メイクやスキンケアは、自分が心地よくできる範囲でやればいい──漫画家・六多いくみさん

六多いくみさんの既刊

外出自粛の生活で、仕事もテレワークにシフトする中、人と顔を合わせる機会が減り、これまでしていたメイクやスキンケアに対するモチベーションが湧かなくなってしまったという方は多いはず。「人に見せないならしなくていいかな……」「マスクで見えないから最低限にしよう」と、メイク自体をやめたり、かける時間を減らすようになった方もいるでしょう。

そんな中、『カワイイ私の作り方』などの作品で知られる元美容部員で漫画家の六多いくみさんは、「ひきこもりコスメ」と題し、家での最低限のメイクに役立つ時短アイテムや、時間があるいまだからこそ練習したいメイクテクなどをTwitterで紹介しています。

自身のライフステージが変化する中で「自分にとっては、メイクの時間は最大のご褒美だったと気付いた」という六多さん。出産を経てのメイクや美容に対する思いの変化や、おうち時間の気分転換におすすめのメイクやスキンケア、Web会議にもおすすめの時短でキレイに見せられるメイクテクなどについてお話を伺いました。

※取材はリモートで実施しました

自分にとってのメイクやスキンケアの優先順位は、人それぞれ

外出自粛が続く中で、メイクや美容に手をかけるモチベーションが湧かなくなってしまった……という方が周りに増えているのを感じます。六多さんから見て、この期間に世間のメイクや美容に対する意識が変化したように感じますか?

六多いくみさん(以下、六多)「マスクをしてるからこそ、崩れないしっかりしたメイクがしたい」という人と、逆に「マスクで隠れるから最低限のことだけすればいいや」という人に分かれている気がしますね。私はどちらかというと、マスクしてるし手を抜いちゃお、っていうタイプなんですが。

家にいる時間が増えて、メイク自体を日常的にしなくてもいい環境になった人も多いですよね。基本はすっぴんで過ごして、Web会議のある日だけはメイクをする、といったこともありそうです。そんな中で、いざメイクをしなくなったらすごく気が楽になったとか、「じゃあ自分って何のためにメイクしてたんだろう?」と考えるようになった、という声もポツポツと聞いたりします。

六多 いざメイクをしなくなってみたら、自分にとってメイクがけっこうな負荷になっていた……と気付いた方もいらっしゃると思います。でもそれって、自分にとってメイクよりも大事なことがあったんだと気付けたということですよね。自分が楽でいたり気を抜いていられる方がいいと気付けたのは、いいことなんじゃないかって個人的には思います。

例えば、朝起きたときに「スキンケアをするかしないか」っていう選択肢があったとして、化粧水くらいは付けたいっていう方もいれば、それ以上の丁寧なケアをしたい方もいるし、特にケアはせずに他のことに時間を割きたいっていう方もいる。そういう選択にいま一度向き合ってみると、「あ、自分はここまでやればいいのか」というのが見つかるんじゃないかなって。

『カワイイ私の作り方』1(日本文芸社刊)
『カワイイ私の作り方』1(日本文芸社)
メイクやスキンケアにかける労力や優先順位って、人によってばらばらですもんね。

六多 本当にばらばらで、そもそも美容に全然興味がない人もいれば、メイクはそんなにこだわらないけどネイルはいつもキレイにしていたいっていう人もいるんですよね。だから、もし自分の中で「これだけは譲れない」みたいなところがあればそこを重点的にケアしていけばいいと思いますし、なかったとしてもそれをマイナスに捉えず、自分の中の望みの純度みたいなものを高めていけばいいんじゃないかなって思います。

“快適”は人によって違うので、その人にとっての快適を探していけたらいいですよね。同じ人の中でも、日によってモチベーションってばらばらだったりもしますし。

確かに。普段は適当なのに、今週はなぜかスキンケアがすごくしたい、というタイミングが時々きたりします……。

六多 分かります! 年に何回かくるんですよね、急に美容のモチベーションが上がる日が。

育児を経験して、メイクしていない自分も褒められるようになった

六多さんご自身は、もともとはメイクや美容に疎い方だったと作品に描かれていますよね。社会人になってから美容部員さんにメイクしてもらって、自分の顔の印象がぱっと変わったのがきっかけでメイクにはまった……と。

