「1日8時間×週5勤務」がきついなら、今の働き方を疑ってもいい。「週3正社員」になってみて


1日8時間×週5日働くことが「普通」とされる中で、体力的・精神的にきつさを感じている人もいるのではないでしょうか。

以前は大企業で忙しく働いていた月岡ツキさんは、休職を経てベンチャー企業に転職し「週3日正社員」という働き方を選びました。

働き方を見直すにあたり、労働時間の減少に伴う収入低下や大企業をやめることによるキャリアパスの不安にどう向き合ったのかを振り返っていただきました。

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「週3正社員」になって、丸1年がたった。その前は、誰でもだいたい名前を知っている会社で、週5日会社員をしていた私。思い切って小さなベンチャー企業に転職し、週3日は「会社員の日」、あとの2日は個人の物書きの仕事などに充てる生活を1年やり切ったというのは、ちょっと感慨深い。

いわゆる“社会人”になって9年目。今でこそ「ワークライフバランスが取れている、今っぽい働き方の人」然としているが、かつては働き方に苦悩し、生活も心身もしっちゃかめっちゃかで、休職にまで至ったこともあった。

「みんなが知ってる大企業」の正社員。だけど……あんまり幸せじゃない

新卒からハードワーク系のIT業界に入り、残業時間など数えたこともない(昼夜問わず働いているので残業という概念がもはやない)というような世界で始まった私の会社員人生。

駅のホームや居酒屋の卓や旅行先の宿でさえ、しょっちゅう緊急対応のためにPCを開く生活を送ってきた。今でも駅で慌ててPCを開いている人などを見ると、当時を思い出して胃がキュっとなる。

何度かの転職を経てたどり着いた前職は、安泰な社会的地位とそこそこ良い給料に加え、新卒の頃の無茶苦茶ぶりに比べたらかなり労働時間も減ったし(それでも一般的に見れば長時間労働ではあったが)、コロナ禍以降はリモートワークもできるようになったし、条件面を見ればまあまあ良い職場だった。

しかし、ある意味「安定した環境」が手に入ったことで、私はずっと見てみぬふりをしてきた自分の中の大きな問題に気付いた。それは「1日8時間×週5日働くのがきつい」ということだ。

何を身も蓋(ふた)もないことを……と思われるかもしれないが、そもそも私は飽き性で、毎日同じことを延々と続けるということに耐えられない性分である。ずっと目の前の仕事をがむしゃらにこなし「会社員ってそういうものだし」と思って蓋をしてきたけれど、多分私は会社員に向いていない。

さらに、長年にわたる長時間のデスクワークによる肩こりと首こりが慢性化し、付け焼き刃のマッサージなどでは到底どうにもならないところまできていた。眼精疲労により視力も低下。偏頭痛にも悩まされ、ずっとうっすら体調が悪い状態が続いていた。

しまいにはこの働き方が嫌過ぎて、仕事にも飽き過ぎて、蕁麻疹(じんましん)が出るようになった。「週5×8時間机に向かう」というのは、人間の体で本来するべき生活ではないのだと、文字通り体が訴え始めたのである

このまま「大企業の社員」の肩書きにしがみつくのか? 休職を経ての葛藤

「週5労働から解放されたい……」
「ひとまず、働き方をゆっくり考え直したい……」

そんな思いがピークに達し、蕁麻疹も酷くなってきたタイミングで、半年間休職することにした。

仕事を休んで一旦は元気になり、半年後に会社に復帰したものの、同じ環境に戻るわけだから当然、問題の根本解決には至っていない。

休んでいる間に、副業と趣味で続けてきた物書きを本業にするか? という考えも頭をよぎった。確かに書く仕事は好きなので、それ一本で生活できたら理想ではある。しかし私は「会社を辞めて執筆業一本でやっていきます!」と言って辞表を叩きつけられるほど、攻めた人間でもないのだった。

周りの友人を見れば、着実に会社組織で上に行っている人もちらほら出てきている年頃。自分も頑張ってそうなるべきなんじゃないのか、この組織で頑張る方が社会的にも経済的にも良いのだし、と自分に言い聞かせてもみた。

だけど、このまま「私にはつらい働き方」を続けて、肉体的にも精神的にも不健康に生きていくのは嫌だ。仕事に身が入らないまま「大企業の社員」という肩書きだけにしがみつくのはちょっと格好悪いのではないか? お前はそういう大人になりたかったのか? 違うだろう。

30歳になる節目に、どうにかして環境を変えてみよう。無理だったら諦めて元の生活に戻ればいい。いや、でもなあ……。

何度も「辞める」「辞めない」を心の中で行ったり来たりして、上司に「お話があります。面談お願いします」と切り出すSlackメッセージを1カ月寝かせ、めちゃくちゃ悩んだ挙句に最後は勢いで送信ボタンを押し(すごく手が震えた)、ようやく辞める決心をした。

週3正社員+副業という「第三の選択」

とはいえ、やはりいきなり「会社をやめて執筆業一本」になるのは怖過ぎる。そして、フリーの物書きになったらなったで「食うためにやりたくない仕事を詰め込む」ことになり、結局今とあまり変わらないのでは、という気もした。

