男のわたしが時短勤務を選んでみて。育児との両立に悩み、フルタイムをやめて気付いたこと

男のわたしが時短勤務を選んでみて。育児との両立に悩み、フルタイムをやめて気付いたこと

フルタイムの妻と二児を育てながら時短勤務をしているYuki Otaさんに、現在の働き方を選択するまでを振り返っていただきました。

「仕事と育児を両立したい」と奮闘する中で心身のバランスを崩してしまった経験から、自分なりに「仕事と育児のちょうどいいバランス」を探っていったといいます。

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わたしは、訪問看護師としてフルタイムで働く妻と12歳になる娘、2歳になる息子との4人で、大阪の北摂、いわゆるベッドタウンで暮らしている。

複数のベンチャー企業でフルタイムとして働いたのち、専業主夫を経ていまはNPO法人の広報として時短勤務をしている。

居心地のいい働き方がしたい、と思って、ここまで流れるようにいろんな働き方を転々としてきた。

自分は「フルタイムで仕事と育児の両立ができる」と思っていた

10年ほど前、フルタイムの会社員だったあるとき、全く働けなくなった。

働けなくなる直前まで「仕事も育児も両立したいし、自分にはそれができるはずだ」と思っていた。

当時子どもはまだ1歳になったばかり。無事に保育園に預けることができて、妻もフルタイムの共働き。仕事も育児もバリバリ頑張れる気力も若さもあった。終業までフルタイムで働いたあと、残業は手短に、子どもに早く会うためにダッシュして帰った。

全力で走れば、娘が寝る前になんとか顔を見ることができる。一緒にお風呂に入れるかもしれない。たくさんのサラリーマンが行き交う梅田の地下街を、人を避けながら走っていた。「ダッシュして帰った」は比喩ではなく、本当に走っていたのだ。

夜の街

しかし、次第に業務が立て込むようになり、娘が寝る時間にはとっくに帰れなくなっていた。仕事と子育ての両立どころか、飲み会が終わったあとに再び会社に戻って仕事をするような日が続いた。

気力も体力もどんどん削られていき、つらい、とか思う前に限界がきたのは身体の方だ。顔はこわばり、痙攣(けいれん)が止まらなくなり、口内炎はひどくなり、一度入院もした。仕事のミスや遅れも多くなり、もうダメだな、と思ったところで心療内科で「うつ病」と診断され、会社をやめることになった。

仕事が忙しいせいでうつになったとは思っていない。仕事と育児の両立がしたい、という自分の気持ちと現実との乖離が激しかったから起きたものだと思っている。

だから、それからの日々は気持ちと現実の折り合いをどうつけるか、探っていく日々だった。

「ステレオタイプな男性像」にとらわれていたのは、わたし自身だった

しばらくのあいだは、いわゆる「稼ぐ」仕事は全くせず、専業主夫をしていた。

専業主夫・主婦は、ずっと家にいるために「社会から孤立してしまうのでは」と思われがちかもしれない。ましてやわたしは「男」だし、「働いていないこと」に対して、冷たい視線を浴びるのではと感じていた。結婚して、子どもも生まれて、いい会社に入って、順風満帆なはずなのに、なんでうつになって辞めちゃったの?と。

しかし実際は、そうでもなかった。

専業主婦と現役を引退した人ばかり集まる地域の自治会に、私も主夫なのだから、と飛び込んで参加してみると、道を歩けば知らない子どもやおじさんに話しかけられるようになった。昔の友人に会っても、否定的なことを言われたりはしなかった。さらには「専業主夫をします」と宣言してブログを書き始めると、主夫仲間も増えた。

みんな、びっくりするくらい、「働かないわたし」をすんなりと受け入れてくれた。フルタイムで仕事と育児の両立を、とこだわり続けていた自分の方が、あまりにもステレオタイプな競争社会や男性像にとらわれ過ぎていたのではないか、と恥ずかしくなった。

ただ、働かないことで苦しかったのは、当たり前だけど生活面だった。

これからも子育てにお金はかかる。そう思って短時間のアルバイトから少しずつ、働くことを始めた。近くのスーパーの事務を始めると、ここでも専業主婦の仲間がいっぱいできた。おばちゃんたちと毎日お弁当を食べながら、家事育児の話をするのがとても楽しかった。

2年ほどアルバイトをしながら、空き時間にブログを書く日々が続いた。あるとき、以前一緒に働いていた前職の同僚から「独立して起ち上げた会社で一緒に働かないか」と声をかけられた。

けれど、フルタイムで働くことは現実的に難しい。子どももまだ小さく、仕事を辞めてからは、わたしがお迎えに行くリズムが生活に組み込まれていた。

それに、1日8時間労働+通勤時間+家事育児の毎日に戻ったら、せっかく取り戻してきた生活のリズムが崩れてしまう。

そんな思いで「1日6時間でも良ければ」と返事をすると、先方は快く受け入れてくれた。

そうして、時短勤務で働く日々が始まった。

その後、一定の役目は果たしたと考えて今の職場に転職し、時短勤務を続けている。

時短勤務を始めて「どちらもうまくいかない」悲壮感はなくなった

今、わたしは16時に仕事を終えてすぐにオフィスを出る。歩いて下の子の保育園のお迎えに行き、ご飯を作って子どもたちに食べさせる。ほどなくして妻も帰ってきて、一緒に夕食を食べることができる。夜寝るまでの時間に、小学生になった上の子の勉強に付き合い、下の子と一緒に電車のおもちゃで遊ぶ。

