子どもの行き渋り、働く親はどう対応すべき? 元小学校教諭の専門家に聞く解決のヒント

子どもの行き渋り、働く親はどう対応すべき? 元小学校教諭の専門家に聞く解決のヒント

子どもが学校に行くのを嫌がる「行き渋り」。人間関係や勉強へのプレッシャー、環境変化によるストレスなど、さまざまな原因によって起こると考えられています。

特に働いている親にとっては、朝の登校と自身の勤務開始が迫るなかで対応・判断に迫られる難題。さらには、その後も行き渋りが続くのではという不安も残るでしょう。

子どもが登校を嫌がったとき、親はどのように対応すればいいのでしょうか? 元小学校教諭で現在はフリースクール「コンコン」代表などを務める福田遼さんにヒントを伺いました。

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時代の変化に伴って「学校に行くこと」の意味が揺らぎ始めている

時代の変化に伴って「学校に行くこと」の意味が揺らぎ始めている

💡POINT
  • 学校に行きたくない理由は「分からない」がほとんど
  • 昨今、教育を取り巻く環境の変化が複雑に絡み合い「学校に行くこと」自体の意味が揺らいでいる
  • 子どもと一緒に登校のメリット・デメリットを整理して、家庭としての方針を決めるのが理想
まず、子どもが行き渋りをする背景について教えてください。昨日まで元気に通学していた子どもが、朝起きて突然「行きたくない」と言い出すこともあると聞きます。いじめなどの明確な悩みがある以外では、どのような要因が多いのでしょうか?

福田遼さん(以下、福田):実は、子ども自身に行きたくない理由を聞いても「分からない」と言われることが多いです。ただ昨今の行き渋りや不登校の背景には、教育を取り巻く環境の変化に伴うさまざまな要因があると考えられています。

例えば、以下のような事象です。

  • 学習指導要領の改訂によって、主体的な思考や発言を促す「アクティブラーニング」が増え、授業を受ける子どもたちのプレッシャーが高まっている
  • 感染症への捉え方や対策が変化するなかで生活習慣や衛生観念も変化し、たくさんの人や物に触れる学校生活に対して、子どもたちの抵抗が生まれやすくなった
  • デジタルデバイスの普及やフリースクールの登場などによって、学校に行かなくても学べる選択肢が増えた


こうした複数の要因が絡み合い、子どもたちのなかで「学校に行くこと」に対する“揺らぎ”が生じているのかもしれません。

登校しなくても、デジタルデバイスを使えば効率的に学べる。フリースクールに行けば人間関係が築ける。そもそも、学校に行かなくても幸せな人生を送っているロールモデルはたくさんいる。

従来の「学校に行かなくなったら勉強ができないし、人生の可能性が狭まる」といった固定観念が揺らぎつつある今「何のために学校に行かなくてはならないのか」という疑問が出てくるのは、ある意味で当たり前だと考えています。

根本的に「学校に行く理由が分からない」ケースが出てきているわけですね。

福田:そうですね。毎朝早く起きて登校し、決められた時間割どおりに集団で行動しなければならない学校生活は、そもそも子どもにとって負荷が高い行動なんです。

学校に行くことに対する疑問を抱えたままなんとなく続けるのは、難しくて当然。社会の急速な変化に対して学校や家庭がついていけていないのも、致し方ありません。

「学校とどう付き合っていくのか」という答えのない問いに向き合い始めたのが、現在の状況だと感じています。

なるほど、無意識のうちに学校に行くのが当たり前だと思っていて「学校とどう付き合っていくか」という視点はありませんでした……!

福田:現時点では、例えば中学生が家庭学習を選ぶと出席日数が確保できず、公立高校の受験が難しくなるといったデメリットがあります。でも、自分で計画的に勉強を進めていけるなら、必ずしも出席しなくたって、何らかの進学先を見つけられる可能性はある。

だからこそ、子どもと一緒に登校のメリット・デメリットを整理して家庭としてどうするのか方針を定めることが、本質的にはとても重要だと考えています。

そもそも学校に行くべきなのかを、あらためて考え直すということですね。

福田:はい。その上で「やはり学校に行こう」となる場合もあれば、別の道を模索する場合もあると思います。

「休みたい」と言われたら、子どもの自己決定を促しつつ擦り合わせを

「休みたい」と言われたら、子どもの自己決定を促しつつ擦り合わせを

💡POINT
  • 進級や長期休暇明けなど、環境の変化があるタイミングで行き渋りが起こりやすい
  • 「休みたい」「保健室登校にしたい」など、まずはどうしたいかを子どもに自己決定させる
  • 子どもに自己決定させた上で、親の意向も含めて擦り合わせを
  • 双方の意向をうまく擦り合わせるために、段階的な選択肢をいくつか用意しておく
ではここからは、家庭として「学校に行くこと」を基本方針に定めた場合の対応について伺っていきたいです。まず、特に行き渋りが発生しやすい時期などはありますか?

福田:進級や長期休暇明けのタイミングなどは、環境や生活習慣が変わるため負荷が高まり、行き渋りが起きやすい時期です。今後の生活に見通しがつきにくい不安感も関係していると思います。

そして先ほどもお話ししたとおり、行きたくない理由を聞いても「分からない」「理由なんてない」が圧倒的に多い。「先生が怖い」「昨日友達とケンカしたから」などともっともらしい理由を教えてくれても、実際には建前でしかなかったりします。

とはいえ、朝の慌ただしいなかで子どもが急に登校を嫌がると、親も焦ってしまいがちです。明確な理由がないと解決のサポートもできず、どうしていいか分からなくなってしまいそうで……とにかく「行きたくない」の一点張りだった場合、親はどんなふうに対応するといいのでしょうか。

福田:私は、一番大切なのは「子どもに自己決定させる」ことだと考えています。

親が「休んでいいよ」と許可する形だと、子どもは他人軸で判断することになって、その後も他責思考を引きずってしまいがちです。

そんな時に私が参考にしているのが、子どもの自律力を磨く取り組みを続ける、教育者の工藤勇一先生の言葉です。工藤先生は子どもの自己決定を促す声かけとして、次の3つの言葉を挙げています。

  • どうしたの?
  • どうしたいの?
  • 私は何を支援したらいい?

参考:教育図書NEWS「工藤勇一×鈴木寛「これからの学校の話をしよう」part2」(詳細)


ここで重要なのは、困りごとをキャッチすること。「どうしたの?」という質問には、子どもが何に困っているのか、課題を整理して客観視するという意図があります。困りごとを吐き出し、保護者に一緒に解決策を考えてもらえるだけで、前向きな気持ちになれることも少なくありません。

しかし、ここで「(行きたくない理由が)ない」「分からない」と答えた場合は次の質問「どうしたいの?」に移ります。そうすると「休みたい」「保健室登校にしたい」などと本人の意向が見えてくるはず。

最後に「何を助けたらいい?」と聞くことで「学校に連絡してほしい」などと頼んでくるかもしれません。このように、親が勝手に動くのではなく、子ども発信の願いを親がサポートする状況を作ることが大切だと考えています。

なるほど。でも、突然「今日は休む」と自己決定されたとき、必ずしも受け入れられるかどうかが不安です。もちろん、できるだけ子どもに寄り添いたいのですが、例えばどうしても出社しなければならない仕事がある日など、すんなり判断ができないケースもありそうです。

福田:子どもが自己決定したあと実際にどうするかは、親の意向も含めて擦り合わせてほしいと思います。

私としては、従来の不登校サポートは「子どもの気持ちが何より大切だから、休みたいならすべてを受け止めて休ませてあげよう」というトーンが強過ぎたのではないかと思っています。親御さんからすれば、子どもが休んで自分が仕事に行けないのはとても困りますよね。

学校を休むか休まないかといった「子どもが主語の行動」は子どもの権利なので、これを親が強制することはできません。ただ、仕事を休んでほしいなどといった「親が主語の要求」は、断ることがあっていいと思っています。

その代わり、どうすればお互いに妥協できるかを、ちゃんとコミュニケーションして探っていきましょう。

その際、子どもの意思とは別に、親御さんが「私は〜と思う」という自分主語で対話することも大切だと思っています。「午前中は会社に行かなきゃいけないから、休むなら一人でお留守番できる? 午後には戻るよ」とか「朝、校門まで送っていけば登校できそうかな?」とか。

寄り添いたい気持ちのあまり、全ての要求を「子どものために」で受け入れていると、変な上下関係が生まれてしまいます。だから、時間のない朝に大変だとは思いますが、親の方からも自分の事情や意思を伝えてみてください。

親の方も「どうしたいか」を伝えていいんですね。ただ、それでも「絶対に休みたい」と言われたら……?

福田:段階的な選択肢をいくつか用意しておくといいと思います。

「学校に行く/行かない」ではネガティブとポジティブの極端な二択になってしまうので「保健室登校にする」「給食を食べ終わったら帰ってくる」「フリースクールに行く」「家で自習する」などのメニューから、自分で選ばせるようにしたいですね。

保育園・幼稚園に通う幼児、小学校低学年生に対しても基本的には同じで、子どもの意向を聞くこと、親の意向を伝えること、段階的で選びやすい選択肢をいくつか用意しておくことが大切です。まだ「言語化」や「選択」が難しい年齢かとは思いますが、少しずつコミュニケーションを重ねてみてください。

ただ、暴言や暴力を振るうなど、社会的に不適切な方法での要求には絶対に応えないようにします。つい、目の前の朝を平穏に乗り切りたくて言うとおりにしてしまいたくなるのですが「泣けば聞いてもらえる」と思われるのは、長期的な視点だとやっぱりマイナスだと考えています。落ち着いて対話できるまで時間を置くことも大切です。

学校を休ませた日、家庭での過ごし方はどうする?

学校を休ませた日、家庭での過ごし方はどうする?

💡POINT
  • いじめなどの明確な原因がある場合は、まず休養を最優先
  • 明確な理由がなく再登校を目指すなら「学校でできないことを家でさせない」
  • 家でやったことの成果が目にみえるような仕組みがあると、自己効力感につながる
そうしたやりとりを経て、子どもが休んだ日。家庭ではどう過ごさせるのがよいのでしょうか。

福田:まず、いじめや人間関係のストレスといった明確な原因がある場合は、文字どおり休養することが大切。精神的な安心感につながるなら、子どものやることに対してとやかく言わずに、子どもが好きなことをする時間を多く取り、メンタルの回復を最優先します。

でも、明確な理由がない行き渋りで、かつ今後はできるだけ学校に行ってほしいと考えている場合は、学校でできる活動に絞って行うようにします。「学校を休んだらゲームができる」という状態になってしまうと、そりゃあ休んだ方が楽しいに決まっていますから。

その代わり、子どもが楽しめて、かつ依存性がないことに時間を使ってもらいます。好きなことの調べ学習や工作、お絵かき、読書など、没頭できる活動に取り組めるよう促しましょう。

ドリルなどの自習計画を立てたり、家庭のお手伝いで役割を作ったりして、やったことの成果が目に見えて分かるようにするのもいいです。小さな達成感を積み重ねることで、自己効力感(「自分にはこれができる」「うまくやれるはずだ」という自信や信念)が育まれます。

ただ、低学年のうちはこういったルールを決めれば納得してくれることが多いですが、学年が上がるにつれ「なぜルールが必要なのか」に疑問を持つようになります。なので子どもが理解できるように説明し、納得感を高めることが大切です。

翌日以降の登校を促すためには、どんな声かけをするといいですか?

