22時以降にスマホを見るのを(なるべく)やめた|山本ぽてと


誰かの「やめた」ことに焦点を当てるシリーズ企画「わたしがやめたこと」。今回は、ライター・編集者の山本ぽてとさんにご寄稿いただきました。

山本さんがやめたのは「22時以降にスマホを見る」こと。お酒に頼らない「休み方」を模索する中で、“できる範囲”でスマホとの距離感を見直すことにした経緯とその効果を振り返ります。

***

22時以降、なるべくスマホを見ないようにしている。

なるべく、とつけたのは、スマホの「人間を依存させようとする力」は強く、100%実行しているとは言い難いからだ。それでも、22時以降にスマホを見ない生活はなかなか素晴らしい。

お酒をやめたら「仕事終了」のタイミングが分からなくなった

「22時以降にスマホを見ない生活」を始めたきっかけは、2022年夏ごろからお酒をやめたことにある。仕事の一環で、アルコールや薬物といった依存症からの回復施設を定期的に取材するようになり、試しに自分も大好きなお酒をやめてみようと思った。

ほぼ毎日飲んでいたお酒をやめてみると、すごく寝覚めがいいし、一日中気分が良い。晴れた日に外に出るだけで、「いい天気だな、目に木々の緑が眩しいな」と爽やかな気持ちが続いた。仕事の能率も上がったような気がして、うれしくなった。

一方で、お酒を飲む習慣がなくなったことで、仕事を終えるタイミングが分からなくなっていった

今までは10時ごろに仕事をはじめ、19時ごろにはご飯を食べながらお酒を飲むことで、いわば「強制終了」できていた。しかし、気付けばスマホやパソコンを開き、24時ごろまで仕事をするようになっていく。

そしてよくも悪くも朝スキっと起きられてしまうので、朝から仕事に取りかかることもできる。フリーランスの仕事には終わりがなく、やろうと思えばいくらでもできる。気がつけば朝早くから夜遅くまで、一日中仕事をする生活になっていった。

それでも、規則正しく起き、三食食べ、適度な運動や散歩をし、お風呂に毎日浸かってストレッチをするなど、自分を労わっているつもりだった。なにより仕事は楽しかった。

しかし、だんだんと、

「SNSで悪口を言われている」

と感じるようになっていった。友人にそのことを話すと、私がそう思った投稿を確認してくれて、「悪口、言われてないよ。ちょっと休んだ方がいい」と心配された。

今までの私はお酒を飲むことで仕事と強制的に距離を取り、気分転換ができていた。でもこれからは、他の方法が必要なのかもしれないと考えるようになった。


現代における「スポーツ」とは、スマホを見ないことでは?

どうやって仕事から離れて休めばいいのか。

考えてみると、私がずるずると仕事を続けてしまう原因のひとつにスマホがあった。パソコンから離れても、手元にあるスマホでメールやチャットアプリをすぐに見ることができる。お酒を飲んでいたときは「酔っているから、また明日」と思えることも、しらふだとどうしても気になってしまう。そうして、またパソコンに向かってしまうことも多かった。

そこで思い出したのが、以前取材した「ゆるスポーツ」代表理事の澤田智洋さんから聞いた「ランニングは唯一、スマホを見ないことを許される時間」という言葉だ。

(「ゆるスポーツ」とは、障害の有無や運動経験を問わず、誰もが楽しめる新しいスポーツのことなのだが、詳しくはぜひ『ガチガチの世界をゆるめる』(百万年書房)を読んでいただきたい)

📢【編集部より】「りっすん」にも「ゆるスポーツ」代表理事・澤田智洋さんにインタビューした記事があります📢


そもそも「スポーツ」という言葉はラテン語の「deportare」(デポルターレ)に由来がある。スポーツ庁Web広報マガジンの名前も「DEPORTARE」であり、サイト内にはこんなことが書かれている。

デポルターレとは、「運び去る、運搬する」の意。転じて、精神的な次元の移動・転換、やがて「義務からの気分転換、元気の回復」仕事や家事といった「日々の生活から離れる」気晴らしや遊び、楽しみ、休養といった要素を指します。
(引用元:スポーツ庁が考える「スポーツ」とは?Deportareの意味すること

