40代で大学へ。仕事&育児をしながら「とりあえずやってみよう」の気持ちで勉強し続けたら、自信につながった

「自分には絶対無理」と思っていた出産を機に「今まで無理だと決めつけていたことも、やってみたらいいのでは?」と考えられるようになったという音楽ライターの上野三樹さん。

産後、自分のキャリアへの葛藤が生まれたことから、通信制大学への入学を決め、今後のために心理学の学位を取得しました。

忙しい日々の中でも気負い過ぎずに「とりあえず始めてみる」精神で大学を卒業した過程を振り返っていただきます。

出産を経て、新しく生まれたエネルギーがあった

思い返してみれば10代の頃から「私は結婚しないし子どもも産まない」と考えていました。

理由は「音楽関係の仕事がしたいから」。その夢を叶えて生きていくためには、そのくらいの覚悟が必要だと思っていたのです。

そんな情熱(のような思い込み?)の賜物か、音楽雑誌を出版する会社に契約社員として入社。フリーランスになってからも音楽ライターとしてたくさんのインタビューを経験させてもらいました。

そして30代半ばを過ぎた頃、かつて思い描いていた人生計画には予定がなかった結婚と出産をしました。

出産って本当にすごいものですよね。目の前の命を守らなきゃいけないと思うと他のことには何も意識が向かなくなるというか。自分がそれまで必死に築いてきた音楽ライターとしてのキャリアとか自分自身の価値観だとかが全部崩壊したような感覚になりました

だけど、そうして育児に集中していた時間の中で、失ったことばかりではなかった。何とも説明しがたい新しいエネルギーが自分の中で生まれていたんです。

そんな私が自身のキャリアを見つめ直し、40代で大学を卒業し、この先70歳になっても働けるような新しい働き方への一歩を踏み出した話をしたいと思います。

今までの仕事を次に生かすために、学びたい

大学で学びたいと思ったきっかけのひとつは、子育てに伴う生活環境の変化。

私は現在も音楽ライターとしてさまざまなアーティストのインタビューや、ライブレポートを書く仕事をしていて、この仕事が大好きなことには変わりありません。だけど育児があるとライブが開催される夜に気軽に外出するわけにもいかず、出産前と同じように全力投球というわけにはいきません

年齢を重ねてくると20歳も年下のアーティストにインタビューをすることも増えてジェネレーションギャップを感じることもありますし、そもそもライブハウスって何歳まで通えるんだろう……と時々不安を覚えることもありました。

もうひとつは、20年以上インタビュアーとしてアーティストに向き合ってきた中で、アーティストのメンタルケアの必要性も感じるようになったこと。

アーティストたちは深夜まで及ぶ仕事やライブの後にうまく眠れなかったりすることが多く、制作に対するプレッシャーやステージに立つことへの緊張感など、多くのストレスを抱えている方も少なくありません。

インタビューでは皆さん作品にまつわるお話や近況をしっかりと語ってくれますが、その裏ではつらい想いを抱えてるんじゃないかな、ちょっと元気がなさそうだなと感じることもありました。


また、育児を通じていわゆる“ママ友”も増えてきて、彼女たちに相談をされることもしばしば。育児上の悩み、夫との関係など、もちろん話を聞いてあげることはできるけれど、その問題の深刻さに「迂闊(うかつ)にアドバイスなんてできない」と思うことが何度もありました。

そんないろんなモヤモヤを抱え続け、この先は、自分のこれまでの経験を踏まえてより人の役に立つ仕事がしたい、そのために新しく何かを学びたいと考えるようになりました

そうして行き着いたのが「これまでたくさんの方にインタビューをしてきた経験を、心理職でカウンセラーとして生かすことはできないかな」という思い。心理職に就けるかはさておき、とりあえず心理学を勉強してみようと思いました。

「やってみたらできるじゃん」の勢いが背中を押してくれた

とはいえ、当時子どもは未就学児でまだまだ育児に奮闘中でしたし、そんな最中に新しいことを始めるのはものすごくエネルギーが必要です。それでも、私の中にフツフツと新しいエネルギーが沸き起こったのは、「自分にはできない」と思っていた出産を経験したから

冒頭でもお伝えしたように、私はまさか自分が子どもを産むとは思っていませんでした。だけど「私には絶対無理!」と思っていたことを乗り越えた経験が、自信をくれたのです。これまで「できない」と思い込んできたことも「やってみたらできるんじゃない?」と思うようになりました。

実際、産後に教習所に通って車の運転免許を取得したり(自分が車を運転するなんて100%ないと思っていた!)、歯列矯正を始めたり(ずっと気になっていた!)、ハンバーガーショップでパートを始めたり(久しぶり過ぎる面接もドキドキでした)……。「やってみたらできるじゃん」が楽しくて、世界が広がっていきました。

