「フェス的生活」を目指す夫婦が築いた、家事育児タイムテーブル

 本人


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複数のステージが設置され、さまざまなアーティストが出演する音楽フェスティバルに足を運ぶ生活を続けている、はてなブロガーの本人さん。2018年に第一子が産まれてからの生活はフェスに通じる面や、フェスでの経験が生きたこともあるのだそう。

今回は、そんなパートナーと一緒に仕事・家事・育児をしていく「フェス的生活」について寄稿いただきました。

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10代でFUJI ROCK FESTIVAL(フジロックフェスティバル)の洗礼を受けて以来、毎年フェスティバルに足を運ぶのが何よりの楽しみだ。与えられた環境の中で「最高の夏になったな!」と言えるにはどうすればと知恵をしぼり、いまだ毎度のように全力少年させていただいている。


もはや真冬を除いてほぼ毎週末どこかで行われている野外フェスティバル。その醍醐味は入場前にこそある。例えばタイムテーブルを凝視しながら、出演時間がカブる2アーティストについてステージ間の距離を調べたり、いつ移動すれば両方とも楽しめたりするのかを想像したり。私は「参加するからにはひとつでも多くの楽しい思い出を!」とよくばったプランを画策しているときが一番楽しい。

フェスティバルがもたらしたよくばり生活

そんな週末行事を長年繰り返した結果、私はむしろ平日、というか生活全体において刺激を求めるようになる。私生活のたとえ小さなイベントであってもアクセルベタ踏みで参加し、それをSNSやブログにつづるのが日常になりつつあった。

そんなことを続けていたら、2017年に同じようなことを考えて生きてきたバイブス高めの妻と知り合って結婚し、今はふたりして「超楽しもうな!」と共有カレンダーにイベント予定をガシガシ書き込んで互いの趣味をプレゼンしぶつけ合うスタイルに移行。2018年には第3のプレーヤーである第一子まで誕生し、もうここ1年ぐらいは毎日プレシャス過ぎてウケている。

日中は粛々とサラリーマンし、それ以外は子供の成長寄り添いおじさんをし、寝かしつけが終わったら妻とデートする日々を謳歌する。約1年半で襲いかかってきた妊娠出産&結婚育児の情報量とタスクボリュームは独り身のときの比ではない。

しかしここは生活という広大な敷地にて開催され、日増しに演目が増えていく、いわば“私生活フェス”。それを全力疾走していくやり方についてここでまとめたい。

フェス的生活は装備がモノを言う

レインウェアの機能やキャンプ用品の軽量化など、野外フェスで快適さを追求することは「どれだけ入念に装備をするか」ということと同義である。

同様に私のここ最近の私生活フェスは手元を彩っていくことからスタートした。口コミや雑誌など、自分たちの心がときめきそうなものを次から次に集めていったのだ。

その結果できあがった一日はこんな調子。朝はベッドの中で、スマホに入れたリモコンアプリ経由でリビングのエアコン等電化製品を動かしスタート。子供を抱っこしたままスマートスピーカーに「アレクサ、照明を付けて」「今日は雨降りそう?」と話し、子供をケージに置いたらドラム式洗濯機で乾燥済みの洗濯物を取り込み、ロボット掃除機を走らせて出社する。

仕事は途中Apple Watchに改札通過やコンビニコーヒー購入を手伝ってもらったりしながら終え、帰宅したら子供を風呂に入れる。音声感知式の電動ベッドで自己完結して眠る子供をベビーモニターアプリで見ながら、妻と「今日もお疲れ様でした」的に乾杯。食洗機に皿を突っ込んで終幕、といった調子だ。毎日こう順調にいくわけではないが、いずれにしても行動のいたるところで短時間化・手間軽減をサポートするガジェットが活躍している。

装備

子供の赤外線カメラ映像を受信するiPad、Suica端末状態のApple Watch。ズボラがはかどるAmazon Echo&家電を音声操作するためのマルチリモコン端末

もともと生活お役立ちガジェットを好む性分だったが、育児を始めてからはもう時間と安らぎを買っているといっても過言ではないくらいに取り入れ方が積極的になった。

なにせ今日びベビーモニターは5,000円以下でも買えるし、電動鼻水吸い機などは手動時代を想像すらできないほど便利だし。鼻水がズリズリ取れるのはむしろこちらが気持ちよくなってくるくらいなのだから導入しないわけにはいかない。

最適化のため、怒涛の「まずは買ってみる」

モノで生活をスムーズにする日々はトライ&エラーの繰り返しによって少しずつ築かれていった。

私たちはとにかく購入し、自分たちの手で試しまくった。世の中には清濁あふれんばかりの情報が流れていて面喰らうが、快適な生活を勝ち取るべく「買ってよかったもの2018」と検索して生きたレビューの宝庫、著名ママアカウントのレコメンドなどを検索してはひたすらショッピングカートにブチ込み、届いてから「さて」と実用の検討を始めた。

この瞬発力は、長きにわたるヲタ活動を通じて課金への行動が早い妻の影響が大きい。それに最近は大体のものが商品名を検索した次の画面で購入できたりワンタップで決済までいってくれたりする。

仮にもし「これは違う」と思っても、商品名と状態だけ正しく書き平均落札価格でフリマアプリに出品すれば、あまり時間をかけずに手離れしていくケースがほとんど。お試し代くらいの出費程度で済む。実物をひと目見た翌日には再梱包されて別宅へ発送されていったものだってある。

採用見送りとなったもののひとつである宅配食材サービスは、「うちは24時間スーパー近いから利用しなくてもいいや」という結論を出すまでに5社以上お試しローテしたことで日々さまざまな料理を楽しめた。準備過程から楽しいのもまた、フェスの魅力だ。

