産後クライシスは一度じゃない。乗り越えた夫婦が気付いた「頼ること」と「共有」の大切さ

 鈴木妄想

鈴木家の様子

ライターとしても活動するブロガーの鈴木妄想さんは、2015年に第一子が誕生してから現在に至るまで、育児にまつわるさまざまなクライシス(危機)を夫婦で乗り越えていったのだそう。

幾度も訪れる危機を経て気付いたのは「夫婦だけでどうにかしようとしない」「共有の大切さ」と語る鈴木さん。具体的なエピソードを交えながら、ご夫婦がどのようにしてきたのかをつづっていただきました。

はじめに

待望の赤ちゃんが無事に生まれ、幸せに満ちた家族生活、というステレオタイプなイメージとは裏腹に、赤ちゃんを授かったばかりの家庭は、危機的な状況を迎えることが少なくありません。

「産後クライシス」という言葉をご存じでしょうか?子どもが産まれてから、急激に夫婦仲が悪くなったり、関係が冷え切ったりする現象を指し、2012年にNHKの番組が名付け*1、一般的に認知が広まった言葉のようです。ただ、夫婦間のクライシス(危機)は、出産直後だけではなく、想像以上に長期にわたって訪れるようにも思います。

我が家は、2020年4月現在で43歳の筆者と34歳の妻、そして4歳半の息子の3人家族です。これまでを振り返ると、我が家でもいくつかの危機を迎え、そしてどうにか乗り越えてきました。

今回は、現在までの様々なクライシス(危機)を振り返ってみます。我が家は、夫はフリーランスの兼業ライター、妻は在宅漫画アシスタントという共働き家庭。企業に属していないので、少し特殊な例かもしれませんし、決して理想的な方法ではないかもしれません。でも、少しでも皆さんそれぞれが直面するクライシスを戦うヒントになればと思っています。

【クライシス1】夫婦だけじゃ負けていた生後100日戦争

不育症を乗り越えて、待望の第一子!

我が家で初めての妊娠がわかったのは2011年5月。震災直後に一緒に住みはじめたドタバタ生活の中での出来事でした。予想していない妊娠だったので正直に言ってびっくりしましたが、授かった命にはうれしさも大きかったです。

ですが、10週で流産が分かります。特に妻の落胆ぶりは、本当に見ていてつらくなるほどでした。担当医の強い勧めによって検査をしたところ、妻の「抗リン脂質抗体症候群」が判明。これは、妊娠中に血栓ができやすく、流産しやすい体質である、ということです。いわゆる「不育症」の一つです。

不育症治療のために大学病院に通院、3年ほどの定期診察を受けた後、2回目の妊娠が判明します。妻の場合は、毎日2本の自分で自分のおなかに注射をする「自己注射」をすることになりました。血栓を防いで、おなかの赤ちゃんにしっかりと栄養を届けるためなんですが、これ、おなかが注射痕であざだらけになるんです。痛みに耐えながら、妻は毎日、自分のおなかに注射をしていました。頭が下がります。

2015年7月のよく晴れた日、第一子である息子が誕生。不育症治療を経ての出産、本当に、本当に待望でした。自分の両親にとっても、妻の両親にとっても初孫である彼は、全家族の愛を一心に受けていました。

息子の写真

甘過ぎる見通し、尋常じゃない睡眠不足

不育症治療中の頼もしい妻を見ていると、子どもが産まれたら、よいお母さんになるんだろうな、と考えていました。そして、私自身も少し年齢の離れた弟がいたり、学童などの子どもと関わるアルバイトの経験もあったので、子どもを世話することは得意だ、と自負していたこともあり、我々夫婦には、きっといい子育てができるはず! と信じていました。

ただ、そんな甘過ぎる見通しは脆くも崩れ去ります。息子がミルクが欲しくて泣くのは約3時間に一度、つまりは3時間以上連続して眠ることができない状態が続くと、かなりしんどいんです。特に産褥期(さんじょくき)*2で身体がガタガタの妻は、完全な寝不足状態でピリピリし通し。

そもそも、昔から「産後の肥立ち」という言葉があるように、出産直後は身体の大きな変化が起きると同時に、精神的な変化も大きな時期です。いわゆる「産後うつ」「マタニティーブルーズ」は、出産後に気持ちの落ち込みが激しくなり、イライラやマイナス思考が加速したりすると言われます。

