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仕事ができる人を諦め、仕事ができない自分を受け入れる 井上慎平さんが見つけた「弱いまま」生きる方法

仕事ができる人を諦め、仕事ができない自分を受け入れる 井上慎平さんが見つけた「弱いまま」生きる方法

「仕事ができるビジネスパーソンになりたい」と願って努力していても、思うようにいかず、「仕事ができない自分」に自己嫌悪を抱いてしまうことはありませんか?

今回お話を伺った編集者の井上慎平さんは、理想と現実のギャップに悩んだ経験を著書『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』につづっています。

“弱さ”を持つ自分と上手に付き合いながら働くためのヒントを聞きました。

「できるふり」は命取り。挫折を認められず追い詰められた過去

💡POINT
  • 「特定のスキルの高さ」と「ビジネス全般の優秀さ」は別物
  • 周囲は「できる」ことが自分にはできず、追いつこうと背伸びしていた
  • やりがいがある環境ほど、つらい気持ちを「わがままだ」と閉じ込めてしまう
著書『弱さ考』では、「仕事ができる人間になりたかったけど、なれなかった」というご自身の体験がつづられています。井上さんは仕事に対してどんな理想を抱いていたのでしょうか?

井上慎平さん(以下、井上):出版社で働いていた20代の頃は「同期の中で一番頑張る!」「いつかすごい編集者になってやる!」と今振り返れば少し浅い野心を抱いて、とにかくがむしゃらに働いていました。「仕事ができる人になりたい」という気持ちが人一倍強かったです。

しかし、30代で経済ニュースプラットフォーム「NewsPicks」を運営するベンチャー企業に転職し、新規メディアの編集長という大役を任されたことで「自分のできなさ」に直面して。

仕事ができる人を諦め、仕事ができない自分を受け入れる 井上慎平さんが見つけた「弱いまま」生きる方法

前職はじっくり時間をかけて本を作れる環境で働き方も自分にマッチしていたので、あたかも「仕事ができる」ように感じていたんです。

でも、転職して初めて「本を作るのが得意」ということと、会社から求められる「ビジネスパーソンとしての優秀さ」は全くの別物だと知りました。

井上さんのご経歴を見る限り『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(ダイヤモンド社)など編集者として数々のヒット作を打ち出していて、いわゆる「仕事ができる方」に見受けられますが......。

井上:僕もそう勘違いしていました(笑)。

ですが、転職後は数字の管理など重い責任を背負う立場でありながら、Excelすら満足に触れない状態で……。

周りの人たちが当たり前にこなしていることが、自分にはできない。どうにか追いつこうと必死でしたが、新規メディアで編集長を務めること自体、当時の僕には完全に背伸びのし過ぎだったと思います。

その後も無理が重なり、休職と復職を繰り返した末に退職を決断されました。

井上:はい。一番の問題は、自分がつらい状況にあることを「挫折」だと認められず、周りに「助けて」と言えなかったことです。

「自分が望んで選んだやりがいのある仕事なんだから文句を言うなんて贅沢だ」と自分に言い聞かせて、無理に「できるふり」を続けていました。

忙しく常に興奮状態だったこともあり、楽しさの中にしんどさを隠していたんだと思います。

でも、そんな「無理ゲー」を続けた結果、ついに脳が以前のように働かなくなり、うつ状態になってしまいました。

周りと比べるのは当たり前。大事なのは「そんな自分も認める」こと

💡POINT
  • 弱い自分を克服するのではなく「弱いままどう生き延びるか」を考える
  • 「できる人になりたい」という浅はかな部分も含めて“自分”を認めてあげる
  • 他人と自分を比べることは、人間が生き残るために備わった自然な機能
「できるビジネスパーソンになりたい」と思っていた井上さんが、あえて「自分の弱さ」について書いてみたいと思ったのはなぜだったのでしょうか?

井上:理由は大きく分けると2つあります。1つは、僕自身がどん底のときに救われたのが、キラキラした「逆転成功ストーリー」ではなく、ただ苦しさを抱えている「誰かのありのままの弱さ」だったこと。

何も乗り越えていない「弱さ」をそのまま差し出すことで、どこかの誰かに響くものがあるんじゃないかと考えました。

もう1つは、世の中には「弱いままでいい」と発信してくれる「ケア本」はたくさんあるけれど、強さが求められる「職場」において「自分の弱さとどう折り合いをつければいいのか」を説く本が少ないと感じていたこと。

弱いままの自分で、資本主義という「強い世界」をどう生き延びていくかーーそんな「生存戦略」を当事者として考えてみたかったんです。

強いビジネスパーソンを目指して鬱を経験した井上さんが「資本主義のしんどさ」から自分を守って生きる方法について綴った本
▶『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』(ダイアモンド社)

退職後は、ご自身で会社を設立されています。過去のインタビューでは「今の自分にサラリーマンとして働き続けることは難しいと判断し、独立の道を選んだ」といったお話しされていますが、以前のように働けない自分をどのように受け入れていったのですか?

井上:実は、今でも「全てを受け入れた」という晴れやかな感覚はないんです。「いつかすごいやつになりたい」という野心も、根っこの部分では変わっていない気がします。

ただ唯一変わったのは、自分の正直な本音や「目立ちたい」といった少し浅はかな部分も含めて、「これが自分なんだ」と認められるようになったこと。

そうすると、うまくできない自分のことも、うまくできないのに「すごいやつになりたい」と願っている自分のことも、過度に責めずにいられるようになりました。

そもそも「できる人でありたい」という欲求の裏側には、「ここに居場所があるという”安心感”がほしい」という切実な願いが隠れていると思うんです。それは人間、つまり社会的な動物として当然の欲求ですよね。

人間の当然の欲求......面白い考え方ですね!

井上:僕は今でもSNSなどで誰かの輝かしい活躍を見て落ち込んでしまうことがありますが、その度に「僕って人間らしいなあ」と思うようにしています(笑)。

人間にはもともと生き残るために「他人と自分を比べる」という機能がインストールされているから、「比べてしまう自分」を責めたところでどうしようもない。

「満足のいく自分ではないかもしれないけど、それでも一生懸命がんばっているな」と、自分を客観的に見てあげる。

「落ち込んでいる自分」とそれを「客観的に見ている自分」の両方が頭の中に存在して、双方がうまく対話し合えている状態が、一番の理想なのかもしれません。

仕事と家庭・育児との両立も「開き直り」や「諦め」が肝心

💡POINT
  • 仕事と同じように、育児や家事も「できないこと」がたくさんある
  • 仕事の密度が上がり、子育ての難易度が上がっている現代での「両立」はそもそもがハード
  • 開き直り「必死でがんばる物語の主人公」を降りた方がいい
井上さんは現在子育て中でもありますが、仕事と同じように「できないこと」で悩むことはありますか?

井上:もちろんあります。特にうつ状態と娘のイヤイヤ期が重なったときは、ずいぶんと余裕がなくなってしまって......。娘に強く当たってしまう自分が親として本当に情けなかったです。

そもそも職場では「効率やスピード」を求められ、家庭では「ケア」を求められます。仕事と育児の両立というのは、2つの全く異なるルールのゲームを同時にプレイしているようなもの。

通勤時間など短い時間でスイッチングするだけでも大変なのに、最近はSlackやZoomといったコミュニケーションツールの普及によって、仕事の密度がぐんと上がっている。

そんな状況に脳がパンクしてしまうのは、ある意味当然のことだと感じています。

そんな中でも「仕事も家庭も両方“ちゃんとしなきゃ”」と自分を追い詰めてしまう人は少なくないと思います。

井上:そうですよね。核家族化や地域のつながりが希薄化している今、育児そのものの難易度が上がっているし、そこに仕事の「効率化」を持ち込まれてしまっている。

家庭に「効率化」を持ち込み過ぎると、子どもと過ごした時間でさえも「この1時間があれば、もっと仕事を進められたのに......」と、イライラしたり、自分をさらに追い詰めたりしてしまいます。

仕事ができる人を諦め、仕事ができない自分を受け入れる 井上慎平さんが見つけた「弱いまま」生きる方法

仕事や家庭で「弱さ」を感じている人は、どう乗り越えていけばいいのでしょうか。

井上:まずは「開き直る」というのも、1つの大切な戦略だと思っています。

もし両立がうまくいかずに自分を責めてしまうなら、それはあなたのせいではなく、社会がそういうふうに「思わせている」だけかもしれません。

「自分で何とかしなきゃ」という考えが浮かんできたら「本当にそうなんだっけ?」と一度疑ってみる。そして、周りにSOSを出したり「今はこれが限界です」といい意味で開き直ったりしてもいい。

自分を「仕事と家庭の両立のために、必死でがんばる物語の主人公」に仕立て上げてしまうと「自分はこんなに頑張ってるのに、なんで協力してくれないの」と、子どもやパートナーなど周囲への不安を感じやすくなる。

だからこそ、僕はなるべくその思い込みを解くように心がています。

......と言いながら、僕もまだ人に助言できるような立場じゃないんですけどね(笑)。

強くなろうとするのではなく、弱いままの自分でどうこの世界で生きていくか。

完璧を目指して自分を追い込む前に、「まあ、そもそもが”無理ゲー”なんだから、自分にできなくて当然か」と開き直りながら、なるべくハッピーに過ごせる方法を模索していけるといいですよね。

取材・文:藤田華子
編集:はてな編集部

著者:井上慎平さん

井上慎平さんプロフィール

1988年生まれ。京都大学総合人間学部卒業。ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、ソーシャル経済メディアNewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。代表的な担当書に中室牧子『学力の経済学』、マシュー・サイド『失敗の科学』、北野唯我『転職の思考法』、安宅和人『シン・ニホン』など、著書に『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』がある。現在は長野に住み、株式会社問い読でオンライン読書ゼミを共同運営。
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仕事ができないと悩むあなたへ 自分の“特性”を知ることが「働きやすさ」につながる|町田粥

仕事ができないと悩むあなたへ 自分の“特性”を知ることが「働きやすさ」につながる|町田粥

仕事ができない、うまくいかないと悩むとき、つい「努力が足りないせいだ」と自分を責めていませんか。しかし、その「できなさ」の背景には自分ではコントロールできない“特性”が隠れているかもしれません。

『発達障害なわたしたち』の作者であるマンガ家の町田粥さんは、会社員時代に“特性”により葛藤を抱えた経験を作品に描いています。

今回のインタビューでは、町田さんが考える「働きやすさの見つけ方」についてお話を伺いました。

自分の“特性”の原因を知り「謎が解けた」ような気持ちに

💡POINT
  • ADHDの診断により長年の「生きづらさ」の謎が解けた
  • マルチタスクが苦手ですぐに気が散ってしまい、「正解」のコミュニケーションも分からない会社員時代
  • 適職への転向が、自信を取り戻すきっかけに
町田さんが『発達障害なわたしたち』を描こうと思った背景には、どのような思いがあったのでしょうか?