福田:学校に行くことの負荷の高さを認めてあげた上で「今はしんどいかもしれないけれど、少しずつ慣れて力がつけば、負荷は小さく感じられるようになるよ」など、成長した先をイメージさせてあげるといいでしょう。

行き渋りが続きそうな場合、学校とどう連携していくか

行き渋りが続きそうな場合、学校とどう連携していくか

💡POINT
  • 慢性化しそうな場合、行き渋りの原因となっている原因を特定し、解消できる方法を考える
  • 学校と相談して「子どもの得意なこと」を学校活動に組み入れてもらい、登校したくなる動機づけを
  • 学校に相談する際は「目標と方針を共有」し、保護者主導で対応しようとする姿勢を示す
一度登校を再開できたとしても、その後また休む日があったりして慢性化しそうな場合は、どのような視点で向き合っていけばいいのでしょうか。

福田:行き渋りが長期化する子どもは、学校生活に対して何らかの困りごとがあると考えられます。原因を特定して解消できれば、登校のハードルが下がっていくかもしれません。

例えば、課題に応じて以下のような手法が考えられます。

  • 学習面で自信を失っている場合
    • 自身のレベルに合った予習復習で学力を高めていくなど、周りではなく「過去の自分と比較するマインド」を身に付ける
  • 友人関係で困っている場合
    • 良好な友人関係を築くための、コミュニケーションスキルを高めるトレーニングに取り組む


ただ、主だった原因を解消してもやっぱり休みがちになる……といったケースも珍しくはありません。その場合は学校との相談が必要ですが、子どもの得意なことを学校活動に組み入れてもらえるとベストです。

作文や読書が得意な子にクラス新聞の係を任せてみたり、電車が好きな子を電車クラブに入れたり。内発的動機が高まる活動があれば、登校したくなる可能性もあります。

そういった活動をさせたい場合、学校とはどんなふうに連携すればいいのでしょうか。

福田:学校には、目標と方針を共有しながら相談するのがいいでしょう。

例えば「今はいきなり教室に行くのは難しいので、給食の時間は別室で食べ、少しずつ友達と接する時間を持つことで登校のきっかけを作りたい。子ども自身も頑張っているので、給食を食べられるスペースを貸してもらえませんか?」など、状況や先の見通しを共有するイメージです。

いきなり「別室を貸してください」だけ言っても、多忙な学校側がすぐ動いてくれるとは限りません。もし教師を責めているように受け取られてしまったら、以降の連携も難しくなってしまいます。

でも「子どもが頑張っているからこうしたい」と、子どもの頑張りをふまえて保護者主導で対応しようとする姿勢を示せば、力になってくれる可能性は上がるのではないでしょうか。

まずは他者に話すことで、自分の考えと状況を整理しよう

まずは他者に話すことで、自分の考えと状況を整理しよう

最後に、仕事と子どもの板挟みになる親のストレスコントロールについても伺いたいです。子どもの行き渋りに対応する日々のなかで、親の心理的な負担を軽くするためにできることはありますか?

福田:子どもの自己決定を尊重したり、納得するまで話し合ったり、大変ですよね……。

そうしたコミュニケーションは、行き渋りの解決のためだけでなく、一生ものの親子関係を築くためにやっていると考えてみるのはどうでしょうか。

ただ実際のところ、行き渋りや不登校の問題は本当に複雑で、親御さんだけで抱え込むには難しい問題だと思います。だから、ぜひ人に頼ってください。

専門家のアドバイスを聞きに行く手もありますが、心に余裕がない状態で正論だけを説かれても、お説教をされた気分になって余計苦しくなってしまうこともあります。

なので、私がファーストステップとしておすすめしたいのは、自分の周囲にいる、問題と直接的に関係のない人にまず話を聞いてもらうことです。例えば、信頼できる友達や地域の保護者会、スクールカウンセラーなどです。ひたすら話を聞いてもらって、自分の感情や考え、事実の整理をしてから、専門家や関連コミュニティーにアクセスするのがいいと思います。

取材・文:菅原さくら
編集:はてな編集部

働きながら、子どもをサポートするには?

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お話を伺った方:福田遼(ふくだ はるか)さん

福田遼さん

1995年、福岡県生まれ。5年間の小学校教諭の経験を経て退職。その後、世界中の教育施設を訪問。子育てのラジオ「Teacher Teacher」で第5回JAPAN PODCAST AWARD大賞。不登校の子が無料で通うフリースクール「コンコン」運営。
「Teacher Teacher」公式サイトX

【2025施行】育児・介護休業法の改正を専門家が分かりやすく解説。仕事と子育ての両立をより支援

育児・介護休業法の改正・武石惠美子さんインタビュー

「育児・介護休業法」が改正され、2025年4月と10月に段階的に施行されます。本記事では主に「育児」に関する部分に焦点を当て、法改正前の研究会の議論に関わった法政大学教授・武石惠美子さんに分かりやすく解説いただきました。

主に「子どもを育てながら働きたい/働いている」方に向け、「子の看護休暇の見直し」「残業免除」「テレワークなど柔軟な働き方を実現するための措置」など、重要なポイントをお届けします。

お話を伺った方:武石惠美子さん

武石惠美子さんプロフィール

法政大学キャリアデザイン学部教授。人的資源管理論、女性労働論、キャリア開発論を専門としワーク・ライフ・バランス支援やダイバーシティ戦略などを研究する。2023年育児・介護休業法の法改正に向けて厚生労働省により設立された「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」の座長を務める。

育児・介護休業法とは?

💡POINT
  • 育児や介護を行う人を支援して、仕事と家庭を両立することを目的とした法律
  • 主に育児休業制度や、介護休業制度、子の看護休暇制度などについて定められている
  • 正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」

武石惠美子さん法政大学教授

1991年の制定(1992年施行)時から「働く人であれば男女ともに対象」としたこと「育児休業の取得に関しては、本人が請求すると事業者(雇用主)は拒めない」強い権利を労働者に与えたことが非常に重要なポイントです

本記事では主に「育児休業」や「子の看護休暇制度」などにまつわる「知っておきたいポイント」を紹介します。

2025年4月からの育児・休業法改正ポイント

育児・介護休業法はそのときどきの社会や労働者を取り巻く環境の変化にあわせて、これまでたびたび改正を重ねてきました。

2024年に改正され、2025年(令和7年)4月1日から施行されたのは大きく以下の9つです。

【1】子の看護休暇の見直し(義務)

【2】所定外労働時間の制限(残業免除)の対象拡大(義務)

【3】短時間勤務制緒(3歳未満)の代替措置にテレワーク追加

【4】育児のためのテレワーク導入(努力義務)

【5】育児休業取得状況の公表義務適用拡大(義務)

【6】介護休暇を取得できる労働者の要件緩和

【7】介護離職防止のための雇用環境整備(義務)

【8】介護離職防止のための個別の周知・意向確認等(義務)

【9】介護のためのテレワーク導入(努力義務)

また2025年10月1日からは、以下の2つも施行されます。

【10】柔軟な働き方を実現するための措置等(義務)

【11】仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮(義務)

  • 出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」(こちら)
  • 出典:厚生労働省「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律 及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律の概要」(こちら)

今回は上記の中から、子育てをしながら(子どもの出産を検討しながら)働いている「りっすん」読者に向けたポイントを解説します。

武石惠美子さん法政大学教授

今回の改正では働く人が職場のニーズも踏まえて、「テレワーク」など“自分や家族に合った仕事と育児の両立方法”が選べるようになる、残業免除の対象範囲が拡大するなど、子どもの年齢に応じて、男女ともにより柔軟な働き方ができるための措置がなされています

子の看護休暇「感染症に伴う学級閉鎖」「入園式」も対象に

育児・介護休業法の改正・武石惠美子さんインタビュー

これまで、子どもの病気やケガなど看護の必要性があるときにのみ取得できていた「子の看護休暇」が「子の看護等休暇」と名称変更され、以下の点が改正されました。

  • 対象となる子の範囲の拡大
    • 小学校就学の始期に達するまで👉小学校3年生修了まで
  • 取得事由の拡大
    • 「病気・ケガ」「予防接種・健康診断」に加えて「感染症に伴う学級閉鎖等」「入園(入学)式、卒園式」も対象に
  • 除外できる労働者の条件が変更
    • 「【1】週の所定労働日数が2日以下」「【2】継続雇用期間6カ月未満」のうち、【2】が撤廃


この改正は「義務」となっており、事業所(雇用主)は就業規則などの見直しが必要となります。

武石惠美子さん法政大学教授

感染症に伴う学級閉鎖で子どもが保育園や学校に行けない、特に未就学児や小学校低学年などまだ低年齢で留守番も難しい場合、仕事を休まざるを得ない保護者の方も多いと思います

また、子どもを育てていれば、入園式(入学式)や卒園式などの節目も大事なイベント。何を「子育て」と捉えるか、その範囲の広がりが現れた改正だと考えます

残業免除の対象が「小学校就学前」までに延長

これまで「3歳未満の子を養育する労働者」は、所定外労働(残業)の免除対象とされていましたが、今回の法改正により対象者が「小学校就学前の養育をする労働者」に拡大しました。

こちらも「義務」となっており、事業所(雇用主)は就業規則等を見直す必要があります。

武石惠美子さん法政大学教授

残業免除は「短時間勤務」ほど働き方を制約するものではなく、「“ふつう”の働き方ならできます、でも小さい子どもがいるので残業は難しいです」という労働者のためのものです

本来であれば育児している、していない問わず、誰もが「定時」で帰れるというのがあるべき姿だとは思うのですが……今の日本の働き方の現状を踏まえて「対象となる子どもの年齢を引き上げる」という措置になっています

柔軟な働き方を実現するため「テレワーク(リモートワーク)」などが対象に

育児・介護休業法の改正・武石惠美子さんインタビュー

今回の法改正では「柔軟な働き方の実現」がテーマとなっていますが、その中で特に注目されているのが「テレワーク(リモートワーク/在宅勤務)」です。

「短時間勤務制度(3歳未満)の代替措置(※1)」には、これまでの「①育児休業に関する制度に準ずる措置」「②始業時刻の変更等」に加えて「③テレワーク」が追加されました。

(※1)短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる具体的な業務があり、その業務に従事する労働者がいる場合にのみ、労使協定を締結し除外規定を設けた上で、代替措置を講ずる

事業者(雇用主)が「テレワーク」の追加を選択する場合は、就業規則等の見直しが必要になります。

また事業主(雇用主)には、3歳未満の子どもを育てながら働いている人が「テレワーク」を選択できるよう措置を講じることが努力義務化されました。

武石惠美子さん法政大学教授

「テレワーク」が広まり“特別な事情がある人だけの働き方”ではなくなったからこその改正だと感じています。テレワーク最大のメリットは通勤時間がなくなり時間を有効活用できること

もちろん、導入できない業種・職種もありますし、「努力義務」ではありますが、ぜひ大企業など体力のある会社には積極的に導入してほしいなと思います

2025年10月1日からの施行では「労働者の意向を聞く」を重要視

2025年10月1日からは「柔軟な働き方を実現するための措置等(義務)」「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮(義務)」も施行されます。

柔軟な働き方を実現するための措置等

「柔軟な働き方を実現するための措置等(義務)」では、事業者(雇用主)は3歳〜小学校就学前の子どもを育てている労働者に対して、以下5つのうち2つ以上の措置を選択して、就業規則等に盛り込む必要があります。

育児・介護休業法の改正・武石惠美子さんインタビュー

加えて、事業者(雇用主)は3歳未満の子どもを育てている労働者に対して、子どもが3歳になるまでの「適切な時期」に、この制度の周知と利用制度の意向確認を行う必要があります。

周知時期 労働者の子が3歳の誕生日の1カ月前までの1年間
(1歳11カ月に達する日の翌々日から2歳11カ月に達する日の翌日まで)
周知事項 ①事業主が選択した対象措置の内容
②対象措置の申出先(例:人事部など)
③所定外労働(残業免除)・時間外労働・深夜業の制限に関する制度
個別周知・
意向確認の方法
①面談(オンライン可)②書面交付
③FAX④電子メールなどのいずれか
※③④は労働者が希望した場合のみ

労働者は事業者(雇用主)が選択した措置の中から1つを選択して利用できます。

仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮

もう一つ、事業主(雇用主)が労働者の意向を聞くための措置が「仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮」です。

