仕事や家事に追われ、子どもやパートナーとゆっくり話す時間がないと悩んでいる方は「家族会議」を試してみませんか。
当時6歳だった長男の癇癪(かんしゃく)に悩み、コミュニケーションの必要性を感じた玉居子泰子さんが始めた、週1回1テーマ10分間の「家族会議」。
回を重ねるごとにみんなが自分の気持ちを話してくれるようになり「家族にはなんでも話していい」という空気が生まれたそうです。
今回は、玉居子さんに子どもも参加しやすい家族会議のやり方やテーマ設定のコツ、困ったときの「テンプレート」を教えてもらいました。
会議のゴールは「結論」ではなく「会話」
玉居子泰子さん(以下、玉居子) 簡単に定義するとしたら「何かしらのテーマを立てて、家族みんなで話し合うこと」です。
お互いの思うことを話さずに分かり合うのは難しい上に、毎日仕事や家事、学校などで忙しいと会話する時間は取りづらいですよね。そして、会話の習慣がないと、いざ自分の気持ちを話そうとしても難しい……。
だから、とにかく“話してみるきっかけをつくる”のが家族会議です。
「結論を出す」ためにあるビジネスシーンの会議と違って、家族会議のゴールは「話すこと/聞くこと」。大人も子どもも対等に意見をかわし合うことが大切なんです。
玉居子 はい。少しの時間でも定期的に話すことによって、子どもに「家族にはなんでも話してもいいんだ」という安心感が生まれます。
話せば分かり合える安心感によって、親と子はもちろん夫婦同士でも日ごろから信頼し合えるようにもなるんです。いま「家族のコミュニケーションが足りない」「家族の気持ちが分からない」と悩んでいる人がいたら、ぜひやってみてほしいなと思います。
1回10分&テーマは「楽しく話せて誰かを責めない」ものに
玉居子 そんなに頑張らなくていいんですよ。まず、1回の家族会議の時間は10分もあれば充分。はじめから「短時間で終わる」と思えば、始めるハードルも上がりません。
我が家では1~2週間に1回、子どもの機嫌がいいタイミングを見計らい、主に夕食後にやっていました。
玉居子 まずは家族みんなで楽しく考えを深められるような「テーマ」を設定するといいでしょう。
例えば「次のお出かけはどこに行く?」をテーマにすれば、子どもも自分の意見を言いやすいですよね。大人は「遊園地やプールが喜ぶかなあ」なんて考えがちですが、子どもからは「それよりも近くの大きな公園で一日中遊びたい」「お母さん、お父さんの会社を見てみたい」なんて、予想していなかった意見が出ることも。
可能な範囲で子どもの希望を叶えてあげると、「自分の発言には価値があるんだ」という気持ちも芽生えます。
ただ毎日忙しい中で「会議のテーマを考えるのが大変」という方も多いと思うので、そういった場合はこのようなテンプレートを使って気軽に話してみるのはいかがでしょうか。
![家族会議シート テンプレート](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/b/blog-media/20240528/20240528153136.jpg)
文字が書けるお子さんであれば、これを印刷して書き込んでもらうのも良いでしょう。シートの各項目についてそれぞれ発表してみると、そのときのうれしいことや悩んでいること、家族へのリクエストなどが分かるようになっています。もちろん、全ての項目を話す必要はありません。
玉居子 もちろんです。ただ具体的な課題からテーマを設定するときは「誰かを責めるテーマ」にしないことが大切です。
「どうすればきょうだいげんかをしなくなるのか」をそのままテーマにしてしまうと、どうしても親がけんかをしている子どもたちを叱る構図になり、子どもが悪者になってしまいますよね。
なので「ケンカをするきょうだいとしないきょうだい、違いは何?」というように、課題を客観視できるテーマに置き換えてみます。その話し合いのなかで解決のヒントが見つかるかもしれません。
繰り返しになりますが、ゴールはあくまで「結論を導くことでなく、家族が楽しく話すこと」です。
玉居子 その気持ちはすごく分かります。でも、せっかく「家族会議」と称していつもと違う対話の場を設けたのだから、そこはぐっと我慢して。試しに子どもの話をじっと聞いてみる、ということをやってみてほしいです。
最初はぎこちなくても、子どものなかに「こういうことを言ってもいいんだ」といった積み重ねができていくことで、どんどん話がしやすくなると思います。
玉居子 おしゃべりしながらつまめるおやつや飲み物なんかがあるといいかもしれません。夕食のあとに時間をつくるなら、ちょっとしたデザートとか。