六多 そうなんです。顔の印象もなんですが、それ以上に、メイクにはまったことでマインド面が大きく変わったなと感じます。それまでは自分がメイクなんて……と卑屈になっていた部分もあったんですが、いざメイクで自分をちょっと変えてみたら「あっ、かわいくなれるんじゃん」と気付いて、それまで踏み出せなかったことに挑戦できるようになった経験が、とても大きかったんですよ。

『カワイイ私の作り方』2(日本文芸社刊)
『カワイイ私の作り方』2(日本文芸社)

そのころすでに漫画は描いていたんですが、ちょっと停滞ぎみだったので、メイクにはまったことでようやく伝えたいものができたというか……。いま振り返るとおせっかいだなとも思うんですが、キレイになる方法を知ったら人生が楽しくなった、という経験を自分自身がしているので、やっぱりそれを漫画で伝えたいと思ったんです。

確かに六多さんの作品には、メイクを通じて見た目だけでなくマインド面でも変化していくキャラクターが登場しますよね。例えば『カワイイ私の作り方』では、「自分にはかわいげがない」とあきらめている主人公の浅黄秋が、自分が最も苦手とする“キラキラ女子”の蒼井春乃と出会い、変化していく様子が描かれています。

六多 「自分はどうせかわいくないから」という殻に閉じこもってしまうと、本当はできるはずのこともできないと思っていて。そこから一歩踏み出してみようよ、というのを伝えたかったんです。

……あ、ただ、昨年子どもが生まれて育児が始まったので、最近はその考えも自分の中で少しずつ変化してきてるんですよ。

というと?

六多 やっぱりメイクって“装飾”なので、どれだけ楽なメイク、手のかからないメイクって言っても、手間はかかるじゃないですか。メイクで変わる自分を楽しみたいけれどその余裕がないという人がたくさんいることを、やっぱり自分が育児を経験して知ったというか。

だから、これまでは変化を肯定するような作品が多かったんですけど、まずはそのままの自分をいったん受け入れる方法をどうにか模索していきたいな、みたいなことを、いまは考えています。私自身、メイクすることで自分の肯定感を上げていた部分が大きいので、時間がなくてメイクが全然できなくなったらちょっと落ち込んでしまって……。

自分はメイクを通じて変わったと思っていたけれど、やっぱりまだ自信のなさが根底にあったんだなって気付いたので。

なるほど……。現時点では、六多さんにとって「そのままの自分を受け入れる方法」ってどんな方法なんでしょうか。

六多 育児がえらい、と言いたいわけではないんですけど、いまの自分にとってはやっぱり子どもが毎日安全に暮らせるように見守るということがいちばん重要なんですよね。そんなに大切なことをいましているんだから、メイクやスキンケアが全然できなくても仕方ないし、むしろ「今日は子どもと遊ぶだけじゃなくてちょっとだけスキンケアもできた!」という気持ちに変えていきたいなと思っていて。

育児に限らず、いま自分にとって大事なこととか熱中していることに時間を注いでいる方は、他のことができなくなってしまっても、自分を責める必要はまったくないと思うんですよね。当たり前のことなんですけど……。ちょっとずつそうやって、自分を褒める癖を付けるようにしています。

最近の六多さんのメイクポーチ
最近の六多さんのメイクポーチ

年齢とともに変化した、自分にとっての「メイク・美容」という存在

話は少し変わりますが、六多さんの作品を拝読していて個人的にいちばん驚いたのが、「メイクをするときは小さな鏡ではなく、全身鏡や大きな鏡を使うといい」ということでした。確かに全身鏡を使うと、顔だけじゃなく全体のバランスが見える! すごい! と思って。

六多 私、それに気付いたのが、デパートで美容部員をしていた時だったんです。デパートってエスカレーターの横とか柱とか、いろんなところが鏡張りになってるじゃないですか。それでふと、「あれ、鏡で遠くから見るといい感じのメイクのときと、そうじゃないときがあるぞ……!?」と気付いた日があって。