意向聴取の
時期
①労働者が本人または配偶者の妊娠・出産などを申し出たとき
②労働者の子が3歳の誕生日の1カ月前までの1年間
(1歳11カ月に達する日の翌々日から2歳11カ月に達する日の翌日まで)
聴取内容 ①勤務時間帯(始業および終業の時刻)
②勤務地(就業の場所)
③両立支援制度等の利用期間
④仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直しなど)
意向聴取の
方法
①面談(オンライン可)②書面交付
③FAX④電子メールなどのいずれか
※③④は労働者が希望した場合のみ

また聴取した意向は、会社の状況に応じて配慮する必要があります。

武石惠美子さん法政大学教授

「仕事と育児を両立したい」と考える方にとって「3歳までの短時間勤務制度」はとてもいい選択肢だったと思います。ですが、利用のほとんどが女性に偏ることで男女間でキャリアの形が違ってしまったり、労働時間が減り任される仕事の内容が限定されてしまったりといった課題がありました

今回の法改正では主に「フルタイムで柔軟に働くため」についての措置がなされており、働く人が仕事や家庭の状況に合わせて選べる仕組みとなっています

出産前、出産後、復帰後など、さまざまなシーンで都度変化する「自分に合う働き方」と向き合って、制度を利用してほしいなと思います

なお2025年4月1日から「育児時短就業給付金」という給付金の制度も開始しました。

これは雇用保険の被保険者が、2歳未満の子どもを育てるために時短勤務を選択&一定の要件を満たした場合に申請できる給付金で、時短勤務中の各月に支払われた賃金額×10%が支給されるというもの。

詳しい要件などは厚生労働省が配布している資料(PDFはこちら)で確認できます。

育児・介護休業法が目指す社会

ここまで2025年4月および10月から施行される育児・介護休業法の改正ポイントについて解説しました。

今回紹介した情報が、みなさんが「自身の働き方」と向き合うきっかけになれば幸いです。

武石惠美子さん法政大学教授

育児・介護休業法自体は、育児・介護をする人を守るための法律ではありますが、何よりも大切なのは、子どもや介護が必要な家族が「いる人」だけではなく、全ての方がもっと柔軟に働けること

この法律がなくなっても育児、介護をしながら“ふつう”に働ける環境というのが、本来のあるべき姿なんだと思います

今回の法改正が、そういった社会を作るためのきっかけになればと考えています

編集:はてな編集部

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でんぱ組.inc古川未鈴さん「子どもが生まれて、初めて仕事を辞めたいと思った」夫への罪悪感も

でんぱ組.inc古川未鈴さんインタビュー

産後の体調不良や体力の低下により、思うように働けないもどかしさを感じていませんか。

2025年1月まで人気アイドルグループ「でんぱ組.inc」のメンバーとして活動してきた古川未鈴さんも、一時は「このままフェードアウトしたい」と思うほど仕事へのモチベーションが下がってしまった経験があるそうです。

そんな古川さんに、産後に感じた不安や焦りとどのように向き合ってきたのか、お話を伺いました。

産後、人生で初めて「仕事を辞めたい」と思った

2021年に第一子を出産した後も、でんぱ組.incのエンディングライブまで「現役アイドル」として活動してきた古川さん。ですが、自伝『ツインテールの終わりに、 #未鈴の自伝』(KADOKAWA)では、「初めてアイドルを辞めたいと思った」と産後の心境について書かれていました。

16年の活動やアイドル哲学を語るエッセイや撮りおろし写真を集録
▶︎『ツインテールの終わりに、 #未鈴の自伝』(KADOKAWA)

古川未鈴さん(以下、古川):出産前までは「すぐにでも仕事に復帰したい」と思っていたんですが、出産の体へのダメージは想像以上に大きくて......。

出産のときに骨盤の骨(仙骨)の位置がズレてしまったようで、授乳のときなど、子どもを抱きながら座るたびに「いた~いっ!」って叫んでいました。

そんな状況だったので「あれ? 全然仕事どころじゃないかも」と、どんどん不安になっていきました。

エッセイでは、産後2カ月半で徐々に仕事を再開した後も「仕事の連絡が頭に入ってこなかった」という自身の変化について書かれていました。

古川:仕事のLINEを見てもまったく頭に入って来なくて、集合時間や日付を間違えてしまうことが続きました。妊娠中に体重が20キロくらい増えてしまったショックも相まって、仕事と向き合うことを体が拒否していたのだと思います。

これまでのアイドル人生の中で「仕事を辞めたい」と思ったことは一度もなかったのに、初めて「もうフェードアウトしたい」という気持ちが生まれた。そのことに自分自身が一番驚きました。

でんぱ組.inc古川未鈴さんインタビュー

身体の変化だけでなく、精神的にも仕事に向き合えない状況だったんですね。

古川:産後はみなさんそうだと思いますが、夜も授乳などで3時間に1回は起きるじゃないですか。「また夜泣きがはじまる」という独特な緊張感もあって、夜になると気持ちが落ち込んでしまって......。感染症対策で人との関わり合いがなくなっていたのもつらかったです。

外とのつながりが遮断された孤独な時間の中で、「私の復帰なんて誰も待っていないんじゃないか」というネガティブな考えが止まらなくなる日もありました。

以前は「本当にメンタルが強いね」と言われていたけど、産後は「どうせ私なんか......」と思うことが増えて。自分がこんなに精神的にボロボロになるなんて、想像していませんでした。

再び「仕事がしたい」と思えたきっかけは何だったのでしょうか。

古川:大きかったのは、振り付け師のYumiko先生が私を引っ張り上げてくれたことです。ライブに出たいと思えなかったときに「未鈴、このイベントに出るよ!」って、半ば無理矢理に予定を組んでくれて(笑)。

家まで話をしにきてくれて、私の復帰のためにいろいろ動いてくれるYumiko先生を見ていたら「私も頑張るかあ!」と再スタートを切れました。

元が引きこもり体質だし、誰かに頼ったり相談したりするのが苦手な性格なので、手を引っ張って外に連れ出してくれる人がいて良かったなと。

その後も「どうせ私なんか」となる度に「そんなことない!」と自分を鼓舞して、いろんな人にサポートしてもらいながら、なんとか仕事に復帰することができました。

「ごめんね」から「ありがとう」に変えたら、罪悪感が和らいだ

でんぱ組.inc古川未鈴さんインタビュー

エッセイには、元モーニング娘。で、現在は3児を育てながらタレント活動を続けている藤本美貴さんとの対談も掲載されています。その対談のなかで「家庭と仕事を天秤にかけることに罪悪感があった」という話がありますが、そのときはどんな状況だったのでしょうか。

古川:わが家は、私はアイドル、夫は漫画家(麻生周一さん)の夫婦です。夫は仕事時間をある程度自分の裁量で決められるのに対して、私はライブやイベントなどの出演時間が決まっている仕事。つまり、私が仕事に行けば行くほど、夫の育児の時間が増えてしまう。

夫から不満を聞いたことはないけど、「夫の仕事の時間を奪ってまでアイドルを続けていいのか」と悩んでしまいました。

一方で、家庭に比重を置くと、でんぱ組のみんなが思うように活動できなくなってしまう。アイドルグループで1人休むのはグループの100%を見せられないということなので、お客さんにもメンバーにも申し訳なくて。

双方に与える影響を考えながら「今日は家庭と仕事のどちらを優先するか」を、毎日選択しなければならず、天秤にかけるようで、それがすごく嫌だったんです。

でんぱ組.inc古川未鈴さんインタビュー

仕事と家庭、どちらも100%というわけにいかないのは、育児をしながら働いている多くの人の悩みだと思います。

古川:それでも私の場合は、でんぱ組のみんながめちゃくちゃ協力してくれたので、「今日は保育園の時間までに上がらせてもらいます」というお願いなども聞いてもらえて、なんとかやれていました。

でも、その「協力してもらう」っていうことも申し訳なくて......。私のわがままでメンバーの時間も夫の時間も奪ってしまっている。

こういった罪悪感は、きっとアイドルに限らず、働きながら育児をする人みんなが直面する悩みですよね。

その「罪悪感」を完全に解消するのは難しいですよね......。

古川:でも罪悪感について、すごくハッとしたできごとがあったんです。

2024年に、榊原郁恵さんと並木良和さんのラジオ番組『ハートフルラジオ 虫の知らせ』(FMヨコハマ)に出させていただいて。そのときに、榊原さんが「あなた、申し訳ないと思ってるでしょ。申し訳ないは、ダメよ。“ありがとう”よ」と、キッパリと言ってくれたんです。

「ありがとう」という発想がなくて、いつも「ごめんね、ごめんね。申し訳ない、ごめんね」と思ったり言ったりしてきた私にとって、榊原さんの言葉は衝撃的で。

同時に「たしかに『ありがとう』だな」と思えました。「その言葉だけで全然変わるから」と言われたとおり、「ありがとう」に変えるだけでずいぶん罪悪感が和らいだと思います。

それから2025年1月5日におこなわれたでんぱ組.incのエンディングライブまで、お仕事への向き合い方は変わりましたか。

古川:はい。でんぱ組の「エンディング」が決まったことで、いったん、家庭と仕事の天秤について考えるのはやめて、夫に「半年だけマジで仕事を頑張りたいから、家や子どものことは見ていてください」とお願いしました。夫は「もちろんいいよ」と言ってくれて。

私が仕事に集中できるようにしてくれたおかげで、納得のいく形でエンディングを迎えられたと思っています。

世間の優しさを少しだけ信じてみる

でんぱ組.inc古川未鈴さんインタビュー

「りっすん」の読者には、出産を機に思うように働けないもどかしさを感じている人もいると思います。古川さんから何か伝えたいことはありますか。

古川:私も出口が見えない時期があったので、安易に「大丈夫だよ、頑張って」と言われても聞けなかっただろうし、難しいな……。

私も産後1年かかって、なんとか「よし、仕事頑張るぞ」というフェーズに入れた、という感じでした。

それくらい、多分とっても時間がかかるし、めちゃくちゃ焦ると思います。自分のポジションや仕事、いる意味がなくなっちゃうんじゃないかって。

でも、私が「出産・育児と仕事」をやってみて思ったのは、「世間はそこまで冷たくない」ということ。

私の場合は、Yumiko先生が手を引いてくれたり、メンバーが復帰を待っていてくれたりと、思ったよりもみんな優しかった。「よっしゃ、古川未鈴のポジションを奪ってやろうぜ!」なんて誰も思っていなかったんです。

なかなか難しいかもしれないけど、少しだけ、周りを信じてみるっていうのはどうでしょうか。

でんぱ組.inc古川未鈴さんインタビュー

人に相談したり頼ったりするのが苦手だったという古川さんが「信じてみる」と思えるようになったのは、大きな変化のように思います。

古川:周りのことを気にするとか、人を頼るとか、そういう人間能力が上がったのは、結婚・出産を経たからこそだと思います。

仕事観もかなり変わりました。これまでは「でんぱが人気になれば、他のことはどうでもいい」と思っていたけど、「他のこと」もどうでもよくなくて、関わる人たちのたくさんの“気持ち”があってこそ仕事って成り立っているんだなと気づきました。

かつての古川さんと同じように、自信を失くして「どうせ私なんか」と思ってしまう人も少なくないと思います。古川さんはそのような気持ちとどう向き合っていましたか。

古川:「どうせ私なんか」という気持ちが今はないと言ったら嘘になるんですけど、私はそれを無理矢理かき消しています。「どうせ私……、いや、違う違う違う!」みたいに。

自分のことを考えている時間が一番長いのって、やっぱり自分だと思うんです。自分のことを「良くしよう」と一番頑張っているのも自分。だから、その気持ちや意見を大事にしてあげないといけない。