町田粥さん(以下、町田):私は大人になってから発達障害の知能検査を受け、軽度のADHD(注意欠如・多動症)と診断されました。

そのとき、昔からさまざまな場面で感じていた「ままならなさ」の謎が解けたような気持ちになったんです。この経験をシェアしたいと思って本作を描きました。

大人の発達障害を当事者へのインタビューで紐解くコミックエッセイ
▶『発達障害なわたしたち』(祥伝社)

具体的には、どんな場面で「ままならなさ」を感じることが多かったですか?

町田:私は会社員時代、転職も経験しているのですが、会社の規模や業種問わず「周囲に人がたくさんいる環境で集中すること」や「マルチタスク」がとにかく苦手でした。

1社目ではWebサイトの構築に携わっていたんですが、集中力が必要な仕事なのに、周りの音が耳に入るとすぐに気が散ってしまって……。

特に周囲との差を感じたのは「ひたすらコピペを繰り返すような単純作業が進まない」ときでした。他のみんなは雑談しながら軽々と済ませていくのに、私は話が振られるたびに手が止まってしまう。

結局、自分だけがいつまでたっても作業が終わらず、終電を逃してしまったんです。「どうして私だけこうなんだろう......」とショックを受けましたね。

©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS
©町田粥/祥伝社 FEEL COMICS
コミュニケーションに関しても、困難を感じることはありましたか?

町田:「“最適なコミュニケーション”がその場その場で変わること」に難しさを感じていました。

例えばランチのときに仕事の話をしたら「休憩中まで仕事の話をしないでほしい」と言われる職場があれば、逆にプライベートの話は「職場でそういう話はちょっと......」と敬遠される職場もある。

私は子どもの頃からオタクであることを隠すために、自分が話したいことよりも、その場に適した「コミュニケーションの型」を覚えることを意識してきました。

でも、社会人になって会社に属すると、さまざまな考え方や趣味嗜好を持っている人がいて「この場ではこの話をしておけば大丈夫」というような分かりやすい「型」がないから戸惑ってしまって。

周囲のリアクションを見ては「理由は分からないけど、また何か自分が間違ったことを言っちゃったんだろうな......」と自信をなくすことが多かったように思います。

2社目ではWeb開発からデザイナーへ業務の比重を移したそうですね。職種の変更については、上司にどのように相談したのでしょうか?

町田:最初は1社目と同じくWeb開発を担当していたのですが、数カ月続けてもやっぱり苦手意識が拭えず、最初は退職を申し出るつもりで社長に相談したんです。

すると、柔軟な会社だったこともあり「それなら徐々にデザイナー職に転向してみてはどうか」と提案してくれて。

実際にやってみると、自分のひらめきを生かせるデザインの仕事が向いていたようで、結果的に社内のプロデューサーやユーザーから評価されることが増え、徐々に自信を取り戻すことができました。いま振り返ってもありがたい環境だったなと。

仕事ができないと悩むあなたへ 自分の“特性”を知ることが「働きやすさ」につながる|町田粥

「体調の変化」に着目すると、働きやすい環境が見えてくる

💡POINT
  • マンガ家への転向後、自分の特性を踏まえて「できる時間に一気に集中する」スタイルに
  • 体調の変化は「無理をしているサイン」かも?
  • 働き方を変えたいときは「理想のキャリア」を上司に伝えてみる
会社員を辞めてマンガ家になる決断をしたのはどうしてですか?

町田:デザイナー職の比重が増えてから楽しく働けていたのですが、それでも自分が主体的に進められない仕事や興味のない業務には、どうしても身が入らないことを痛感しまして……。

また、私は周りに人がいない方が働きやすいタイプだと分かっていたので、フリーランスになることを決意し現在に至ります。

いまは子どももいるので、とにかく短時間でも「できる時間に一気に集中する」ことを意識して仕事に取り組んでいます。

マンガ家の中には長時間働いて大量生産できる方もいますが、私は1日2時間くらいしか集中できないタイプ

だからこそ「少ないページ数を、その2時間で一生懸命に描く」をコツコツ続けるというスタイルを選んでいます。

仕事ができないと悩むあなたへ 自分の“特性”を知ることが「働きやすさ」につながる|町田粥

今まさに働きづらさを感じている人が、町田さんのように「自分に合った環境」を確立したいと考えた場合、何から始めるのが良いと思いますか?

町田:自分の「わがまま」をある程度聞いてあげることや、体調の変化に着目することがすごく大切だと思います。

私はストレスが溜まったり緊張したりするとお腹が鳴るタイプだったので、「お腹が鳴る=無理をしている」という体からのサインと受け取っていました。

あとは、面談などで上司と話す機会があれば正直に気持ちを伝えてみる、というのも1つの方法だと思います。

その時に意識してほしいのは「こういう作業が苦手なのでやりたくない」と伝えるのではなく「自分は将来こういう仕事がしたい」といったキャリアの最終目標を伝えること

仕事ができないと悩むあなたへ 自分の“特性”を知ることが「働きやすさ」につながる|町田粥

実際、2社目では上司に「いつかフリーのイラストレーターになりたいんです」と伝えたことが、デザイナー職への職種変更につながりました。

単純に「苦手なことだけ」を伝えるのも悪いことではないんですが、私は「こう工夫すれば、もう少し頑張れるんじゃない?」と諭されるのをどうしても避けたくて(笑)。

もし理想とする働き方や職種が明確なら、それを正直に伝えた方が相談された上司も提案がしやすく、話が早いのではないかと思います。

自分の特性を知れば、誰かの「苦手」にも優しくなれる

💡POINT
  • 特性を知ることは、自分や他者を「正しく見る目」を養うこと
  • 誰もがそれぞれの「苦手」や「不安」と戦っている
  • 働くことにしんどさを感じるなら、受診も1つの選択肢に
明確な診断がつかなくても、もともとの性格や体質による「得意・不得意」は誰にでもあると思います。町田さんは、自分自身の特性を知ることにはどんな意味があると思いますか?

町田:特性を知ることは、自分自身や他者を「正しく見る目」を養うことにつながるのではないかと考えています。

『発達障害なわたしたち』を描いたことで、周りの人たちが「自分も発達障害だよ」とか「診断は受けてないけど、自分にもこういう苦手なことがあるんだよね」と話してくれる機会が増えました。

一見「社会に上手に溶け込めている」ように見える人でも、実は内面でいろいろな不安と戦っているケースは多いんだなと実感しています。

仕事ができないと悩むあなたへ 自分の“特性”を知ることが「働きやすさ」につながる|町田粥

自分の特性を分析することによって自己理解が深まり、それを周囲と話してみることで相手のこともより深く理解できる。人の「特性」に関心を向けることは、自分にも他者にも優しくなれる側面があると思います。

「自分はこれが苦手なんだよね」と身近な人と話し合えるだけでも、気が楽になりそうですよね。

町田:そうだと思います。あとは、もし働く中でつらさを感じていたり、いまの社会のデザインに「自分はそぐわない」と苦しんでいるなら、受診も1つの選択肢として検討してみても良いかもしれません。

仕事ができないと悩むあなたへ 自分の“特性”を知ることが「働きやすさ」につながる|町田粥

精神科や心療内科の受診にハードルを感じる方もいるかもしれませんが、医師とのコミュニケーションの中で初めて見えてくることもありますし、信頼できる先生の本を読むだけでも安心感に繋がるのではないかな、と。

『発達障害なわたしたち』では、医師監修のもと「病院を選ぶコツ」にも触れているので、興味のある方はぜひ参考にしていただけるとうれしいです。

取材・文:生湯葉シホ
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部

お話を伺った方:町田粥さん

町田粥さんプロフィール

2017年より「マキとマミ〜上司が衰退ジャンルのオタ仲間だった話〜」で連載デビュー。現在はFEEL YOUNG本誌にて「吉祥寺少年歌劇」「発達障害なわたしたち」「桐島学園生徒会執行部(原作)」を不定期連載中。
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「体力がなくて働けない」は甘えじゃない 世間の“ふつう”に合わせない働き方|絶対に終電を逃さない女さん

絶対に終電を逃さない女さんインタビュー

体力がなくて“ふつう”に働くのがしんどい。でも、これって甘えなのかな……。そんなふうに罪悪感を抱いていませんか。

今回お話を伺ったのは、虚弱体質で「1日8時間×週5日」という働き方がどうしても難しかったという文筆家・絶対に終電を逃さない女さん。エッセイ『虚弱に生きる』には、そんな自身の体験や考えがつづられています。

世間の“ふつう”と比べず、自分なりの働き方に向き合うヒントについて伺いました。

「ふつうの働き方」がしんどい人はこんなにもいる

💡POINT
  • 「体力がない」というつぶやきが、予想以上の反響を呼んだ
  • 努力をしても人並みの体力には届かず諦めがついた
  • 「他者からの共感」が自分を受け入れるきっかけに
著書『虚弱に生きる』では、「体力ありき」で設計された世の中や働き方に対する生きづらさが描かれています。まずは、ご自身の経験を発信しようと思ったきっかけをお聞かせください。

絶対に終電を逃さない女さん(以下、終電):もともと「発信しよう」と強く思っていたわけではなく、SNSに何気なく「肩こりがひどい」「膝が痛い」「体力がなくて人並みに長時間働けない」といったことをぽつぽつとつぶやいていたんです。

そしたら、虚弱体質についての対談の依頼をいただいて。そこからWebメディアへの寄稿や書籍の出版につながっていった、という感じです。

具体的にはどのような反響が多かったのでしょう?

