パートナーと一緒に暮らす中で募っていくモヤモヤ。ひとつひとつは小さくても、胸の中で次第に膨れ上がっていき、あるとき爆発して大喧嘩に発展……なんて経験のある人も少なくないかもしれません。プライベートの空間ですれ違いが発生すると、日々に余裕がなくなり、仕事などオンの場に悪影響を与えてしまうことも。
『夫婦でつくるメンタル安全基地 〜「離婚するほどじゃないけどなんかモヤモヤするッ」を減らして持続可能な夫婦になる〜』(講談社)の著書ふっくらボリサットさんは、そんな“モヤモヤ“が爆発したことをきっかけに「自分の気持ちを言語化してきちんと相手に伝える」ことを意識するように。今では夫のサミ太郎さんと定期的な「夫婦ミーティング」の場を設け、心理的安全性の高い状態で話し合いができるようになったといいます。
小さな不満を溜め込まずに伝えた上で、良好な関係性を維持できている理由とは? ふっくらボリサットさんと、夫のサミ太郎さんにお話しを伺いました。
小さいモヤモヤも、ため続けるといつか爆発する
(C)ふっくらボリサット/講談社
夫婦が、お互いを人生の最大の味方=“安全基地”とできるようなパートナーシップを築くための、実用的エッセイ漫画。夫婦間で定期的に考えていることを共有し合う「夫婦ミーティング」など、ふっくらボリサットさん&サミ太郎さん夫婦が試行錯誤のすえ編み出した、今よりもっとパートナーと仲良くなるヒントが満載。
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ふっくらボリサットさん(以下、ふっくら) 私と夫はまったく性格が違うんです。例えば、私はどんなに小さいことでも2人で相談して決めたいタイプ。でも夫はスパッと物事を決断できるタイプなので、私が悶々と悩んでいる間に「あれ決めといたよ!」という感じで気がついたら解決していた、ということが多くて。
「相談してほしかったな」と悲しくなりながらも「わざわざ伝えなくても私が我慢すれば丸く収まるし」とモヤモヤを飲み込んでいました。
(C)ふっくらボリサット/講談社
サミ太郎さん(以下、サミ太郎) 僕は妻に対して不満はほぼなくて。「自分の気持ちを言葉にするのが苦手なタイプなんだな」と思ってはいましたが、それを迷惑に感じたこともありませんでした。
だから彼女がそんなモヤモヤを抱えていたということにまったく気付いていなくて、むしろ「僕たちはうまくやれてる」と思っていたんです。ただ、ある日妻がため込んできたモヤモヤが可視化される事件が起きて……。
二人がタイ・バンコクに越したばかりの頃。家のカギを持つサミ太郎さんが飲みに行ったまま連絡がとれなくなり、体調の悪いふっくらさんが家に入れなくなったことで怒りが爆発。
(C)ふっくらボリサット/講談社
ふっくら それまではモヤモヤすることがあっても「私にも否があったかも」と思ってストレートに感情をぶつけられませんでした。でも「さすがにこの件は私は悪くないんじゃない?」と。自分の怒りに自信を持って、初めて思っていることを全てサミ太郎に伝えました。
(C)ふっくらボリサット/講談社
サミ太郎 「別れも考えている」と言われたときは、正直焦りました。でも、ストレートに打ち明けてくれたから「自分が心地いいと思っていただけで、妻は違ったんだ。このギャップを埋めないとまずい」と自覚できたんです。
そう思えたのは、妻がただ「別れたい」だけではなく「関係を良くするために建設的な意見交換がしたい。それができないのであれば別れたい」と伝えてくれたのが大きかったと思います。だからこそ僕も感情的になることなく妻と向き合えました。
ふっくら もちろん、サミ太郎が一方的に悪いわけではなくて。モヤモヤしているのに我慢したり、なのに察してほしかったり……。ふたりの間に大きなギャップができてしまった原因は、私の態度にもあります。だから、サミ太郎が「ふたりで変わっていこう」と受け入れてくれたのは本当にうれしかったし、心強かったですね。
パートナーの姿を見て「気持ちを言葉にするのが恥ずかしい」を乗り越えられた
「モーニングページ(毎朝ノート3ページ分、その時考えていることや頭に浮かんだことをそのままノートに書いていく手法)」や瞑想などで自分の気持ちを認識し言語化する訓練をしていったふっくらさん
(C)ふっくらボリサット/講談社
ふっくら 「自分の気持ちを言語化する」といっても、最初は愚痴っぽいことばかり口にしていたので、サミ太郎からは「それって意味あるの?」と言われることもありましたね。
サミ太郎 妻からは「うれしいことでも悲しいことでも、とりあえず最近あった出来事を話そう!」と言われていたんですが、僕は抵抗感があり、なかなかできなくて。素直な気持ちを打ち明けるのは恥ずかしいというか……。なんだかかっこ悪い気がしていたんですよね。
サミ太郎 自分の気持ちを言語化して、思いを伝える努力をしている彼女の姿を見ていて「こういうやり方もあるんだな」と徐々に学んでいったというか。例えば愛情表現に関しても、別にほかの誰かが見ているわけじゃないし、「好き」だと思ったら相手にそう伝えてもいいんだなという意識に変わっていきました。OSが書き換わったような感覚です。
それから、気持ちを吐き出したあとの妻がすごく晴れやかな顔をしていることにも気付いて。「自分の内面を言語化して、お焚き上げする」みたいな感覚なのか! と発見があったんです。
(C)ふっくらボリサット/講談社
