漫画家から編集者に。産後「本当にやりたいこと」と向き合ったら、キャリアチェンジへの道が開けた

漫画家から編集者に。産後「本当にやりたいこと」と向き合ったら、キャリアチェンジへの道が開けた

子育てをしながらのキャリアチェンジは、子育てとの両立をふまえて転職先を探さなければならないことや、時間の確保が難しいことなどから、なかなかハードルが高い印象があるかもしれません。

カタノトモコさんは、フリーランスとしてイラストや漫画を描く仕事を10年以上続けたのち、出産を経て、コミックエッセイの編集者に転職しました。出産による体調の変化やコロナ禍での環境の変化を経験して「今の仕事を続けていくこと」に不安と疑問を持つようになり、キャリアチェンジを考えるようになったそうです。

今回はそんなカタノさんに、キャリアチェンジの経緯と、転職後、仕事や家庭、子育てにどんな変化があったのかについてつづっていただきました。


はじめまして、こんにちは。カタノトモコと申します。夫と共働きで、5歳の子供と3人で暮らしています。

私は専門学校を卒業してからキャラクター文具の会社でデザイナーとして3年半ほど働き、その後フリーランスとして約13年間、イラストや漫画のお仕事をしていました。していました……というのも、2020年12月からコミックエッセイの編集者になり、再び会社員として働き始めたのです。

長らくフリーランスを続けていましたが、2017年に第一子を出産したことをきっかけに自分の働き方についてあらためて考えるようになり、転職を決意しました。今回は、私がどのようにして再び会社員として働くに至ったのかを振り返ってみます。

出産を経て「絵を描く仕事以外の道もあるかもしれない」と考えた

会社員だった20代の頃も、その後フリーランスになってからしばらくの間も、幸い仕事は順調でした。

キャラクター文具の会社では、作ったキャラクターがヒットしてアニメ化されたこともありました。フリーランスになってからは、児童書の挿絵、エッセイやレポ漫画など、ずっと憧れていた書籍の仕事にさまざまな形で携わることができました。

子供の頃からの「絵を描く仕事に就いてこんなことをやりたい! こんなふうになってみたい!」という夢が、全てかなったような気持ちでした。けれどそんな気持ちとは裏腹に、常に漠然とした不安がまとわりついているのも感じていました。

そして、最初に訪れた転機は「出産」でした。当時私は30代半ば。

今までのように自由に動けない体、それによって失っていく仕事。さらには保活に失敗……。やりたいことができない歯がゆさに気分は落ち込み、さらには生きているだけでお金がドンドン減っていく状況で、不安に押しつぶされそうになりました。

ある日、そんな暗~い私を見かねてか、絵描き仲間でチアダンスの講師もしている友人が「ママたちのチア教室があって、子連れでいいから一度おいでよ!」と誘ってくれました。

ダンスなんて一切踊れないし、ましてやチアダンスって、なんかハードルが高い……!! と思ったのですが「子連れOK」のありがたさをヒシヒシ感じ、気分転換もかねて行ってみたのです。


チア教室でのママさんとの出会い

そこで楽しそうに踊る生徒さんたちの姿を見ていると、「お母さんになってもなんでもできるんだ!」という気持ちになれました。ほとんどの生徒さんは現在の私より年上でしたが、皆私よりも数倍輝いていてきれいに見えました。

講師をしている友人も私の6歳上。若い頃に結婚して子供を2人産み、私のように鬱々(うつうつ)してしまった経験があったけれど、30歳になってチアダンスを始めてからどんどん変わっていったといいます。

その友人がよく口にしていたのが「今の自分が一番好き! 一番きれいだし!」という言葉。いろんなことに自信をなくして「これから先はもう下り坂なんだ」と思っていた自分にとって、それはものすごく希望になりました。

まだまだ人生は長い。何をやってもいいし、いつでも輝ける。

その頃からふと「『絵を描く仕事でこれから先も生きる』ことは、私にとって楽しい人生なのか?」と思うようになったのでした。

「自分にはフリーランスは合っていないかも」コロナ禍をきっかけに感じたこと

その後やっと子供を保育園に預けられるようになり、仕事も多少制限はあるものの前のように引き受けられるようになってきた直後、新型コロナウイルスが流行。

不要不急の外出はダメだと言われ、仕事どころか人に会うことすらかなわなくなりました。

さまざまなことが制限され、当たり前だったことが当たり前ではなくなる中で、考えることも増えていきました。特に考えたのは「フリーランスのしんどさ」です。

13年もやっていたけれど、実は私自身、商売やお金のことには全く無頓着でした。勉強する熱意もなかったので、確定申告などの事務手続きをプロに任せていたのですが、稼ぎがだいぶ減ったことでプロに任せるほどの余裕がなくなり「自分でやらなくちゃなぁ……」と思いながらも、面倒だな、本当に自分にはフリーランスという働き方が向いてないなと感じていました。

それに私は、もともと楽しいことも面倒なことも含めて「人と関わること」が好きでした。もちろん、フリーランスは働く時間や場所を選べたり、仕事量を調整しやすかったりするなど、メリットもあります。でも私にとっては孤独を感じる場面も多く、声がかかれば打ち合わせにも飲み会にも飛んでいってしまうほどでした。そういった機会がコロナで無くなってしまったことがつらかったです。