終電:「フルタイムで働くこと自体が難しい」「フルタイムで働けてはいるけれど、その分、プライベートや日常生活が立ち行かなくなっている」といった方からの共感の声が多かったです。

「虚弱体質」のリアルをつづったエッセイ
▶『虚弱に生きる』(扶桑社)

それまでは「体力がなくて人並みの半分も働けていないのは自分だけだ」と思い込んでいて、「自分は怠けているだけなのではないか」という疑念もありました。

でも、しんどさを感じている人がこれだけいるのなら「そもそも“ふつう”の基準が高過ぎるのでは?」と考えるようになっていきました。

現在は働く時間の限界が「1日4時間」だと著書に書かれていました。終電さんは、自分に最適な働き方をどのように見つけていったのでしょうか?

終電:人におすすめできるようなやり方ではありませんが......この7〜8年間、自分の限界に挑戦しては体調を崩す、ということを繰り返してきました。

その間、食事管理をしたり筋トレや有酸素運動を取り入れたりと、できることは1つひとつ試してきたんです。

それでも「1日8時間×週5日ができる体」には到底届かず「1日4時間」が自分の限界、という結論にたどり着きました。

「1日4時間“しか働けない”」という結論を受け入れ難く感じることはありませんでしたか?

終電:私はもともと「バリキャリ女性」に憧れていたので、すぐには受け入れられませんでした。

「どうしてみんなと同じように“ふつう”に働けないんだろう」「怠けているだけなんじゃないか」と思ってしまって。

「1日4時間しか働けない」と口にすれば「甘えるな」と受け取られるかもしれないと思うと、恥ずかしくて人に言えない時期もありました。

絶対に終電を逃さない女さんインタビュー

でも、最近ようやくある種の諦めがついた、と言いますか。体力をつけるために最大限努力はしたけど、それでも無理だったのならもう受け入れるしかないなと。

あとは、発信を通じて自分と似た悩みを抱える方がいると知れたことが、大きかったと思います。

1人で抱えていたしんどさを誰かと分かり合えた経験が、少しずつ自分の「限界」を受け入れるきっかけになったのかもしれません。

目に見えない“内臓や体力”にも、多様性がある

💡POINT
  • 体の“中”など目に見えない個人差は見落とされやすい
  • 何に疲れを感じやすいかは人それぞれ
  • 母の「ゆっくりでいい」という言葉が救いになった
世の中の基準ではなく「自分の限界」を肯定できるようになるために、まず何から始めるのが良いと思われますか。

終電:まずは「内臓や体力にも多様性があって当然」と捉えてみることでしょうか。

身長や体重、骨格や筋肉のつき方が人それぞれであるように、「内臓」や「体力」など見えない部分にも個人差があるのは自然なことだと思っています。

ただ、その“見えない個人差”は見落とされがちだと感じていて。例えば「人とのコミュニケーションに疲れてしまう」「目が疲れやすくパソコン作業の負担が大きい」など、何に疲れを感じやすいかは人それぞれだと思います。

私たちは小さい頃から、「順位」や「平均点」といった指標で人と比べられることが当然の環境で育ってきましたが、本来は「そもそも人と比べる必要はない」という前提を大切にできると良いですよね。

つい周囲と比べそうになってしまうとき、終電さんはどのように気持ちを切り替えていますか?

終電:そういうときは「人と比べなくていい。ゆっくりでいい」という母の言葉を思い出すようにしています。保育園を卒園するときに母がくれた手紙にそう書かれていたんです。

絶対に終電を逃さない女さんインタビュー

私は子どもの頃から苦手なことが多くて、友達ができなかったり、運動会のダンスが踊れなかったり、保育園に行けなくなった時期もありました。

大人になってから聞いた話なのですが、母も最初は「みんなと同じようにできてほしい」と悩んでいて、いろいろ考えた末に卒園の時には「そのままの娘を受け入れよう」という心構えにたどり着いたそうです。

身近な人からそういった言葉をかけてもらえると、気持ちがラクになりますね。

終電:私自身、自分の体調や体力を理解して「どうすれば健やかに生きられるか」が分かってきたのは、30歳手前になってからでした。

「遅過ぎる」「もっと早く自分のことを理解していれば......」と感じて落ち込むこともあったのですが、そんなときこそ「ゆっくりでいい」と言ってくれた母の言葉を思い出すようにしています。

「虚弱」という言葉が、誰かと分かり合うきっかけになれたら

💡POINT
  • 自分の体質を理解するために日々「小さな工夫」を試してみる
  • 体調の問題は自分の「人間性」と切り離して考える
  • 「体調不良は怠けではない」ともっと世の中に伝わってほしい
終電さんのようにもっと「自分の体質を理解したい」と思う人は少なくないと思います。そのような方におすすめしたいことはありますか?

終電:先ほどお話ししたような「限界まで挑戦しては体調を崩す、を繰り返して自分の体質を理解する」はおすすめできないので.....。

疲れを減らせそうなことを日々の生活に取り入れてみるところから始めるのはどうでしょうか。

例えば、読者の方が「荷物で意外と重いのは小銭」と教えてくれたことがあって「たしかに!」と「財布と小銭を持ち歩くのをやめる」を試してみたんです。そんな、本当に小さなことでも試してみる価値はあると思っています。

確かに最初から「運動習慣をつける」などの大きな目標を掲げても、そもそも体力をつけるための体力がない......なんてこともありますもんね。

終電:そうなんです。そもそも新しい習慣を試すにはそれなりの体力が必要ですから。

それを「怠惰だ、甘えだ」と自分の性格や意志の弱さの問題だと考えてしまうと、どんどんメンタルの調子が落ちて悪循環に陥ってしまいます。

ですから、何かを試す元気さえないときは「今はただ疲れているだけなんだろうな」と軽く受け止めて、まずはしっかり休む。ちょっと元気が出てきたら、気になっていた小さな習慣を試してみる。

いずれにしても、体調の問題は自分の人間性と切り離して向き合うのが大事なのかなと思っています。

絶対に終電を逃さない女さんインタビュー

著書には「健康な人にこそ、虚弱体質のことを知ってほしい」という想いが込められているそうですね。誰しもが生きやすい・働きやすい社会になるために、どんな変化が必要だと感じていますか。

終電:「体調不良は怠けではない」こと、そして「努力をしても人並みの体力が手に入らない人もいる」ということが、世の中に伝わっていけばいいなと思っています。

実際、読者の方から「自分の体質を理解してほしくて上司に本を渡しました」「親に読んでもらいました」という報告をいただくことがあって。

この本が「自分のしんどさ」を周囲に伝えるための手段になるだけでなく、「他者のしんどさ」に想像力を働かせるきっかけにもなってくれたら嬉しいです。

いずれは「虚弱」という言葉が社会に浸透し、説明しなくても「ああ、それね」と当たり前に理解し合える世の中になったらいいですよね。

取材・文:貝津美里
プロフィール写真:山川修一(扶桑社)
編集:はてな編集部

お話を伺った方:絶対に終電を逃さない女さん

絶対に終電を逃さない女さんプロフィール

1995年生まれ。大学卒業後、体力がないせいで就職できず、専業の文筆家となる。様々なWebメディアや雑誌などで、エッセイ、小説、短歌を執筆。単著に『シティガール未満』(2023年、柏書房)、『虚弱に生きる』(2025年、扶桑社)、共著に『つくって食べる日々の話』(2025年、Pヴァイン)がある。
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山本ゆりさん「毎日がやり直しのチャンス」 育児・家事が“ちゃんとできない”気持ちとの向き合い方

山本ゆりさんインタビュー

料理家・山本ゆりさんに「育児・家事がちゃんとできない」という悩みとの向き合い方について伺いました。

仕事も家事も育児も「全部うまくやらなきゃ」と思えば思うほど、苦しくなってしまうもの。シンプルでおいしいレシピが人気の山本ゆりさんも、3人の子どもを育てながら働く中でジレンマを感じてきた1人。

“うまくいかない日々”に悩む中で気付いたのは、周囲を頼らないと回らないこと、「サボる」と「やり切る」の両方が大事なこと、そして「今日ダメでも、明日がある」ということでした。

「ちゃんとできない」から周囲を頼る

💡POINT
  • ぜんぜん「ちゃんとできていない」毎日
  • かつては「家事も育児も母親がやるもの」と思い込んでいた
  • 家事は「完全に任せて口を出さない」方がうまくまわることもある
山本さんは料理家として忙しい日々を送りながら、3人のお子さんの育児に奮闘されています。日常の中で「うまくいかない」と感じる瞬間はありますか?

