悩んだり疲れたりしている人に観てほしい。「心が前向きになれるドラマ」5作品

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仕事で悩んだり、プライベートなことで迷いがあったり。そんなとき、気持ちを軽やかにさせてくれるものがあれば、きっと救いになるはず。今回は、テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がけるライターの横川良明さんに、「心が前向きになれるテレビドラマ」を教えていただきました。

どうも、ライターの横川良明と申します。今日は、テレビドラマのことを書きます。

突然ですが、思うんです。疲れていない大人なんているのだろうか、と。

僕たちを取り巻く世界は雑多で、慌ただしくて、その流れに取り残されないように一生懸命ジタバタする僕は、下手くそな平泳ぎをしているみたいで、泳いでいるんだか溺れているんだか全然分からない。それでも水をかくことをやめてしまったら、たちまちずぶずぶと沈んでしまうから、必死になって足をばたつかせている。

僕にとって生きるとはつまりそういうことで。ではテレビドラマとはどんな存在かと言えば、上手に息継ぎもできない暮らしのなかで、ふっと力を抜ける場所。泳ぐのをやめて、ぷかぷかと夜の海に浮かんで、何も考えず、ただ目を閉じる、月光浴みたいな時間です。

別にドラマを見たからって今抱えている問題が解決するわけじゃない。でも、カレンダーをめくるみたいに何か新しい気持ちになれたり、自分のなかにまだこんな感情が残っていたんだってびっくりするくらいときめいたり。確かにそこには、とげとげになった心をやわらかくして、ちょっとだけ明日を夢見るような気持ちで眠りにつける効能があるのです。

今回は、そんな心が前向きになれるドラマを5本紹介します。

※ 編集部注:以下には、作品内容に触れる情報が含まれています

【1】一歩踏み出す勇気を与えてくれる 『恋ノチカラ』(2002年)

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『恋ノチカラ』(2002年)

このまま何となく年をとっていくのだろうか。そう考えると不安だけど、だからと言って何かを変える勇気は湧いてこない。30代を迎えてから、特にそう感じることが増えてきた気がします。

そんな揺れ惑う大人の恋と仕事の日々を描いたのが、この『恋ノチカラ』です。

どうしてこんなにも『恋ノチカラ』に心をギュッとつかまれるのか。ひとつは、大切な仲間たちと一生懸命仕事に取り組む楽しさを教えてくれるから。

売れっ子クリエイター・貫井功太郎(堤真一)に引き抜かれた主人公・本宮籐子(深津絵里)。ところが、何とそのヘッドハンティングはまさかの人違い。無理矢理会社(貫井企画)に居座ることに決めた籐子ですが、戦力外の籐子に対し最初は貫井も冷たい態度。それが、共に仕事をしていくにつれ、徐々に距離が近づいていきます。

憎まれ口を叩き合うも、やがて籐子の存在は貫井にとってかけがえのないものに。自分の居場所はここにあるんだ。その喜びが、籐子の毎日をキラキラと塗り替えていくのです。

冬の明け方、凍える身を温めようとジャンプしながら近所のベーグル屋の開店を待ったり。事務所の屋上で花火をしたり。貫井企画の面々は大人なんだけど、どこか子どもみたいで。放送当時、まだ高校生だった僕は、こんなふうに大人になっても青春みたいな時間を過ごせるんだとワクワクしたものでした。今でも入社したい会社ナンバーワンは、貫井企画です。

そしてもうひとつの魅力は、何と言っても籐子と貫井のもどかしい恋模様。自分の恋心に蓋をして、貫井の前で明るく振る舞う籐子のいじらしさに胸が締めつけられっぱなし。そして、そんな籐子の気持ちにまるで気づかない貫井の鈍感さにじれったくなりながら画面にツッコミを入れるまでが、古き良きラブコメディのフルコース。終盤は、もうときめきバロメーターがリミッターを振り切り過ぎて喉から変な声が出る始末です。

「この世に生まれて30年と6カ月19日。もう恋をすることなんてないだろうと思っていた」

そんな籐子のモノローグから始まるこのドラマが教えてくれたのは、恋するせつなさと喜びでした。誰だって傷つくのは怖い。もう恋なんてしないと自分からとっとと店じまいをしてしまった方が、ずっと楽です。でもきっと恋をしたから見える世界がある。ついつい無傷の道ばかりを選びがちな大人たちに、一歩踏み出す勇気を『恋ノチカラ』は与えてくれるのです。

【2】人生の再出発をゆるやかに描く『ランデヴー』(1998年)

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『ランデヴー』(1998年)