自信がなくなると「どうせ」と考えがちだけど、せめて自分だけは自分の味方でいてあげたいなと思うようになりました。

でんぱ組.inc古川未鈴さんインタビュー

出産・育児の経験から新たな気づきを得た古川さんにとって、この先の「仕事」との向き合い方はどう変わっていきそうでしょうか。

古川:長くやってきたでんぱ組がなくなって、これからどうやって生きていくのかなって最初はすごく不安でした。でも、いざエンディングを迎えてみたら、ラストライブの翌日から「よし、やるぞ!」と前向きな気持ちになれている自分がいたんですよね。「よし、子どものために稼ぐか!」と。

もし結婚や出産がないままエンディングを迎えていたら、いまのように前向きではいられなかったかもしれません。

「でんぱしかない私」の人生もそれはそれで面白かったと思うけど、今回の人生では「仕事と家庭のある私」としてアイドル人生を終えることを選びました。

「第二の人生」のはじまり、という感じですね。

古川:いまはきっと、人生で何度かしかない心機一転のタイミングなんですよね。自分の人生を見つめ直して、心から「これをしていたら楽しいんだ」と思えることを見つけたい。

もしそれが誰かのためになるのであれば、すごく幸せなことです。そんな幸せを見つけていける人生にしたいなって、なんとなくいまは思っています。

取材・文:むらたえりか
撮影:曽我美芽
編集:はてな編集部

“あの人”の「仕事と子育て」の話

菊地亜美さんが考える「仕事と子育ての両立」。大事なのは“理想の親”に囚われないこと
菊地亜美さん「“理想の親”に囚われない」
「自己肯定感を高く」は自分を苦しめる。できることを増やして“自信のリスクヘッジ”を|ぼる塾・酒寄希望
ぼる塾・酒寄さん「『やれること』を増やして、自信につなげる」
柚木麻子さんに聞く「家事・育児」の大変さ。『ついでにジェントルメン』で“認識のズレ”を描く
作家・柚木麻子さん「家事は“絶対やりたいくない”」

お話を伺った方:古川未鈴さん

古川未鈴さんプロフィール

9月19日、香川県高松市生まれ。愛称は「みりんちゃん」。2008年に「でんぱ組.inc」の前身グループ「でんぱ組」として活動をはじめ、でんぱ組.incではセンターを務める。2019年に結婚、2021年に出産のため産休に入り、翌年に活動復帰。2025年1月5日に、でんぱ組.incがエンディングを迎えて16年の活動の幕を閉じる。現在は、ソロで活動。子育てをしながらイベントや配信などに出演している。
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「神田伯山の奥さん」と呼ばれて。古舘理沙さんが結婚後に抱いた違和感と、アイデンティティーのゆらぎ

古舘理沙さんインタビュー

結婚や出産を機に、自身の名前ではなく「〇〇の奥さん」や「〇〇ママ」などと呼ばれるようになり、モヤモヤしたことはありませんか。

今回お話を伺った古舘理沙さんも、人気講談師・神田伯山さんとの結婚後、同じ悩みを抱えたことがあるそう。「“呼ばれ方”によるモヤモヤとどう向き合ってきたか」お話を伺います。

「個人」の努力や歩みを認識してもらえない憤り

「周囲からの呼ばれ方にモヤモヤする」と過去のインタビューで語られていましたが、結婚前後でどのような変化があったのでしょう。

古舘理沙さん(以下、古舘):私は20代で古典芸能に惚れ込み、当時勤めていた会社を辞めて起業し、寄席演芸のプロデュースを生業としてきました。

しかし、伯山との結婚を機に、仕事の現場で「神田伯山さんの奥さん」と呼ばれることが増えて。結婚する前までは「自分の名前」で呼ばれることが当たり前でしたが、結婚した途端、同じ業界で同じように仕事をしているにもかかわらず「奥さん」という呼び名に変わったことに違和感を覚えました。

「神田伯山さんの奥さん」と呼ばれる度に「私にも名前、あるんだけどな......」とモヤモヤしますね。

それは......モヤモヤしますね。

古舘:現在は夫の所属事務所の経営とマネジメントを行っているのですが、プロデュースがうまくいき、講談師として脚光を浴びるようになってからは「奥さんの良いサポートがあってこそ」と言われることが増えました。

私はあくまでプロとしてやっているのに、自分の仕事の功績が「妻のサポート」という評価に変わってしまったんです。

「〇〇の奥さん」と呼ばれることが嫌というよりも、個人としてやってきたことが「妻」という役割に内包されてしまうのが嫌なのだと思います.....。

古舘理沙さんインタビュー
自分の努力や情熱が「夫を支える妻」の役割と捉えられてしまうのはモヤモヤしますね。

古舘:そうなんです。その最たる例が、「梨園の妻」だと思います。歌舞伎役者さんと結婚した女性は、夫の活躍の裏で日々たくさんの「仕事」をこなしています。

スケジュール管理、ご贔屓(ひいき)や知り合いへのチケット販売、年賀状の作成、お中元やお歳暮の手配、ご祝儀や給与の管理、公演仲間などの人間関係の把握、子どもの稽古の付き添いなど......。全方位に気を配りながら営業、経理、広報、全てを一手に引き受けている。

「妻の素晴らしいサポート」と世間的には評価されますが、実際には社長業にも匹敵するほど大変な仕事なんです。

大変な「仕事」を「妻なら、母親ならやって当然」と評価されがちなのは、家事や育児などにも通じるところがありそうです......。

古舘:そうだと思います。「◯◯の奥さん」と呼ばれることは、自分の努力や歩んできた道のりを「個人として認識してもらえない」ということですもんね。モヤモヤするのは当然なんじゃないでしょうか。

自分からさりげなく「希望する呼ばれ方」を伝える方法

「◯◯の奥さん」と呼ばれることへのモヤモヤを、古舘さんはどのように対処していますか?

古舘:私の場合は、会話の中でさりげなく「こう呼んでほしい」を伝えるようにしています。

例えば、仕事で「奥さん」と呼ばれたら「“奥さん”なんて気を使わなくていいですよ!古舘と呼んでください」と自分から伝えてみたり、カジュアルな場であれば自己紹介のときに「理沙と申します」とあえて下の名前で言ってみたり。

古舘理沙さんインタビュー


すると、勘のいい人であれば「この人は〇〇って呼ばれたいんだな」と分かってくれる場合があります。

さりげなくていい方法ですね!

古舘:「奥さんと呼ばれたくないです!名前で呼んでください!」とストレートに伝えるのはハードルが高いですよね。「嫌な理由をしっかり説明しなきゃ......」と思うと、自分にも負荷がかかりますし。

一方で、いつまでも「察してほしい」では伝わらない人がいるのも事実。自分に負荷をかけず、相手も受け入れやすい伝え方を見つけられるといいですよね......。

塩梅が難しいですよね......。

古舘:「“奥さん”って呼ぶの、最近は良くないみたいですよ〜!」と、伝聞口調で伝えてみるのはどうでしょう。「私」を主語にするのではなくて、「私も聞いた話ですけど」という伝聞のニュアンスを含むと伝えやすくなると思います。

「それ、セクハラですよ!」とビシッと言うのではなく「それ、セクハラらしいですよ!今は問題みたいですよ!」と遠回しに伝えるなど、いろんな場面に応用できるのでおすすめです。目上の方や取引先など、少し緊張する相手に対しては私もよくやっていますよ。

“面倒くさい人”と思われるくらいがちょうどいい

「いちいち何か言ってきて面倒くさい人」と思われてしまうんじゃないか、という不安から、笑ってごまかしてしまうような場面もありそうです......。

古舘:なるほど。私の場合はむしろ「面倒くさい人」と思われているくらいがちょうどいいと考えているんですよ。

こういう発信の場で「奥さんと呼ばれることにモヤモヤしている」とはっきり主張しておくことで「呼ばれ方を気にする人」というイメージをつくるようにしています。

そうすると確かに「あの人、面倒くさい人だな」って思われがちなんですけど、そのお陰かあまり相手から失礼なことを言われなくなりました。

古舘理沙さんインタビュー
「面倒くさいと思われるくらいがちょうどいい」。考えたこともありませんでした......!

古舘:失礼なことを言われると、その度に気持ちがすり減るじゃないですか。それを未然に防ぐために「この人には言い返されそう」という印象を抱かせておくのも一つの手段だと思います。

「意見を表明する」というと大袈裟かもしれませんが、SNSに「〇〇と呼んでもらえた方が親しみがあって嬉しいな」と投稿してみるくらいなら、気軽にできるかもしれません。

古舘:そうそう。例えば「LINEは下の名前で登録をしておく」とかでもいいと思うんです。

特定の相手に直接言う「以外」のやり方で自分のスタンスを示しておく。それで「めんどくさい人」と思われても、「失礼なことをされない」というメリットもあるので、あまり気にし過ぎなくても良いのかなと。

「どう呼ばれたいか」は話してみないと分からない

子どもが生まれた後は「◯◯(子どもの名前)のママ」と呼ばれることも増えますよね。その辺りのモヤモヤに関してはいかがでしょう。

古舘:私自身は、相手のことをなるべく名字や下の名前で呼ぶようにしています。

ただ、私の子どもが通っている幼稚園は、ママ友同士「下の名前」で呼び合うことが普通なので、そこに関してはあまりモヤモヤしたことがなくて......。

(編集A)いいですね! 私もママ友のことを「◯◯ちゃんママ」と呼ぶのをやめたいなと思っているのですが、呼び方を急に変えたら驚かれてしまうかなと躊躇(ちゅうちょ)してしまったり、そもそも相手の「下の名前」を知らなかったりして、なかなか踏み切れずにいます.....。

古舘:確かにいきなり「下の名前」で呼ばれると、一気に距離を縮めてきたと驚かれてしまうかもしれませんね。

そういうときは、「なんてお呼びしたらいいですか?」とストレートに聞いてみるのはどうでしょう。もしLINEの登録名に下の名前が書いてあったら「◯◯(下の名前)さん、今日はありがとうございました」とメッセージを送ってみてもいいと思います。

古舘理沙さんインタビュー


特に女性同士であれば「下の名前で呼ばれて嫌」という人は経験上あまり出会ったことはありません。

相手が「どう呼ばれたいか」は聞いてみないと分からないことではあるので、お互いがモヤモヤしないためにも、自然に、でもしっかりとコミュニケーションを取るのが良いと思います。

あまり考え過ぎず、率直に聞いた方が余計なモヤモヤを抱えずに済みそうですね!

古舘:ただ、私も全員にそういうコミュニケーションをとっているわけではないですよ。

「もっと仲良くなりたい」「この関係性を大切にしたい」と思う人には、自分の意思を伝えたり相手の気持ちを確認したりしていますが、何度言っても「◯◯の奥さん」と呼んでくる人に対しては、もうどう呼ばれても気にしないようにしています。

そこにエネルギーを割き続けるのはもったいないですから。

全員に分かってもらう必要はないということですね。

古舘:「〇〇の奥さん」「〇〇のママ」と呼ばれてモヤモヤしたときは、一度「この人とはどんな距離感でいたいだろう?」と見つめ直してみるのが良いかもしれません。コミュニケーションを図ってまで仲良くなりたい相手なのか、それともそこまでではない相手ないのか。

もし前者なのであれば、「この人はどう呼ばれたいかな?下の名前で呼んでも大丈夫かな?」と相手の気持ちを確認しながら、お互いに違和感や失礼のない呼び方にできたらいいですよね。

取材・文:貝津美里
編集:はてな編集部

「結婚」にまつわるモヤモヤ。みんなはどう向き合ってる?

