不妊治療と仕事の両立、経験者はどう感じた? 働き方の工夫や病院選びのポイントなどを3人に聞いた

不妊治療と仕事の両立座談会

不妊治療と仕事の両立に不安を抱えながら治療を続け、退職や転職を経験した3人の方々にリアルな経験談を伺いました。

不妊の検査もしくは治療を受けたことがある夫婦は18.2%で、約5.5組に1組。そのうち、「不妊治療と仕事の両立ができない(できなかった)」と答えた人は34.7%で、主な理由として「心身の負担」や「通院回数の多さ」が挙げられています*1。仕事を頻繁に休むため心苦しくなってしまうなど、職場との付き合い方に悩むケースもあるようです。

2022年4月から不妊治療の保険適用範囲が広がったことで、経済的な負担は軽くなりましたが、仕事を続けたいという人は多いはず。そこで本記事では、不妊治療との両立にあたってどんなふうに働き方を工夫したのか、職場にはどのように伝えたのか、病院を選ぶ際に気にかけたポイントなどについて、経験者の方に伺いました。

※取材はリモートで実施しました。

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<<参加者プロフィール>>

みかなさん

みかなさん
35歳の時に不妊治療を開始。不妊治療専門のクリニックで約3年間の治療を経て、2022年春に女の子を出産。治療に専念するため一度仕事を離れるも、1年後に仕事復帰。現在は人材系ITサービス会社でマーケターとして働いている。

まめごさん

まめごさん
33歳の頃、不妊治療を開始。不妊治療専門のクリニックで3年間の治療の後、2021年9月に男の子を出産。当初は派遣で働いていたが、治療との両立のために転職した経験あり。貿易事務、営業事務、通訳などを経て、現在は外資系企業のシステム部署で働く。

ゆめさん

ゆめさん
31歳で不妊治療を開始。婦人科、不妊治療専門クリニックで約5年間の治療の後、2021年夏に男の子を出産。大手IT企業のプランナーとして働いたあと、治療と仕事の両立のため一時はフリーランスに。現在はブランディング会社でディレクター職を務める。

※座談会参加者のプロフィールは、取材時点(2023年3月)のものです

通院や服薬が大変。治療と仕事の“ダブルワーク”状態に

まずは、みなさんの不妊治療の経緯を簡単にお聞かせいただけますか?

みかなさん(以下、みかな) 私は結婚後1年たっても子どもができなかったため、夫婦で不妊治療専門クリニックに行き検査を受けたところ、男性不妊が発覚したんです。「自然妊娠は100%無理。顕微授精*2しかありません」と言われ、ショックで頭が真っ白になりながらも、治療をスタートしました。

採卵*3・移植*4・流産を2回経験したところで心が折れ、一年ほど治療を休んだりもしています。ところが、別の病院でセカンドオピニオンを受けてみたら、手術で治る精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)*5が不妊の原因だと分かり、手術を経て人工授精*6で妊娠に至りました。

まめごさん(以下、まめご) 私も一年間妊活して授からず、検査だけしてみようと受診したのが治療開始のきっかけです。病院に行けばすぐ妊娠できると思っていたのに、人工授精を6回やってもだめで、体外受精をすることになり……。派遣で働いていたのですが、治療と両立するために、急ぎの仕事が少ない職種に転職もしました。コロナ禍で治療を休んだ時期もあり、4度目の体外受精でようやく授かるまで3年強かかりましたね。

ゆめさん(以下、ゆめ) 私は30歳を過ぎ、友人や知人が次々と出産するなかで「私はどうしてできないんだろう」とクリニックを受診したんです。タイミング法*7では結果が出ず、人工授精を3回やっても授からなくて、大手の有名なクリニックに転院。本格的に治療をするため会社員からフリーランスになって、4度目の顕微授精で授かりました。

クリニックを受診する女性

治療と仕事を両立していて、具体的にどんなことが大変でしたか?