考えてみれば、私にとってはフリーランスで得られる気楽さよりも「人と関われないつらさ」の方が大きかったのに、なんで今まで続けていたんだろう? と思いました。

一方で「人に憧れられるような仕事」をしている自覚もあったので、そんな仕事をやめて転職するというのは、どこか無責任というか、失敗だと思われるんじゃないか……とも感じていました。

そんな自分の仕事に対する複雑な思いと、収入が減っていくことへの不安が入り混じり、やめようと思えばやめられるはずなのに決心のつかない状況が続きました。

そんな時、トップアイドルたちが続々と別の道に進むために芸能界をやめるというニュースを見ました。

「ファンは悲しいだろうな」と思ったけれど、子供の頃から周りのために走り続けてきた彼・彼女らも、自分と同じようにコロナ禍をきっかけに違う人生を歩みたいと思って進んでいるのかもしれないと思ったら、すごく応援したくなりました。


トップアイドルの引退に勇気づけられた

「人と関われる仕事」が見つかったら転職しよう、と決めた

今後のことを考えた結果、「個ではなくチームで、人と何か一緒に作る仕事に携わりたい。でもそれは、絵を描くことじゃなくてもいい。そういう仕事が見つかったら、思い切って転職しよう」と決めました。

「見つかったらでいい」というのは、「見つからなかったらまだその時ではない」ということだと思ったからです。実際、いろいろな業種の求人を見ていくつか応募し面接も受けてみましたが、なかなかこれだという仕事がなかったので、しばらく様子をうかがっていました。

そんな時にふと、漫画を描いていた時代から一緒に働いてみたいと思っていた方が「コミックエッセイの新しいレーベルを立ち上げるので編集者を募集しています」とツイートをしているのを発見しました。

作家と一緒に作品を作り上げていく「編集者」という仕事は、実はずっとやってみたかったのですが、応募要項には「4年制大学卒業」や「編集経験◯年以上」と書いてあることが多く、私はどちらでもないのであきらめていました。

でもツイートを見て、この人ならもしかしたら学歴問わず履歴書を見てくれるかも……? という希望を持てたので、ダメ元ですぐ写真を撮りに行き、とりあえず応募! それから面接を経て、無事採用されました。


今の仕事が楽しい

採用されなくて当たり前だと思っていたので、新しいことにチャレンジする切符をもらえた喜びでいっぱいでした。

何の知識もなく編集者になりましたが、不安よりも「選んでもらったからには頑張ろう」という気持ちが大きかったです。入社してみると、ありがたくも今の私の生活を尊重してくれる、とても働きやすい環境でした。感謝してもし切れないので、必ず恩を返したいという気持ちで今日も働いています。

長年絵を描く仕事をしていましたが、自分が本当にやりたいことと向き合っているうちに「絵を描くこと」自体よりも「絵を描いて喜ばれること」が好きなんだなということにも気付きました。(その勘違いは、意外とあるのではないかと思います)後者は見返りとして「お金」を期待しているわけではないので、私の場合つい「喜んでもらえるならば無償でもいい!」と思ってしまうことがあったんです。しかしそれでは、「仕事」として成立しないんですよね。

なるべくモノ作りに関わりたいと思っていたので結果的に絵を描く仕事と同じような業界にはいますが、今の私には「働いた分の報酬を受け取り、頂いている分の成果を出さねば」という「仕事」としての意識が、以前よりも明確にあります。

その中で発売書籍に挟まるチラシのデザインを手書きで作成したり、サイトに載せるイラストを担当したりもしています。それは編集者になった私の「得意なこと」として評価してもらえており、私にとってはお金をもらう以上に、とてもうれしいことなのです。

会社員になったことで、家庭においてもメリットがありました。以前は家事や育児について、家にいる時間が長い私がつい遠慮して担いがちだったのですが、会社員になって私の仕事量が夫にも見えやすくなり、以前よりも家事や子育ての分担をしやすくなりました。また、フリーランスの時は時間を気にせず仕事をしがちだったのですが、会社員になって働く時間が明確になったことで、結果的に子供と向き合える時間が増えたのも良かったです。

日本においては、「続けていくことの美学」や、「やめたら迷惑がかかるという呪い」があると感じます。どちらも間違いとは思わないけれど、「本当にそれが自分に合っている人」が続ければいいし、もし合わないなら、迷惑のかからないやめ方はいくらでも相談し合えるように思います。

小さい子供を抱えながらのキャリアチェンジは、自分に合った仕事かどうかというのはもちろん、子育てと両立できるのかという不安もあって、なかなか選択肢が少ないと感じることも多いかもしれません。

でも、だからこそチャンスがきたら勢いよく一歩踏み出せるように、今の自分の気持ちや今後の働き方・暮らし方をどうしたいか考えておくことが大事かもしれないなと、日々感じています。

編集:はてな編集部

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著者:カタノトモコ

カタノトモコ

キャラ文具デザイナー.フリーの児童書の挿絵.エッセイやレポ漫画描き経て、2020年12月もはちみつコミックエッセイの編集者になりました! 児童書の挿絵は今もちょっとだけ描いてます。

Twitter:@mizutamacookie

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