選択的夫婦別姓が認められるまで事実婚を選択。「姓を変えたくない」はわがままじゃない
選択的夫婦別姓が認められるまで、事実婚を選択
離婚するほどじゃないけど、モヤモヤする……。そんな気持ちを言語化してパートナーへ伝えるコツ
離婚するほどじゃないけど、相手に不満。どう伝える?
マンガ『1122』渡辺ペコさんの結婚観 「何でも、夫婦ふたりで取り組める人を選ぶ」
マンガ『1122』作者に聞く結婚&夫婦観

お話を伺った方:古舘理沙さん

古舘理沙さんプロフィール

冬夏代表取締役社長。1981年兵庫県生まれ。国際基督教大学卒業。リクルートにて営業職に半年勤めたのち転職。雑誌『VOGUE』『GQ』日本版の編集者などを経て、落語に魅せられ2010年に「寄席演芸興行 いたちや」を創業。現在は夫である講談師・神田伯山のマネジメントや、YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」の制作・プロデュースなどを手がける。
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「私ばっかり」と感じたら仕事は引き受けない。専門家が教える「0か100か」思考から抜け出す方法

公認心理師・佐藤恵美さんインタビュー

「私がやるしかない」と多くの仕事を抱え込んでいる人は、責任感の強さから「0-100(ゼロヒャク)思考」に陥っている可能性があります。「私ばっかり」「なんであの人はやってくれないの」とモヤモヤ・イライラするのは、心が疲れているサインかもしれません。

働く人のメンタルヘルスに詳しい公認心理師・佐藤恵美さんに、「私がやらなきゃ」を和らげるための方法を伺いました。

お話を伺った方:佐藤恵美さん

公認心理師・佐藤恵美さん

「メンタルサポート&コンサル沖縄」代表。公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、臨床発達心理士。企業や官公庁に対して、さまざまなメンタルヘルスサービスを行い、20年間で1万人以上の相談実績を持つ。著書に『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)、『もし部下が発達障害だったら』、『「判断するのが怖い」あなたへ』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。 
公式サイト

「私がやらなきゃ」はなぜ起きる? 責任感の強い人に隠された思考の癖

公認心理師・佐藤恵美さんインタビュー

Point💡

・「私がやらなきゃ」とタスクを抱え込みがちな人は、「ゼロヒャク思考」に陥っている可能性がある

・ゼロヒャク思考は周囲のささいな言動が受け流せなくなってしまい、人間関係を悪化させてしまうことも

責任感の強い人ほど「同僚や上司からの頼みを断れない」「率先して同僚のフォローに回る」など、つい仕事を抱えがちです。自分のタスクも抱えている中で、なぜ「私がやらなきゃ」と思ってしまうのでしょうか?

佐藤恵美さん(以下、佐藤):「私がやらなきゃ」とつい仕事を抱え込んでしまう人には、「0-100(ゼロヒャク)思考」が隠れているかもしれません。

「ゼロヒャク思考」とは「正しいか、間違っているか」極端な結論づけをしてしまう思考のこと。例えば仕事の場面だと「自分で完璧にやる(ヒャク)」か「全くやらない(ゼロ)」の2択しかなく、「ここまでは自分でやって、ここからは同僚に任せる」など中間の発想が持ちづらいのが特徴です。

同僚に仕事を任せようとしても、自分の理想のやり方と違うと心配になったり気持ち悪さを感じたりしてしまい、「だったら私がやった方が早い」と仕事を過剰に抱え込んでしまうんです。

どのような人が「ゼロヒャク思考」になりやすいのでしょうか?

佐藤:もともと真面目な性格であるケースのほか、仕事内容や職場の風土によって「ゼロヒャク思考」が強化されるケースも考えられます。

例えば、細かなミスが許されない事務系の職種や責任の範囲が広いマネージャー・経営層、規則やルールがきっちり決められている環境などですね。

また「ゼロヒャク思考」の人は、日常生活でも厳しくタスク管理をしている人が多いように思います。プライベートでさえ「完璧にやらなきゃ、そうできない自分はダメだ」と極端に考えてしまうのは苦しいですよね......。

確かに「ゼロヒャク思考」だと、自分にも他人にも厳しくなってしまいそうです......。

佐藤:まさに。「ゼロヒャク思考」の良くないところは、自分や他者をすぐにジャッジすることによって人間関係を悪化させてしまうところなんです。

基本的に会社というのは「もっとできる」を求められる場所ですから、上司や同僚からフィードバックされたり、ミスを指摘されたりすることもあると思います。そういうときに「私はこんなにやっているのに......!」と傷つき、相手へのイライラの感情を募らせてしまう。

「ゼロヒャク思考」の傾向のある人ほど、他者のささいな言動が受け流せなくなってしまうんです。

「私ばっかり......」と思ったら、心が疲れているサイン

Point💡

・仕事は人の間をぐるぐると回るもの。最後まで自力でやる「以外」の選択肢を持って

・「なんで私ばっかり……」とイライラ・モヤモヤしたら心が疲れているサインなので、頭と体を休ませることを優先する

・毎朝出勤前に「心のエネルギータンク」を数値化してみよう

では「仕事を抱えがちな人」はストレスを溜めてしまう前に、どのようなことを意識すると良いでしょうか。

佐藤:まずは「“やる”と“やらない”の間があってもいい」と気づくだけで、心が軽くなるのではないでしょうか。

例えば同僚とタスクを半分こにしたり「ここまでは自分でやる」「ここからはお願い」とタスクをセグメントして考えたり、最後まで自力でやる「以外」の選択肢を持つように意識してみてください。

つい「他者にお願いする=無責任」と捉えがちですが、そもそも仕事というのは一度自分の手から離れても人と人の間を循環して、また別の形で戻ってくるものだと思います。

自分が手放したことをきっかけにチーム内から新しいアイデアが生まれたり、ナレッジ共有につながったりするというメリットも考えられますから、仕事は「一度掴んだら離さないもの」ではなく「循環するもの」というイメージを持てると、過剰な罪悪感が薄れるのではないでしょうか。

職場で「疲れきらない」ための技術をまとめた一冊
▶︎『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)

仕事を引き受けたからといって「1人でやりきらなきゃ」と思い過ぎないことがポイントですね。では仕事を「引き受けても良いタイミング」と「見送った方が良いタイミング」の見分け方はありますか?

佐藤:仕事を頼まれた際に「どんな気持ちになるか」を意識して、受ける受けないかを判断してみてください。「なんで私ばっかり......」とイライラ・モヤモヤしたら「心が疲れているサイン」なので、仕事を引き受けるにしても同時にしっかり頭と体を休ませることも優先してほしいです。

「心の疲労」というのは、つまり「脳の疲労」のこと。脳は筋肉と違って活動限界のギリギリまで稼働し続けるため「まだ大丈夫」と感じていてもある日突然、限界を迎え「うつ状態」になってしまうこともあります。ですから、なるべく早くアラートに気づくことが重要です。

「心の疲労」に気づくためにおすすめの方法はありますか?

佐藤:毎朝、出勤前に「心のエネルギータンク」をチェックすると良いでしょう。タンクの「満タン」が10として、「今日はどのくらいのエネルギーが入っているか」を直感で数字にしてみるんです。

「6〜10」なら元気な状態ですが、「5」の場合は疲労が溜まりつつある「黄色信号」。「4以下」はかなり無理をしている状態なので要注意。

このように客観的に「今の自分の状態」に気づければ、「今日は早めに帰宅してゆっくりしよう」など具体的な行動に移すことができます。

率直に伝えた方が人間関係はうまくいく

公認心理師・佐藤恵美さんインタビュー

Point💡

・同僚にイライラを抱えたら、相手の「得手・不得手」を知るためのコミュニケーションを取ろう

・どうしたらお互いにやりやすいか、対等に話し合いができると、自分への肯定感も上がる

・まずは「今どんな気持ちを感じているか」自分の内面に向き合う練習をしてみよう

先ほど「ゼロヒャク思考は人間関係にも悪影響がある」とお話されていましたが、本人はまじめに仕事に取り組んでいるだけだと思います。まわりの同僚に対して、負の感情を募らせる前に何かできることはありませんか?

佐藤:自分の気持ちを正当な形で伝えられるようになると良いですよね。

もしあなたが「なんであの人は電話に出てくれないんだろう」「わざと無視しているんじゃないか」と、ある同僚にイライラしていたとします。

そういう時は、「あなたにも電話をとってもらえると助かるのですが、どこに置いたら取りやすいですか?」と率直に聞いてみるんです。すると、その同僚は悪気があったわけではなく、電話が鳴っていることにただ気づいてなかっただけだったと判明するようなケースは結構多いんですよ。

音の刺激に敏感な人やそうでない人など、人にはそれぞれ得意・不得意がありますから。

なるほど。相手の得意・不得意が分かると余計にイライラせずに済みそうです。

佐藤:そうなんです。自分にも苦手があるように相手も苦手がありうるわけですから、「自分と同じようにできて当たり前」という前提を外すことを意識してみましょう。その上で、「こっちは私が巻き取るから、あっちはお願い」など、どうしたらお互いがやりやすいか対等に話し合えるといいですね。

自分も相手も大事にする自己主張を「アサーション」といいますが、お互いに得意・不得意があることを前提に対等に話し合えることも「アサーション」の一部といえるでしょう。このようなコミュニケーションの一番の効果は、自分への肯定感を持てるところにあります。

攻撃的に伝えてしまうと「なんであんな言い方をしてしまったんだろう......」と自分を責めてしまうし、逆に我慢して伝えないままでいると「なんであの人は......」と相手への苛立ちを募らせてしまいますが、アサーションができれば自分も相手も大切にすることができるんです。

アサーションができる人が多い職場ほど、風通しがよく働きやすい環境であると言えるのではないでしょうか。

確かにそうですね。

佐藤:繰り返しになりますが、アサーションができるようになるためにも、まずは自分の「気持ち」に耳を傾けることが大切。「今、こういうことにイライラしているんだな」と気づけるだけでも次の一手は変わってきますから、ぜひ練習してみてくださいね。

取材・文:佐藤有香
編集:はてな編集部

専門家が教える「仕事の悩みを解決するコツ」

仕事が終わらないのは「能力不足」だから? まずは業務内容や人員配置など「環境」の調整を
仕事が終わらないのは「能力不足」だからではない
ネガティブケイパビリティとは。即レスしないコミュニケーション方法をあえて選ぶこと|谷川嘉浩
仕事は「即レス」が大事、とは限らない
働きやすい職場を作るチームマネジメントのコツ 専門家が解説「1on1で本音を聞こうとしないで」
1on1で「本音」を聞き出そうとするのはNG

長谷川ミラ×産婦人科医・宋美玄「いつか子どもが欲しいけど、仕事も頑張りたい」とき、どうすればいい?

長谷川ミラ×宋美玄・対談インタビュー

「いつかは子どもを持ちたい」と思っているものの毎日の仕事や生活が忙しく、そのタイミングをいつにするべきなのか、自身のライフプランに迷いや焦りを感じている女性は少なくないのではないでしょうか。

今回は「今は仕事を頑張りたい」という理由で卵子凍結を検討したことがあるモデル・タレントの長谷川ミラさんと、女性の体について幅広く情報を発信しているほか、高齢出産の経験者でもある産婦人科医・宋美玄さんの対談を実施。

もともと親交が深いというお二人に「仕事と子ども」に迷いを抱える女性がライフプランを描く上で大切なことは何なのか、そのヒントを伺います。

仕事における自分の「頑張りどき」を決めておく

妊娠の適齢期はいわゆる「働き盛り」の頃でもあります。お二人は「仕事と子ども」についてどのように考えてきましたか?