そう、妻もその一人でした。新生児育児は、どうしてもうまくいかなかったり、思い通りにならなかったりする部分が多くあります。そういう時、妻自身を強く責めてしまったり、時には夫である私に悪態をつくこともしばしば。

そして、自分自身も、新生児育児の大変さに疲れ果ててしまいました。事前の予想に反してイライラすることばかりで、授乳とオムツ替え時間を記録するシートに、呪詛の言葉を書き連ねた日もありました。夫婦で激しく言い争いすることもしばしば。我が家は、典型的な産後クライシスでした。

救いになったのは、精神科とサポーターさんとベビーカー

抱っこ紐一つを選ぶにもギスギスし、口論するようになってしまった夫婦を救ってくれたのは、産後の家庭訪問をしてくれた保健師さんでした。産後うつの可能性が高いことを教えてくれ、評判の良い精神科を紹介してくれました。この主治医の方には夫婦ともに今でもお世話になっていて、行き詰まった時に具体的なアドバイスをもらったりしています。

夫婦二人だけで息子の世話をしていた部分にもメスを入れてくれ、公的な子育てサポーター制度を紹介してくれました。かなり格安で料理や洗濯などの家事を代行してくれ、さらには子育ての悩みも聞いてくれます。この方の存在にも、本当に助けられました。

さらに我が家の生活を変えたのは、リサイクルショップで購入したベビーカー。赤ちゃんを連れて歩いていると、周りの人に声をかけてもらったり、親切にしてもらったりすることも増えました。夫婦だけの密室育児から、徐々に解放されたように感じます。

振り返ってみると、「夫婦だけでどうにかしようとしない」ことに気づけたことが、何よりも我々夫婦の産後クライシスを救ってくれたように思います。サポートを家族や周囲の人に頼みづらい場合は、専門の方や公的サービスを利用することもいいと思うんです。「生後100日戦争」ともいわれる最初の数カ月を過ぎて、育児はずいぶんと楽になり、そして夫婦の間にも笑顔がまた増えていきました。

リサイクルショップで購入したベビーカー

【クライシス2】息子の行動が分からない。発達の不安

この行動は何なんだろう? 他の子と違わない?

生後半年ごろからしばらく、本当に赤ちゃんらしいかわいさを発揮する時期でした。一緒にお出かけする回数も増え、子育てしていて楽しい時期だったように感じます。なんとなく、子育てって、大変な時期と楽しい時期が交互に来るような気がしますね。

生後9カ月から、0歳児保育をしている保育園に運よく受け入れてもらうことができました。生後3カ月ごろまでは育児に大きな不安を抱えていた妻も、仕事を再開することができ、かなり自分に自信を持っていたように感じます。

そんな中で、息子について気になることが増えてきました。それは、保育園の同級生と比べて、発達が遅いこと。周りの子どもたちと比べると、歩きはじめるのも遅いし、言葉が出始めるのも遅い

保育園の親子が集まって遊んでも、同級生のグループから一人離れて、公園の周りにある柵をグルグルするばかり。そこに一人で付き添って歩くのは、なんとも寂しいものがありました。

夫婦の話し合いは行き詰まり……

もしかすると、何か問題がある? いや、しかし、これは息子の個性なのかも? 悶々と悩みました。目が合うことも少ないような気がします。親の言うことがよく分かっておらず、こちらが困るようなことばかりしてしまうことが多いようにも感じました。あまりにもイライラして「嫌がらせでやってんのか……」とぼやいてしまうこともしばしば。

なぜ他の子のようにできないんだろう? そんな時、夫婦の間では「○○した方がいいんじゃないか」「もっと○○しない方が良いんじゃないか」いろいろと考え、話し合いました。答えはなかなか見つからず、話し合いはどうしても険悪な雰囲気になってしまいます。これもまた、一つのクライシスでした。

今思い返すと、そんな夫婦の姿を見ていた時の息子は、驚いたような、悲しいような顔をしていた気がします。

“違う”理由が納得できれば、親も変わる。

夫婦でそんな不安を抱えていた時、助けになったのは、乳幼児健診の個別相談でした。妻が健診に連れて行った日、「気になるところがあるから、また定期的に話に来てみてって言われたよ」と連絡が来た時、驚きや不安よりも、安堵感の方が強かったように思います。

