が一気に増えました。これは国力増強、地域での青年教育強化を狙っているようにも見えますが果たしてどうでしょう? 意図は定かではありません。

それから第二次世界大戦下では、担い手である人々が戦地に向かわねばならなかったり道具が消失したりしたため、多くの獅子舞が途絶えたり休止に追い込まれました。しかし、現代でも依然として数が多い民俗芸能となっています。

現代の獅子舞ニュースとしては、コロナ禍を機に途絶える獅子舞も多かったことがあります。ただ、東日本大震災や能登半島地震などでは、仮設住宅に住む人々を元気付ける獅子舞の姿も多く見られました。地域交流や絆の再確認という意味で、大活躍する場面もあります。

 

これも獅子舞なの? 全国のおもしろ獅子舞

それでは獅子舞のルーツや歴史がわかったところで、日本全国のユニークな獅子舞たちをご紹介します。「こんな獅子舞見たことない」「これも獅子舞なの?」という驚きがあるかもしれませんが、これらはすべて獅子舞です。

 

修行とともに生まれた「権現舞」(東北地方)

青森県、岩手県、秋田県など、東北地方に分布しています。獅子頭が神様の仮の姿として神格化されて、熊野修験などの山伏によって、神楽に取り込まれた形態です。山形県の海沿いなどでは「お頭様」などと呼ばれる他、その呼び方には地域差があります。


岩手県の北上みちのく芸能祭りに出演した権現舞(2023年8月取材)

 

鹿の動きの模倣「しし踊り」(東北地方)

東北を中心に伝承されるしし踊り。鹿の遊び戯れる様子を真似たとか、鹿を救うために身を犠牲にした人を供養したとか、猟師の犠牲になった鹿を供養したとか、様々な言い伝えが各地に存在します。岩手県などに数多く分布しており、北部の幕踊り系と南部の太鼓踊り系に分かれます。


しし踊り百頭が大行列、岩手県の百鹿大群舞(2023年5月取材)

 

壮大な思想が詰め込まれた「三匹(頭)獅子舞」(関東地方)

3頭の獅子舞が登場する理由は、太陽、月、星という天体を表現しているからとも言われ、獅子舞の周囲に配置された四台の花笠は春・夏・秋・冬という四季、あるいは東西南北や四天王などを表しているとされます。


埼玉県高麗神社の獅子舞(2022年4月取材)

 

獅子を殺して厄祓い「加賀獅子」(北陸地方)

棒振りと呼ばれる人物が、薙刀や棒などさまざまな道具を使い獅子を退治する「獅子殺し」の演舞が特徴的。縁起の良いはずの獅子を殺すことで逆に強い邪悪な力を封じ込める考え方です。


石川県加賀市田尻町の獅子舞(2021年9月取材)

 

ゆっくりな麒麟の獅子舞「麒麟獅子」(中国地方)

鳥取県を中心に伝承されており、麒麟の形をした獅子頭をまとう他、赤い猩々(しょうじょう)が主役となる神降ろしの舞なども特徴的です。とてもゆっくり動くため、逆に体力が必要とも言われています。


鳥取市の仁風閣で演舞された麒麟獅子舞(2021年7月)

 

ふさふさな毛むくじゃら「琉球獅子舞」(沖縄県浦添市)

沖縄の獅子舞はぬいぐるみのような胴体を持ち、ふさふさして生き物感を強く感じます。琉球王朝は使節が訪れる度に獅子舞を舞ってもてなし、その時の獅子頭を毎回民間に譲り渡したことなどが起爆剤となって広まりました。


沖縄県浦添市の勢理客獅子舞(2024年9月取材)

 

実際に全国の獅子舞を見てみよう!

大塩天満宮の毛獅子(2024年10月取材)

さて、獅子舞は年間を通して全国の都道府県で見られ、その実施団体数は7000ほどあると言われています。1月はお正月、2月は旧正月、3月〜4月は春祭り、7月は祇園系、8月〜10月は秋祭り、11月は西日本や九州、12月は神楽などで獅子舞が登場する場合が多いです。

例えば、年間を通して全国的に獅子舞が見られるので、その例として思いついた獅子舞を少し挙げておきます。

<全国のおすすめ獅子舞イベント>
1月 黒森神楽 舞い立ち(岩手県)
2月 御頭神事(三重県)
3月 彼岸獅子(福島県)
4月 天王寺舞楽(大阪府)
5月 新湊の獅子舞(富山県)
6月 つきじ獅子祭(東京都)
7月 祓い獅子(福岡県)
8月 六斎念仏(京都府)
9月 加賀獅子(石川県)
10月 毛獅子(兵庫県)
11月 琴路の獅子舞(佐賀県)
12月 伊勢大神楽 総舞(三重県)

地元や家の近くで開催されている場合もあると思うので、そちらでもぜひ獅子舞をご覧ください!

 

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