つまり、現代における「スポーツ(=義務からの気分転換、元気の回復)」とは、「スマホを見ないこと」だと言えるのではないか。スマホをはじめとした道具に触れないことで、仕事のような義務から離れ、元気を回復することができる。

この大発見を検証するべく、22時以降はスマホのアプリを休止する設定にし、タブレット、PCも見ないことにした。

驚いたのはその効果だ。モニターから離れる時間が長ければ長いほど、翌日の頭がスッキリとした。肩こりも目の疲れも緩和されていく。元気になってくると、SNSで悪口を言われているかどうかに大きな興味がなくなった。

22時以降、スマホを見ないこと。私にとっては立派なスポーツになりそうだ。

無理したりサボり過ぎたりしながら、ちょうどいい休み方を探るしかない

そうした生活は3カ月ほど続いた。今後も末永くやっていきたいと思っていたが、そう甘くはなかった。

例えば寝る前にストレッチがしたくなったとき、iPadでYouTubeのストレッチ動画を開く。ひととおりストレッチが終わって閉じようとしたら、好きなお笑い芸人が新しい動画を投稿したことに気がつき、うっかりクリックして、そこから動画の旅に出てしまう。

夜、友人たちと少し騒がしい場所で食事会をしたあと、脳が妙に覚醒してしまって眠れそうにないので、ラジオを聞こうかなと枕元にスマホを持ち込む。あ、そういえば新しいリップが欲しいんだったと思い出し、評判の良いものを調べてみようかなと、SNSの検索欄に「イエベ秋 リップ」などと打ち込みはじめ、検索の旅に出てしまう。

そんなこんなしていたら、なし崩し的に22時以降もスマホやタブレットを見てしまう日が増えていった。22時にアプリが休止状態になる設定も、解除して使ってしまう時もある。恐ろしいことに、私の意志とは別に、「制限時間を超えました」の通知が出てきても、「制限を無視」と指が勝手にタップしてしまう。

そもそも「アテンション・エコノミー*1」という言葉が生まれるほど、私たちの関心を取り合うために天才たちが切磋琢磨しているわけで、人類にとってスマホは「面白すぎる」機械になっている。凡人の私が個人の意志で離れるのは難しい。だからもう正直ちょっと諦めている。降参だ。

なので、とても正直に報告をすると、22時以降もスマホを使ってしまうことはある。それでも、夜遅くまでずるずると仕事をすることはだいぶ少なくなった。22時以降はスマホを見ないと周囲に公言していることもあり、「22時を過ぎたから、続きはまた明日」と思えるようになった。ベストではないけど、以前よりはだいぶいいと思っている。

働き方も休み方も本当にそれぞれで、ライフステージや環境などさまざまな事情が人間にはある。各々ちょっと無理したり、サボり過ぎたと後悔しながら、自分にとってちょうどいい働き方と休み方の塩梅を探していくしかないのだろう。

個人的には、22時以降にスマホをみないのはかなりオススメの方法である。翌日の疲れが全然違うので、だまされたと思ってたまにやってみてほしい。まぁ、私はできていないこともあるけど。

編集:はてな編集部

「お酒」や「スマホ」との付き合い方を考え直してみる

飲み会は途中で帰る。深夜までお酒を飲むのをやめて「朝」を大事にする生活にシフトした|椋本湧也
深夜までお酒を飲む生活をやめた
断酒して5年が経った
“ちゃんと”できない
SNSで心身のバランスを失わないために。伊藤洋志さんに聞くリアルな「イドコロ」の見つけ方
SNSで心身のバランスを失わないために。

著者:山本ぽてと

山本ぽてとさん

1991年、沖縄生まれ。ライター/編集者。人文社会学分野を中心に、インタビューや対談の構成をしている。エッセイや書評の執筆も。TBSラジオ「文化系トークラジオLife」番外編Podcast「働き者ラジオ」は毎週木曜朝配信中。

*1:情報に対する人々の関心や消費時間が経済的価値を持ち流通するという概念