山本ゆりさん(以下、山本):めちゃくちゃあります(笑)! 仕事と育児、どっちも100%で向き合えていないなって、いつも思っています。

子どもたちがご飯を食べている傍らでパソコンを開いて仕事をしたり、話しかけられても「仕事中だから、終わるまで待って」と待たせてしまったり。仕事の締め切りや段取りを考えると、どうしてもその場で手を止めることができなくて......。

後になって「あのとき、すぐに手を止めて話を聞いてあげるべきだったな」と後悔してばかりです。

山本ゆりさんインタビュー
お子さんは現在5歳、10歳、14歳(ブログより)
家事や育児はどう回しているのでしょうか。

山本:家の中も生活リズムもぐちゃぐちゃなので「回ってる」と言えるかどうか......(笑)。

それでもなんとか潰れずにいられるのは、周囲のサポートのおかげです。夫が保育園の送迎や洗濯などの家事を担当してくれているほか、どうしても手が足りないときは、近くに住む私の母が子どもたちを見てくれます。

私が住んでいるところは「地域で助け合って子育てをしよう」という雰囲気があり、近所の方々たちが子どもたちを気にかけてくれることもありがたいですね。

1人で抱え込まないことが大切ですね。

山本:本当にそう思います。長女と次女が小さいときは「家事も育児も基本的には母親がやるもの」と思い、1人で抱え込みがちだったと思います。

でも仕事も忙しくなって、ついに「これ、もう無理や」と限界を感じたんです。夫に「あれやって、これやって」とお願いして手伝ってもらっても、あんまりうまくいかなくて。

それである時から夫に「手伝ってもらう」のをやめて、例えば洗濯なら、洗う、干す、畳むなどの一連作業を「完全に任せる」方針に変えてみました。

すると、夫は私の何倍も効率よく動き始めて(笑)。夫は一人暮らし歴が長く、もともと家事ができる人だったので「私が1人でやろうと意気込み過ぎる必要はないな」と実感しました。

山本ゆりさんインタビュー
パートナーさん作のインスタントラーメン(ブログより)
これまで自分がしてきたことを誰かに任せ切るって、意外と難しくありませんか。

山本:そうですね。ただ、中途半端にタスクを渡す方が、相手はやりにくいのかなって。我が家の場合は、私の方が圧倒的にズボラで家事にこだわりがなく、夫は几帳面で、やるなら自分のやり方でやりたいタイプだったので、任せることに徹した方がいいと気付きました。

自分のペースで家事をどんどん効率的に回していく夫の姿に、今となっては「私はそもそも家事に向いてなかったんやな」と思っています(笑)。洗濯するとき「こんなに細かくネットに分けるんや......」など今でもいろいろびっくりすることが多いです。

でも、そんなふうに夫が主体的に動いてくれるおかげで、「夫婦で同じ目線で育児や家事に向き合えている」と感じられるようになり、「私がやらなきゃ」という心の負担がグッと減りました。

今でもうまくいかないことばかりですが、以前よりかなり楽に過ごせるようになっていると思います。

「サボること」だけでなく「やりたい気持ち」も認めてあげる

💡POINT
  • 「サボってもいい」という言葉がストレスになることも
  • 育児に正解はない。けど「ちゃんとしている人」を見て落ち込んでしまう
  • 「これだけはやりたい」という自分なりの基準を大切にする
簡単でおいしい山本さんのレシピからは「手を抜くこと」「サボること」を肯定してくれる印象を受けますが、ご自身の生活ではいかがですか?

山本:私は「手を抜くこと」にあまり抵抗を感じないタイプなんです。むしろ「手をかける」の基準がめちゃくちゃ低く、自分のレシピを「手を抜いている」と感じたことがなくて(笑)。

ただ、自分が日々「面倒だな」とか「サボりたいな」と思っていることを、そのままレシピに反映している感覚はありますね。わが家では、お惣菜を買ってパックのまま出すことも多いです。

一方で最近は、「力を抜いていいよ」「サボっても大丈夫」というメッセージが、逆にストレスになってしまうこともあるなと感じています。

「ここはこだわりたい」「頑張りたい」と思っていることまで中途半端に切り上げてしまうと、かえってモヤモヤしてしまう。いくら「部屋が汚くてもいいんです」「毎日冷凍食品でもいいんですよ」って言っても、その方がしんどくなってしまう人もいると思います。

それならいっそ、多少無理してでも自分が納得できるまでやり切った方が、精神的に楽になれることもあるんじゃないかなって。

時には「こだわりたい自分」も認めてあげる、ということでしょうか。

山本:はい。もちろん力を抜くことも大事ですが、本人が「やり切りたい」と思うことを家族や社会が尊重するという視点も必要なのかもしれません。力を抜きたい人は抜けて、頑張りたい人は頑張れる……それが一番心身ともに健康的だと思います。

……と言いつつ、育児において「正解」なんていうものはないんだろうなと、いつも思います。

子ども達の誕生日は毎年、めいっぱいお祝い
子ども達の誕生日は毎年、めいっぱいお祝い(ブログより)
「育児に正解はない」と分かっていても、周りと比べて落ち込んでしまうことはありませんか?

山本:めっちゃありますよ! 「子どもの前ではスマホを触らない」とか「子どもには動画を見せない」など、教育方針がしっかりしているお母さん方を目の当たりにするたびに「私もちゃんとせなアカンな......」と思います。

突然「教育ママモード」になって「今日から毎日本を読もう」と子どもたちに呼びかけてみたり、「お小遣いはお手伝い制にする?」とか言ってみたりして。でも結局私が一番続けられなくて「あれ?」っていうのを何回も繰り返しています。いい加減過ぎますよね(笑)。

山本さんにとって「ここだけはちゃんとしておきたい」というボーダーラインはあるのでしょうか。

山本:私はあんまりちゃんとしたラインはないですが「家族のコミュニケーション」は大切にしたいと思っています。学校から帰ってきたら顔を見せて「おかえり」を言うとか、子どもたちの食事の時間に仕事が終わらなかったら、せめて食卓テーブルでするとか。

それから、学校行事への参加や誕生日などの記念日はできる限り優先して「あなたたちのことが大好き」という気持ちを行動や言葉で伝えるようにしてきました。

もちろん、それすらうまくできずに落ち込む日もあるんですけどね。子どもの方が全力で「好き」を伝えてくれて、こっちは昭和の人間やから照れて戸惑ってしまうことが多いです(笑)。

うまくできなくても「明日、やり直そう」と考える

💡POINT
  • 今日できなかった分は、明日やり直せばいいと自分を励ます
  • 親の「完璧ではない姿」を見せることは、子どもの生きる力にもなる
  • 家族が笑顔でいられたらそれでいい
「ちゃんとできなかったな」と落ち込んだときは、どのように気持ちを持ち直していますか?

山本:同じく子育て中の友人に話を聞いてもらうことが多いですね。LINEで愚痴り合ったり、ブログのネタにしたり。そうすると「誰にだって、ちゃんとできない日があるよね」と気持ちが落ち着いてくるし、客観的に見れば笑い話にもなる。

あとは「今日できなかったことは、明日やろう」と考えるようにしています。

「今日は全然話を聞いてあげられなかったな」と落ち込んだときは「その分、明日はもう少し話を聞いてあげよう」と。明日もあさっても一緒にいてくれるんだなと思うと、少し気持ちが楽になります。

毎日を「やり直しのチャンス」と捉える、いうことでしょうか。

山本:そうですね。子育ては「今日きちんとできなかったから終わり」ではなく、ずっと続いていくものなので、ありがたいことに子どもたちは何度でもやり直しの機会を与えてくれます。

親にとって子どもはずっと「子ども」だし、子どもにとって親はずっと「親」。失敗したり、後退したりしながら、やり直していけばいいのかなって。

まぁ「明日は怒らないようにしよう」と誓ったのに、次の日も怒っちゃって「やっぱり無理だった」となることもありますけどね(笑)。

そういうときは「怒るだけじゃなくて、たくさん褒めよう」と気持ちを切り替えています。

クリスマスの食卓の様子
クリスマスの食卓の様子(ブログより)

それに、親がちゃんとできていないところを子どもに見せるメリットもあると思っています。私のできていないところを見て育った子どもたちは、いい意味で「普通」の基準が低いので、どんな環境でも生きていけるはず(笑)。

家が散らかっていても、買ってきたお惣菜をそのままパックで並べても「まあ、うちはこんな感じやしな」と笑って受け止めてくれる方が、親も子も気が楽ですよね。

確かにそうですね。

山本:結局、私がちゃんとできていなくても、子どもたちが「家族が好き」って思ってくれるなら、もうそれで十分なんだと思います。

「今日もできなかったな」と悩んだり落ち込んだりしても、「子どもたちが笑顔で過ごしてくれていれば、まあいっか」という結論にいつもたどり着いている気がします。

取材・文:佐藤有香
編集:はてな編集部

お話を伺った方:山本ゆりさん

山本ゆりさんプロフィール

料理コラムニスト。大阪在住。3児の母。身近な材料で簡単に作れるレシピをブログやSNSで紹介。電子レンジを活用した時短レシピなど、誰でも再現しやすいシンプルな工程が人気を集め、著書『syunkonカフェごはん』シリーズは2024年7月時点で累計780万部を突破。
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ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ|夫婦は他人だから「すり合わせ」が全て

ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ

お笑いコンビ・ニッチェの江上敬子さんに「パートナーと信頼し合える関係を築くコツ」について伺いました。

仲の良かったカップルが、結婚や出産を経て衝突するようになる……というのは、よく聞く話です。 江上さんも、結婚後にパートナーとの関係性が変化した1人。

幾度ものすり合わせを経て、今は協力しながら育児ができるようになったという江上さんに「話し合いのコツ」を聞きました。

夫婦は「すり合わせ」が全て

💡POINT
  • 「価値観が合う」と感じとんとん拍子で結婚
  • 結婚後「価値観の違い」が浮き彫りに
  • 幾度もの「すり合わせ」を経て、今は家事も育児も協力し合える関係に
江上さんとパートナーさんは、もともと行きつけの飲み屋が同じだったそうですね。

江上敬子さん(以下、江上):はい。たまたま一緒に飲んだときに「価値観の合う彼となら、うまくやっていけるかもしれない」と感じられて、その後すぐにお付き合いし結婚しました。

私はちょうどその少し前に卵巣腫瘍の手術をしていて、お医者さんと将来の妊娠について話をしたばかりだったんです。

結婚や出産など自分の将来について考えているタイミングだったからこそ、結婚までの展開が早かったんだと思います。

ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ

とんとん拍子で始まった結婚生活は、いかがでしたか?

江上:一緒に暮らしはじめてから、いろんな衝突がありました。私は仕事が忙しかったので、そもそも夫と顔を合わせる時間が少ないし、家の中はぐっちゃぐちゃ。

それでも最初のうちは「家庭のことは妻がしなければならない」という思い込みがあり、頑張ろうとしていたんです。でも、すぐに限界を迎えました。

そこから話し合い「大人なんだから、自分のことは自分でしよう」という結論を出せたのが、夫婦として最初の転機だったと思います。

価値観が合うと思って結婚しても、生活が始まると違いが見えて来るものですよね。

江上:夫婦なんて他人なんだから、すり合わせが全てなんですよね。

性格も、それまで送ってきた人生も違うんだから、すり合わせないと何もはじまらない。そのことに結婚当初に気づけて本当に良かったと思います。

お二人は不妊治療を経てご出産されたとのことですが、お子さんを授かってからの「すり合わせ」はいかがですか?