長谷川ミラさん(以下、長谷川):数年前までは、卵子凍結をしておこうかなと考えていたんです。子どもが欲しいかどうかは正直分からなかったけど、仕事が増えているタイミングだったし、将来欲しくなったときに困らないようにしたいなと思って。

でも自分で調べたり経験者の話を聞いて、20代ではまだやらなくていいかな、と結局やめたんです。まずは一緒に子どもを育てるためのパートナー探しを優先しようかなと。

長谷川ミラ×宋美玄・対談インタビュー
長谷川ミラさん.....1997年生まれ、現在27歳。女性の権利や社会問題に関する発信を行い、モデル、ラジオ番組のナビゲーター、テレビ番組などで活躍。専門家と一般の人をつなぐオピニオンリーダーとしての発信が評価され、2022年、雑誌『フォーブス・ジャパン』の「世界を変える30歳未満の30人」に選出された。XInstagram

宋美玄さん(以下、宋):私は子どもが2人いて、それぞれ35歳と39歳のときに産みました。いわゆる「高齢出産」ですね。

私は30代前半に胎児診断(出生前診断)を学ぶためロンドンに留学したんです。当時はパートナーはいるけれどまだ結婚はしておらず、産婦人科としての今後のキャリアを見据えてもこのタイミングしかないぞと。

でも、分野が分野だけにどうしても不妊や妊娠など高齢出産の「リスク」を実感して………。本当は3年は留学したかったのですが、1年弱で帰国したのちに結婚・妊娠・出産をしたんです。

長谷川ミラ×宋美玄・対談インタビュー
宋美玄さん......産婦人科医。丸の内の森レディースクリニック 院長。「診療95%、メディアへの露出5%」としながらも、“カリスマ産婦人科医”として、女性の体や性の悩み、妊娠出産などについて積極的な啓蒙活動を行う。現在48歳、2児の母。X

「働きたい」と考えている女性にとって、仕事を優先するか、妊娠・出産を優先するかは難しい選択ですよね。

宋:過去の私のように、出産のベストなタイミングについて常に考えてしまうのは、精神衛生上、あまりよいことではないと思います。とはいえ、加齢に従って妊娠しづらくなるリスクをまったく頭に入れていないのもよくないなと......。難しいところですね。

長谷川:先生の話を聞いていて思ったんですが、「いつか子どもが欲しい」という人は、「いつか」というのがいつ頃なのか、具体的なゴールを決めておけるとよさそうですよね。

先生が留学から早めに帰ることを選択したみたいに、「何歳までには出産したい」というゴールが見えればある程度逆算することができて、自分の選択も変わってくるのかなと。もちろん計画通りにいかないこともあるから、ゴールは仮置きくらいで全然いいと思うのですが。

宋:たしかにそうですね。ミラさんは結婚や妊娠・出産について、現時点ではどんなふうに考えられてるんですか?

長谷川:今は「子どもがいてもいいかも」と思い始めています。

私がSNSやテレビなどを通じて「自分の意見」を積極的に発信するのは、女性の健康や権利、社会問題などの「情報」を広く伝えるためだったんです。でも、ここ数年で少しずつそれらの課題意識が社会に浸透してきていると感じていて。

もしかして私の活動も何かにつながったのかな、なんて思ったら目標が1つ達成されたような気になって、ここ1年くらいは燃え尽き症候群に近い状態だったんです。なので今はいったん、仕事の「頑張りどき」を下りて、周囲との交流やパートナーづくり、子どもを産む可能性について考えてみてもいいのかなと。

宋:ビジョンがしっかりしていて、ミラさんはすごいなあ……。

長谷川:いや、もっと正直に言うと、結婚や育児って面白そうだから「そのプロジェクト、私もやってみたい!」と思うようになっただけなんです(笑)このまま仕事ばかりしていたら、今と変わらない暮らしをしている未来が想像できてしまって、ちょっとつまらないなあって。

でも、そう思えるようになったのは、仕事の目標を1つ達成できた感覚があるからだと思います。だから、自分の「頑張りどき」はいつ頃までで、何が達成できればひとまずの区切りなのかを決めておくのは大事なんじゃないかなと。

私の場合、残りの20代でパートナーを探すことが次の目標です。30歳頃までに出会えなかったらもう一度卵子凍結も視野に入れようかな、と考えています。

妊娠・出産の話題をタブー視しない

長谷川ミラ×宋美玄・対談インタビュー

いま長谷川さんからも「頑張りどき」を決めるというお話がありましたが、ライフプランを決めきれず不安や焦りを感じる場合、どう対処すればいいとおふたりは思いますか?

長谷川:ライフプランに悩んで不安になる気持ちはすごく分かります。ただ、焦りに関しては、情報や知識が足りないこともその一因になっているんじゃないかと思うんです。

私の場合、自分の体のことや女性特有の悩み、ライフプランなどについて、学生時代の友人や業界の先輩方とよく話すんです。「生理が重かったらピルを飲んだ方がいいよ」や「乳がん検診は絶対行きなね!」といった話は、お酒を飲みながらもしょっちゅうしますね。

そういった話題についてカジュアルに話し合うことを習慣化していると、情報収集も自然とできるのかなと思います。

宋:すごくいいですね。体や性についての話は過剰にタブー視しない方が情報が入ってきやすくて、自分ができるチョイスの幅も広がると思います。

長谷川:不妊治療などセンシティブな話題もあるとは思いますが、私の周りでは生理や妊娠・出産に関して教えてほしいという姿勢で丁寧に話を聞けば、快く体験談を話してくれる方が多い印象です。

もちろんネットで検索して調べる方法もありますが、それだけだと「これさえやっておけば全て解決する」というような偏った情報が入ってきてしまうことに少し怖さを感じます。

女性の体にまつわる悩みは本当に個人差が大きいので、「リアルな体験談」が耳に入ってくるような関係性を日頃から作っておくことはすごく大事なんじゃないかなと。

卵子凍結は「全てが解決する魔法」ではない

長谷川ミラ×宋美玄・対談インタビュー

先ほど、長谷川さんが「仕事の頑張りどき」に卵子凍結を検討したというお話をされていましたが、同じように「今は仕事を頑張りたいけれど、将来子どもがほしくなるかもしれないから」という女性の選択肢の一つとして卵子凍結があると思います。長谷川さんは、なぜ「やめた」のでしょうか?

長谷川:卵子凍結を選択した知人たちに経験談を聞いてみたら「排卵を誘発させる注射の副作用がかなり長く続いた」や「受精卵凍結でも妊娠に至らなかった」という話をしてくれて。採卵に時間がかかるケースでは、かえって仕事や生活に支障が出ることもあると知って「卵子凍結さえしておけば!」と考えていたけれど、決してそんなことはないし、もうすこし慎重になった方がいいと思ったんです。

宋:おっしゃる通りだと私も思います。卵子凍結の成功率は卵子1個あたり4.5%から12%というデータ(※1)があり、決して高いとは言えません。その上、卵子凍結は身体的にも時間的にもかなり負担がかかります。

(※1) Fertility Steril 2013; 99: 37-43, Mature oocyte cryopreservation: a guideline(詳細)

卵子は最低10個ほど、できれば20個ほど採っておくのが理想的なのですが、そのためには何カ月も排卵誘発剤の注射を続け、卵子の育ち具合次第で次の採卵日を決める必要があります。

採卵日が急にずれてスケジュール通りいかないこともありますから、どうしても仕事や生活に影響が出てしまう。キャリアのために卵子凍結を選んだのに、そのせいで仕事に集中できないとなるのは本末転倒ですよね。

なるほど……。2023年に東京都が18歳から39歳までの女性を対象に卵子凍結関連費の助成(詳細)を始めたこともあり、卵子凍結が気になっている方は多そうです。

宋:現在の日本では、卵子凍結に50万円前後かかるケースが多いため、助成により前向きに検討する方もいると思います。ただ、まだ20代なのであれば、卵子凍結を選ぶのは私はあまり賛成できません。

卵子凍結の後にパートナーができて自然妊娠するケースや、できるだけ若いうちに卵子凍結をしておいたけれど、結局その卵子は使わなかったという人も多いですから。

長谷川:私の周りにも、卵子凍結を選んだという友人はいるけれど、実際に凍結した卵子で妊娠したという体験談はまだ聞いたことがないです。先生の周りはどうですか。

長谷川ミラ×宋美玄・対談インタビュー

宋:10年ほど前に卵子凍結を選んだ友人や知人が何名かいます。ある友人は38歳で卵子凍結をしたけれど、その後結婚して40代で自然妊娠したため、卵は破棄したと言っていました。

同じく38歳のときに卵子凍結をした別の友人は、40歳で卵子を解凍したら、卵子17個中15個が変性していて、残りの2個も異常胚だったため妊娠には至らず、その後、新たに採卵した卵子を使って無事に妊娠・出産しました。

その友人は最初の卵子凍結時に卵巣過剰刺激症候群(※排卵誘発剤が卵巣を過剰に刺激することで起きる症状)になってしまい、とても大変そうでしたね……。

妊娠に至るまでにはいろいろなケースがあり、「卵子凍結しておけば妊娠できるから安心」というわけではないのですね。

宋:はい。40代に入ってから不妊治療を始め、過去に凍結した卵子のおかげで妊娠できた友人もいますが、卵子凍結はあくまで妊娠のための選択肢のひとつ。それだけを当てにするようなものではないし、ましてや時を止めて全てを解決する“魔法”でもないということが伝わってほしいですね。

妊娠率が決して高くないことやホルモン剤による副作用、金銭面、時間的コストなどをきちんと理解した上で、ひとつの選択肢と思っておくくらいがいいんじゃないかな。

では、卵子凍結という選択肢はどのような方にとって「良い選択」になり得ると思いますか。

宋:AMH検査(※卵巣の中に卵子がどれくらい残っているかを調べるための血液検査)の数値が著しく低い場合は、「良い選択」だと思います。AMH検査の値は個人差がとても大きくて、若くても数値が低く、早期閉経になりかけている方もいますから。

また、今30代前半から半ばくらいの年齢であれば、「パートナーはいないけれど、いつか出産はしたい」と考えている方にとっても「あり」の選択かなと。

「いつか子どもが欲しいけど、今じゃない」人はまず体のメンテナンスを

長谷川ミラ×宋美玄・対談インタビュー

いつかは子どもが欲しいけれど、仕事や生活のタイミングで「今じゃない」と感じている女性が取れる選択肢には、何があるとお二人は思いますか?

長谷川:「いつか子どもが欲しい」と考えているなら、まずは基礎的な体のメンテナンスをした方がいいんじゃないかと私は思っています。食生活や睡眠、仕事の量を見直してみるとか。そもそも自分の体の不調にあまり目を向けられていない人がすごく多いんじゃないかな、と……。

宋:その通りで「いつかは子どもを」と思うのであれば、適正体重を大きく下回ったり上回ったりしないように心掛けたり、たばこの喫煙や受動喫煙をできるだけ避けたりと、体のコンディションを整えておくことはとても大事です。

特に、生理不順の人や月経痛など生理に関してなんらかのトラブルを感じている人は、まずは婦人科に足を運んで検査をしてほしいです。合うかどうかは体質次第ではありますが、将来子どもが欲しい人には子宮内膜症の予防になるピルの服用も私はおすすめしたいですね。

仕事や日々の生活に時間を取られて、なかなか婦人科の優先度が上がらない方も多そうです。

宋:気持ちは分かります。でも最近はレディースクリニックも増えているし、どうか気軽に受診してほしいですね……。

特に子宮がん検診はどうか欠かさないでください、と強く言いたいです。ピルを飲んでいる方は半年に一度、飲んでいない方は一年に一度が目安です。

妊娠が分かり初めて病院に行ったら実はがんが進行していて、子宮を摘出しないといけなくなった……といういたたまれないケースも実際にあるので、子宮・卵巣の健康には気を使ってほしいと思います。

長谷川:子宮がん検診に行ってない人、周りにもすごく多いです。絶対に行った方がいいですよ!

