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「つんくさんの真似はできません」時代が求めるものを目指す作詞家・児玉雨子

児玉さん

今回お話を伺ったのは、作詞家の児玉雨子さん。高校3年生で作詞家として活動をスタートして以来、「モーニング娘。」「つばきファクトリー」などハロー!プロジェクトのアーティストをはじめ、今注目の女性アイドルグループの楽曲を中心に詞を提供しています。順調そのものに思えるそのキャリア。しかし、本人は「ほぼ運だけでここまできた」と語ります。若くしてデビューしたがゆえの苦悩、現在の仕事、これからのことについて迫ります。

高校生で作詞家デビューは「運がよかっただけ」

もともとは高校時代に書かれた小説がきっかけで、作詞家への道が開けたそうですね。当時は、小説家を目指されていたんですか?

児玉雨子さん(以下:児玉) いえ、その頃は特に何も目指していませんでした。実は中学・高校の頃、遅刻や休みを繰り返してばかりでした。友達にも先生にも恵まれたのに、なぜかそうしないと心のバランスが保てないというか。出席日数が進級に響きそうになったとき、何とかして内面に抱えているものを発散させなきゃと、まず漫画を描こうと思ったんです。でも、絵を描くのが億劫になっちゃって(笑)。それで小説に方針転換して、高校2年生で文学賞に小説を出しました。

そこから作詞家デビューまでは、どのような流れで?

児玉 父の知り合いに静岡朝日テレビのプロデューサーがいて、『コピンクス!』という情報番組を担当していたんです。それで、私が小説を書いているというのを聞いて、Juice=Juiceのメンバー・宮本佳林*1ちゃんが歌う番組の主題歌『カリーナノッテ』の作詞に関わってくれないかと話をいただきました。高校3年生の時です。

高校生で作詞初体験、いかがでしたか?

児玉 相当焦っていたのか、正直当時のことはあまり覚えていません(笑)。ただ、その時は何も知らなくて、勝手にメロディを変えて「これにしてください」とか、図々しいこともしてしまって……。「女子高生のワガママだからいいや」と、なあなあで許してもらえてたみたいです。

児玉さん

そこから、インディーズアイドルの楽曲作詞、さらにはハロー!プロジェクトにも作詞家として携わられるようになったとか。若くして仕事ぶりが評価されたということですよね。

児玉 いや、これは謙遜でも何でもなく運がよかっただけだと思います。あと、"女子高校生""女子大生"の肩書きにブランド的価値があったからだなって。高い下駄を履かせてもらってたなあと。

肩書きで評価されるのは、気持ちがいいものではないですよね。

児玉 若かったおかげで機会に恵まれた反面、「若いのに凄いね」と、どれだけがんばっても全部「若いのに」でまとめられてしまうのがつらかったです。それと、どれだけミスをしても「若いから」で許されてしまうことは、自分のためにはならないな、と。大学在学中にもお仕事をいただけていましたが、「早く32歳の女になりたい」って思っていました。年齢を重ねた女性って、余裕があって素敵でかっこいいじゃないですか。

就活の失敗が作詞家としての覚悟に

「女子高生」「女子大生」の下駄がなくなってからが、ある意味本当の勝負だと思っていたんですね。

児玉 そうですね。"女子大生"の肩書きが外れたことで、仕事をもらえなくなったケースもありましたけど、「ブランドで見られていた仕事ならいらないや」って。それに、ブランドに関係なく今でも続いている人や、大学卒業後に出会った人には、何かしら結果で返したいですし。まだ20代半ばですけど、社会に出てからは、否が応でも書いたものだけで判断されるようになったので嬉しかったです。ここからが頑張りどきだなと思っています。

大学卒業後はそのまま作詞家になろうと考えていたのでしょうか? 就職するという選択肢はまったくなかったですか?

児玉 ギリギリまで悩んでいました。実際、エントリーシートも3社くらい出したんですよ。でも、全部落ちてしまって。たった3社でも、「社会から拒絶された……」と妙にショックを受けてしまったんです。それなら、いまもらっている作詞の案件を頑張ろうと。

児玉さん

当時、会社員への憧れはありましたか?