そこからは、比較的スピーディーに進行しました。担当の保健師さんと心理士さんが決まり、数カ月ごとに様子を見てくれ、不安や心配事の相談を受けてくれました。専門の医療機関も受診し、検査も受けて、正式な診断をもらうことができました。

担当してくれたベテラン心理士さんは、本当に分かりやすく、息子の様子について解説してくれました。話していて、何度も目から鱗が落ちるような感覚を覚えました。分からなかった行動も、その理由が分かれば、親も安心できるし納得できるんです。

2歳5カ月ごろから、徐々に言葉が出始めました。専門機関での療育(簡単に言えば、本人が苦手な部分をカバーしていけるような関わり)が始まると、息子はその時間を本当に楽しんでくれました。アドバイスのもと、関わり方のコツを少しずつ家でも取り入れていきました。

子育てを抱え込まず、はるか未来を考え過ぎず。

外出先でのパニックやトラブルも、少しずつ落ち着いていき、息子の大好きな電車や消防車などの乗り物を見に行ったり、飛行機などを使った旅行も楽しめるようになりました。子育てがつらかった時期がひと段落して、また子育てを楽しめる時期になりました。


息子の様子"息子の様子

心のよりどころにしている言葉があります。「子育てを家族だけでしようと思わなくっていいんです。私たちも含めて、みんなでしていけばいいんですよ」という一言です。自分たちだけで息子をどうにかして"普通の子"にしようとしていたら、それは息子にとってとてもつらい経験になってしまったと思います。専門家も含めて、いろいろな人の力を借りながら、みんなで支え合って、育てていけばいいんです。

もちろん、何も問題がないわけではありません。保育園でお遊戯や集団行動ができない時もあります。突然見せるこだわりに、手を焼くことも多くあります。そして、これから、どこまで彼が成長していくのか、将来どんな人生を歩むのか、それは、本当に未知数です。

ただ、ベテラン心理士さんは「遠い未来のことではなく、半年先のことを考えて、息子さんに関わっていきましょう」とも言ってくれました。誰だって、どんな人だって、遠い将来のことは分かりません。ただ、今自分たちができることとして、半年ほど先のことを見据えて行動していけば、それほど大きな間違いはしないだろう、我々夫婦もそう思っています。

【クライシス3】仕事と家事育児、どっちも大事でどっちも大変

夫の不定期連載媒体で、妻がまさかの連載開始!

医師や心理士といった専門家の方々による定期的なサポートや、療育への通所によって、息子の突飛に見えていた行動への親側の不安やパニックは、ずいぶんと軽減していきました。

それと並行して、夫婦ともに、仕事が忙しくなっていきました。そして意外な展開もありました。自分が不定期に連載をしているウェブ媒体で、夫婦コラボで子育てマンガについての記事を掲載することに。そこから始まって、妻が同じ媒体で連載を開始することになったんです。

結果的に、3年以上の期間連載は続き、しかもペースは基本的に週刊。初めての週刊連載には大きな戸惑いもあったようですが、着実に人気は上昇。パートナーとしては誇らしく、同じ媒体に寄稿するライターとしては多少のジェラシーも感じました(笑)。

ただ、週刊で漫画を連載するというのは、想像を絶するほど大変なものなのです。一週間のうちにテーマを決め、ネームを切って、担当編集者の直しが入り、ペン入れが終わったら、フルカラー原稿なので全コマ丁寧に色塗りをして……。

妻の作業時間は、夜に息子が寝静まってから明け方まで、という日も増えていきました。朝はなかなか起きられず、仕事に行く前の私が、朝食の用意や息子の身支度をする日もしばしば。さらに私が夕方に帰宅すると、原稿が終わらない妻に頼まれて、夕食を作る日も増えました。

こんな日が、たまに一日二日であれば、大きな問題ではないんです。ただ、自分自身の仕事が忙しい時期と、自分が家事育児を多く担当しなければならない日がかち合うと、どうしても夫婦の衝突は増えるんです。「なんでここまでやらなきゃいけない?」「分かったよ、やればいいんでしょ!」「そんな言い方しなくてもいいでしょ!」なんて言葉が飛び交います。ここでまた、クライシスが訪れました。