江上:都度話し合ってきたと思います。例えば食事関連のタスクについて。

以前夫は「食事作り以外のタスクはやる」というスタンスだったんですけど、私は「食事作りも含めた全てのタスクを2人ともできる状態」にしたかったんです。

だから、子どもを授かる前から夫に料理を練習してもらったり、無事に出産したら離乳食の準備にもチャレンジしてもらったり。何度もぶつかり合いながら「こうしてほしい」という思いを伝えてきました。

その結果、今わが家の夕飯はほとんど夫がつくってくれています。

ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ

すごい……! 産前も産後も、しっかり向き合ってきたことがよく分かります。

江上:今は夫が日々の子どもの食事や送迎といった「毎日絶対やらなくちゃいけないタスク」のメインを担ってくれています。

私は「先延ばしにはできるけど、どこかではやらなくちゃいけないタスク」……例えば「子どものサイズアウトした服を選別して新しい服を用意する」などを担当しています。

私が夜22時くらいに仕事から帰ってきたら、「あしたのジョー」の試合後みたいに夫は燃え尽きている……みたいな生活です(笑)。

で、「ありがとうね」と寝かしつけを代わり、夫は気分転換にちょっと飲みに行く。この型をつくれたのは、ぶつかることをあきらめなかったおかげなんじゃないでしょうか。

ケンカするときこそ、感謝とリスペクトを忘れずに

💡POINT
  • 「正論」のときほど伝え方を気をつける
  • 相手のリスペクトできるところを思い出すと少し冷静になれる
  • 仲裁者がいた方がいい場合も
ケンカを恐れずにぶつかるといっても、夫婦間の話し合いはなかなか難しいことだと思います。江上さんご夫婦は、どんなふうにコミュニケーションを取ってきたんですか?

江上:夫は基本的にぶつかり合いを嫌がるので、火をつけるのはいつも私です。

「その話、いましなきゃいけないの?」なんて何度も避けられそうになりながら、根気よく着火して、爆発をきっかけに言いたいことを言い合う、みたいな。だから「もう出ていく!」とか「逃げるなよ!」なんて叫んだり、腹が立って皿を投げたりしたこともありますよ。

お互いに我が強いし、ケンカしているときは相手をすっごく嫌なやつだと思います(笑)。

ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ

……それほどぶつかり合っても離婚せずに済んでいるのは、どうしてですか?

江上:すっごく嫌なやつだと思うけど……実は同じくらい、私もダメなやつなんですよね。だから、夫婦としては最悪だけど最高というか、ほかに合う人はいないんじゃないかなって。

「争いは同じレベルの者同士でしか起こらない」というけれど、まさに、私たち夫婦は同じレベルなんだと思います。それに、いい部分もいっぱいあるから、すり合わせさえすればなんとかなる気がするんです。

すり合わせをしたいだけで、仲違いをしたいわけではない、と。では、話し合いが無駄にヒートアップしないために、気を付けていることはありますか?

江上:自分が「正論だ」と思うことを言うときにこそ、伝え方には気を付けています。

正論って正論なだけで、「その場面で相手にかける言葉として正しい」とは限らないんですよね。それに、私が正しいと思っているだけで、相手には相手の正論がありますから。

だからこそ、どういう言い方をすれば相手が受け止めやすくなるかを考える。こちら側の意見を聞いてほしいときは、こちら側が工夫するしかありません。伝えたいオチに向けた台本を、頭の中で筋道を立てていくわけです。

いきなり正しさで殴らないようにする、ということですね。具体的にはどんな伝え方をするとうまくいきますか?

江上:まずは「いつも〇〇してくれてめっちゃ助かってるよ」と、日々の感謝を伝えるところからはじめてみる、とか。

育児の進め方で何か気になることがあるときも「こうして」とはっきりリクエストするのではなく、「こうするといいんじゃないかと思うけど、時間がないから無理だよね……」みたいに、意見を押し付けないように伝えています。

だって、仕事して帰ってきて夜の育児対応を全部やっている夫の方が絶対に大変ですから。

怒っているときに思い出すのは難しいんだけど、やっぱり相手への感謝やリスペクトが大事なんですよね。

ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ

江上さんは、パートナーさんのどんなところをリスペクトしているんでしょう。

江上:人のために「自分の時間」を快く差し出せるところです。

何か頼み事をしても「いいよいいよ、俺やっとくから!」って気持ちよく対応してくれるんです。あの時間の差し出し方は、日本でも指折りなんじゃないかな。

私だったら、つい「う〜ん、連日忙しくてしんどいけど……まぁ、分かった。いいよ」みたいな、余計なことを言っちゃいますね(笑)。

あと夫はバリバリの「昭和の男」なのに、まわりに「うちの嫁さんは仕事を頑張って、稼いできてくれてるから」と話していて。私のこともリスペクトしてくれているんですよね。心の中ではその状態に複雑な思いもあるだろうに。

ケンカしているときにもそういう相手の素敵なところを思い出すと、自然と言い方が穏やかになるような気がしています。

それから、人前でケンカをするのもいいと思いますよ。

人前でケンカ、ですか?

江上:お互いの行きつけの飲み屋でケンカをすると、周りの常連さんたちが止めてくれるんです。

仲裁してくれる人がいると安心できるし、間に1人いてくれるだけで、話し合いがちょっとマイルドになる。不妊治療中に離婚危機に至るまでの大ゲンカをしたときも、飲み屋の大将が間に入ってくれたおかげで、まともに話し合いができましたから。

つらさを分かち合うと、関係性は良くなっていく

💡POINT
  • 「10日間のワンオペ」を機に、お互いをより認め合える関係に
  • 「私ばっかり」という気持ちも同時に薄れていった
  • 話し合いは未来のために“今”やっておいた方がいい
度々の話し合いの末、お互いの不満が減り「協力し合えるようになった」と実感したのは、いつ頃からでしょう。

江上:コロナ禍に第二子を授かってすぐ、私が感染して家庭内隔離が必要になったときが大きなターニングポイントだったと思います。

家族もみんな濃厚接触者なので、10日間家にこもることになって……そのあいだ夫がワンオペで1歳半の息子を見てくれたんです。

3食自炊をして、心配している私に子どもの食事の写真を送って安心させてくれて、外に出られない中ありとあらゆる手で子どもと遊んで。

深夜、私がお風呂に入るために部屋から出ると、YouTubeをつけっぱなしにしたまま、夫と子どもがリビングで寝落ちしているんです。私は手を消毒して、二人に布団をかけて電気を消し「ごめんね」と思いながら寝室に戻る……そんな生活でした。

ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ

想像するだけでも大変なのが伝わります......。

江上:10日間のワンオペをやりとげた夫を今でもすごく尊敬しているし、この出来事をきっかけに夫を見る目が変わったんです。「やっぱりこの人と結婚してよかった、この人しかいない」と思い直しました。お互いをより認め合える関係性になれたな、と。

それまではなんだかんだ私がメインで家事育児をしていたけれど、夫も「俺も1人でできるんだ」と自信がついたんじゃないかなと思います。夕食のほとんどを担当してくれるようになったのもそれからでしたし。

パートナーさんも、これまでメインで家事育児を担ってくれた江上さんへの感謝を改めて感じたんでしょうね。

江上:つらさを分かち合うと仲が深まりますよね。

逆に私も「私ばっかりしんどい」という気持ちが薄れていきました。以前は、夫に「やっておいたよ」と報告されると「いつも私もやってるから!」と張り合いたくなってしまっていたんですよね。

でも、今は素直に「ありがとう!」って思います。そのスタンスになってからの方が、家庭もうまく回るようになりました。

人間って基本、大人になったらもう変わらないと思うんです。でも、夫は変わってくれたし、私も変わった。こんな年齢になっても、人間って努力すれば自分を変えられるんですよね。

ニッチェ・江上敬子さんに聞く、夫と話し合うコツ

江上さんご夫婦が話し合うことを諦めなかったからこそ、かもしれませんね。

江上:自分が思っていることを言葉にするのは難しいし「話し合うのってしんどいな、嫌だな」って思うときもあります。

でも、今話し合っておかないと、未来が絶対にもっとしんどくなりますから。そこは「必要な手間だ」とある意味で割り切って、これからもすり合わせていきたいですね。

文:菅原さくら
写真:是枝右京
取材・編集:はてな編集部

お話を伺った方:江上敬子さん

ニッチェ・江上敬子さんプロフィール

1984年、島根県生まれ。2005年、日本映画学校で出会った近藤くみこさんとお笑いコンビ『ニッチェ』を結成。コンビで漫才、コント、単独で俳優としても活動。2015年、8歳年上の一般男性と結婚し、2020年に第1子となる男の子、2022年に第2子となる女の子を出産。
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「部下の様子がおかしい」ときの声かけのコツ|コミュニケーションのプロが「大丈夫?」を使わない理由

「部下の様子がおかしい」ときの声かけのコツ

いつもと様子が違い、何か困りごとがありそうな部下に「どうコミュニケーションをとったらいいか分からない」と悩んでいませんか。

今回お話を伺ったのは、映画やドラマ撮影の現場をサポートする「インティマシー・コーディネーター」の西山ももこさん。安心できる環境作りのため、パワーバランスの差がある監督や俳優の間に入り調整役を担っています。

繊細さや気遣いを要する仕事で培ってきたノウハウを元に、困っている部下への「声かけ」のスキルについて伺いました。

相手との「パワーバランスの差」に気付いていないケースは多い

💡POINT
  • 立場や年齢、経験、性別によって上下関係や力の差は生まれるが、無自覚な人も多い
  • 自分も「強い側」にいるかもしれないという意識を常に持つ
  • 「嫌」と言い出せず「大丈夫」と答えることもある
近年、耳にする機会が増えてきた「インティマシー・コーディネーター」ですが、どのようなお仕事なのか改めて教えてください。