私は結婚はしているけれど、自分で自分を食わせられるだけの稼ぎは欲しいし、正社員の待遇(主に社会保障)は死守したい。もし仮に夫が私のように休職したいと言い出したときに、「心配しないでゆっくり休んで」と言えるだけのお金と立場を守りたいからだ。夫が私にそうしてくれたように。

週5日で働くのは嫌だけれど、「正社員」という地位は捨てたくない。さてどうしたものか。うんうん考え続ける中で、ふと知人のエンジニアが「自分は週2日勤務だけど、会社が社会保険に加入させてくれている。会社がない日はフリーランスとして働いている」と言っていたのを思い出した。

「『正社員』といっても法律で定められた定義や条件はなく、必要な勤務日数や時間も事業主次第」とも言っていた。そうか、週に数日正社員として働いて、残りの日に好きな仕事をするという手があった! 私エンジニアじゃないけど、いけるか……?

そんなことを考えていたとき、とあるベンチャー企業と縁があり、恐るおそる「週3日勤務で正社員として雇ってもらうのってありですか……?」と聞いてみたところ、あっさり快諾。

会社としても、人手不足だから週3でも入ってくれればありがたいらしく「そういう働き方をしている社員がいるというのは、今後の採用アピールにもなるし」とのこと。エンジニアには先例もあったらしい。ということで、ダメ元の相談だったけれどなにごとも言ってみるもんである。

週3正社員を1年間やってみて

そんなわけで1年ほど「週3正社員」をやってみて現在に至るわけだが、結論、私にとっては最良の選択だった。

まず、時間の自由がかなり効くようになったので、運動や睡眠や自炊の時間が増えた。かつてはずっとうっすら体調が悪かったのに、今ではどこも痛くも痒(かゆ)くもなく、すっかり健康体である。

世の中にはハードワークをしながら週5ジム通いができる猛者もいるし、1日5時間睡眠でも平気な猛者もいるが、残念ながら私は猛者ではない。普通の人間には、普通に心身をケアするための時間が必要なのだ。

朝食の写真 自炊の時間も取れるようになり、朝からしっかり栄養のあるご飯を食べられるようになった


会社の仕事の方はというと、週3で回していけるか心配ではあったのだが、職種的にひとりで作業を進められることが多いので、私がいない曜日に他の社員に迷惑をかけているということはあまりなさそうである。

私の他にも週4勤務や変則的な時間帯で働いているメンバーがいるため、その人たちと被っている勤務時間が少なく、MTGができる時間が限られるという課題はある。しかし、お互いが自分にとって居心地の良い働き方を選択しているためか、休みを取ることや家庭の事情による早退などにも寛容な空気があり、とても働きやすい。

会社で働く日数が減ったぶん収入は3/5近くになったのだけれど、健康と心の余裕を買ったと思えばそれだけの価値があった。

ただ、その収入も今では週5会社員時代と同じくらいに戻っている。週に2日ガッツリ稼働できるフリーの日を作ったことで、これまでの働き方では受けられなかった仕事もできる余裕が生まれ、やりたかった執筆業などの依頼が舞い込むようになったのだ。

結果として、時間的・精神的余裕をある程度保ちながら収入をキープし、正社員待遇も受けられて、やりたい仕事を増やすことができた

働き方はもっとカスタムしていい

「毎日毎日仕事でうんざり」「でも生活のためには我慢して働かなくちゃ」という気持ちの人は多いと思う。というかほとんどみんながそうだろう。

「私は会社員に向いてない」と書いたが、本当は「8時間×週5の会社勤め」に最適化した人間なんていないのではないか。人間の歴史で見れば、「企業での労働」という形ができたのはごく最近なのだから。

「企業で働く」といえば「週40時間労働、それが無理なら時短勤務か、パートや非正規」が当たり前とされているし、それしか選択肢がないような気がするが、そうしなければいけないと法律で決まっているわけではない。

「A定食 or B定食 or C定食」くらいしか選べないように思わされているが、食べたくないおかずを別の小鉢に変えるとか、オプションでデザートをつけてもらうなど、その人のその時期にちょうどいい働き方のカスタマイズがもっとできていいはずなのだ。

私は「週5会社員は嫌だけれど正社員という地位は捨てたくない」というわがままから、今の働き方に行き着いた。「そうは言っても私には無理」と思われるかもしれないし、すぐに働き方を変えたり、転職をしたりすることは難しいとも思う。

しかし「働くというのはこういうもの」「こうしなければならないもの」という認識を一度取っ払ってみると、違う世界が見えてくるかもしれない

全ては「自分が求めるもの」を自分で知るところから始まるのだと思う。思い切ってノックしてみると、案外簡単にドアが開き、知らなかった選択肢が見つかるかもしれない。

編集:はてな編集部

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著者:月岡ツキ

月岡さんプロフィール画像

1993年生まれ。大学卒業後、IT企業でwebメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在は都内のベンチャー企業で働きつつ、フリーランスライターとしてエッセイやインタビュー執筆・コンテンツプランニンングなどを行う。(profile photo:Wataru Kitao)
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