妊娠が判明したとき、喜びとともに「仕事」との両立で不安を覚える方は少なくないはず。特に安定期に入るまでの「妊娠初期」は、「無事にお腹の中の子供が育つのだろうか」という心配がつきまとうとともに、職場にいつ妊娠を報告するか悩んだり、つわり(悪阻)などの身体的変化で業務に支障をきたしたりと、仕事の面でも悩みの種はつきないかと思います。
今回は、妊娠出産を経て仕事に復帰した3人の先輩による座談会を実施。妊娠初期に体調や仕事でどのような悩みを抱いていたかや、つらいつわりへの対処、職場への報告時期とその方法についてなど、さまざまな角度から「妊娠初期と仕事」について話を伺いました。
<<参加者プロフィール>>
※取材はリモートで実施しました
つわりの症状は人それぞれ。「何もできない」日も
西口さん(以下、西口) 私は子どもが好きなので、ずっと「いつかは欲しいなあ」という気持ちでいました。結婚式を挙げた3カ後に妊娠が発覚したのですが、そんなにすぐ授かれるものじゃないんだろうなという考えが頭の片隅にあったので、自分が想像していたタイミングより早くてびっくりしました。
山田さん(以下、山田) いつかは欲しいと思っていても、実際に「いつ産むか」というのは想像しにくいですよね。私も、20代は妊娠・出産についてはぼんやりとしか考えていなくて……。30歳を過ぎてから「このままでいいのかな?」と、パートナーと話し合いました。
高木さん(以下、高木) うちは夫婦ともに旅行が好きなこともあり「結婚してしばらくは2人の時間を楽しもう!」という方針でした。国内外に出かけて存分に楽しんで、3年ほどたった頃に「家族がもう一人いてもいいよね」という雰囲気になりました。妊娠が分かったときはうれしかったですね。
高木 ありましたね。子どもを望むようになった当時は出版社に勤めていたんですが、毎日激務でパートナーとの時間すらとれなくて。「この生活を変えないと子どもはできない」と一念発起して、Webメディアに転職しました。職場も育児しながら働く女性が多いところを選んで。実は産後も、ほぼ同じ仕事内容でより家に近い職場に転職していて。
西口 ええ!すごい! 私の場合は、うれしかった反面、驚きと焦りも少しありました。というのも、妊娠したのが今の会社に入社して1年もたっていない頃で。ちょうど産休に入るタイミングあたりで大きなリリースも控えていて「どうしようか……」と。
山田 いざ妊娠すると「今まで通りに働けるのか」という不安が出てきますよね。仕事をしながらだと、なかなか「ここがベスト!」というタイミングに合わせるのは難しいです。
高木 私は妊娠3カ月ごろから始まって3カ月ほど、眠気と匂いつわりがありました。急にそれまで気にならなかった匂いに敏感になって、つらかったです。特に、通勤電車での人の匂いが……。マスクをしてどうにか乗り切っていました。
西口 匂いつわりは、妊娠してみないと分からないつらさですよね。私は妊娠2カ月ごろからつわりが始まったんですが、胃がもやもやする感じが1カ月〜1カ月半ほど続きました。おそらく一般的には「短くて軽い」方だったのと、職場では気を張っていたからか仕事をしているときはそこまでひどくなかったんです。でもその反動で、家に帰ってきたら気が緩んで何もできないという生活でした。
山田 私も、仕事以外は本当に何もできない期間がありました。つわりは妊娠2カ月ごろから始まりましたが、眠気が強かったり、気持ちが悪かったり、頭が痛かったり……と、日替わりでセットが違っていて。最初の頃は「これまで通りに家事も仕事もしよう」と無理してしまっていました。
高木 目の前の仕事をこなすのと、自分の体を守ることだけで精一杯ですよね。実は私、妊娠3カ月目に大量に不正出血してしまったんです。会社を休んですぐ病院へ行ったら「切迫早産気味ではあるが子どもは大丈夫」と言われ、何が起こるか分からないんだなあと一気に不安になりました。
その後はリモート勤務をメインにして、産休も少し早めに入りました。体調が悪いときは無理せず、とにかく寝るのが一番だと思います。
山田 本当にそうだと思います。妊娠初期は「安定期に入ればゴール」という気でいましたが、安定期に入っても頭痛など何かしらの不調が続いていましたし、臨月に近付くに連れお腹の圧迫感も増していって、妊娠時の体調不良って「いつスタートでいつ終わり」というものではないんだなと実感しましたね。
職場への妊娠報告を「初期」に済ませた理由
高木 私は妊娠2カ月の頃、一緒に仕事をしていたチームメンバー3人に報告しました。全体への報告は、安定期に入った5カ月ごろに。
山田 私は病院で妊娠が確定して母子手帳をもらったタイミングで、上司と人事に報告しました。妊娠7~8週くらいだったと思います。
西口 私も妊娠初期に直属の上司に報告して、その後は段階を踏んで、人によって報告の時期をばらけさせました。妊娠初期は流産などの確率が高く、今後どうなるか分からないという不安があったので、話が広がり過ぎないよう、少しずつ手順を踏んでよかったなと思います。
山田 あまり大きい会社ではないので人事や上司と距離が近く、「もしそういうこと(妊娠)があれば、早めに教えてほしい」と言われていたのは大きかったと思います。でも、実際にいつ報告するのがいいのかは悩みましたし、ネットでたくさん検索しました(笑)
一同 分かる……!