誰だって自分の人生から逃げ出したくなるときはある。全てを放り出して、誰も自分を知らない場所で人生をやり直せたら。

そんな「ここではないどこか」を求める大人のためのファンタジーと言えるのが、この『ランデヴー』です。

ある出来事をきっかけに、夫・誠治(吹越満)への不満が頂点に達した主婦・田所朝子(田中美佐子)は、貯金を全額下ろしタクシーに飛び乗ります。行き先は、「とにかくどこか知らない街」。そう告げた朝子がたどり着いたのは、活気と猥雑さが入り混じる川沿いの無国籍都市でした。

そこで朝子は、屋形船を切り盛りする青年・岩田守(柏原崇)に恋をします。でもそれは、守の借金を返済する代わりに、そのお金で守を買う「契約恋愛」。デートは1回で3万円。期限はひと夏、100万円を消化しきるまで。いわば、人生の緊急避難先で見つけたかりそめの恋です。

突拍子もない朝子の申し出に、てっきりカラダが目的だと思い込み、疎ましそうな態度をとる守。けれど、朝子が望んでいたのはセックスではありませんでした。映画館でひとつのポップコーンをふたりで分けたり、ふいに手がふれてドキッとしたり。そういう普通の恋が、朝子はしたかった。

何年ぶりかの恋を通じて、愛のない夫婦生活ですっかり失ってしまった伸びやかさや愛らしさを取り戻していく朝子に、見ているこちらもつい応援したい気持ちにさせられます。

何かから逃げたくなることは、長い人生、きっと誰にでもある。それに対して、「逃げてもいいんだよ」と優しく肩を叩くこと自体は、そんなに難しいことではありません。

難しいのは、逃げた後にどうやってもう一度、自分の人生と向き合うか。その答えを自分で出すこと。夫を捨て、「ここではないどこか」に逃げ込んだ朝子が、久しぶりの恋を経験し、どんな人生の決断をくだすのか。このドラマは決して過剰なメッセージの押しつけをせず、人生の再出発をゆるやかなタッチで描きます。だからこそ、ラストシーンの朝子の姿がじんわり胸に沁みるのです。

【3】お仕事ドラマの名作! 『重版出来!』(2016年)

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『重版出来!』(2016年)

「自分の仕事は好きですか?」そう聞かれたとき、胸を張って「好きです」と答えられる人はどれくらいいるのでしょうか。

もちろん仕事が好きじゃなきゃダメなんてことはありません。でもきっと好きになれた方が仕事は楽しい。そして、「別に仕事なんて好きじゃない」と言っている人の中にも、本当はもっと自分の仕事を好きになりたいと思っている人はいるはず。

そんな仕事に迷える全ての人たちに熱いエールを届けてくれるドラマと言えば、『重版出来!』。コミック誌『週刊バイブス』編集部で働く人々の姿を描いた正統派お仕事ドラマですが、中でも今回は、営業マン・小泉純(坂口健太郎)の成長を描いた第2話を強くオススメしたいです。

もともと編集者志望だったはずが意に沿わぬ営業部にまわされ、死んだような顔でただ仕事をこなしていた小泉。そんな小泉が、情熱なら誰にも負けない主人公・黒沢心(黒木華)とコンビを組んだところから大きく変わりはじめます。

最初はキラキラとした目で仕事に取り組む黒沢に引き気味の小泉。「頑張りましょう」と連呼する黒沢に、「頑張れって言葉、嫌いなんだよね」と否定的な態度をとります。それでも、体当たりで書店に飛び込み、信頼を獲得していく黒沢に感化され、小泉の表情にも徐々に変化が。

特に秀逸なのが、書店まわりのシーンです。自分が営業したコミックのために、書店の人たちが特設コーナーをつくってくれた。その特設コーナーを見て、担当の編集者も漫画家も泣いて喜んでくれた。自分の仕事なんて何の面白みもないと思っていた小泉は、そこで仕事の本質に気づくのです。本気で頑張れば、人の心は動くんだと。仕事をつまらなくしていたのは、他でもない自分自身だったのです。

人をうらやんでいるうちは何も変わらない。「これが自分の仕事なんだ」と胸を張れたとき、人は変われる。そんな小泉の気づきは、きっと仕事に悩む多くの人の心に突き刺さるはず。

自分の仕事が好きになれない。頑張りたいのに頑張れない。そんな人こそ、『重版出来!』を見てほしい。きっと見終わった後は目線をくいっと上げて、前に進んでいける。そんな優しくて力強いパワーが、このドラマにはつまっています。

【4】それぞれの人生を肯定する。『すいか』(2003年)

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『すいか』(2003年)


もし人生で言われてうれしい言葉ランキングがあるとしたら、僕はそのベスト3に「いていいんだよ」という言葉が入ります。自分はいったい誰から必要とされているのか。いつも心は不安でいっぱいです。だからこそ、他者から分かりやすく許可や承諾をもらえるだけで、少しは気持ちが強く持てる。それくらい、人って(少なくとも僕は)弱くて寂しい生き物なんです。