風景写真

大事なのは、ともかく話し、共有することだった

そんな中で、我々夫婦が少しでも状況を改善するためにしたことは、「ともかく話し、共有すること」です。目の前のパートナーが不服そうな顔をしていると、自分に何か不満があるの?と考えてしまうことも多いものです。そんな時でも、しっかり話してみると、実は仕事の問題で悩んでいたり、この先のスケジューリングで悩んでいるだけ、という場合もあります。

二人で、お互いの抱えている問題を共有することで、相手に対しての不満や怒りではなく、それぞれの抱える問題に協力して立ち向かえるようにもなれば、愚痴を聞いたり、一緒に解決策を考えたりすることもできます。

そしてもう一つ共有したのは、バイオリズム。妻は、生理前に簡単に怒りをあらわにしたり、突然ふさぎ込んだり、ということが増えました。いわゆるPMS(月経前症候群)・PMDD(月経前不快気分障害)です。PMS時期と仕事が佳境を迎えている時期が重なると、手負いの獣のような精神状態になってしまうんです。

そこで、とても単純な共有方法ですが、我が家のカレンダーには、PMS期間にマークをつけています。夫婦喧嘩になりそうな時や、口論がエスカレートしそうな時に「そういえば今、PMSだよね?」と気づけば、しばし休戦して距離をとる、ということができます。定期的な不仲に悩むカップルには、バイオリズムの共有は是非オススメしたいです。その裏に、PMS・PMDDが隠れている場合もありますから。

そしてまた、クライシス

2019年いっぱいで妻の週刊連載が終わり、時間的な余裕も出てきました。2020年4月から、息子はいよいよ保育園の年中さん。就学に向け、医師や療育機関との相談もしていかないと……と思っていた直後、我が家にまたクライシスが訪れました。

妻が息子を乗せた電動自転車を動かしている時に転倒。左足首を完全骨折してしまいました。骨折翌日に入院し、数日は実家に帰ったものの、妻の入院中はほとんど自分と息子の二人暮らし。もちろん家事は自分のワンオペ状態です。

母親のいない寂しさもあってか、わがままを言いがちな息子と、慣れない完全ワンオペ育児に忙殺される私が衝突することもしばしば。さらに、手術期間は妻のPMS期間とバッティング。手術前夜にはLINEで大衝突してしまいました。同時進行で、世界中に広がる新型コロナウイルス問題。我が家のクライシスに追い打ちをかけてきます……。

家族の写真

2週間弱の入院と自宅療養生活を経て、妻の足首の骨折はかなり回復してきています。リモートワークにも慣れていて、現状大きな混乱なく仕事を進められているようです。頼もしい限りです。

基本的に家にいる息子のためには、療育で楽しんでいる室内トランポリンを購入してみました。他にも、粘土やぬり絵を楽しんだり、洗濯もの干しのお手伝いをしたり、アパート裏の草に水をあげてみたり……。彼なりに少しずつ成長しています。

自分はと言えば、飛んでしまった案件があったり、取材に出ることができなかったりするなど、なかなか苦戦中でもありますが、こうして原稿を執筆したり、もちろん、中心になって家事を回したりしています。

クライシスは、来ないに越したことはありません。でも、自分たちを成長させるきっかけになることも確かです。こんなご時世なので、人を頼るのも難しいですが、それでも、孤立だけはしないようにしたいと思います。そして、家族で、いろいろなことを共有しながら、どうにか、どうにか、それぞれのクライシスを一歩ずつ乗り越えていければいいな、と考えています。
 

著者:鈴木妄想

鈴木妄想

1977年生まれ。埼玉県出身。ライター/ブロガー。2004年、はてなダイアリーにてブログ「鈴木妄想なんじゃもん」を開設(2018年に、はてなブログ「続・鈴木妄想なんじゃもん」に移行)。日本各地・アジア各国のアイドルシーンやサブカルチャー/ポップカルチャーについて独自の視点で語り続ける。現在はエンタメ領域のみならず、育児・子育てについても発信中。著作に「新大久保とK-POP」(2011年,マイコミ出版)。
Blog:続・鈴木妄想なんじゃもん
Twitter:鈴木妄想/suzukimousou (@suzukimousou) | Twitter

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編集/はてな編集部

*1:参照:https://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/200/130947.html

*2:一般的に、分娩後、女性の体が妊娠前の状態に戻っていくための時期を指す