仕事と子ども、どちらも大事だけれど片方を優先させるともう片方が疎かになってしまう。3歳の子どもを育てながらタレント活動を続ける菊地亜美さんも、日々そんな悩みと向き合っているそうです。
かつてはどんなことよりも仕事を優先していたという菊地さんに「仕事と子育てのちょうどいいバランスの見つけ方」について伺いました。
休むと「仕事がなくなるんじゃないか」と怖かった
菊地亜美さん(以下、菊地) アイドルグループ「アイドリング!!!」に所属しながらソロ活動をしていた頃は、特に忙しかったですね。ほぼ毎日早朝から夜遅くまで仕事が入っていて、休みは月に1回あるかないか。その休みも、ダンスや歌の練習をしていました。
一日に数時間しか眠れない日が続いて、移動中のロケバスではずっと寝ている、なんてことも時々ありました。
当時の優先順位は「仕事」が断トツ1位。大切な友人から結婚式に招待してもらっても、「急な仕事が入るかもしれない」と思い、参加を見送ったことは何度もあります。
菊地 楽しくてしょうがなかったんです。憧れの仕事に就けて、たくさんのテレビ番組に出させていただいて。この仕事が続けられるなら、休みなんていらない。いただいたオファーは全て受けたい。そう意気込んでいました。
あとは、休む間もなく働くことで「仕事がなくなるかもしれない不安」を打ち消したかったんです。
菊地 私の場合、積み重ねたものが徐々に認められて仕事が増えたというよりは、突然増えたんですよ。だからこそ、ちょっとでも仕事が減ると不安だった。
常に「もし私がこの仕事を断ったら、代わりに誰がこの席に座るんだろう」「次からはその子が呼ばれるようになって、私の席はなくなるかもしれない」と思ってしまい、怖くて休めませんでした。
「自分はどうしたいか」を優先したら、より仕事が楽しくなった
菊地 まず、結婚をきっかけに「仕事だけじゃなく、人間としても人生を充実させたい」と思うようになりました。そのためにはやっぱり「休む」ことが必要だと思ったんです。
でも、結婚するまでは「仕事を休みたい」と言うのは自分の中で“絶対にありえないこと”でした。かといってマネージャーや夫に気を使わせて「結婚したからもっと休んでいいんだよ」と言わせるのは違うじゃないですか。
そもそも、私が「休みたい」と意思表示をしていないのだから、周りが私の気持ちの変化に気付くわけがない。そこで初めて「私のことを決めるのは、夫でもマネージャーでもない。私自身だ」と自覚したんです。
ただそれまで「休みたい」と相談したことがなかったから、周りに何と言ったらいいのか分からないし、仕事がなくなる不安もやっぱり拭えなくて……。独身時代よりはプライベートの時間が増えましたが、結局ずるずると「仕事優先」で生活していました。働き方に大きな変化があったのは、妊娠が分かったころですね。
菊地 そのころはちょうど新型コロナウイルスが流行し始めて、自粛や感染対策の影響もあって仕事が減ったタイミングだったんです。
でも、時間に余裕ができたことで改めて仕事の状況や、これから夫と子どもとどう過ごしていきたいかなどと向き合うことができたんです。そして「私は仕事が大事だけど、家族の方が大事。家族の時間に影響が出る仕事なら、やらない」と明確に思えたんです。
何よりも仕事を優先して生きてきた私からこんな気持ちが生まれるなんて、周りはもちろん、自分自身もすごく驚きましたね。
菊地 もちろん「断ると仕事がなくなるかもしれない」という不安は、ゼロにはなりません。でも、ポジティブな意味で「これが私の人生だから、しょうがないよね」と考えられるようになりました。
それに、家にいる時間が増えたタイミングで、妊娠中の様子など日常をYouTubeで発信するようになったら想像以上にたくさんの方に見ていただけて! YouTubeをきっかけにまたテレビ出演のオファーがくるようになったんです。
時間に余裕ができたからこそ新しいチャレンジができたし、そのおかげで今もこうして仕事ができている。自分がどうしたいかをちゃんと考えて、意思をきちんと伝えるようになってからの方が、より仕事を楽しいと思えるようになりました。
固定観念に囚われるのではなく、家庭それぞれで「正解」を作る
菊地 マネージャーには「子どもが生まれたら仕事は週3日までに抑えたい」と出産前から話していました。子どもが生後2カ月半のときに仕事に復帰しましたが、しばらくは週1ペースで働き、徐々に週3日くらいに増やしていきました。
菊地 でも、休みなく働いていた時期が長かったから「週3日だけ働くって、なんて楽なんだろう!」と思い始めて。それでマネージャーに「もっと仕事が入っても大丈夫です」と言って、また週5、6日働くようになったら、結局だんだんしんどくなってきちゃって……。
菊地 特に、子どもが起きる前に家を出て寝たあとに帰る日はつらかったです。そういう日が続くと「何のために働いているんだっけ?」と落ち込んじゃって。今は時期にもよりますが、仕事は週3、4日に抑えています。「もうちょっと仕事できそう」と思えるくらいで止めておくのが、仕事と家庭を両立するポイントなんだと学びました。