小さい鏡をずっと見ていると、自分の細かいコンプレックスばっかり気になっちゃうんですよね。でも、歳を重ねてきたらもう、多少シワやシミがあったってしょうがないし、そこばっかり見ててもしょうがないなと思うようになってきて。

あんまり細かいところにこだわったり、まったくの別人になろうとしたりするよりも、自分自身の素敵なパーツを探した方がいいっていう考えの方が、同世代のメイクアップアーティストさんにも多いんですよね。

『メイクはただの魔法じゃないの テクニック』(講談社)
『メイクはただの魔法じゃないの テクニック』(講談社)
六多さんも作品の中で、あるときから「別人を目指すのではなく、自分の顔立ちや印象を生かしたメイクをしたいと感じるようになった」と書かれていましたね。そういうふうに思われるようになったのは、いつごろからなんでしょうか。

六多 30代半ばを過ぎたあたりからだと思います。そのころ、ちょうどファッション誌やコスメ雑誌を前ほど読まなくなってきて、「モデルさんは素敵だし憧れるけど、やっぱり一般の人とはかけ離れてキレイだからあんまり参考にならないな」と思うようになって……。同じころに、自分が最初にメイクを好きになったきっかけにDiorのショーがあったな、と思い出したりもして、自分に似合うものとか自分が本当に好きなものを追求していった方がいいんじゃないか、と少しずつシフトしていったんです。

30代まで続けていたメイクを変えるのって、けっこう勇気がいったんじゃないでしょうか。

六多 そうですね。メイクに限らず、ファッションも20代までは系統がけっこう今と違って、コンサバ系だったんですよ。私が美容部員をやっていたのって20代後半くらいからなんですが、そのころ周りに「コンサバが似合うね」って言われたのがうれしくて、ずっとコンサバっぽいスタイルをしていたんです。

パーソナルカラー診断とかもたぶん同じで、他人が見て「あなたにはこれが似合います」というものを一つ知っておくのはいいことだと思うんですよ。でも、それだけでは満たされなかったり、飽きてきたりしてしまう部分もあるじゃないですか。

私自身もそのくらいの年齢の時に「本当に自分が好きなメイクってなんだっけ?」「私って本当にコンサバ系のファッションが好きなんだっけ?」と考えたんです。今思えばその作業が、私には必要だったんだろうなと思います。

あらためて、いまの六多さんにとってメイクや美容に向き合う時間ってどういうものですか?

六多 いまとなっては、メイクや美容の時間って私にとって最大のご褒美だったんだな……と思います。子どもというコントロールできない存在と毎日対峙しているので、例えば「自分の時間を大事にする」みたいな記事って読むだけでイライラしちゃったりするんですよ。それができたらやってるって! と(笑)。

でも、久々に子どもが保育園に行ってくれた日はゆっくりとメイクができて……それだけで本当に楽しいなって思えたんです。



育児をする中でのメイクとの向き合い方について、Twitterで発信した内容が話題に

家にいる時間が長いからこそ、自分のためのメイクや美容で気分転換

六多さんが育児に追われる中で「たまにメイクできたときの達成感」を感じておられるように、メイクは気分転換させてくれたり、達成感をもたらしてくれる面もありますよね。家での時間が長くなっている今、自分のためにメイクやスキンケアを楽しむ上で、おすすめのものはありますか?

六多 お仕事中や外出時に基本はマスクを外さないけれど、「メイクしてる感」を手軽に出したい方だったら、目の周りをファンデーションではなくコンシーラーで仕上げてみるのがおすすめです。目の周りがキレイだと、それだけで肌ってキレイに見えやすいんです。こめかみから目の下にかけてはニキビができにくかったり、毛穴もあんまり目立たなかったりするパーツなので、もともとキレイな人が多いんですよ。だから、そのあたりにファンデよりカバー力の高いコンシーラーを軽く付けるだけで、意外としっかりとメイクしている感が出ます。

なるほど! Web会議の日にすっぴんは嫌だけど、そんなにしっかりメイクするほどでも……というときにも使えそうですね。

六多 そうですね。あと、あまり人に会わないからこそ、普段はしないメイクに挑戦しやすいと思います。例えば、普段のメイクに眉マスカラやカラーのアイライナーをちょい足ししてみるのもいいと思います。いまってナチュラルメイクが主流なので、カラーのアイライナーでもどぎつい色は少なくて、慣れてきたら日常使いもできそうなものが多いんです。この機会に黒やブラウンじゃないアイライナーを買ってみて、練習してみても楽しいと思います。マスクをしていても目立つパーツですし。




メイク以外のスキンケアなどでも、いまだからこそおすすめしたいものはありますか?

