(写真左から)小沢あやさん、桜口アサミさん、いまがわさん
子どもは……欲しいといえば欲しい。でも、今のところは「分からない」。
「母になること」に想像を巡らせてみても、目の前の仕事のようにリアルじゃない――とはいえ時間は待ってくれず、悩める時間には限りがあります。妊娠・出産は自分で完全にコントロールできるものではなく、難しい問題です。
仮に「子どもを産んでも働き続けたい」と思ったとしても、さまざまな情報を目にし「仕事と育児の両立って大変そう、不安」とネガティブな気持ちになってしまうことも少なくありません。
そこで、仕事で第一線を走りながら育児に奮闘している3人の座談会を実施。それぞれ悩みを抱えながらも出産をした彼女たち。いま思うこと、仕事との両立、パートナーとの関係までホンネで語っていただきました。
<<参加者プロフィール>>
桜口アサミさん(37歳)
小沢あやさん(31歳)
いまがわさん(29歳)
「いつか欲しい」とは思っていたけど、腹をくくったのは妊娠してから
桜口(敬称略、以下同) 28歳後半までは「いつか欲しい」くらいの感じでした。でも、友人に「子どもって、欲しいと思った時にできるとは限らないよ」と言われたときにハッとしたんです。不妊治療をするにしても早い方がいいだろう、とまずは避妊をやめてみることにしたら、第一子を妊娠して。ここで腹をくくるしかないとなりました。
小沢 私も、「いつか欲しい」とは思っていましたが、タイミングは考えていなかったですね。残業・休日出勤が多い業界からIT企業へ転職したときに、「ここなら育児しながら働けるかも」と思ったことは覚えています。IT企業は業務ツールも充実していて、長時間オフィスにいなくても、リモートでできる仕事が多いですから。
小沢 そうですね。産みどきは自分がコントロールできるものではないけれど、「子どもを考えるのは、仕事が一区切りついてからかな」と思っていました。自分のキャリアにまったく自信がなかったので、育児で身動きがとれなくなるのが本当に怖かったんです。
いまがわ お二人とも、しっかり考えてらっしゃるんですね。私は、漠然と「31歳くらいで出産するのかな」……みたいな、ずっとぼんやりしたままで、妊娠をリアルに捉えられないままでした。なので、27歳で妊娠が発覚したのは想定外で。友人の中でも妊娠・出産が早い方だったので、できてから覚悟したのが正直なところです。
桜口 出産前はどうなるか分からなさ過ぎて、不安だらけでしたね。というのも私は、第一子の出産が単身赴任中のときだったんです。「無事に産めるのか」というレベルから、どうやって仕事と両立させていこうかということまで、ありとあらゆる不安を抱えていました。結局、会社を退職して関西へ戻り、30歳で第一子を出産しました。
小沢 私も出産前は、とても不安でした。雑誌やWebメディアのニュースを読んでいると、「小1の壁」など、育児にまつわるネガティブな記事ばかりが目について。「子どもを育てるには、何枚の壁をブチ壊さないといけないんだ?!」って、考えこんじゃいましたね。
いまがわ 壁、ビビりますよね。赤ちゃんかわいい! という記事より、ネガティブな記事の方が記憶に残るので、子どもを持つことに対する漠然とした不安はありました。
小沢 保活(保育園に入るための活動)の壁もそう。「認可外保育施設に預けることになったら、いくら必要なんだろう?」と、経済的な不安もありましたね。実際に産んでみると「意外となんとかなるじゃん!」と、いい意味でのギャップがありました。
いまがわ 私は出産後の方が不安が大きかったかも。というのも、保活に本当に苦労して……。認可・認可外含めてさまざまな保育園に申し込んだのですが、全滅してしまったんです。
小沢 東京の保育園事情は、本当に深刻です。わが家は認可外も含めて、広範囲で片っ端から申し込みました。結局、入園が決まった園の近くに引っ越しました。
桜口 地域によって、だいぶ変わりますよね。「小1の壁」に関しては、うちの場合は地域性によってだいぶ和らいだ感があります。いま住んでいる区では全ての小学校に学童があって、19時まで預かってくれるんです。
仕事のストレスは最小限に抑え、精神的栄養は子どもに残す