みかな 私は週3日、10~16時の時短で働く派遣社員だったのですが、それでも通院頻度が高くて大変でした。できるだけ自然な妊娠を目指す方針の病院だったため、排卵の機会を逃さないように、頻繁かつ突発的に「明日来院してください」などと言われるんです。業務後に走ってクリニックに行ったら、医者に「こんな遅い時間に来るなんて素人のすること」と嫌味を言われたこともありました。

まめごゆめ ひどい!!

みかな 仕事自体は女性だけの職場で、とても働きやすかったんですが、あまりにしょっちゅう遅刻や早退、お休みを申し出ている自分が心苦しくなり……ひとまず治療に専念しようと、最終的に退職しました。

ゆめ 通院のスケジュール調整、本当に大変ですよね。私はPRの仕事をしていたため、スピーディーに連絡を取り合わなければいけない場面や立ち仕事が多かったのも大変でした。それから、薬の管理も手間がかかった! 毎日自分で注射しないといけない薬があったり、一日に何度も服薬が必要だったり……。

まめご 何種類も薬がある上に、服薬頻度が違ったりするんですよね。一日おきとか3日おきとか。

ゆめ そう! 私は体質改善のためにサプリも10種類ほど併用していたから、それぞれの在庫を切らさないようにするのも苦労しましたね。服薬予定を細かく書き込んだカレンダーをトイレに貼って、毎日携帯でアラームを鳴らして……。

みかな 私は趣味の観劇に行っているとき、幕間にトイレへ駆け込んで、膣錠*8を入れたこともありますよ(笑)。採卵前日には排卵を抑制するために、2時間おきに鼻から薬を打たなきゃいけなくて、あれも対応するのが大変だったな。

ゆめ 不妊治療はタスクも多いしプレッシャーもあるし、もうひとつの仕事みたいに思えてきますよね。つまり、治療と仕事でダブルワーク状態!

まめご 本当ですね。しかも、仕事と同じくらいかそれ以上に“主体性”が必要なプロジェクトだなって思いました。病院から言われたとおりに治療するだけでなく、自分主導でいろんな情報も集めながら計画を遂行していくのが大変だったなぁと思います。

治療中であることを職場には共有しましたか?

まめご 私は隠しておくことでもないような気がして、派遣会社にも同僚にも話していました。女性ばかりの職場だったので比較的話しやすかったと思います。ただ派遣社員だったので、治療していることで契約を切られてしまわないか、いつも不安でした。

みかな 私も、上司と仕事で関わることが多い先輩には伝えました。

ゆめ 私は仲の良い同僚には共有していましたが、もっとオープンに話してもよかったなって思いますね。親の介護で休んでいる方もいらっしゃったし。

みかな 「プライベートと仕事をいかに両立するか」という視点では、不妊治療も介護もきっと同じですもんね。もっと言えば、趣味でお休みする方も一緒だと思う。だから、誰もが適宜休みを取れる環境がつくれたら、私たちが治療で休む罪悪感も減るので、Win-Winだと感じます。

ゆめ あとは生理休暇みたいに、堂々と不妊治療休暇が取れるようになったら、さらに気が楽かも。

まめご 社内で腫れ物にさわるような扱いを受ける方がつらいので、治療のことをからっと話せたらいいですよね。ただ、突然休むことがあったとしても周りに迷惑をかけないよう、デスクのどこに何があるかはいつも分かりやすく、仕事の進捗もちゃんとまとめておくようには心がけていました。

治療を休む・やめるタイミングについても考えておく

授からない時間が続いたとき、治療をやめることは考えましたか? 「不妊治療はやめめどきが難しい」とは、よく耳にする問題です。

ゆめ 生理がくるたび「もうやめたい」とは思いますよね。とくに4回目の顕微授精をするときは、これで授からなければ一度休もうかなと考えていました。完全にやめることは考えていなかったけれど、いったん休むのもアリかなって……。

まめご どうしたって一カ月に一度しか挑戦できないから、良くも悪くも考える時間がたくさんあるんですよね。毎月落ち込むけど、意外と立ち直るための時間も取れたりして。だから私はやめる決断はしなかったけれど、心のどこかで「もう楽になりたいなぁ」とはずっと思っていました。