菊地 でも、つい仕事を増やして「何のために働いているんだっけ?」と反省するのを、これまでに3回もやっちゃっているんですよ……。毎回しんどくてすごく落ち込むのに、時間がたつと「子どもも大きくなったし、今ならできるかも!」と思っちゃって。
菊地 はい。生後5カ月ごろにまず一時保育を利用し始めました。最初は「こんなに小さい子を預けていいんだろうか」と悩みましたし、預け始めてからも「この選択で本当によかったのかな」としばらくモヤモヤしましたね。
私の仕事の関係上、休日も預かってくれる保育園にしたのですが、休日だと預けているのがうちだけのときがあって。帰りが遅くなって、うちの子以外の園児は全員帰宅していたこともありました。「子どもにさみしい思いをさせているかもしれない」と、自分を責めたこともあります。
菊地 私の場合「自分の思い通りにいかない」から、モヤモヤしていることが多かったんですよね。私が私の「こうありたい、親の理想像」を実現できていないから「小さい子どもを保育園に預けて、寂しい思いをさせている」と思い込んでいた。
でも、当の子どもはいつも楽しそうに保育園に通っているし、迎えに行くと「(もっと遊びたかったのに)もうママ来たのー!?」と言われることも多いんです。だから「悩んでいるのが私だけなら、まぁいいか」と思えるようになりました。それに保育士さんはプロだから、頼れる存在は頼った方が絶対にいい!
菊地 そうですね。例えば以前は「子どもの食事には冷凍食品を使っちゃいけない」「毎食全て手作りしてあげるのが、いい親だ」と思い込んでいたんですよ。私自身が食べるのには抵抗がないし、おいしいのも分かっているのに。
ただ仕事が忙しいとそうも言っていられず、モヤモヤしながら「まぁ、いいか」と冷凍食品を使ってみたんです。そうしたら、子どもは「おいしい」と喜んでくれるし、私は楽だし、空いた時間で子どもと遊ぶこともできて、良いことずくめだったんですよ。
菊地 もちろんあります。寝言で「ママどこ」とつぶやいているときもあって……。「これでいいんだろうか」と葛藤する毎日です。
「子どもが小さい間はずっと隣にいる」という親もいるし、「子どもが生まれてもバリバリ働く」という親もいます。どれが正解とかではなくて、その家庭によりけりだと思うんです。
私たちの家庭の正解は、私たちで作っていくしかない。だから「親とはこうあるべき」という固定観念に囚われるのではなく、「家庭ごとのルール」を決めるといいのかな、と思っています。
菊地 例えば「夜遅くまでかかる仕事や、泊まりの仕事は入れない」とか、「閉園時間ギリギリではなく、夫婦で決めた時間までに必ずどちらかがお迎えに行く」といったルールを夫と決めています。
あとはルールというほどではないのですが、毎日寝る前に「大好き」と娘に伝えるようにしています。仕事の都合で寝る前に帰ってこれないときは「ママがお休みの日に、一緒にこれをしようね」と楽しみを作るようにしていますね。
夫婦で話し合い、仕事と家庭のちょうどいいバランスを見付ける
菊地 お互いに、相手のペースを尊重するようにしています。例えば、私が「今片付けてほしいのに」と思っているタイミングで夫が動いていなくても、何も言わない。夫も同じように、私担当の家事が溜まっていても、何も言いません。
「人それぞれのペースややり方があるのだから、それを否定しない」とお互いに認識しておくのは、夫婦関係を築く上で大事なことなのかなと思っています。
菊地 当然ありますよ!(笑) でも、頭に血が上っているときは冷静な話し合いができないと分かっているから、そういうときはお互い落ち着いてから話し合うようにしています。
家事・育児の負担のバランスについてもよく話し合いますが「どっちの負担が多い、少ない」ではなく、二人が良いと思えるバランスを見つけるのが大事なのかなって。
例えばわが家は、私自身ができるだけ娘と一緒にいたいし、お世話をしたいと思うから、私の意思で家事や育児の時間を長くしています。夫は「もっと自分の時間を作ったら」「泊まりの仕事を入れてもいいんだよ」と言ってくれているんですけどね。
菊地 本当に、試行錯誤しながらですけどね。夫との関係もそうだし、家事のことも、子どもとの関係も、仕事とのバランスも、今でも悩むことだらけです。実は今朝家を出るときも、子どもから「ママ行かないで」と言われて、心苦しくなったばかり。
それでも、大好きな仕事を続けながら大切な家族と一緒に過ごせている今が一番幸せだと思っています。悩むことも多いけれど、「自分の中にこんな感情があったんだ」と気付けることがうれしい。今の自分が、これまでの人生で一番好きです。
取材・文:仲奈々
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部
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