山田 中には、流産などのリスクが高い妊娠初期に報告するのは非常識だと書いてあるような記事もあったり……。でも、何かあったときにこそ職場に迷惑をかけてしまうと思って、初期の報告を決断しました。ちょうど別の部署に私より少し前に妊娠を報告した同僚がいたので「いつ言った?誰から?どうやって?」など、いろいろ相談にのってもらいました。
高木 妊娠を報告しやすい雰囲気は大事ですよね。私も初期に報告した3人は全員出産経験者で、普段から子どもにまつわる話を聞いていたから、報告しやすかったです。私の場合は報告を済ませたあとにさっき話した出血トラブルが起きて、妊娠を打ち明けていて本当によかったと思いました。
西口 私も、初期の報告にためらいを感じなかったわけではないので、人事から「もちろん内密にするので」と言われたときは心強かったです。
今の会社は妊娠中の休みやリモートの制度が整っているので、早めに報告したことでそれらが使えるというメリットもありました。あとは、上司が妊娠報告後すぐに今後の仕事について話す機会を設けてくれたので「これは必ず任せたい」「ここまではできそうか?」など、ひとつひとつの案件について綿密に話せたり。おかげで、産休に入るまでの仕事の進め方について早い段階でイメージが持てましたね。
デリケートな妊娠中、同僚との些細な雑談が息抜きに
西口 どこまで妊娠をおおっぴらにするか悩み、「察してくれたらいいな」という淡い期待を込めてマタニティマークを着けて出社していたので、気が付いた同僚たちから声をかけてもらえたのはうれしかったですね。「体は大丈夫?」とか「休憩していいよ」とか些細な声かけが助かりました。
山田 うちの会社は週1回30分、何でもいいから話をするという定例会があるのですが、この雑談の時間がとっても助かりました。子どもがいる方たちから子育ての話を聞けたし、気分がほぐれました。
高木 私も育児中の先輩から「子どもが産まれると自由な時間がなくなるから、お腹にいるうちにめいっぱい楽しんだ方がいいよ」って。そういうプライベートな面でのアドバイスをもらえたことで「残りの妊娠生活を楽しもう」という気持ちになりましたね。
高木 そうですね、私もフォローする側になったら雑談や声かけを積極的にしていきたいです。「つわりのとき、梅干しがよかったよ~」みたいな他愛のない話が、ホッとするんですよ。
西口 あとは、匂いに気をつけるとか、妊娠前は気付かなかった小さなことからちょっとずつ気にしていきたいですね。
山田 実は私、産休中に予定日を過ぎても子どもが産まれなくて焦っていたんです。周りは楽しみにしてくれているから「まだ〜?」と聞いてきてくれるんですが、それが余計につらくて。そんな時、職場の方が「本人が一番ヤキモキしていると思うから、そっとしてあげよう」と言ってくれていたと知って、本当にありがたかったですね。妊娠中は気持ちが敏感になりがちなので、空気や距離を感じ取って、適度に自然体でフォローできたらと思います。
キャリアを「諦める」ではなく「ずらす」という考え方
山田 私はもともと「妊娠・出産後も今まで通りやりたい」という気持ちが強かったんです。でも、妊娠中は不調続きでコンロトール不能なことが多くて、出産後もコントロールできないことが多いのでは……と考えるようになりました。いくら想像して悩んだところで答えは出ないので、途中からキャリアについて考えることを放棄していました(笑)
高木 妊娠したあとは、なるようにしかならないですよね。私もWebメディアでの仕事を始めて、新しいことにチャレンジしよう! デザインの勉強をしてみよう! と思っていた直後に妊娠が判明したんです。妊娠したってできるでしょと淡い期待があったんですが、つわりがつらくて仕事しているだけでいっぱいいっぱいで。今はキャリアアップなんて無理なのでいったん置いておこう、まず産まれてから考え直そうと自分に言い聞かせました。
西口 私の場合は妊娠中はわりと楽観的で、産休に入る直前まで「フルタイムで復帰します!」なんて大口を叩いていたんですが、甘かった(笑)。産まれてみたらとにかく子どもがかわいくて。しばらくは子どもを優先したいなと思い、復帰後は時短勤務を選択しました。
西口 そうですね「働くこと」に対する捉え方が変わったと思います。出産前のような成果を出していくのは難しくても、チームと丁寧なコミュニケーションをとるなど、今できることを守り抜こうと思っています。とはいえ育児と仕事のバランスはやっぱり難しいですし、キャリアについては常に悩むところですね。
高木 私も、優先順位が一にも二にも仕事だった妊娠前から、産後は「子ども、自分、仕事」の順になりました。妊娠中は「産後、自分は働いていけるのかな」と常に不安でしたし、今も大変ですが「働きながら子育てする」という経験ができて幸せだとも思うんですよね。妊娠や出産でキャリアを「諦める」んじゃなくて「時期をずらす」という考え方に切り替えてからは、気持ちが楽になりました。
一同 いい言葉!
山田 私の場合は、チームや会社、家族の理解が大きくて、今の環境に恵まれているなあといつも思います。復帰してすぐの頃は仕事はもちろん、家事も育児も何でもかんでも自分でやろうと思っていたけれど、周りのサポートのおかげで「できる範囲でやっていこう」と上手に力を抜けるようになりました。
西口 「できる範囲でやる」は大事。全部自分で完璧にこなす必要なんかないし、家なんて死なない程度に片付いていればオーケーで。うまくバランスを取っていけるといいなと思います。
※座談会参加者のプロフィールは、取材時点(2020年8月)のものです