ホワイトボードやノートを用意して簡単に議事録を取るのもおすすめです。大人も子どもも、自分の意見を書き留めてもらえると「意見を聞いてもらえた」という実感が持ててうれしい気持ちになりますから。
子どもの癇癪に悩み……玉居子家が家族会議を開いたきっかけ
玉居子 9年前、小学校入学前後だった長男の癇癪に悩んだのがきっかけでした。
外では「落ち着きのあるしっかり者」キャラだったからか、溜まったうっぷんを家での癇癪でしか表現できなかったのかもしれません。
学校であったことや連絡事項も全然話してくれなくて、コミュニケーションが足りていないと危機感をおぼえていたときに、夫が「家族会議をしてみない?」と提案してくれたんです。
玉居子 感情にムラがある長男にも楽しんで参加してもらうため、最初のうちは「ハイ、家族会議やりまーす!」とイベントっぽさを演出していました。家族会議を開くことに慣れてきたら、だんだん「今日、どう?」みたいに、日常の延長線上でやるようになりましたね。
玉居子 大人が、子どもの話を“ちゃんと聴く”ようになりました。子どもっぽい他愛ない発言でも、ちゃんと受け止めて質問をして深堀していくと、子どもなりにいろんなことを考えているのが伝わるんです。
会議という形態を取ることで、いままで大人が子どもの話をしっかり聞けていなかったんだなと自覚できました。
![『子どもから話したくなる「かぞくかいぎ」の秘密』書影](https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/b/blog-media/20240528/20240528153133.jpg)
玉居子 そうですね。「場」を用意してあげることで、感情を言葉にして話すという習慣が身に付いて、「整理」ができるようになったと思います。大人も「この子は自分の感情をここまで理解しているんだ!」と発見がありましたね。
例えば、どうして癇癪が起きるのかを尋ねたとき、息子は自分の怒りを「ムカお」と擬人化して、画用紙にその絵を描いてくれました。感情を擬人化してくれたことで問題をとらえやすくなり、「ムカおが大きくならないためにはどうすればいいのかな?」と、親子で解決の方法を話し合えたんです。
どんなテーマのときでも「そうするとどんな気持ちになる?」「どうしてそう思う?」などと、意見の裏にある感情を尋ねるように心がけていました。せっかくの家族会議だから、普段詳しく話さないような感情について聞くのが一番良いと思います。
玉居子 親だからって、相手の気持ちを勝手に解釈したり、こちらの意見を押し付けたりしちゃいけませんよね。親子でも他人なんだから、ちゃんと話を聞かないと相手の考えは分からないし、話を聞かせてもらわなきゃいけなかった。
会議で子どもの話を聞いていると、あらためて「この子はこういう考え方をする人なんだ。素敵だな」と思うこともたくさんありました。
それを積み重ねることで「しょっちゅう癇癪を起こす子」というイメージから離れて「こんな考えを持って、こういうことをうれしく感じる子」というように、子どもの考えや気持ちに焦点を当てられるようになったんです。それが、親子関係を良くしていくのにとてもプラスだったと感じています。
やり方は自由。まずはできる形で始めてみればいい
玉居子 最初の会議から1年ほどたつと自然に会話が増え、日ごろからみんなお互いの気持ちを話すようになったので、定例の会議を開くことはなくなりました。
でも課題が出てくれば話し合うことはあったし、思春期を迎えたいまも進路の話などいろんなことを落ち着いて話してくれます。家族会議の賜物だと思いますね。
玉居子 気乗りしない人には強制しないスタンスでいいと思います。まずは、やってみてもいいというメンバーだけで始めてみてはどうでしょうか。
お母さんと子どもだけでやっていたら、最初は嫌がっていた夫がしれっと会話に参加してきた……なんて話もよく聞きますよ(笑)。
もしくは近所のカフェや旅先、車の中など、場所を変えてみると気分が変わって話しやすくなる人もいるかもしれません。家族が話しやすい場所やタイミングを探してみるといいですね。
玉居子 そうなんです、軽い気持ちでやってみてください! 一日5分だけでも「聞く」に徹する場をつくってみたら、家族で話す習慣ができて、親が楽になりますよ。
「子どもが間違っていたら叱らなくちゃ」「ちゃんと正しいことを教えて導くべき」と肩ひじ張っていた気持ちを手放して、子どもに委ねていいと信じられるような関係性ができますから。
取材・文:菅原さくら
撮影:小野奈那子
編集:はてな編集部
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