児玉 お昼休みに小さい財布を持ったOLさんを見ると「いいな~」ってなります。でも、結局3社落ちただけで諦めたから、その程度だったと思います。歌詞の修正は何度でもやれるのに(笑)。

街の喫茶店には作詞のヒントが転がっている

児玉さんは、どのように作詞をされるんでしょうか? プロセスを教えてください。

児玉 レーベルごとにも違うとは思いますが、私の場合はデモテープをいただいて、曲を聴きながら〆切までに作詞するケースがほとんどです。作曲家やディレクターによっては「詞のプロットが欲しい」と要望をいただくこともあるので、その場合はプロットを書いたあとにまとめ直します。楽曲にもよりますが、早ければ制作期間は1日も掛かりません。ただ、そこから修正を加えて1カ月くらい必要なケースもあります。

1日掛からないというのは凄いですね。

児玉 デモの音源から自然と言葉が出てくる感じですかね……。ただ、バーッと書いたあとに、メインのフレーズを検索してかぶらないように気をつけています。どちらかというと書いたあとの推敲に力を入れています。

「アイドルっぽい歌にしよう」と意識して作詞されることもありますか?

児玉 あまり「アイドルだからこうしよう」とは考えないようにしていますね。年齢やイメージは多少意識しますが、「アイドル=こういう歌詞」と決めることはないです。それはアニメ方面で書くときも同じですね。あと、感覚なんですけど、例えば「恋愛系のメロディ」に「夢を追いかける系」の歌詞をつけてしまうと、ちぐはぐになってしまいます。特にアイドル好きの方って、曲をたくさん聴いているから違和感を見抜いちゃうんですよね。なので、デモテープの雰囲気から「歌詞の系統」はある程度決めています。

児玉さん

他にも、意識されていることはありますか?

児玉 「こういう内容のものが欲しい」というオーダーがあれば一応チェックしつつも、「書きたいように書く」ようにしています。昔は発注いただいた要望全てを叶えなきゃという気持ちがありましたが、そうすると、聞き手に届きづらい歌詞になることもあって。最近は発注書を斜め読みしている感じです(笑)。特にハロプロさんは長くお仕事をさせていただいてることもあり、ほぼお任せで書かせてもらっています。

作詞をする場所はどこが多いですか?

児玉 チェーンの喫茶店ですね。

個人店ではなく、「チェーン」じゃないとダメ?(笑)

児玉 ダメですね(笑)。中高生、大学生がたくさんいるような、塾や大学近くのチェーン店がいいです。そこにいる若い人たちの話に聞き耳を立てていると、歌詞のヒントになることもあるんですよ。

若者のリアルな会話が歌詞に反映される、と。

児玉 例えば、つばきファクトリーの『低温火傷』という曲の歌詞は、喫茶店にいたカップルにインスピレーションを受けて書いたんです。「この男、絶対に遊んでるよ」って心配になる男の子と一緒にいる女の子がマジで恋している顔をしていて、切なくて死にそうになって(笑)。

その男の子が来週スノボに行くって言うと、彼女は「へえ~いいね~行きたい~」ってリアクションするんですけど、明らかにスノボなんてやったことなさそうな真面目な女子だったんですよね。健気に話を合わせていて……。その時の会話と、そのやりとりから抱いた感情を反映しました。


つばきファクトリー『低温火傷』(Camellia Factory [Low-Temperature Burn])(Promotion Edit)

つんく♂さんの真似はできない! 「私らしい」歌詞を書く

ハロー!プロジェクトの方とのお仕事で印象に残っていることがあれば、教えてください。

児玉 いろんな現場の仕事をするようになって、「待って、私が初めて作詞した曲を歌ってくれた宮本佳林ちゃんって、めちゃくちゃ歌上手だったんだな……!」ということに気付きました。とにかくレコーディングが早くて、1、2回通しで歌ったらもうOKといった感じだったんですよ。いろんな方のレコーディングに参加して、「普通のレコーディングは、あんなに早く終わらないんだ」ということを知りました。決して他の方が下手なのではなく、彼女が異常にうまいんです(笑)。