西山ももこさん(下記、西山):映画やドラマ、舞台といったエンターテインメント作品において、性的なシーンやヌードなど「身体の露出がある場面」をどう表現するか、監督や俳優の間に入り調整する仕事です。

まずは監督にどんな演出をしたいのか細かく聞いて、それを俳優さんに共有し「できること」「避けたいこと」など意向を丁寧に確認していきます。必要があれば代案を提案しながら、俳優が安心して演技ができる環境を整えます。

特に若い俳優は「“できない”と言ったら、次の仕事が来なくなるかも」と考え、本当はやりたくなくてもつい「できます」と言ってしまいがち。

監督と俳優の間には、無自覚な「パワーバランスの差」があることを常に念頭に置いて、「NO」なら「NO」と安心して言える雰囲気づくりが求められます。

監督と俳優の関係のように、一般的な職場でも上司と部下の間には「パワーバランスの差」が発生しやすいです。西山さんはどんなことを意識していますか。

西山:多くの人は自分のパワーに気付いておらず、無自覚なんです。でも立場や年齢、経験、性別によって、上下関係や力の差はどうしても生まれてしまうと私は考えています。

だからこそ日頃から「自分も無意識に強い側にまわってしまう可能性がある」という前提を持ちながら、相手と接してみてほしいです。

「部下の様子がおかしい」ときの声かけのコツ

大事なのは「自分がされたらどうか」ではなく、「相手はどう感じるか」を考えること。例えば、「電話」というコミュニケーション方法一つとっても、負担が大きいと感じる人もいます。

もちろん「相手はどう感じるか」は直接聞いてみないことには分かりません。パワーバランスの差があるからこそ、ちゃんと相手の意向を確認する姿勢が大切だと思っています。

なるほど。

西山:ただ、どれだけ丁寧に意向を確認しても、それでも「嫌」と言い出せない人もいると思うんです。

たとえ相手が「大丈夫です」と答えたとしても「本当は嫌かもしれない」「無理しているかもしれない」と常に頭の片隅に置いておく。

意向を確認したから「OK」ではなくて、「パワーバランスの差がある」と自覚し続けることが大事だと思っています。

部下への声掛けのコツ【1】「大丈夫?」と聞かない

💡POINT
  • 「大丈夫?」ではなく、進捗や期限など具体的に質問する
  • 仕事では「曖昧さ」をなくすことがお互いの安心感につながる
  • 「できない」と言える関係性は結果的に自分を守る
ここからは、西山さんが普段実践されている「声掛け」から、職場でも実践できるコツを伺いたいです。まずは困っていそうな部下や後輩がいたとき、どう言葉をかけると良いでしょうか?

西山:「大丈夫?」と聞かないこと。

つい反射的に「大丈夫です」と答えてしまう人が多いので、「来週の打ち合わせまでにここまで進められそう?」「この仕事、この日までで無理はない?」などできるだけ具体的な質問を心掛けてみてほしいです。

特定のタスクや期限に絞った質問であれば相手も「それなら大丈夫」「それは難しい」と具体的に答えやすくなるのではないでしょうか。

また今は「大丈夫」でも後で「やっぱり無理かも......」となるケースもあると思うので、一度「OK」と言われても鵜呑みにし過ぎず、時間を置いてから都度確認するようにしています。

「部下の様子がおかしい」ときの声かけのコツ

何度も確認すると「しつこい」と思われてしまいそうで、塩梅が難しくはありませんか.......?

西山:その気持ちはすごく分かります。ただ、業務上必要なことであれば「何度もごめんね」と前置きしながら、ためらわず聞いてしまってもいいのかなと。

本人が「大丈夫」と言うならある程度見守ることも必要ですが、自分の憶測で事を進めるより、聞いた方が早いし確実なケースが多いと思います。

これがプライベートだったら話は別かもしれませんが、仕事においては「曖昧さ」をなくした方が双方の安心感につながるのではないでしょうか。

何度も声をかけることにハードルの高さを感じるようであれば、「今は大丈夫でも後で変わることもあるだろうから、そのときはすぐに教えてね」とだけ伝えておくというのも良いと思います。

確かに部下の立場で考えると、上司に「気持ちが変わることもある」という前提でいてもらえると、いざ困ったときにも安心して相談できそうですね。

西山:一番避けるべきは、締め切りギリギリや当日になって「実は大丈夫じゃなかった」と発覚すること。そのタイミングだと、巻き取る側の負担が非常に大きくなってしまいますよね。

少しでも早い段階で「やっぱりできません」と言ってもらえた方がマシだと私は考えています。

安心して「できない」と言える関係性でいることは、結果的に自分を守ることにもつながるんです。

部下への声掛けのコツ【2】「できない」理由は追求しない

💡POINT
  • 理由を求められると「責められている」と感じる人も
  • 最初から話を深掘りしようとしない
  • 相手が自己開示し始めたときは“聞く”に徹する
現場で俳優から「できない」と言われたとき、西山さんはどう対応していますか?

西山:「そうなんだね、了解」と受け取り、理由は追求しないように心掛けています。そして「できない部分はどうするか」と、一緒に代替案を考えます。

人は理由の説明を求められると、責められているように感じてしまうもの。「大丈夫じゃなかったら言ってね」と伝えておきながら「結局、責められるんだ......」と受け取られると、不信感が生まれてしまいます。

「できない」と言われると、何か事情があるのかなとつい深掘りしがちですが、あまりいい方法ではないんですね。

西山:「話を聞いてほしい」と言われればもちろん聞きますが、仕事においては相手の話をじっくり掘り下げるのがいいとは限りません。

私も過去に、良かれと思い掘り下げて質問したら「答えたくない」「そういうことは聞かないで」と言われてしまったことがあって。

どんなコミュニケーションを求めるかは人によって違うので、最初から深掘りしようとしない方がいいのかなと。

「部下の様子がおかしい」ときの声かけのコツ

会話の流れの中で、仮に相手が深く話し始めた場合はどのように対応できると良いでしょうか。

西山:そういうときは、あまり自分の話はしないように心掛けています。

つい「私のときはね」とか「私もこんなことがあったんですよ」と自分の話を重ねてしまいそうになるのですが、そこはぐっと我慢。

まず「そうなんだね」と一旦受け止めて「じゃあどうしたい?」とか「どうしてほしい?」と聞く側に回ることが大切です。

でもこれがなかなか難しいんですよね。「今日も自分の話ばかりしてしまったな......」と、私もよくひとり反省会をしています(笑)。

部下への声掛けのコツ【3】自分と他者の“線引き”を大切に

💡POINT
  • 「間違った!」と思ったらすぐに謝る
  • うまくいかないときは距離を置いたり第三者に任せる
  • 「自分ができることには限りがある」と自覚し、一人で背負い込まない
部下へ声掛けをする中で「余計なお世話だったかも」「警戒されてしまった」と反省するケースもあるかと思います。そのような時は、どうリカバリーできると良いでしょうか......?

西山:私はあまり重く考え過ぎず「ごめんね、次は気をつけるね」とすぐに謝るように心掛けています。

コミュニケーションに正解はないですし誰でも間違えることはあるので、そのくらいのカジュアルさも必要だと思うんです。

それでも関係がうまくいかないようなら、少し距離を置くことも大切です。個人間で抱え込むよりも、第三者に任せた方がスムーズに進むこともあるでしょう。

「部下の様子がおかしい」ときの声かけのコツ

自分一人で抱えようとすると、さらに空回りしてしまう場合もありそうですもんね。

西山:そうだと思います。大切なのは「自分がしてあげられることには限りがある」と自覚すること。

私も昔は人の荷物まで背負い込んでしまうタイプで、一緒に働いてきたスタッフが業界から離れる決断をしたとき、「私のせいかも……」と自分を責めてしまったことがありました。

でも、カウンセリングを受けたときに「それはあなたの問題ではないですよね?」と指摘されて、ハッとしたんです。

たとえ上司であっても、彼らの人生や選択まで背負うことはできません。ですから「できる範囲で」と割り切って、過度に気を使ったり、無理して仲良くなろうとしたりする必要はないと思います。

「良い上司になろう」と気負い過ぎる必要はない

💡POINT
  • 上司の仕事は「部下の味方をすること」ではない
  • だから、「何でも相談される上司」を目指す必要はない
  • 「必要な仕事」を全うするだけで、周りからの信頼は得られる
多様性を尊重しようとすると、より細やかな気配りが必要になりますね。

西山: そうですね。ただ「気遣いって大変だなぁ......」とプレッシャーを感じる必要はないと個人的には思いますね。

インティマシー・コーディネーターは、弱い立場の人の味方ではなく、あくまで「良い作品づくり」のためにいる存在です。それは「上司」も同じで「部下の味方をすること」が本来の目的ではきっとないですよね。

部下に頼られる存在というのは、あくまで「良い仕事」をするために必要な要素であって「何でも相談される上司になろう」と気負う必要はないと思います。

「部下の様子がおかしい」ときの声かけのコツ

なるほど。

西山: インティマシー・コーディネーターも特別なコミュニケーション能力が求められる仕事だと思われがちですが、良い作品づくりのために必要な業務をきちんとこなせることの方が私は大事だと思っていて。

上手にコミュニケーションを取ることで得られる信頼もありますが、業務や確認といった「地味だけど必要なこと」を丁寧に全うすることでも、周りからの信頼は十分に得られると考えています。

取材・文:貝津美里
編集:はてな編集部

お話を伺った方:西山ももこさん

西山ももこさんプロフィール

高校から大学卒業まで、アイルランドで暮らし、チェコのプラハ芸術アカデミーに留学。2009年からはアフリカ専門の撮影コーディネート会社に勤務し、2016年よりフリーランスに。2020年にインティマシー・コーディネーターの資格を取得したほか、ハラスメント相談員、ハラスメントカウンセラーの資格も保持している。著書に『インティマシー・コーディネーター 正義の味方じゃないけれど』(論創社刊)。