あとは、意識して自分の気持ちを言語化していくことで仕事に良い影響があったのも、「言語化っていいことがあるんだな」と感じる成功体験になりました。
サミ太郎 例えば妻は「漫画を描きたい」という自分の気持ちを認識して言語化したことで、結果的に漫画の単行本まで出しちゃったんですよね(笑)お互いに「そもそも人生で何をしたいんだっけ?」を素直に話せるようになった結果、僕も仕事を変えるという選択に至りました。これは自分の中で大きなパラダイムシフトだったなと思います。
ふっくら そうですよね。私たちの場合は、自分の言いたいことを「本」に代弁してもらうことも多かった気がします。
サミ太郎 一時期「お互いの人生を良くするための基礎知識をつけよう」と、人気のビジネス書や自己啓発本を片っ端から買って読んで、良かったものを勧め合っていたときがありました。
本には自分が言語化できない気持ちや、どうにもならないモヤモヤの突破口が書かれていることがありますし、夫婦で同じ本を読むと二人の間で共通言語ができるんですよね。それがコミュニケーションの大きな助けになったと今振り返って思います。
まずは「あなたといい関係を築きたい」を大前提に
ふっくら まずは「相手と歩み寄りたい」「考えをすり合わせたい」という気持ちが前提にあることを共有しておくのが大事なのかなと思います。
サミ太郎 お付き合いや結婚をしている時点で、もともとはお互いに「いい関係を築きたい」と思っていたはずなので、関係性を改善してもっと近づきたいという提案は、相手にとっても基本的にウェルカムだと思うんです。
そこに同意できない、してもらえないのであれば、個人的には別れを考えてもいいのでは……という気がします。
ふっくら 何もいきなり「これからのことをじっくり話し合おう!」というスタンスでなく、まずは「お茶でも飲みながら最近のことを話さない?」から始めていいと思うんです。
気軽な夫婦デートをするとか散歩に誘ってみるとか。「もう少し関係を良くしたいからいろんなことを話したい」という気持ちを示していけたらいいんじゃないかな。
ふっくらさんご夫妻が考える、夫婦のコミュ力向上ために必要な3つのスキル
(C)ふっくらボリサット/講談社
ふっくら 私も体調が悪いときはよくサミ太郎にあたってしまいます……。
サミ太郎 人間なので、日によってコンディションに差が出るのはしょうがない。ただコンディションが悪いときに話すと、相手に否がないのに責めてしまったり、とにかく悲観的になったりすると思うんです。だから、どちらかのコンディションが悪いときは話したいことがあっても“リスケ”を提案しています。
いったん寝て体力を回復してから話したり、週末の時間に余裕があるときに話したりすることで冷静になれますし、一方的ではない建設的な話し合いができるようになります。
ふっくら 「なんかむかつく!」だけだと、彼もどうしたらいいのか分からず困っちゃいますよね。リスケすることで、私も“モヤモヤ”を言語化する時間ができて、冷静に気持ちを伝えられるんです。
あとは、「自分に余裕がないこと」を正直に伝えるのも大事だと思っています。少し前、サミ太郎に話しかけたらすごく雑な対応をされたことがあったのですが(笑)、仕事がすごく忙しい時期だったようで「ごめん! 今どうしようもなく焦っていて!」と言ってもらえたので嫌な気持ちにはなりませんでした。
ふっくら 普段から、前提として「傷つけたいわけではない」「良い関係を築きたい」ということを共通認識として持っておけたら、伝え方にも配慮できるし、相手の話に耳を傾けられるはず。それができないときはそもそもコンディションが良くない可能性があるので、まずは休んだり、内省したりする時間がとれるといいですよね。
「話し合わなくても相性ばっちり」はない
ふっくら はい。時間を短くするなど工夫をしながら、週に1、2回、夫婦ミーティングの時間はとるようにしています。だいたい子どもを一時保育に預けている時間や子どもが寝たあとの時間を使っていますね。
サミ太郎 これまでは、「妻と夫」という分かりやすい関係だったから、話し合いがスムーズにいっていた面も大きいと思います。子どもが生まれると、妻と夫だけでなく、母や父といった役割も出てくるので、コミュニケーションのとり方もより工夫が必要だなと感じていますね。
父や母になって今まで知らなかったお互いの一面もたくさん見えたので、これまでの「僕⇔妻」に加えて、「父(である僕)⇔母(である妻)」のコミュニケーションを新しく築いていかなきゃいけないなと思っています。
ふっくら 小さなことでイラッとしたり喧嘩することはこれまで以上に増えましたね……。でも、これまでの経験からお互い不満をサッと小出しにできていますし、全体としては円満な、居心地のよいところにたどり着けているなと思っています。
ふっくら 以前の私のように「いい関係を築きたい」がゆえにモヤモヤを溜め込んでいる方も多いと思いますが、まずは不器用でもいいから「あなたと仲良くしたいんだ、だからお互いのことをもっと知りたいんだ」と伝えられたら、きっとそこから少しずつ関係が変わっていくと思います。
お互いの気持ちを伝え合う努力ができていれば、「違う意見を持ってやりとりしてもいいし、むしろ違う意見だからこそいい」と思えるようになれるんじゃないでしょうか。
編集:はてな編集部
親しき仲。だからこそ“夫婦”は難しい
お話を伺った方:ふっくらボリサットさん、サミ太郎さん