ハロー!プロジェクトに所属するアイドルは皆さんパフォーマンス力が高いですよね(笑)。

児玉 ハロプロメンバーのレコーディングは、気付いたら終わっています(笑)。レコーディング現場で「歌いづらいから」とその場で歌詞を変更することって割とあるんですけど、ハロプロはあまり歌詞変更がなくて。メンバーみんな上手だから、何でも歌ってくれるんです。

児玉さん

ハロー!プロジェクトといえば、やはりつんく♂さんのイメージが強いです。ただ、一方で最近はつんく♂さん以外にさまざまなクリエイターが参加されています。その中で、児玉さんはどのように存在感を発揮したいとお考えですか?

児玉 私に求められているのは、楽曲に違うカラーを持たせることだと思っています。レジェンドであるつんく♂さんの真似はとてもできませんが、バリエーションの一つとして私を選んでいただけるのはとても光栄なことだと思っています。歌詞は「存在感を発揮したい」から書くものではないので、時代が求めているものを書きたいと思います。それが「私らしい歌詞」になれば、理想ですね。

作詞を手がけたものの中で「これは手応えがあった」と感じた楽曲はありますか?

児玉 最近だとつばきファクトリーの『今夜だけ浮かれたかった』はのびのび書けたな、と思います。デモはそこまで夏夏していなかったのに、「これは夏の曲だ! 夏じゃなきゃだめだ!」と感じた不思議な曲でした。


つばきファクトリー『今夜だけ浮かれたかった』(Camellia Factory[Only for tonight, I wanted to be playful])(Promotion Edit)

ご自身でハロプロとの相性のよさ、といったものを感じることはあるのでしょうか?

児玉 私が中高生の頃って、ちょうどAKB48グループが一番盛り上がっていた時期だったんです。その時に「僕」目線の曲が多いなという印象は持っていて。一方で、ハロプロって「私」目線の曲が昔から多いんですよ。私は一人称の歌詞を書くことが多いので、そういった面ではハロプロの曲となじみやすいのかな。ありがたいことに、すでに土壌がありました。

人生なるようにしかならないなら"ぶっつけ本番"の人生を

では最後に、これからのライフプランについて伺いたいです。

児玉 それは、まったく何も考えていないです(笑)。

おっと!それは、あえてですか?

児玉 というか、「なるようにしかならない」って常々思ってるんです。もしかしたら干されて、1カ月後に仕事がなくなっているかもしれないし。自分が何かを成し遂げたい、という気持ちもそんなにないんです。知らない誰かの代弁となる詞や、歌手が売れるきっかけになるものを少しでも多く書きたい、という方が強いです。実は、学生時代に教授から「アイドル向けの作詞家なんて浮き草仕事をしてないで、歴史に残る仕事をしなさい」って言われて……カチンときたんですよね。「今でいう『古典』は、当時の流行だぞ」って。

その反骨心が、児玉さんの原動力になっているのかもしれませんね。

児玉 はい! だから「浮き草上等! 私の浮力を見くびるなよ」っていう気概は持っているつもりです(笑)。だからこそ、場当たり主義かもしれないですけど、その時できることを全力でする、ぶっつけ本番の人生でいこうって思っています。

取材・文/末吉陽子(やじろべえ)
写真/関口佳代

お話を伺った方:児玉雨子さん

著者イメージ

1993年生まれ。2011年に情報番組『コピンクス!』(静岡朝日テレビ)の主題歌『カリーナノッテ』で作詞家デビュー。以来、ハロー!プロジェクト等のアイドルグループをはじめ、声優、アニメ・ゲーム主題歌を中心に作詞提供。2015年より「月刊Newtype」にて小説『模像系彼女しーちゃんとX人の彼』連載中。
Web:児玉雨子 – KODAMA Ameko –
Twitter:@kodamameko

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次回の更新は、2018年10月17日(水)の予定です。

編集/はてな編集部

*1:当時はハロプロエッグ(現名称:ハロプロ研修生)