小沢 「子どもが産まれたから仕事をセーブするの?」と聞かれるんですが、違うんです。むしろ「子どもができたから、もっと稼がねば!」と働き続ける気満々。ただ、育休が終わって復職してみると、想像以上に会社と子どもだけの生活になってしまいました。個人で受けたい仕事もたくさんあるのに、断らざるを得ないこともあって、うずうずしていたんです。
「今の働き方って、ベストなのかな?」と考えている間に会社の組織変更があり、「かける迷惑を最小限にして辞めるなら今だ!」と勢いでフリーランスになりました。今は、業務委託で複数の企業とお仕事をしています。正社員を辞めるのは怖かったけれど、この働き方もしっくりきていますね。
桜口 自分がいかに柔軟に動けるかの土台をつくるのは、大事かもしれませんね。私の場合は、会社が育児に協力的じゃなくなったら即辞めてやる、くらいの気持ちでいます。
だって、“精神的栄養”は子どもに絶対残したいじゃないですか。そう考えると仕事で1ミリもストレスを溜めたくない。ワガママかもしれませんが、嫌なことは嫌ってはっきり言います。それでクビになっても、自分で生きていこう、別の会社を選んでやろう、と思います。
小沢 育児って時間は割かれるけど、ネガティブなことばかりではないと思うんです。仕事の稼働時間も制限されるけど、一層効率よくしようと思えるし、「土日と深夜で巻き返すぞ!」みたいな、無茶な働き方もしなくなりましたね。
いまがわ 確かに、取捨選択は上手になるかもしれないですね。
桜口 仕事はしたいと思っていましたが、育児を優先したいとも考えていたので、在宅ワークできる企業にジョインしました。
ただ、40歳くらいまで在宅ワークを続けようと思っていたのですが、3人目を産んでから「そろそろチームで働きたい」と思うようになってきて。昔からインターネットが大好きだったこともあり、IT系の企業が多い東京で働きたくなったんです。ちょうど夫も東京での仕事が増えてきたので、転職と合わせて家族で引っ越すことになりました。
正解はない「妊娠報告のタイミング」
いまがわ 私は、妊娠してから産休までの間がちょっとしんどかったかも。上司には早めに伝えていましたが、妊娠したことを職場の同僚に言い出しにくかったんですよね。
いまがわ ちょうど大きなプロジェクトに関わっていて、忙しい時期に妊娠が重なってしまったので、心苦しくて知られたくなかったというのが正直なところです。運良く妊娠中も不調になることもなく働けていたので、お腹が大きくなったのもしばらく隠していましたね。お荷物扱いにされたくないというか。
小沢 妊娠を申し訳ないと思ってしまう、という気持ちは何となく分かります。
小沢 安定期に入る前でしたが、すぐ上司に報告しました。体調不良がひどかったのですが、お休みをいただくこともできました。理解してもらえたのはありがたかったですね。早めに報告した方が、会社も産休・育休中の人材配置や採用を先回りして検討できるのではないでしょうか。
いまがわ 今となってはですが、いつ体調が急変するかも分からないので、同僚にも早く報告すればよかったな。
桜口 私が第一子を出産したのは7年前ですが、全ての企業ではないにしても、出産育児の寛容度はかなり向上しているなと思います。「社員にとって働きやすい環境を考えるのは当然だよね」という雰囲気が、社会に広がっているのはいいことだなって。
小沢 世間は意外と優しいし、今後はリモートワークができる企業も増えてくるはずです。いい時代になってきている感じはありますよね。
便利サービスは積極的に活用し、育児根性論から脱却
いまがわ 協力的ではありますが、気が回るタイプではないので、家では私がプロジェクトマネージャーで、夫は外注さんとして忠実に任務を遂行してもらえるように道筋をつくるようにしています。
桜口 もはや仕事みたいな割り切りも必要ですよね。うちの夫は仕事が忙しくて、第三子を出産してから約2年半くらいワンオペ状態のような時期もありました。ただ、パパ抱っこ面談みたいなのにちゃんと来てくれたり、育児に協力的だったりと「子どもが好き」というのを知っていて、ちゃんと土台があったので、許せたんだと思います。
小沢 わが家の場合は、よく私が怒られています。夫に「Twitterより、先にお皿洗いしてよ!」と言われちゃうことも(笑)。もともとは、私が主体で家事をしていたのですが、今は逆転しましたね。つわりや体調不良で動けなくなったときに、徹底的に家事をしなかったので、その状況を見て責任感が芽生えたのかもしれません。
桜口・いまがわ 夫さん、素晴らしいです!
