夫に怒りをぶつけるのをやめた|川口真目(カワグチマサミ)

 川口真目(カワグチマサミ)

夫に怒りをぶつけるのをやめるために試したこと

夫や子どもなどの「家族」に、ついつい「怒り」をぶつけてしまうと悩んでいませんか。

誰かの「やめた」ことに焦点を当てるシリーズ企画「わたしがやめたこと」。今回は、マンガ家・エッセイストの川口真目(カワグチマサミ)さんにご寄稿いただきました。

その距離感の近さから、同僚や友人、知人などと比べて、感情が表に出やすい家族とのコミュニケーション。川口さんもかつては、夫に対して感情的に怒りをぶつけてしまったことがあったと言います。

しかし「怒りの正体」を見つめることで、伝え方を工夫できるようになったそう。また、子どもとの接し方も変わったのだとか。川口さんはどう、自身の「怒りの正体」と向き合ったのでしょうか。

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仲良し夫婦だったのに……出産をきっかけに怒りをぶつけ合う関係に

お互いゲームが好きで、最初は友人として付き合いだした私と夫。結婚して子どもが生まれるまで、滅多にけんかをしないくらい仲がよかったのですが、出産以降、2年半ほど不仲だった時期がありました。

夫に怒りをぶつけるのをやめるために試したこと『子育てしながらフリーランス』より

結婚して、子どもが生まれると、楽しいことばかりではなくなります。生活をするためには家事をしないといけない。生活費、教育費、住宅ローンなど、いろいろなお金を払わないといけない。仕事へのプレッシャーも大きくなる。子どもが小さい頃は、目を離すと命に関わることもあります。

それまで「なんとなく」で生活できていたとしても、子どもができるとそうは言ってられなくなる。特に産前産後は、パートナーと本音で向き合わざるを得ない時期なんだと思います。

だけど私たちは「これまで仲良くやってきたんだし、今更話し合う必要なんてない」と言い訳をして相手と向き合うことを後回しにした結果、どんどんとすれ違うことが増えていきました。

子どもが生まれたばかりの頃は、夫が転職したばかりで多忙だったため、自然と、在宅フリーランスの私が家事を担うことが増えました。しかし慣れない育児は想像以上に大変で、それまで私ができていた家事もできなくなりました。授乳をして、ミルクを作って、オムツを替えて、お風呂に入れていたら、育児だけで1日があっという間にすぎます。

でも夫も仕事で忙しいのでなかなか家事に時間を割けず、洗い物や洗濯物がどんどんたまっていく。話し合う時間も作れず、家は荒れ、夫とはどんどんすれ違っていきました。さらに、産後の体調不良や育児による睡眠不足など、正しい判断がしづらい心身の状態も重なり、イライラが積み重なり……。

最初は「自分さえ我慢すれば」と耐えていましたが、「私はこんなにがんばってるのに、なんで理解してくれないの?」という気持ちがどんどん大きくなって止められなくなり、夫に「怒り」をぶつけてしまったのです。

夫に怒りをぶつけるのをやめるために試したこと
『子育てしながらフリーランス』より

だけど、怒りをぶつけて返ってくるのは、相手の「怒り」だけ。夫も、本来は冷静でやさしい性格ですが、多忙な仕事と子どもが生まれたことで、プレッシャーもあったのでしょう。大きく変化した家庭と仕事の間で葛藤していたストレスが、怒りに変わってしまったのだと思います。

するともう、ドッカーン!!!です。

お互いに怒り爆弾を投げ合い、何一つ悩みや問題は解決しないままさらに関係は険悪になっていき、気付けば2年半がたっていました。

なんで「怒り」をぶつけてしまうの? 「怒り」の正体を暴いてみたら……

そんな私が夫に「怒り」をぶつけるのをやめたきっかけは、「身体が強制的にストップしたから」でした。仕事と家庭(育児)を両立しよう! と頑張っていたところ、頑張りすぎて倒れてしまったのです。

体力がゼロになると、怒りすら湧いてこず……。そのときようやく「怒りをぶつけ合っても、お互いにダメージをくらってただただ疲れるだけ」と気付きました。

「もう怒りをぶつけるのをやめたい」
「でも、そもそもなんで私は、夫に怒っていたんだろう?」
「この怒りはどこから湧いてくるものなんだろう?」

これ以上夫に怒りをぶつけないため、「怒り」の正体を暴こうと自分の気持ちと向き合ってみて……。見えてきたのは私が抱えていた「寂しさ」でした。

「仕事と育児の両立が限界なことに“気づいてほしい”」
「本当は夫のように働きたい気持ちを“理解してほしい”」
「一人で頑張ってるのが“むなしい”」

そんな「寂しさ」から生まれる気持ちが形を変え、より激しい感情の「怒り」となり、その感情を分かってもらいたいがために夫にぶつけてしまっていたのです。

夫に怒りをぶつけるのをやめるために試したこと
『子育てしながらフリーランス』より

「なんで理解してくれないの!?」と怒りをぶつけるより、「『寂しさ』を抱えていることを理解してほしい」と素直に本音を伝えた方が、相手も気持ちを受け止めやすいはず。「本当の気持ちを伝える」ことが、すれ違いを乗り越える鍵になることを実感しました