その一方で、最適化に最適化を重ねて暮らすことについて、日常のささやかな手間暇の喜びや情緒が損なわれるといったような疑問が生じないわけではない。しかし子供が生まれてからの生活は24時間耐久イベントが延々と続いているようなもの。立ち止まって考えるより、子供を楽しませつつ我々の健康を保ちながら物事をやり抜くことの方が重要だった。

そう、工夫で日常を彩って万事解決というのはあり得なかった。

電化製品やテクノロジーじゃどうしようもないことがフェス的生活には盛り沢山で、互いに「パートナーのコンテンツ力は絶大」と確信しているような夫婦ですら現場が荒れることは少なくないのだ。

パートナーシップ崩壊の危機を支えた一枚のエクセル

「付き合いたてのカップルがフェスに行くのは危険だ」という教訓がある。野外で行われることの多い、都心に比べて快適さの劣るエクストリーム環境での長時間拘束は、わずかな価値観のズレなどを大きな亀裂に広げてくれる、というものだ。実際にフェス中そういう末路を辿った若者の姿を何度か見たし、自分も経験済みだ。

過酷な環境はパートナーシップが大いに揺さぶられる。自分たちにとってそれまで経験したことのなかった育児生活はフェスの非日常空間そのもので、険悪な空気で過ごす日々はたびたび発生した。

下手をやると生後まもない命に危険が迫る。そんな状況の、模範解答なき育児。みんな違ってみんないいせいでうちもユニークな育ち方をしてくれて、答えを求めてググってもよく分からないものしかヒットしないこともある。それは眠れないでいる妻と日中仕事が地獄期間中の夫ではとうてい受け止めきれなかった。

「おれなりに仕事しながら家事育児にコミットしているのになんなん」
「いや全然おざなりじゃん、私は全然自分のことする時間もない」

という熾烈な不満のモッシュ。Twitterで育児アカウントの女性による「夫が何もしない」ディスは散々見てきたし、少なくともそうならないくらいにはがんばろうなんて思ってきた自分ですらこの言われようである。

仕事にも気を抜けず地獄な状況だった2018年秋。正直「これ続いたらもうダメかもしれんな……」と諦めかけたそのとき、妻がこさえたのはエクセルファイルだった。

タイムテーブルでようやく見えた夫のボリューム

表に書かれていたのは、1日の家事育児を俯瞰した、まさに生活というフェスのタイムテーブル。「家事」「育児」2つのステージで、それぞれ朝から晩までタスクの一つひとつが抜けもれなく羅列されていた。

なるほど確かに「やれている」と思ったはずの自分の家事や育児は、ほんの一部でしかないことに気付かされる。その上で、週末などで部分的ワンオペを担当したときの「うわ!? 意外とこいつ動くな!」という子供の挙動にヒーヒー言わされた記憶も蘇ってくる。ああ、これが彼女の過ごす日常か。おぼろげながら、彼女の言い分が見えてきた。

タイムテーブル

家事列と育児列でそれぞれどちらがやるかを決める

この作業を通じて我々の生活は可視化された。とりあえず自分の担っているタスクの範囲があまりにも一部だったので、タイムテーブルの組み直しは不可避だった。

こんな気持ちで進行表を眺めるフェスはないな……と気恥ずかしくなりつつ表を更新。ただし、その裏にある仕事という舞台の存在についても改めて説明した。以後、互いの理解は深まり、自分の専任タスクだった子供の入浴は、仕事状況に応じて「替わろうか?」とLINEしてくれる機会が増えた。

例のエクセルはGoogleアカウント上のスプレッドシートに場所を移し、いつでもどこからでも見られるようにしている。時々ないがしろにして怒られたりもするので、基本に立ち返る場所としてうまく機能させていきたい。

なんといっても体は資本

そんなハードコアな秋を乗り越え、2019年の春も近い。私たちはその後海外旅行などにも出たし、あの頃からさらに成長して行動や感情の幅を広げた息子の成長を「かわいいっすなあ……」と日々しみじみ思いながら暮らしている。

あと「結局は自分自身の健康が重要だよね」ということも痛感している。世の全ては体調がバグってたら全然だめ。ヘッドライナー(主に音楽フェスティバルなどで目玉となるアーティストのこと)を最前列で観たいがために朝イチから場所取りをしていても消耗するだけだし、寝不足&休憩なしのイベント参加は思わぬ障害にイライラさせられて濁った思い出になりがちである。

私生活フェスでも同じで、実際にこれまで起こった喧嘩の原因を振り返ってみたところ、おれたちはとにかく都度疲れていた。

だから体力を含めた形で余裕を持つことが重要だ。大胆な行動計画を立てつつも必ず自分の体に一度相談するとか、事前準備リストに「体力温存(あるいは十分な睡眠)」を明記しておいた方がよい。

この春から子供は保育園というステージに出演し、育休を終えた妻は職場での活動再開を果たす。おれの公私、妻の公私、そして家事育児……私生活フェスの“タイムテーブル”には大幅なレイアウト変更やタスク再分配が行われるだろう。スケールが広がる一方の2019年ではあるが、「今年も最高の夏にしような!」という気持ちで新生活の祭りに立ち向かっていきたい所存だ。

著者:本人 (id:biftech)

本人

都内在住の30代男性。平日にサラリーマンをしつつ、さまざまなライブやフェスに足を運んで記録するインターネットユーザーとしても活動している。現在cakesにて育児実況「こうしておれは父になる(のか)」連載中。
Blog:グッドジョブ本人/Twitter:@biftech

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次回の更新は、2019年3月27日(水)の予定です。

編集/はてな編集部