桜口 つまるところ夫が“やらないこと”に対してのストレスを感じちゃうときりがないですよね。逆に、夫が“やること”のストレスがないものに目を向けて、有り難みを感じた方がいいというか。極端ですけどモラハラとか暴力とか、仕事を辞めろって強制してくるとか。そこを“やられる”と、パートナーシップが破たんしますからね。“やらないこと”は、アウトソーシングで補填するという選択肢もありますし。
小沢 最近は、手ごろなサービスも充実していますもんね。家事も、すべて外注に踏み切るのは難しいけれど、スポットで利用できたらいいですよね。
UberEatsなどの出前サービスやECもどんどん便利になっていますし、デジモノもそう。ネットサービスやガジェットを効率よく使えば、育児根性論から脱却できるということも実体験から分かりました。育児自体は思い通りにいかないけれど、オペレーションは効率化できる。お金はかかるけれど、精神的安定を買う感覚でいます。頑張り過ぎて息切れするのが、一番怖いです。わが家は実家を頼れない核家族なので、割り切りも必要なのかなって。
いまがわ それが理想ですよね。
産む前から気負い過ぎない方がいい
桜口 子どもを持ってからも仕事を続けたい、という人にとっては、仕事が忙しくて一緒にいられないことに罪悪感を持ってしまうという声も耳にします。でも、自分だけで育てているんじゃなくて、学校や社会にも育ててもらえるんだよと伝えたいですね。親は、「とにかくあなたのことをめちゃくちゃ愛してる」と、しっかり伝えることが役目なんじゃないかなと。
小沢 育児中は自分の行動に制限がかかるのは事実ですが、それを恨み節みたいにはしたくないんです。そのためには、自分が自由でいる状況を創造しないとなって。子どもと私のキャリアプランは切り離して考えたいし、子どもは自分の人生の歯車ではないので。育児は思い通りにならないからこそ、「私、こんなに頑張っているのに!」と考えないようにしようと思っています。
いまがわ 出産育児で仕事のブランクを心配する人もいますが、私の場合はいざ復帰してみるとガッツリ仕事に関われたので、いい意味で裏切られました。スキルを磨く努力さえしておけば、子どもがいてもキャリアは自ずとついてくると思います。9月から海外へ移住しますが、向こうへ行っても、また仕事をしたいと思っていて。子どもがいても、新しいことに挑戦する姿勢は今後も持ち続けたいです。
桜口 私も、実際に妊娠するまでは漠然としか考えていなかったですし、出産前の方が「母であろう」とかいろいろ気負い過ぎていた感がありました。なので、心配になったり、不安になったりする気持ちも分かるんですよね。
いまがわ いざその状況になったら考える、くらいでもいいと思います。実際、私は妊娠してから今後の人生設計について考えるようになったので。
小沢 普通にOLとして働いていても転勤や異動のリスクはあるのに、なんで赤ちゃんに対してだけビビっていたんだろう? と今では思います。10ヶ月くらい気持ちを切り替える時間があって、その間にいろいろと作戦を練ることもできる。不安は尽きませんが、あんまり思い詰めず、楽な気持ちでいるのがいいかもしれませんね。
撮影/関口佳代
※座談会参加者のプロフィールは、取材時点(2018年8月)のものです