そんな勢いに乗って今さらながら大学で勉強をするのもありなんじゃないかと思うようになり、家にいながら心理学の授業が受けられる通信制の大学に入学したのが2020年の春。

大学の勉強なんてしたことがないし、レポートも書いたことがないので不安はありましたが「絶対に卒業する」というより、「とりあえずやってみよう」の気持ちでした

学びは匍匐前進。「10センチでも前に進めたら」の気持ちで

通信制の大学ではメディア授業を視聴し、ウェブ上でテストを受けたりレポートを提出したりして単位を習得していきます。

私は1年次入学だったので、専門の心理学はもちろん、現代社会や環境論やジェンダーや異文化コミュニケーションなど、幅広い科目を大人になった今だからこそ新鮮な興味を持って学ぶことができました。

子どもが寝たあとや仕事の合間に授業を受けたり、キッチンにPCを持ち込んで料理をしながら授業を聞いたり、子どもが宿題をしている横で一緒に勉強したりすることも

そんなふうに自由なスタイルで空き時間をうまく利用して勉強できることが通信制のメリットですが、夏にはスクーリング(対面授業)形式での実験実習もあり、幅広い世代の方たちと一緒に学べたこともまた良い刺激になりました。

その中で仲良くなったのは、会社員をしながら大学で生き生きと勉強されている方ばかりで「今の職場を定年退職したときに使える資格を持っていたい」という考えの方も。

高齢化社会を長く働きながら前向きに生きていくために、考えて動かなきゃいけないよなと刺激を受け、「私も70代になっても働いていたいし、働き方の選択肢を持っていたい」と決意を新たにしました。

育児、仕事、家事、そして大学……と複雑に詰め込まれていくスケジュールをバランス良く調整しながら日々を過ごしていくことがどんどん面白くなっていく毎日。勉強も、忙しい中で取り組むからこそ集中できたのだと思います。

レポートを書くための参考資料 レポートを書くための参考資料


もちろん、音楽ライターの仕事があるときはそちらに集中するので、忙しいときは丸1カ月ほとんど勉強に取り組めない、なんてことも多々ありました。レポートが何度も不合格になり単位を修得するのに丸3年かかった科目も。

それでも時間があるときにしっかり計画を立てて、少しでも前に進もうという気持ちを保ちました。イメージは、匍匐(ほふく)前進(笑)。10センチでも前に進めたらいいじゃない、くらいの気持ち

だんだん勉強の仕方やレポートを書く時の資料集めもコツをつかんできて、結果的には4年間で無事に卒業することができました。

いや〜、最後のレポートが合格で返ってきた時には思わず泣きそうになりましたね。卒業式には子どもが学校帰りに大学まで来てくれて、同席してくれたこともうれしかったですし、ママ友は「卒業までやり遂げるママの姿を見せることが最高の教育だね!」とメールをくれました。

やってみたかったこと「今さら」と思わずに何でも挑戦したい

40代での大学入学は「とりあえずやってみよう」の気持ちでしたが、約150単位を修得して卒業できたことは私の中で大きな自信になりました。

そう、これは私の中での大きな変化。周りからしてみれば何も変わらないのかもしれないけれど、自分の中で確実に何かが変わるんです

せっかく大学を卒業できたならば、心理職を目指してみたいと思うように。50代からは音楽ライターと心理職の二刀流で働けたらと、現在は資格取得の条件のひとつである大学院の入学と修了を目指して勉強しているところです。

何をするにも遅いことはないとは言いますが、時間は無限にあるわけでもないんだなと日々思います。

ただ、フルタイムの仕事をしているわけではない私がそう言っても「私の生活環境では新しいことなんてできない」「今の仕事と育児だけで手一杯だよ〜!」と思う方もたくさんいると思います。

でも「今なら何かできるかも?」「これならできるかも?」と思うタイミングがきたら、自分で自分にチャンスを与えてあげてください。

「やり遂げるぞ」じゃなくて「やってみよう」でいい。それが誰のためにもならないようなささやかな趣味でもいい、自分がやりたいことをやればいい。

出産でキャリアが途切れてしまったような感覚になっても、自分の価値観が崩壊したような気持ちになっても、新しい自分の世界をひとつずつ作っていくことが毎日のエネルギーになっていくような気がします。

編集:はてな編集部

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著者:上野三樹

上野三樹さんプロフィール画像

音楽ライター。現在は『anan』『音楽と人』『月刊ピアノ』『音楽ナタリー』『RealSound』『Billboard Japan』などで執筆中。ウェブサイト「YUMECO RECORDS」主宰。