しかし、そもそもお互い仕事や育児で忙しく、ゆっくり話をする時間がないのです。そこで、「コミュニケーションを取るための習慣」を作ることにしました。

子どもがまだ小さい頃は、夫も仕事の帰りが遅かったため、私が子どもを寝かし、その間に夫が帰ってきて、お互い就寝まで自由に過ごすという生活をしていました。

その自由時間を、できるだけ「夫婦で過ごす時間」に変えてみたんです。夫がごはんを食べている横でゲームをしたり、一緒にテレビドラマを見たり。リラックスする時間や楽しい時間を共有することで、以前より自然に会話が生まれる雰囲気になっていきました。

当時、私が一番イライラした夫の態度は、話し合いをしようと伝えても、応じてくれないことでした。その理由を今になって聞いてみると、「お互いイライラしてるときに話し合ったら、よくない方向に行くと思ったから」と話してくれました。

あの頃の私は、夫に対して「この人は、私たち夫婦のことを何も考えてくれてない」と思い込んで傷ついていました。だけど、むしろ彼は、夫婦のことを考えて、行動してくれていたのです。

そのことに気づいたとき、ゾッとしました。本音ではお互い「向き合いたい」と思っていたのに、怒りをぶつけ合うことで、すれ違っていたのだと。あのまま話し合うきっかけがなければ、二人にとってよくない方向に進んでいたかもしれません。

そして私たちのように、本当は話し合いたいのに怒りをぶつけ合ってすれ違っている夫婦は、今も少なからずいると思うのです。夫婦関係を続けるのも、終わりにするのも、良い・悪いではなく、選択の一つ。しかし、その素直な気持ちを「怒り」の裏に隠したまま選択をしてしまうと、きっと後悔すると思います。

夫婦はもともと他人同士です。お互いが向き合おうとし続けなければ、いつかすれ違ってしまうのは仕方のないこと。だからこそ、これからも、夫婦の時間を大切にしていきたいと思います。子どもができても、夫婦は夫婦であり続けますから。

子どもに「怒り」をぶつけてしまったら……?


「夫に怒りをぶつけるのをやめよう」と考え、自身の怒りやその奥にある本音と向き合うようになるにつれ、「子ども」への接し方についてもこれまで以上に考えるようになりました。というのも私の父親は、「怒り」を子どもにぶつけてくるタイプでした。

「掃除しろ!」「勉強しろ!」「静かにしろ!」

会話ではなく、一方的にぶつけられる感情は相手の思考力を奪って、コントロールしてしまう力があります。私もこういった経験を繰り返すうちに、自分で考えて行動することができなくなってしまい……。長らく親との関係がこじれてしまっていました(今では父親も落ち着き、そういったことはなくなりましたが)。

こういった幼少時の傷ついた経験から、もともと「子どもに理不尽な怒りをぶつけるのはやめよう」という気持ちが人一倍強かった私。しかし育児をしていると、どうしても子どもにイライラしてしまうことがたくさんあります。

もしかしたら父親が私にやったように、私もいつかこの「イライラ」を「怒り」に変えて、一方的に子どもへぶつけてしまうかもしれない。

そのとき私が息子にイライラを感じていたのは……

  • 習い事を休みたがる
  • 学校を休みたがる
  • ゲームばかりする
  • 夜遅くまで起きている

など、子を持つ親なら「あるある」な理由。

そこで、夫へのコミュニケーションと同様に、私が子どもに怒る理由を自覚すれば防げるのでは? と考え、一つ一つ「イライラ」の理由を掘り起こしてみたところ……

  • 習い事を休みたがる→サボりぐせがつかないか心配
  • 学校を休みたがる→勉強をしないと将来が心配
  • ゲームばかりする→目が悪くなりそうで心配
  • 夜遅くまで起きている→体調が悪くならないか心配

と、息子への怒りはほとんど「心配」から来ていることに気付きました。

「心配」は、相手のことを信じられない気持ちから生まれる

「しっかり勉強をしてほしい」「健康でいてほしい」といった考えは、子どもの「幸せ」を願うからこそ。しかし「願い」は「自分の理想」でしかないため、「願い」が思い通りにならないと、心配がイライラに変わってしまっていたのです。

「心配」という感情は一見して問題があるように見えず、むしろ「愛情」ゆえでは? と思われがちですが、そうではありません。「心配」は「相手のことを信じられない」という気持ちから生まれるものだと私は思います。