この『すいか』が放送当時から16年たった今も心に残っているのは、そんなふうに見る人の人生を優しく肯定してくれたから。

平凡で地味な主人公・早川基子(小林聡美)は一念発起し、実家を離れ、賄い付き下宿・ハピネス三茶で新生活を始めます。そこで出会った住民たちとの日々を通じて、人生のいとおしさや日常の尊さを再発見していくわけですが、決してこのドラマは押しつけがましく人の背中を押したりしません。

なぜなら、前を向くことが必ずしも正義ではないし、後ろを向いていたからって誰かに責められることでもないから。人にはそれぞれの人生があって、それは誰かに干渉されたり、ましてや否定されるものではないのです。

あなたはあなたのままでいい。そんなメッセージが集約されているのが、冒頭で挙げた「いていいんだよ」の台詞です。

ハピネス三茶に下宿する売れない漫画家・亀山絆(ともさかりえ)の全財産が83円と聞いて目を丸くする基子。そんな基子に、同じく下宿仲間の大学教授・崎谷夏子(浅丘ルリ子)はこう説きます。いろんな人がいていいのだ、と。その言葉に胸を衝かれた基子は、夏子に聞き返します。

「私みたいなのも、いていいんですかね」

基子の問いに、夏子は短くこう答えます。

「いてよし」

この夏子の4文字に、『すいか』というドラマの本質がこめられている気がします。

全10話を通じて、決して基子自身に大きな変化が起きるわけではありません。けれど、凡庸な自分の人生をこれが私なんだと受け入れて前に進む基子に、ささやかな希望をもらいました。

しがらみだらけの日常に呼吸困難になっている人や、日々に漠然とした不安を抱えている人にこそ見てほしい珠玉の名作。見る前と後で、大きく何かが変わることはないかもしれません。でもきっと心のどこかが今までよりほんの少しやわらかくなっている。『すいか』は、そんなドラマです。

【5】まっすぐな最高の青春! 『WATER BOYS』(2003年)

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『WATER BOYS』(2003年)


甲子園に箱根駅伝。なぜいつも若者たちの躍動は、僕たちのまぶたを熱くさせるのでしょう。きっとそこにはもう自分が失ってしまった、そして二度と手に入れることのない何かがあるから。一生懸命に汗を流し、心の底から泣き笑う彼らの姿に、僕たちは特別なエネルギーをもらうのです。

そんな最高の青春を見せてくれるのが、ドラマ『WATER BOYS』。「男のシンクロ」という新しいエンターテイメントを切り開いた映画『ウォーターボーイズ』の2年後を舞台にした作品です。

『WATER BOYS』のいいところは、何と言っても10代の男の子のまっすぐさとおバカさ加減がいい具合にハイブリッドしているところ。コントチックな笑いを重ねながら、シンクロだけじゃない男子高生の日常をコミカルに描いていきます。

その上で10代らしいまっすぐさも気持ちよく描けているので、毎回、余韻がとっても爽快。主人公の進藤勘九郎(山田孝之)をはじめ、シンクロボーイズはみんな自分のことよりも誰かのことに一生懸命。打算も損得勘定も一切なし。今、自分たちがしなければならないことは何なのか。シンプルにそれだけを考えて突き進みます。

ドラマといえばそれまで。でも、少なくとも自分はもう彼らのようにただまっすぐには生きられない。そう噛みしめるたびに、ちょっと胸にざわつくものを感じながらも、自分にはないものを持った彼らのことをますます応援したくなるのです。

放送当時は2003年。時代的にはもう高校生でも携帯電話を持っているのが普通でしたが、このドラマに携帯電話は一切登場しません。誰かに会いたいと思ったらLINEやDMを送るわけでもなく、全力で自転車を飛ばす。そんな清々しさに、自分の青春時代が甦るのです。

クライマックスのシンクロシーンは完全吹き替えなしのガチ演技。最後に映し出された彼らの涙は、きっと演技を超えた本物の涙。その純粋さに、自分もこんなふうにまっすぐにひとつのことに打ち込んでみたいと想いを新たにさせられました。

勘九郎たちが教えてくれるのは、何があっても諦めない心。元気がないときほど、シンクロ高校生たちの頑張りを見て、どんな困難にも負けないパワーをチャージしたいものです。

* * *

息抜きするのがあんまり得意じゃない現代人。特に変化の激しい春はつい気張り過ぎて、いつも以上に疲れを抱え込んでしまいがち。だからこそ、素敵なドラマという名の月光浴を。物語から溢れる特別な力を浴びれば、しぼんでいた心も潤い、前向きな気持ちで明日を迎えられるはずです。

著者:横川良明

横川さん

1983年生まれ。大阪府出身。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がける。男性俳優インタビュー集『役者たちの現在地』が発売中。
Twitter:@fudge_2002

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次回の更新は、2019年3月20日(水)の予定です。

編集/はてな編集部