在宅勤務の日は、もう少しだけ余裕がある。通勤時間がないおかげで、通院したり、少しだけ寝坊したりできる。

夜のオフィス街を走って帰っていた頃に比べて、仕事の量も時間も半分以下になったし、もちろん給与も半分以下になった。でも、走らなくてもよくなったし、十分生活できている。

仕事は無理なく続けることができている。多くの仕事をこなしながらも育児と器用に両立させることはできない。けれど、走って帰っていた頃の「どっちも思い描いていたとおりにできない」という悲壮感はない。これでいいと思える、居心地の良さが今の生活にはある。

おもちゃで遊ぶ子ども

そんなわたしのことを、妻はどう見ているのだろうか。

妻は、2回の出産があってもずっとフルタイムで働き続け、職場では管理職をしている。それでいて、育児や家事もおろそかにはしていない。残業もあるし、夜勤もときどきあり、わたしの倍は働いているんじゃないかと思うときもある。けれど、妻は「今の仕事は楽しいし充実している。もし一度でも自分が時短勤務をしていたら、今の立場では働けなかったかもしれない」と、妻なりに納得して働いている。

もちろん、口にはしなくても、些細な不満はいっぱいあるはずだ。けれど、お互いの働き方をすり合わせてきて、今の二人分のキャリアがある。これからも二人で、お互いのキャリアを考えていけたらと思う。

男性でも女性でも、より自分が働きやすい選択を当たり前にできる社会に

今の社会は、100ある労働力が、ずっと100のままでいられることを前提に作られていると思う。

実際には100の労働力が、家庭の事情、自分の健康などいろいろな理由によって、突然50や80になることもある。誰もがずっと同じように働き続けられるとは限らない。

最近では男性の育休取得が少しずつ進んでいるものの、復帰後は当たり前のようにフルタイムの労働力が戻ってくると思われているだろう。

復帰直後、保育園に慣れない幼児がどれほど頻繁に熱を出すか知っているだろうか。保育園に呼び出されたら、当たり前に男性も迎えに行ける状況であるべきだし、そうでなくても、男性が毎日のお迎えに行くために時短勤務をしてもいいはずなのに。そうなっていない今の社会は、男性がフルタイム以上の働きをすることに依存し過ぎている。

本当は性別も年齢も関係なく、より多くの人が居心地良く働けるくらい、しなやかな社会になるといいな、と思っている。これからは男性も育休を1年くらい取るのが普通で、育休後もしばらく時短勤務が選択できて当たり前、みたいになればいい。

もちろん、そんな簡単に社会は変わらない。それもよく分かる。男性が「時短勤務」という選択をすることは実際にはまだまだ少ないし、たかだか育児休業を数日取るだけでも、クビになる覚悟で上司に言わなければならない会社だっていまだにあるのを知っている。わたしも10年前、それができたかというとできなかった。

理解を得られるように相手の考え方を変化させるのは、時間がかかるし難しい。

わたしは、どちらかというと無理解な社会と戦ってきたというよりは逃げてきたのだと思う。でも逃げることが悪いとは思わない。自分でより働きやすい働き方を選択できる居場所を探す方が、よほど簡単で手っ取り早い。

「働き方が合わないから会社を辞める」というと後ろ向きに聞こえるが、「柔軟な働き方が選べる会社ほど人が集まりやすく定着する」という空気の醸成に貢献していると思えば、少し気は楽にならないだろうか。

育児と仕事のバランスをうまく取りたいという希望や願いを理解されずに、しんどい思いをしてきた女性は男性以上にずっと多くいるはずだ。そして、以前よりも男性の育児参加が広まっている今、同じように理解されないしんどさを抱えている男性がいることも可視化され始めている。社会の理解が進むことを願うけれど、まだ当面は男性ももっと、理解をしてくれない社会と対峙しなければならないはずだ。

育児はこの先もずっと続くし、子どもはすぐには育たない。時間をかけてだんだん手離れしていくのを待って、わたしはこれからもまた、そのときどきの状況と自分の意思に合わせて働き方を変えていきたい。

キッチンの様子

編集:はてな編集部

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著者:Yuki Ota

Yuki Otaさん

大阪府在住、12歳と2歳の二児の父親、5年以上時短勤務中。noteで日々のよしなしごとを綴っています。 京都大学を卒業後、複数ベンチャー企業のバックオフィス業務に従事、その後うつ病を発症し専業主夫に。
2019年から再び時短勤務で働き始め、現在はNPO法人の広報担当。妻は訪問看護で働く看護師。

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