仕事ができず自己嫌悪に陥っているあなたへ。カレー沢薫さんに聞く「頑張れない日も自分を責めずに働く方法」

カレー沢薫さんに聞く「頑張れない日も自分を責めずに働く方法」

家事や育児、体調に振り回されながら「仕事もちゃんとやらなきゃ」と考える。でも、全てを完璧にこなすのは難しく、できない自分を責めたり、苦しくなってしまう……。そんな経験はありませんか。

今回お話を伺ったマンガ家・コラムニストのカレー沢薫さんは、最新エッセイ『〆切は破り方が9割』(小学館)で「原稿の9割は催促されてから書いた」とつづっています。

そんな自分の「ちゃんとできなさ」にどのように向き合ってきたのでしょうか。

「ちゃんとできない」のはあなただけじゃない

💡POINT
  • 「できて当たり前」がうまくできない人もいる
  • できないことがあると自分を責めてしまいがち
  • 仕事の「つらさ」や「度合い」は人それぞれ
本書には「締め切りを守らない作家」や「催促を忘れる編集者」など、仕事の“ちゃんとできない”エピソードがたくさん登場します。このテーマに込めた想いをお聞かせください。

カレー沢薫さん(以下、カレー沢):社会の中で「できて当たり前」とされることが、うまくできない人もいる。そのことが伝わったらいいな、と思って書きました。

私は昔、会社員とマンガ家を兼業していたのですが、会社で働いているときは「どうしてこんなこともできないんだろう」と自分を責めてしまう瞬間がたくさんありました。

特に、複数人との報連相(報告・連絡・相談)を求められる仕事がとても苦手で。相手にどう伝えればいいか、考えるだけで時間も体力も消耗してしまっていました。

かといって、やらなければ周りに迷惑をかけてしまいますから、いつもぐったりと疲れていて......。

「自分を嫌いにならずに生きる極意」をつづったエッセイ集
▶『〆切は破り方が9割』(小学館)

「社会人ならできて当たり前」とされていても、必ずしもみんなが得意とは限らないし、「ちゃんとやらなきゃ」と思ってもできないこともありますもんね......。

カレー沢:仕事のどんなところにつらさを感じるかも、つらさの度合いも人それぞれですよね。中には、外で働いたり人と接したりするだけでも、心や体に負担がかかる人もいます。

それを「私だけちゃんとできない......」と考えてしまうと苦しいですから、本書では私の身の回りに起きた数々の「ちゃんとできない」エピソードを盛り込んで、「あなただけじゃないよ」と伝えられたらいいなと思いました。

「少なくともここに1人いるよ」と。

どんな仕事でもしんどい。だからマシなものを選ぶ

💡POINT
  • 仕事を変えたら働くのが楽になった
  • 自分に合う仕事は“消去法”で選ぶ
  • 仕事は生活のためにするもの。楽しくなくてもいい
会社を退職し専業マンガ家になることで、かつての「働きにくさ」に変化はありましたか?

カレー沢:かなり楽になりました。マンガ家は報連相ができなくても、〆切を守れなくても怒られにくい仕事だと私は考えていて。

もちろん「いい作品を出し続けなければならない」という別の大変さはありますが、会社員より私にとってはよっぽど楽ですね。

今同じように苦しんでいる人がいたら、苦手なことを無理に克服しようとせず「苦手なままでも働ける環境」を探してみるのもいいんじゃないかなと思います。

「苦手なままでも働ける環境」として「マンガ家」を選んだのはどうしてだったのでしょうか?

カレー沢:「マンガ家になりたい」という気持ちはずっとありましたが、マンガを描くことが特別得意だったわけではないんです。

ただ会社員にもあまり向いていなかったし、他にできることがなかったので......。

今でもたまにマンガ家の仕事がつらいと感じることもありますが、「じゃあまた会社員に戻れる?」と考えると、やっぱり厳しいんですよね。外で働くことや、人と働くことが苦痛だった過去を思い出すと「じゃあ、マンガを描くしかないな」と思うんです。

「どの道を選んでも仕事はしんどいものだ」という前提で、「よりつらくない方はどっちだろう」と消去法で選んでいます。

『〆切は破り方が9割』より
『〆切は破り方が9割』より
マンガ家というと特殊で「夢」の対象にもなりやすい仕事というイメージがありますが、消去法で選んでいるというのは、意外ですね......!

カレー沢:もし自分の得意なことや好きなことが明確にある人だったら、それを少しでも仕事に生かす方法を考えてみるのが良さそうですけど、私のように「得意・好きってほどのものがないんだよな......」という人は、いったん「何もない自分」をそのまま受け止めるところから始めてもいいのかなって。

仕事は生活のためにするものであって、別に楽しくなくていいんですよ。

「何もないな〜自分」とフラットに受け止めて、そこから少しでもマシなものを選んでいくのもありなのかなと思います。

自分が「できない」のではなく、社会が厳しい

💡POINT
  • 自分を責めてしまうとき=疲れているときなので、まずは休む
  • 仕事の「できない」を自分の問題として抱え込み過ぎない
  • 給与をもらえるだけで「自分は役に立てている」と考える
「しなきゃ」と思っていたことや、「できて当たり前」とされることがうまくできないとき、自分を責めてしまう人は多いと思います。自己嫌悪に陥らないために、カレー沢さんはどのように切り替えていますか?

カレー沢:体が疲れていると考え方がどうしてもネガティブになりがちなので、自己嫌悪を感じるようになったら「あ、ちょっと疲れてるのかも」と考え、まずは休むのが大事だと思っています。

その上で、私のエッセイもそうですが、世の中には失敗をユーモアに変えて表現している作品がたくさんありますから、そういうものに触れて少し気持ちを落ち着かせています。

あとは、仕事での「できない」を必要以上に個人の問題として抱え込まないことでしょうか。

「その人の力をどう生かすか」を一緒に考えることも職場や社会の大事な役割ですから、「私がダメ」ではなく「社会の方が厳し過ぎる」と思うようにしています。

『〆切は破り方が9割』より
『〆切は破り方が9割』より
いい考え方ですね!

カレー沢:あとは、組織の中にいると自分の仕事が誰のどんな場面で役に立っているのかが自覚しづらいですよね。「仕事をして給与が入る=自分は誰かの役に立っているんだ」と思ってみてほしいです。

もし給与で実感するのが難しかったら、趣味やプライベートなど仕事以外でいいから、人から直接褒められたり感謝されたりする機会を持つのもいいと思います。

例えば、誰かに料理を作って「美味しい!」と言ってもらえるだけでも、結構うれしいものですよね。

私も自分のことを「ダメ」と考えがちだったのですが、マンガ家になってからは読者から感想をいただいたり本が売れたり、誰かの役に立っている実感を得やすくなって、自分を肯定できる瞬間が増えた気がします。

年を重ねれば、昔のように働けなくて当たり前

💡POINT
  • 「昔の自分」と比べず「今の自分」を受け入れる
  • 「昔みたいに頑張れない」と感じるのは、これまで頑張ってきた証
  • 今の年齢や体力、ライフスタイルに合わせてギアを変える必要がある
長く働く中で「これまでの自分だったらできていたこと」が、育児や体調の変化で急にできなくなることもあると思います。そんなときでも、仕事を続けていくコツはありますか?

カレー沢:「昔の自分」と比べると、どんどん気持ちが沈んでしまうので「これはどうしようもないことだ」と、まずは認めることを大事にしています。

私も40歳を過ぎてから体力の低下を感じ始めています。こなせる仕事量が減るとついネガティブになってしまうんですよね……。

昔のように面白いアイデアが浮かばなかったり時間がかかったりして、自分の才能が枯渇したんじゃないか……なんて思うこともあります。

でも、年齢を重ねれば当たり前に体力は落ちますし、育児や介護で働く時間が限られれば、できないことが出てくるのは自然なことです。

だから「頑張れていない」と自分を責めるのではなく、「自分に合った働き方を選べる年齢・環境になった」と考えてみるのはどうでしょう。

実際にはまだそんな立場じゃなくても、そう思うだけで十分です。「ペースを少し落としてもいい立場になったんだ」と考えると気持ちがふっと楽になるかもしれません。

『〆切は破り方が9割』より
『〆切は破り方が9割』より
たしかに、そうですね。

カレー沢:「昔みたいに頑張れない」と感じる人ほど、若い頃に一生懸命やってきた証だと思うんです。だから、これまでの努力をいったん認めてあげて、今の年齢や体力、ライフスタイルに合うようにギアを調整してみてはどうでしょうか。

これからも長く働けるように、仕事との向き合い方を柔軟に変えていけるといいですよね。

取材・文:貝津美里
編集:はてな編集部

お話を伺った方:カレー沢薫さん

カレー沢薫さんプロフィール

マンガ家・コラムニスト。2009年『クレムリン』(講談社)でデビュー。主な著書に『負ける技術』(講談社文庫)、『ブスの本懐』(太田出版)『ひとりでしにたい』(講談社)『〆切は破り方が9割』(小学館)など。
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鞘師里保さん|「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために大切なこと

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

「真面目過ぎる」「気を使い過ぎる」「頑張り過ぎる」など、自身の“〇〇過ぎる”性格に悩んだり、窮屈さを感じていたりいませんか。

元モーニング娘。のエースとして活躍し、現在はソロアーティスト・俳優として活動する鞘師里保さんも“過ぎる自分”と向き合ってきた一人。最新EP「Too much!」には「私たちはいつも『ちょうどよく』なんていられない。そんな『すぎる』毎日を肯定したい」といったメッセージが込められています。

そんな鞘師さんに自分の“過剰さ”と向き合い、肯定するためのヒントを伺いました。

Too much!/鞘師里保

約4年にわたるインディーズでのソロ活動を経て、2025年夏に本作でavexからメジャーデビュー。「働きすぎて、考えすぎて、優しさを与えすぎて、もらいすぎて。日々の中で、私たちはいつも『ちょうどよく』なんていられない。そんな『すぎる』毎日を肯定したい」というメッセージのもと全6曲を収録。
▶「Too much!」通常盤/CD+Blu-ray

「ちょうどいい」生活ができない私たち

💡POINT
      
  • 働き過ぎたり、逆に脱力し過ぎたり。「安定」は難しい
  • 「なんで私は」とネガティブ思考に陥るより、自分と上手に付き合う方法を見つけていく
  • 「too much」には「最高!」というポジティブな意味も
「too much」という英単語には、「過剰な」「〜過ぎる」といった意味があります。改めて、この言葉を作品のタイトルに冠した理由を教えてください。

鞘師里保さん(以下、鞘師):私自身がこの言葉通りの人間で……。

「自分らしいスタイルで人生の困難を乗り越えてきた、仕事もプライベートも充実したタイプ」ではなく、働き過ぎてしまったり、逆に時間に余裕があると脱力しすぎてなかなか仕事モードになれなかったり、毎日本当に安定していなくて……。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

ちょうどいい生活ができたらいいのにな、なんて気持ちを抱えながら毎日を過ごしているのですが、同じ悩みを抱えている方はきっと世間にたくさんいらっしゃると感じています。

「なんで私はこうなんだ」と“内”にこもってしまうと、ネガティブ思考がどんどん増してしまう。だからこそ「近い生き方をしている人があなた以外にもいる」「上手に自分と付き合う方法を見つけていこう」というメッセージをこの作品を通して発信したいと思いました。

あと、英語圏では「too much」をポジティブな意味で使うこともあって。

どういうときに使うんですか?