みかな いっそ、神様が「授かるのか授からないのか」を教えてくれればいいのに、とか思っちゃいますよね。私は「40歳まで」と考えて治療をはじめ、幸いその期限内に授かることができました。ただ、2回の流産を経験してもう体外受精はやりたくないので、もし第二子がほしくなったとしても、人工授精までしかトライしないと思います。

不妊治療と両立しやすい仕事は、そのあとの生活とも両立しやすいはず

仕事との両立を考えて、みなさん治療の途中に働き方や仕事を変えていらっしゃいますね。どんな観点で新しい仕事を選んだのでしょう?

みかな 私は治療に専念するため一度退職したものの、しばらくしてからまた派遣として再就職しました。やっぱり、治療ってめちゃくちゃお金がかかるので……。

ゆめ そうなんですよね。心身にストレスをかけちゃいけないとは思うけど、かといって経済的なことを考えれば仕事はやめられない、蟻地獄……。

現在は保険適用範囲が広がっていますが、みなさんが不妊治療をされていたタイミングは自己負担でしたもんね……。

みかな 通院は「3時間待つけど診療は10分で終わる」みたいなことが多く、病院の待合室で仕事をしている方もたくさんいました。なので、私も再就職ではリモート勤務ができる企業を探したんです。とにかく「治療をしながら続けやすい」という点を優先して仕事を選びました

クリニックの待合室

ゆめ 私は仕事がすごく好きで、20代は仕事漬けでやってきたんです。治療しやすいようにフリーランスにはなったけれど、通院があるから大きな案件は担当しにくく、最前線で働けないことにモヤモヤして……。もちろん、融通が利く仕事だけを選んで調整できたのは、ありがたいことでもあるんですが。

まめご 私は治療の途中まで、一日に何度も締切があるような受発注の仕事をしていたんです。でも、週に何度も通院しなければならない体外受精にステップアップするとき、いまの仕事は無理だなと思って退職。有給消化のあいだに採卵をして、通信会社の派遣社員になりました。

治療のしやすさだけでなく、もし子どもができなかったとしても自分のキャリアにちゃんとプラスになるよう、ずっと磨き続けてきた英語を生かせる仕事を選びました

みかな 私はお二人のように仕事への強いこだわりがあるわけではなくて。一生懸命やっていればなんでもそれなりに楽しくなってきますから、ストレスなく働けて時給がよく、フルリモートに対応しているなら、内容にはあまりこだわっていませんでした。ただ、条件で仕事を選んだ結果、仕事内容の専門性が上がり、幸い給与も上がりました。

それに、不妊治療と両立しやすい仕事は育児とも両立しやすい仕事だから、出産したいまも職場にはとても助けられています。

ゆめ 一生において、子育てや介護みたいに仕事との両立が大変な時期って、きっと何度もやってきますもんね。そんなとき、フレキシブルな働き方はやっぱり強い味方になると思います。

私は産後また正社員に戻ったけれど、週2~3回はリモート勤務できるのがありがたいです。そろそろ第二子の治療を始めようと考えているので、また仕事量にはブレーキをかけないといけないかもしれませんが、できるところまで両立を頑張りたいと思っています。

みかな 頑張ってください!

ゆめ ありがとうございます! ただ、金銭的な面もそうですが、ある意味では仕事って息抜きだとも感じます。治療をやめたいと思うことはあったけど、それは授からないループがつらいのであって、仕事との両立が苦しいわけではありませんでした。むしろ、仕事で気持ちを切り替える瞬間がないと、頭がおかしくなっちゃうんじゃないかと思ったりして。

まめご そうですよね。働いていないと治療のことばかり考えちゃうから、ちょっとでも気晴らしになるというか。通院もちょこちょこと回数を休むことが多いから、時間単位の有休がある会社だったら、もっと働きやすいかもしれないですね。