宋:こういった体の話をすることは最初は戸惑いを感じても、だんだんと慣れてくるものだとも思います。ぜひ「いつか」のための準備だと思って、オープンマインドでいてほしいですね。

取材・文:生湯葉シホ
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部

「いつか子どもが欲しい」と考えているあなたへ

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タスク管理がうまい人は「完璧」を求めない。子育てや自分の時間など仕事「以外」も大切にするタスクマネジメント法

タスク管理術・スワンさんインタビュー

日々仕事のタスクをこなす中で、プライベートの「自分や家族のためにやりたいこと・やらなくてはいけないこと」を後回しにしていませんか。

2021年に独自のタスク管理術を紹介した『あなたの24時間はどこへ消えるのか』を出版し、現在1歳の子どもを育てながら働くスワンさんに「仕事もプライベートも大切にするためのタスク管理術」について伺いました。

「休む」ことをタスク化したら罪悪感が減った

ついつい「プライベート」よりも「仕事」を優先してしまうという方は多いと思います。スワンさんも著書で、「無意識に仕事中毒になっていた時期があった」と語っていました。

仕事「以外」も大切にするための「タスク管理術」をまとめた一冊
▶︎『あなたの24時間はどこへ消えるのか』(SBクリエイティブ)

スワンさん(以下、スワン):会社員だったときは、毎日深夜に仕事を終えタクシーで家に帰り、翌朝は定時に出社するような生活でした。上司に残業を言い渡されたわけでも、誰かの行動をマネしたわけでもなく「そうした方が評価されるだろう」みたいな意識があったんです。

そんなスワンさんの意識に変化が訪れたきっかけは何だったのでしょう。

スワン:20代後半でフリーランスとして独立したばかりの頃です。一層働きづめになりメンタルのバランスも崩してしまう中で、父が「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病が原因で59歳で亡くなったんです。

母と一緒に老後の計画も立てていたのに、ふたを開けてみれば父の老後は実質ゼロだった。それで「もし明日から自分の体が動かなくなったら、私は何を後悔するだろう」と思って、葬式の後に「今やりたいこと」を洗い出してみたんです。

「やりたいことがたくさんあるのに、仕事ばかりしていたら体が動かなくなる前に頭が動かなくなる」と思って、「仕事」を優先するのではなく、「プライベート」も同等に大切に扱うための「タスク管理術」を実践するようになりました。

タスク管理術・スワンさんインタビュー

例えばどのようなことを実践しましたか?

スワン:いろいろ試しましたが、効果があったのは「休むこと」をタスク化してカレンダーに入れること。例えばリモートワークの日なら「12時半からベッドで昼寝する」というタスクを作って、それが達成できたらチェックを入れる。「今日のタスクを1つ達成できた!」という捉え方をすることで、少しずつ休むことに罪悪感を抱かなくなりました。

仕事「以外」も大事にするためのタスク管理術

スワンさんが実践している「仕事もプライベートも大切にするためのタスク管理術」を具体的に教えてください。

スワン:私は「Notion」というサービスを使って、1週間単位でシートを作成し曜日ごとに1日のタスクを書き出しています。ポイントは「仕事」のタスクも「プライベート」のタスクも同じシート内で管理すること。「プライベート」のタスクはどうしても後回しにしがちなため、同じシートに書き出すことで「仕事」のタスクと同様に重要なこととして意識しやすくします。

Notionを使ったタスク管理術
スワンさんの「Notion」画面

その上で、タスクを「親タスク」と「子タスク」に整理し「親と子」のセットで管理します。「親タスク」はあくまでラベルなので、具体的なアクションではなくプロジェクト名などを入れ、子タスクには「何をすればこの親タスクが終わるのか」をできるだけ具体的に書き出します。例えば「プレゼンテーションの準備」を親タスクとしたら、子タスクには「会議室を押さえる」や「資料の作成」などをリストアップしていくイメージですね。

理想は「親タスク」を1時間以内で終わる複数の「子タスク」にまで分解すること。そうすると、今やるべきことの解像度が格段に上がりますし、1つ1つが小さなタスクになるためハードルが下がり取り組みやすくなります。

「Notion」を使ったタスク管理については、テンプレートも作成・配布しているので(こちら)ぜひ活用してみてください。

「プライベートでやりたいこと」は、どのように達成していくと良いでしょうか?

スワン:仕事はゴールから逆算して取り組んでいけますが、「プライベートでやりたいこと」はゴールが明確じゃないことも多く、何から始めたらいいか分からないケースが多いかもしれません。

例えば「英会話ができるようになる」というタスクがなかなか進まないのは、理想が曖昧であることと、それを達成するために何が必要なのかが想像しづらいからだと思います。また、仕事と異なり期限がないから取り掛かかりにくい。

そこで、まずは「英会話について1時間考える」ことを1つのタスクとしてみる。「考える」って、一見抽象的でタスク化できていないように見えますが、実は効果的で私もよくやっています。

タスク管理術・スワンさんインタビュー

「英会話ができるようになるとは具体的にどういう状態なんだろう」と考えたり、理想を叶えるための手段を調べてみたりする。あんまり難しいテーマでない限り、1時間も考えれば「英会話教室を5社ピックアップする」など、何かしらのネクストアクションが見えてくると思います。

とりあえず「考える」という時間を作るだけでも前進できるんですね。

スワン:そうなんです。さっきお伝えしたように「タスクの解像度を上げること」がタスク管理の基本ですが、「プライベートでやりたいこと」は性質上、少し例外だと思っていいかもしれません。

「考えてみる」「調べてみる」くらいの粗い解像度でいいから、とにかく「始めること」を意識してみてください。その後に、具体的なタスクや目標を明確にしていけば良いのではないでしょうか。

パートナーのタスクには手を出さない。「子育て」のタスク管理

タスク管理術・スワンさんインタビュー

スワンさんは現在1歳のお子さんを育てているとのこと。お子さんが生まれてから、タスク管理に変化はありましたか?

スワン:「Notion」に加えて、産後1年くらいは夫婦で共有できる育児記録アプリ「ぴよログ」も使っていましたね。育児に関するお互いのタスクを可視化して、やったことを褒め合ったりするために始めました。

あとは、夜子どもを保育園に迎えに行った後は仕事もプライベートも一切予定を入れなくなりました。子どもを寝かしつけてから仕事を再開する方も多いと思いますが、私の場合は「なんで寝てくれないの?」とイライラしちゃって。

夜に時間が取れないとストレスが溜まりませんか?

スワン:火曜日と木曜日は夫がお迎え担当なので、その日は遅くまで会社にいたり、帰りにカフェで作業したり、ひとり焼肉したりすることもあります(笑)というのもわが家では、お迎えに行った人が子どものごはんから寝かしつけまでまるっと担当して、相手はその内容には「何も文句を言わない」というルールを決めていて。

パートナーの「やったこと/やらなかったこと」や子どもの様子が気になってしまうことはありませんか。

スワン:仕事と同じで、誰かが途中までやったタスクを引き継ぐのはやりづらいんですよ。

例えば、わが家では子どもの予防接種に関するあれこれは全て夫の担当にしていて、もし自治体から何か案内の封筒が届いても私は決して開けず「これ、よろしく!」という感じで渡しちゃいます。……まあ、封筒が机の隅に追いやられていたらそっと真ん中に置き直したりはしてしまうんですが(笑)

ここで私が封筒を開けて「そろそろ●●のワクチンの接種の時期だよ!」なんてサポートをしてしまうと「これで回ってる」と勘違いさせてしまう。別に夫を困らせたり、負担を増やしたりしたいわけではなく、あくまで「これは夫のタスク」という意識で、私は私でやることをやって相手のタスクと自分の責任を切り離すようにしています。

そうすることで、相手も自分なりの最適なタスク管理方法が見つかって、タスク管理の精度がだんだんと上がっていきますし。

タスク管理術・スワンさんインタビュー

自分とパートナーではタスク管理の方法も得意不得意も違うから、それぞれにあったタスク管理方法を見つけるのが大事なんですね。

スワン:そうですね。相手のタスクまで管理しようとすると、「何でやってくれないの」とイライラの原因になってしまうと思います。

ただ私たちは「それぞれのタスクはそれぞれで責任を持って」と同時に、「お互いにめっちゃ迷惑かけ合おうぜ」という方針も取り入れています。

「子育て」は1人ではなく2人で取り組むものだから、完全な分担を目指すのは不可能だと思っていて。どちらかの仕事が忙しい時期には「ごめん、今週忙しいからお迎えをお願い!」と頼む代わりに翌週は「全部私が迎えに行くね」というように、「今日のタスク量」だけじゃなくて、子育ての全期間を通して二人の負担が平均化されていればいいのかなと思うんです。どんなにタスクを管理していても、うっかり忘れちゃうことだってありますしね。

万人に合うタスク管理術はないから、小さな実験を繰り返す

タスク管理術・スワンさんインタビュー

世の中にはいろんな「タスク管理術」があると思うのですが、自分に合うやり方が見つからず、結果「三日坊主で終わってしまった......」という経験があって。「タスク管理術」を続けるコツはありますか?

スワン:自分も発信する側ではありますが……万人に合う「タスク管理術」はないと思うんです。本やWeb記事などのマネをしてしっくりこなかったり、続かなかったりしても、また別の方法を試したり、自分なりにアレンジしたりしてみてほしい。

先ほど紹介した「Notion」のテンプレートも、そのまま使うのではなく、他のタスク管理術と組み合わせたりしながら、少しずつ自分のライフスタイルに合うようにカスタマイズして使ってもらえるとうれしいです。

なるほど。一度タスク管理方法を確立できた後も、ライフステージや環境の変化に合わせて見直しても良いかもしれませんね。

スワン:あとは、「タスク管理に完璧を求め過ぎないこと」も継続のコツかもしれません。全然予定通りにいかない週もあるし、そもそも忙し過ぎてタスク管理をする余裕がないときもありますよね。そういう波があることを踏まえた上で、「今日のベストを尽くす」ぐらいの感覚でやってみることが大事かなと思います。

タスク管理術・スワンさんインタビュー

そもそも見積もりは外れるものだと思うんですよ。なぜなら人は「これくらいはできるはず」とつい無理なスケジュールを立ててしまうものだから。

なので私はあえて「どんぶり勘定」するように意識しています。1つのタスクにかかる時間を長めに見積りつつ、週の前半はタスク量多めにして週の後半にかけてだんだん量を減らしておく。そして金曜日は何もタスクを入れず「調整」の日とする。こうすればタスクが後ろにずれ込んでも週内には対応できますから。

スケジュールに余白を持つようにしているんですね。

スワン:でも最初からその方法にたどり着いたわけではなく、自分に合う方法を2年くらいかけて見つけていったんです。

自分に合うタスク管理術を習慣化してからは「何で私は“できない”んだろう」と自分を責めることが減りましたね。あとは気持ちに余裕が生まれて、自分や周囲に「怒り」を抱くことも減ったと感じます。その結果、疲れにくくもなり仕事においてもプライベートにおいても「やりたいこと」ができる気力が増えたな、と。

最初はうまくいかなくても、続けていれば確実にタスク管理の精度は上がっていきますから、夏休みの自由研究だと思って楽しみながらトライしてみてください。

取材・文:ヒガキユウカ
編集:はてな編集部

タスク管理や効率化が気になるあなたへ

時間を有効に使うには? 会社員と作家業を両立する三宅香帆さんのタスク管理術
会社員と「やりたいこと」を両立するタスク管理術
忙しい中で仕事を効率よく切り上げ、「自分の時間」を楽しむために私が工夫していること
趣味を楽しむために効率良く働くコツ
IT系夫婦の家庭と育児を支える、「情報共有ツール」活用術
仕事と育児を支える「夫婦間の情報共有ツール」活用術

お話を伺った方:スワンさん

スワンさんプロフィール

Designship Do 代表、株式会社操電 デザイナー。自身の体験談をベースに、生活や仕事を通して気づいた考察をブログやYouTubeで発信している。1歳児の母。著書に『あなたの24時間はどこへ消えるのか』(SBクリエイティブ)
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家庭より仕事を優先するパートナーに悩むあなたへ。研究者・竹端寛さん「夫婦の対話をあきらめないで」

家庭より仕事を優先するパートナーとどう話し合う?・研究者・竹端寛さんインタビュー

パートナーが「育児や家事」より「仕事」を優先しがち。共働きなのに負担が自分に偏っているように感じる——。そうした夫婦間の仕事と家庭に対する「温度差」はどう埋めていくとよいのでしょうか。

今回は「ケア」を研究する福祉社会学者でありつつ、自身もパートナーとの「仕事と家庭に対する温度差」に課題を抱いたことがあるという竹端寛さんに、夫婦の「温度差」の要因とそれを埋めるためのコミュニケーション方法を教えていただきました。

お話を伺った方:竹端寛さん

竹端寛さんプロフィール

兵庫県立大学環境人間学部教授。専門は福祉社会学、社会福祉学。著書に、一児の父として子育ての経験を綴ったエッセイ『家族は他人、じゃあどうする?――子育ては親の育ち直し』(現代書館)、『ケアしケアされ、生きていく』(筑摩書房)など。
兵庫県立大学環境人間学公式サイト
教員プロフィール
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なぜ育児・家事より、仕事を優先してしまうのか?