鞘師:普通じゃない=素晴らしい」という意味で、褒め言葉として使うことがあります。「あなたのダンス、too muchだね!」みたいな。

一見ネガティブに捉えがちな言葉でも、使い方によってはポジティブになるというところが気に入って、タイトルに採用しています。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

「頑張り過ぎる」ことで自分を追い詰めてしまったモーニング娘。時代

💡POINT
  • ただ頑張っているだけなのに「真面目過ぎる」と言われて
  • 周囲と考えが違うことをネガティブに捉え、自分の気持ちを隠してしまっていた
鞘師さんは12歳でモーニング娘。に加入した当時から、メンバーやファンに「真面目」「ストイック」と評されていましたが、そういった性格はどうやって形作られていったと考えますか。

鞘師:おそらく私の「真面目」な性格の根っこには、「焦り」があると思います。

小学生の頃にアクターズスクール広島に通い始めて、もともとダンスは「好き」で「得意」でした。でも、デビューして求められるレベルと量が増えて、「好き」で「得意」だったはずのことができなくなるのではないかという不安を感じるようになって

できないことがないように、失敗しないようにといった焦りから、ただ頑張っていただけ。でも、そんな私のことを周囲は「真面目」で「ストイック」と捉えている。だったら「真面目」で「ストイック」な私でいなきゃ……と。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

「真面目」や「ストイック」であることは決してマイナスではないけれど、「too much」になると、自分を追い詰めてしまったり、周囲に窮屈な思いをさせてしまったり……といったこともあり得ます。鞘師さんもそういった経験はありますか。

鞘師:ありますね。例えば、グループ活動をしていたとき。

「私の頑張りたいこと」に一生懸命過ぎて、ついつい頑固になることがありました。メンバーみんなにもそれぞれ違う「頑張りたいこと」があるのは当たり前なのに、同じでないことをネガティブに捉えてしまいがちで。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

「自分の頑固さを押しつけてチームワークが乱れるくらいなら、私は私で頑張ればいい」と、周りに自分の気持ちを共有できなくなったことがありました。

まだ幼かったから、というのもあると思いますが。今なら議論を重ねて、お互い分かり合うこともできたかもしれません。

「過ぎる」ことで生まれたポジティブな感情や体験を積み重ねていく

💡POINT
  • too muchだからこそ生まれた「いいこと」を成功体験として認めてあげる
  •  
  • 周囲と意見が異なったら、まずは受け入れてみる
  •   
  • それぞれ違うことにこだわりながら、同じゴールを目指していく
鞘師さんが「Too much!」に込めたメッセージのように、自分の「〇〇過ぎる」ところを否定するのではなく、受け入れた上で向き合うことがすごく大切だと感じます。鞘師さんは自分の性質をどう「肯定」していますか。

鞘師:私、こういう性格なので「リスク」をすごく意識してしまって。「もしこれが起きたらどうなるんだろう」「私がこの発言をしたら、こういう影響があるんじゃないか」と考え過ぎてしまう。

でも、だからこそこれまでのキャリアの中で、大きな失敗をすることがあまりなかったと感じています。瞬発力がある人と一緒にいるとバランサーのような役割にもなれますし。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

人それぞれに異なる役割があって、作用し合っていると受け止めているんですね。

鞘師:はい。今は昔より自分の気持ちをラフに表現できるようになっていますし、「too much」な性質がベースにあるのは、自分にとってはむしろいいことなんじゃないかと思えるようになりました。

作品作りやパフォーマンスに「こだわり過ぎ」たからこそ、いいものが完成することもあって。そういう瞬間のポジティブな感情や出来事を成功体験として認めて、積極的に大事にしています。

もちろん、こだわりが結果と比例しないことも多々ありますが。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

自分のこだわりを優先するのか、それとも一歩引くのか、その塩梅はどう判断されていますか。

鞘師:私の場合はこれまでの経験上、周りの意見や新しいアイデアによって「自分の幅」が広がっていくと感じることが多かったので「まずは一回、提案を試してみる」を意識しています。

こだわりが強いからこそ、手を着けることが億劫になってしまうことも多いので……。

あとは、あえて「判断を他者に委ねる」こともあります。いくつかの選択肢が、それぞれ良さも難しさも同じくらいあると、考え過ぎてしまって自分では選べなくなることがあって。自分で選ぶと「やっぱりこっちが良かったんじゃないか」とあとあとも悩んでしまうし……。

人に委ねることで、いい意味で「考えること」から抜け出せると考えています。

他者に委ねることを「責任放棄」と捉える方もいますが、鞘師さんの場合は「こだわり」の先にある最終地点が「いい作品を作ってファンに届けたい」「いい仕事をしたい」だから、その目的が果たされればいい、という考えなんですよね、おそらく。

鞘師:なるほど……! 確かにそうです。すごい、今、しっくりきました。

一緒に働く人それぞれ違うことに「こだわり」があるから、最終地点が一致していればいいんですよね、きっと。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

自分を「認識」する習慣を身に付ける

💡POINT
  • 「頑張ろう」と思うことは素敵なこと
  • 「条件」がある中で、どう工夫をし続けて自分のペースを見つけるかが大事
もし今、鞘師さんの近くに「too much」な自分に悩んでいる方がいるとしたら、どう声を掛けますか。

鞘師:私もまだ模索中ではあるのですが……。

きっと今は「周りと足並みが揃わない、重ならない」「ちゃんとやりたいだけなのに、過剰になってしまう」という自分に、ネガティブになってしまっているのではないでしょうか。

でもそれは「理想や目標に追いつかない自分」への悔しさでもあると思います。「頑張ろう」と思えている時点で、とっても素敵です。そんな自分を“認識する習慣”を身に付けてほしいなと思います。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

確かに「自分を認識する習慣」は多くの人に必要な気がします。

鞘師:考え方も働き方も多様になって、誰もがさまざまな「条件」のもとで生きている

そんな時代の中で大切なのは、「自分のペース」を見つけるために、工夫し続けることだと思います。

……と、私も自分に言い聞かせたいですね(笑)

ファンの方には、私の決意が伝わっていたはず

💡POINT
  • 自分のパーソナリティや考えを発信するのは恥ずかしい
  • 今までの自分を越えたくて「Too much!」をタイトルに
2025年夏に開催されたツアーでも、パフォーマンスやMCから鞘師さんの今作にかけるメッセージ性を強く感じることができました。

鞘師:楽曲そのものにもメッセージを込めていますし、ツアーではパフォーマンスやMCを通して楽曲の「補足」をしていたので、より伝えることができたと感じています。

メジャーデビューという節目の作品で「Too much!」というタイトルを採用したのは、もう一つ理由があって。

私の本来の性格では「自分のパーソナリティや考えていることを歌詞にして表現する」ということはかなり恥ずかしいことなんです……。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

それでも発信したいという気持ちが強かったんでしょうか。

鞘師:はい。恥を捨てることで、これまで自分が引いていたラインを飛び越えて、熱いライブができるようになりたいなと。

私のことを長く見てくださっているファンの方には、ライブでの振る舞いやパフォーマンスを通じて、そういった私の気持ちが伝わったと思います。


モーニング娘。時代のメンバーカラーである「赤」をモチーフにした「Super Red」が表題曲な時点で、しっかり伝わっていると思います。「Too much!」は鞘師さんにとって、一歩踏み出す自身への“激励”でもあったんですね。

鞘師:そうですね。発信したからにはもう後に引けないですし、もし「ちょっと後ろを向きたいな」というときが来ても、「あのとき私はこう考えていたんだ、きっとまたそこに戻れる」と思える、道しるべのような作品になったと感じています。

鞘師里保さんインタビュー。「真面目過ぎる」私たちが自分を否定せず、認めてあげるために必要なこと

【Information】

       
  • 「デスノート THE MUSICAL」に弥 海砂役で出演。2025年11月24日(月休)〜12月14日(日)の東京公演をはじめ、大阪、愛知、福岡、岡山でも開催(公式サイト
  •    
  • 「RIHO SAYASHI 6th Live Tour 2026 -Too much! Session-」2026年2月からスタート。高知、香川、岡山、広島、大阪、神奈川の6都市を巡る(公式サイト

取材・文・編集:はてな編集部
撮影:関口佳代
ヘアメイク:本岡明浩
スタイリング:藤本大輔(tas)
衣装協力:HOUGA(info@houga.jp)

お話を伺った方:鞘師里保さん

鞘師里保さんプロフィール

幼少期よりアクターズスクール広島にてダンスを始める。2011年に当時12歳でモーニング娘。9期生としてデビュー。2015年12月31日、惜しまれながらモーニング娘。を卒業し、その後ニューヨークへダンス留学。2020年9月より芸能活動を再開し、ドラマや舞台、ミュージカルなど活躍の場をますます広げている。
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