私も「よかれと思って」「相手のためになると思って」生まれた心配の気持ちから、息子の選択に口を出してしまっていました。私がそんな思考から抜け出せたのは、やはり幼少時に親から怒られていた経験が大きかったです。

親から怒られたときって「なぜ自分は怒られているのか?」を考えることなんてできなくて、相手が怒ってることにしか注目ができなかったんですよね。ただ「怒りという感情が怖い」から「怒るのをやめてほしい」だけ。

子どもは小さいときほど、親が絶対的な世界で生きています。本能で「親に嫌われたら生きていけない」と考えるため、親子は上下関係ができやすい。でも本当は親子は家族の役割が違うだけで、対等なチームのメンバーです。改めてそう気付いてからは、「息子のことを心配してイライラを怒りに変えてぶつけるよりも、信じよう」と心に決めました。

夫に怒りをぶつけるのをやめるために試したこと

「しんどいから習い事や学校に行きたくない」と言うのであれば、その言葉を信じて休ませる。次の日、元気になったら送り出すし、休む日が続くようであれば、話し合う。

ゲームをする時間を子どもに決めてもらい、子どもがルールを破っても怒らない。ルールが守られなければ、次はどうする? 私(親)はどこまでサポートすればいい? を一緒に決める。

夜遅くまで起きていたら次の日がしんどくなることを体験してもらい、反省してもらう。そして、睡眠の大切さを自覚してもらう。

子が悩んでるときは一緒に考えたり、提案したりするけれども、自分から「○○してみたら?」というアドバイスはしない。子ども自身に考えてもらうことを優先するようになってから、親子の信頼関係が強くなったように感じます。

例えば、習い事に行く前にゲームをし始めるとき。以前は「私が注意しないと、この子はゲームをやり続けて習い事に行かない」と疑う気持ちが前提にありました。

そのため息子がゲームをしてる間に何度も注意をしていたのですが、息子は楽しいゲームの時間を邪魔されて嫌な気分になるし、私も息子に怒ることで自己嫌悪になってお互いイライラしていました。

今は「習い事は何時に行く?」「ゲームは何時までする?」と聞いて、子どもに考えて決めてもらっています。自分で決めたことで、責任感を持ってもらうようにするのです。そして、子どもが時間を決めたら「わかった!○○君を信じるね!」と伝えて、あとは自分の時間を過ごす。

約束の時間近くになったら声はかけますが、習い事に遅れてもそれは子ども自身が選んだこと。怒るのではなく、「じゃあ次はどうする?」と話し合うようにしています。

「怒り」が湧くのは自然なこと。相手にぶつけないために、まずは気持ちを落ち着かせる

ここまで「怒り」とその強い感情を「ぶつけること」、そして「怒りをぶつけるのをやめた」ことによる変化について書いてきましたが、そもそも私は「怒り」という感情そのものが悪いとは決して思っていません。

「怒り」は生きていたら自然と湧いてくるものですし、本当は怒っているのにその気持ちを無視しているとストレスもたまります。

私も、夫や子どもに「イラッ」としてしまうことはたくさんあります。そういうときは、

相手に怒りの感情をぶつけて、さらにストレスをためたい? それとも素直な気持ちを伝えて話し合って、楽になりたい?

と自分に問いかけて、相手に怒りだけをぶつけないよう、気をつけています。

そのためには、まず気持ちを落ち着かせて自身の気持ちを内観したり、怒りの正体を明かしたりして、怒りと上手に付き合っていく必要があります。

例えば私は、こんな方法で気分を切り替えています。

  • 怒っている場所や相手から離れてみる
    • ⇒気持ちを切り替えるより環境を変える方が簡単
  • 気分が上がることをする
    • ⇒私の場合は、寝る、ゲームをする、美味しいものを食べるなど
  • 気持ちを書き出して客観的になる
    • ⇒書き出すことは、気持ちを吐き出すのと同じ
  • 人に話す
    • ⇒話すことは“離す”ことと同じ
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身近な存在だからこそ、感情をぶつけ合ってしまいがちな家族。「怒り」をただぶつけるのではなく、その正体と向き合うこと。そして、それぞれに違う「怒りポイント」を知って、理解して、受け入れてあげることで、家族みんなが過ごしやすくなるのではと私は思います。

夫に怒りをぶつけるのをやめるために試したこと

編集:はてな編集部

著者:川口真目(カワグチマサミ)

藤岡みなみさんプロフィール画像

1984年、大阪生まれ。2010年から漫画家・イラストレーターとして活動を始める。その後、結婚し、2012年に男の子を出産。産後に働きすぎて体調を壊してから、「スキあらばゴロゴロ」をモットーに働いている。現在は育児をしながら、エッセイ漫画を描いている。子育てフリーランスをテーマに講演会に登壇したり、Twitterやnoteでも積極的に発信している。【著書】幻冬舎「名もなき家事妖怪」 左右社「子育てしながらフリーランス」 KADOKAWA「子育て言い換え事典」
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