自分にとってのベストな病院は人それぞれ。よく調べ、行ってみる

働きながらの治療をスムーズに進めていくために、自分に合った病院を選ぶことは欠かせないように思います。病院選びは、どんなことに気を付けたらいいのでしょうか。

ゆめ 最初は通いやすさで選んだのですが、今思えば最初から実績のある有名なクリニックに通った方がよかったなと思います。私は近くのクリニックでいろいろ調べているうちにだらだらと時間がかかってしまった上、不妊の明確な原因は結局見つかりませんでした。

不要な検査をするくらいなら、最初から顕微授精をすればよかった。病院によっては、もっと効率的に進められたはずなのにと思ってしまいます。

みかな 病院選びって難しいですよね。私は最初からネットでかなり調べ、最先端医療も受けられる有名な病院にかかりました。それですぐに男性不妊が分かり、体外受精を始めたんですが、いま振り返ればベストアンサーではなかったと思います。そこでは男性不妊の原因を調べて取り除くのではなく、自分たちの得意な体外受精だけを勧めてきたからです。結局それでは授からず、別の病院で男性不妊の治療をしました。

男性不妊に強い病院に行くとか、体外受精が必要なら培養技術が高い病院に行くとか、自分に最適な答えをもっと考える必要があったなと思います。

まめご 病院によって、得意・不得意や治療への姿勢は全然違いますもんね。私は、体外受精に移る前にいろんな病院の説明会に参加して、よく比較検討しました。詳しい小冊子が用意されていて、具体的なパーセンテージまで説明してくれる病院があれば、A4用紙を一枚渡されて終わりの病院もあって、本当にさまざまでしたね。

治療も序盤のころは自分がどんな病院を求めているかが分からなかったけれど、いろんな病院を見るうちに、クリアに説明してくれるところがいいなと思うようになりました。

ゆめ 採卵をするときはたくさんの経験者ブログを読んで、麻酔をちゃんとしてくれるから痛くないと評判の病院を選びましたね。本当に腕がよくて、ほとんど痛くありませんでした。

みかな 病院によって、値段も全然違いますよね……。いつまで続くか分からない暗いトンネルを歩きながら、湯水のようにお金を使って、何しているんだろうって思いました(苦笑)。

通ってみないと分からない部分も多くあると思いますが、ブログや説明会などで事前に情報収集してみたり、通い始めて合わないと感じたら別の病院を検討したりするのはいいかもしれませんね。

まめご そうですね。ただ、自分に合う病院に出会えたとしても、先が見えないとやっぱり大きなストレスになるんですよね。だからこそ、治療中はしっかり食べてちゃんと寝て、基本の暮らしを安定させるようには心がけていました

治療は失敗することもあるけれど、「ちゃんと寝てるから大丈夫」とか「今日はお皿も洗ったから偉い」とか、なんでもいいから毎日頑張ったり前に進んだりした実感を絶やさないようにしていた気がします。

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取材・文:菅原さくら
イラスト:ナカニシヒカル
編集:はてな編集部

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*1:令和3年度「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック(厚生労働省)」より

*2:ガラス針の先端に精子を入れて卵子に直接注入する、体外受精の一種。参照元:一般社団法人日本生殖医学会

*3:排卵前に卵巣から卵子を体外に取り出すこと。参照元:一般社団法人日本生殖医学会

*4:採卵した卵子を精子と接触させ、受精し分割した卵を子宮内に戻す不妊治療。参照元:一般社団法人日本生殖医学会

*5:精巣から心臓へ戻る血液が逆流することで、静脈にこぶができてしまう状態。男性不妊の原因の一つとして知られている。参照元:済生会

*6:排卵の時期に合わせて、洗浄濃縮した精子を子宮内に注入する治療法。参照元:一般社団法人日本生殖医学会

*7:医師の指導により、最も妊娠しやすいタイミングで性交渉を行う治療法。参照元:一般社団法人日本生殖医学会

*8:膣内に入れて使う固形の薬。膣内の分泌液によって溶け出して効果を発揮する。参照元:慶應義塾大学病院