六多 これまでよりもお風呂の時間を長めに取れるようになったなら、頭皮ケアをおすすめしたいです。パドルブラシとか頭皮専用の角質ケアブラシとか、いま頭皮ケアのアイテムってすごく増えていて。頭皮と顔って一枚の皮でつながっているので、頭皮をケアしていくと血行や代謝がよくなって、全体的にキレイになれるなと感じます。ヘアブラシで頭皮マッサージをして、普段よりも丁寧にコンディショナーを付けてみたりすると気持ちいいですよ。むしろ自分がいま育児で全然ゆっくりお風呂に入れていないので、めちゃめちゃ頭皮ケアしたいです。

六多さん愛用のAVEDA「パドル ブラシ」とETVOS「リラクシングマッサージブラシ」
六多さん愛用のAVEDA「パドル ブラシ」とETVOS「リラクシングマッサージブラシ」
そうですよね……!

六多 それから、いまだからこそできることで言うと、コスメやスキンケア用品の容器を自分のモチベーションが上がるものに変える、とかもいいんじゃないでしょうか。自分の経験から言って、スキンケア用品って、開けたり閉めたりするのが面倒なものだとだんだん使わなくなっていくんですよ。だから、自分が快適だったり、かわいいと感じるものに変えてみたりすると、毎日ストレスなく使えるんじゃないかなと思います。

あと、スキンケアって、なんとなく自分のことを大切にしているような気持ちになれる行為だと思うんです。例えば「メイクに興味はあるけど、自分がやってもな……」と踏み出せずにいる人には、まずは洗顔やスキンケアの基本から始めてみるといいかもしれません。泡をしっかり立てて、肌をこすらずに顔を洗うだけでも、いつもより自分を大切にしているような気がすると思います。

確かに、丁寧にスキンケアをしたとき特有の満足感ってありますよね。

六多 そうなんですよ、「こんな忙しいのにこんな丁寧に洗顔しちゃったよ、自分……!」みたいな。なかなか踏み込めないという人は、まずその楽しみや気持ちよさを知る、というところから入っていくといいのかなと思います。時間と気持ちに余裕があるときにそういうスキンケアをするようにしてみると「次は日焼け止めも塗ってみようかな」とか、もしかしたら思うかもしれないですから。

もう少し興味が出てきたら、軽いベースとフェイスパウダーに手を出してみたり。いまって時短のアイテムがすごく増えていて、BBクリームだけでも簡単に肌がキレイになるので。それで、もしうれしかったりテンションが上がると感じたら、次は眉毛をやってみよう、とか。スキンケアの延長みたいなメイクから始めていくと、初めての人でも挑戦しやすいんじゃないかなと思っています。

CANMAKE「シークレットビューティーパウダー」とSUGAO「シフォン感パウダー」
CANMAKE「シークレットビューティーパウダー」とSUGAO「シフォン感パウダー」

もちろん、全員が全員メイクを楽しまないといけない、ということではまったくないんですよね。人から身だしなみを整えることが強制されない空気の中で、メイクをしたい人はすればいいよね、という社会になるのが、本当はいちばんいいなと思っています。

そんな中で、以前の私のように「実はメイクをしてみたいけど怖い、踏み出せない」という人もまだたくさんいると感じるので、これからもっといろいろなアプローチで、メイクの楽しさを伝えていきたいと思いますね。

取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部

お話を伺った方:六多いくみさん

六多いくみさん

元美容部員の漫画家。代表作に『カワイイ私の作り方』(日本文芸社)『メイクはただの魔法じゃないの ビギナーズ』『メイクはただの魔法じゃないの テクニック』(講談社)『リメイク』(マッグガーデン)など。

Twitter:@rottaik Instagram:@rottaik_insta

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