家庭と仕事の両立のバランス

周囲の共働き夫婦を見ていると、育児・家事に対する「温度感」が異なることで負担が片方に偏ってしまいがち……というケースが多い印象を受けています。なぜ夫婦間でこのような温度差が生まれてしまうのでしょうか。

竹端寛さん(以下、竹端):僕の考えをお話しする前に、みなさん(取材に同席した20〜30代女性・編集スタッフ数名)の意見も伺いたいのですが、日常生活において同じように悩むことはありますか?

(横で聞いていた編集スタッフ)私はあります。子どもが生まれる前から「共働きだから、育児・家事は平等に分担しよう」と話していて、パートナーも同意していたはずなのに、向こうの「仕事」を理由に私に負担が偏ることが多くて……。

竹端:ありがとうございます。このような「温度差」の背景には、夫婦のどちらかが何よりも仕事を優先する心理、いわゆる「仕事中心主義」に染まっているケースが考えられます。

実は僕もずっと「仕事中心主義」で生きてきたため、子どもが生まれても、なかなかこの思考から抜け出せなかったんです。妻から「一緒に子育てができないなら、一緒にはいられない」と言われたこともありました。

「ケア」を専門に研究されている竹端さんでも、パートナーや子どもの「ケア」を優先しようとする心理がなかなか働かなかった、というのはとても興味深いです。自身の「仕事中心主義」と向き合うきっかけは何だったのでしょうか。

竹端:妻からの一言をきっかけに育児や家事を積極的に行うようになったのですが、ミルクをつくって、買い物に行って、掃除をして、夕飯をつくって、おむつを替えて……で1日が終わったとき「俺、今日何もできへんかったわ......」とつぶいたことがあったんです。それを聞いた妻から「あんた、こんなにいろいろやってくれたやん!」と突っ込まれて、ハッとしたんです。

仕事であれば「今日はこれができた!」と自分の成果を認めることができるのに、育児・家事はいくらやっても「自分が達成したこと」としてカウントできていなかった。大変お恥ずかしいですが、「仕事の方が価値がある」と思っていたからこそ、この言葉が口をついたのだと気付かされました。

子育てを通じて「仕事中心主義」と「ケア」を考えるエッセイ
▶『家族は他人、じゃあどうする?――子育ては親の育ち直し』(現代書館)

子どもがいる共働き家庭の生活において「育児・家事」は必要不可欠な「タスク」にもかかわらず、なぜ「仕事」を優先する心理が働いてしまうのでしょうか?

竹端:テストの点数、偏差値、習い事での順位など、私たちは子どもの頃から他者評価システムに組み込まれて生きています。そして、人は他者からの評価によって承認欲求を満たそうとする。

この「他者からの承認欲求」を比較的簡単に満たせるのが「仕事」なんです。極端な話、パートナーの話を聞いたり、子どもと遊んだり、家族のケアをしたりしても「承認欲求が満たされるほどの評価」ってされづらいじゃないですか。

ワーカーホリックという言葉もありますが、仕事は短期的に承認欲求を満たすことができる。だから人は、育児・家事よりも仕事を優先するんだと思います。

なるほど。

竹端:僕はそれを「馬車馬の論理」と呼んでいます。自分や家族よりも会社やクライアントの都合を優先し、他者評価に身を捧げ、馬車馬のように働く。

一方、子育てや夫婦関係において必要となるのは「ケアの論理」です。「馬車馬の論理」とは異なり、ケアを必要とする身近な他者のために時間と関心を払うことに集中する考え方です。

この社会は、労働者が馬車馬のように働き、利益を追求する論理が優先されてきました。労働者もその論理を疑うことなく「仕事だから仕方がない」と思い込まされてきた。その結果、「育児や家事をパートナーに押し付け、仕事を優先してしまう」という構造ができあがってしまったのです。

夫婦で“大変論争”をするのではなく、相手の話を最後まで聞く

では「馬車馬の論理」で生きているパートナーにもっと積極的に育児・家事をしてほしい場合、どのようにコミュニケーションを取ったらよいのでしょうか。

竹端:まずは夫婦で対話することが重要です。対話がうまくいかないというケースは家庭内に「馬車馬の論理」を持ち込んでしまっていることが多いと思います。「俺はこんなに大変なのに!」「私だってこんなに大変なのに!」と、お互いが”大変競争”をしてしまうんですね。

“大変競争”。あるあるですね。

竹端:そういうときは「お互いのしんどさや大変さを、そのまま受け止める」ことを心がけてみてください。

そもそも「馬車馬の論理」は能動性の論理で、「ケアの論理」は受動性の論理なんです。ビジネスの場面では、「もっとこうしたらいいのでは?」「解決するにはこのやり方がいいよ」といった能動性が求められる。

一方、家族や夫婦の対話ではまず「ただ相手の話を聞く、最後まで聞く」という受動性、つまりケアが必要になるんです。それなのに「馬車馬の論理」を持ち込んで、ついついアドバイスや余計なことを言って相手を怒らせてしまうというのはありがちですね。

夫婦の話し合い

「ただ聞いてほしかっただけなのに!」とケンカになることも多いです......。

竹端:うちの妻は、よく僕に「Just Listen!」って言うんです。黙って聞いて、と。これはすごく大切なことで「今はアドバイスはいらないから、最後まで聞いてほしい」と伝え、言われた相手は話が終わるまでじっくり聞く。

そういった対話の練習が必要だと思います。僕たちは教育課程で「対話」の練習を十分にしてきていませんから、そもそも対話スキルが未熟なんですよ。

(横で聞いていた編集スタッフ)自分は話し合いたくても、パートナーが話し合いを避ける場合は、どうしたら良いのでしょうか。

竹端:もしかしたら、あなたのパートナーは過去の経験から「話し合い=責められる、言い負かされるもの」と認識してしまっている可能性も考えられますね。そういうときは、「あなたを責めたいわけではない。これからもあなたと生きていきたいから、一緒に考えたいんだ」と伝えてあげてください。

あとは、いきなり心配事や問題を持ち出すのではなく、まずはお互いに「あれすごく助かったよ、ありがとう!」「良くなってる!」と、ポジティブな変化をフィードバックし合うのもおすすめです。その上で「ここが心配なんだけど」と、残りの改善点を話し合ってみてもいいかもしれませんね。

共感はしなくていい。お互いの合理性を理解しようと歩み寄る

対話を心がけようとしても、相手の主張や行動にイラっとしちゃうこともあると思います。例えば、自分は家族の時間を考えて仕事を調整しているのに、パートナーが仕事や飲み会で夜遅くまで帰ってこなかったりすると、ついつい怒ってしまったり……。そういうときは、どうしたらよいのでしょう。

竹端:パートナーの考えに「共感」はしなくていい、でも「理解」はしようと努めてみてください。パートナーにはパートナーなりの合理性があるのでしょう。例えば「職場の飲み会に顔を出さないと仕事に支障が出てしまう、そうすると評価が得られず給与や昇進に影響が出て家族を守れないかもしれない」とか、内心は追い込まれているのかもしれません。

なるほど......。

竹端:繰り返しますが、共感も納得もしなくていいんですよ。「それで私に負担が偏るのはいいの?」とイラっとするのは当然(笑)。

でも、相手には相手の合理性があるんだと理解することで「納得はできないけど、そういう考えからこういう行動に至ったんだな」と「思考」が見えると思うんです。

家族だからこそ、「他人である」という前提のもとお互いの合理性を理解しようと歩み寄ることが、大切なんだと思います。

(横で聞いていた編集スタッフ)理解や歩みよりが大切なのは分かるのですが「ケア」に慣れている側に、相手を慮ったり、理解しようと努める「負担」がかかっている印象があり、どこか不公平さも受けます......。

竹端:その声は僕のところに本当によく届きます。特に女性からが多いですね。これは子どもの頃、男女で取り巻く環境が違ったことが一つの要因だと考えられます。

少しずつ社会も変わってきていますが、現在30〜40代くらいの方はまだ「女性はケアをする側の存在」という考えの中で育ってきた方が多い。

逆に「男性はケアをしなくてもいい側」として育った人がまだ多く「学んでいないから、できない」。「共働きで家事育児を分担するの当たり前」という社会になっても、なかなか能動的に「ケアする側」に回れない、または関心が薄いケースをよく見かけます。

家事の分担

環境や教育が原因で夫婦間で「ケアのスキル」に差があると、どうしても「スキルがある方」に負担が偏ってしまいますよね。

竹端:そうですね。「ケアは自分には関係ない」と思っている人もいますから……。

しかし、「ケア」は家庭だけでなく、「仕事」においても重要なスキルです。職場で上司に気にかけてもらったり、逆に同僚を助けたり、そこに人間関係がある限り“ケアなき仕事”はあり得ません。ケアは誰にでも関係するものだということを僕は多くの人に伝えていきたいなと思っています。

フィードバックし合うことによって夫婦の関係性は変わっていく

「仕事中心主義」や「ケアのスキル差」などですでに夫婦間の溝が深まってしまっていると感じている場合、何かできることはあるのでしょうか。

竹端:特に共働きで子育てをしている家庭だとなかなか難しいかもしれませんが、まずは意識的に二人の時間をつくるようにしてみてください。

例えば、たまには同じ日に有給を取ってランチに行く、子どもを預けて旅行やデートを楽しむなど、仕事や育児・家事から離れて、お互いを労いあったり、話を聞きあったりする時間をつくれるといいですよね。

夫婦二人の時間

「今さら二人の時間を作るなんて……」と気恥ずかしさを感じる方や、「わざわざ時間を取ってコミュニケーションを取るのが面倒くさい」「話してもどうせ分かってくれない」と思う方もいると思いますし、その気持ちも分かります。

でもやっぱり「夫婦で対話すること」をあきらめないでほしいと思います。「この人と生きていこう」と一度は思った相手なのに、簡単にあきらめてしまうのはもったいないことですし、「子どもが成長してうれしい」「パートナーと人生を共に歩めてうれしい」といった継続的な関係性でしか得られない人生の喜びや豊かさを感じたくて、家族やパートナーシップを築いたという人はきっと多いはず。

対話といっても、いきなり悩みの本題に入らなくてもいいんです。まずは「相手の良い変化」に目を向けてそれを伝えてみてください。人は相手からのフィードバックによって、自分を変えていけるものだと僕は思っています。

夫婦間でフィードバックし合うというのは、あまり考えたことがありませんでした。

竹端:僕が妻からの言葉や子育ての経験で価値観が変わっていったように、人はどんどん変化していきますから「ここがよかったよ」と伝えることは良い夫婦関係を築いていく上でとても効果的です。

対話をすることでお互いの変化を認め合い、また新しい関係性を結んでいく。そういった「夫婦の出会い直し」を繰り返すことが持続的なパートナーシップにつながり、「仕事」と「家庭」の温度差を埋めていくのだと思っています。

取材・文:貝津美里
編集:はてな編集部

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