生理痛・PMSで仕事がつらい。 産婦人科医・小川真里子さんに聞く「働きながら生理と付き合う方法」


生理痛をはじめとした月経困難症(※1)やPMS(月経前症候群)(※2)の症状がひどく、仕事に支障が出ていませんか。

今回は産婦人科医の小川真里子さんに、生理にまつわるつらい症状を軽減するための治療法や婦人科の選び方、仕事と無理なく両立できる通院の仕方について、詳しくお話を伺いました。


(※1)月経期間中に月経に随伴して起こる病的症状。下腹部痛、腰痛、腹部膨満感、嘔気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、いらいら、下痢および憂うつの順に多くみられる
(※2)月経前3〜7日の黄体期のあいだ続くいらいらや抑うつなどの精神的症状あるいは胸の張りや痛み、体のむくみといった身体的症状で、月経発来とともに減退ないし消失するもの
いずれも「産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版」を参照

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お話を伺った方:小川真里子先生

小川真里子先生

1995年福島県立医科大学医学部卒業。 慶應義塾大学医学部附属病院での研修を経て、医学博士取得。 2007年より東京歯科大学市川総合病院産婦人科勤務、2015年より同准教授。女性医学を専門とし、女性の健康とメンタルヘルスについて数々の論文を発表している。

少しでも「生理がわずらわしい」なら婦人科を受診してOK

働く女性の中には、生理による体調不良に悩まされている方が少なくないように思います。仕事との両立に悩んで婦人科を受診される方は、やはり多いのでしょうか?

小川真里子先生(以下、小川) はい。私は総合病院のほかにクリニックでも診察をしているのですが、生理痛やPMSがつらく会社をしばしば休んでしまう……と悩んで来院される方は多いですね。

生理やPMSで生じる症状は個人差が大きく、また自分の症状を客観的に判断しづらいため「婦人科に行くほどでもない」と自己判断している人も多いのではないかと思います。婦人科を受診する症状の目安はありますか?

小川 昼でも夜用ナプキンを何枚も使うほど経血量が多い、血液に混じってかたまりが出る、生理痛がひどく月経がくるたびに寝込んでしまう……という方は、ぜひ婦人科を受診いただき、子宮や卵巣に異常がないかどうかを確認してほしいです。

特に原因となる病変がなくてもひどい生理痛が起きることはあるのですが、中には子宮内膜症や子宮腺筋症といった病気が隠れているケースもありますから。

ですが、仮にそこまで強い症状がなくとも、少しでも「生理がしんどい、わずらわしい」と思ったら受診する、くらいの気軽さで大丈夫ですよ。

そんなに気軽に受診していいんですね……! 婦人科に抱いていたハードルが少し下がりました。PMSでは、どのような症状が気になったら受診すればよいでしょうか。

小川 身体的な症状として多いのは、胸の張りや痛み、体のむくみ、お腹が膨れるような感じなどです。イライラしたり、過食ぎみになったり、気持ちの上下が激しくなったりといった精神症状で婦人科を受診する方も多いです。

ただ生理と同じように症状には大きな個人差があるので、月経前に決まって困った症状が出るようならPMSと捉え、気軽に受診いただいて大丈夫です。

PMSかな? と思う症状があり、婦人科を受診しようと思ったら、受診前に月経前のどの時期にどんなことが起きているかを記録し自分の症状を把握しておくと、診察がスムーズに進むと思います

PMSは放置することで何か健康上のリスクがあるわけではありませんが、不調やイライラが長く続くと仕事のパフォーマンスが落ちたり、人間関係にヒビが入ってしまったりすることも考えられると思います。なので、月経前の特定の症状に困っていたらぜひ一度婦人科を受診してほしいですね。

低用量ピル、ジエノゲスト、ミレーナ……生理痛やPMSへの対処法とその特徴

PMSや生理痛で仕事や日常生活に支障が出ている場合、婦人科ではどのような処方をしてもらえるのでしょうか。

小川 症状を軽くするために、低用量ピルや黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)、漢方薬の処方、「避妊リング」として知られるミレーナ(レボノルゲストレル放出子宮内システム)の装着など、その方の症状や体質に合った対処法を提案します。簡単にそれぞれのメリット、デメリットを説明しますね。

低用量ピル

低用量ピルイメージ画像
写真はイメージです


黄体ホルモン(プロゲスチン)と卵胞ホルモン(エストロゲン)の2種類の女性ホルモンを配合した錠剤。継続的に飲用することで避妊のほか、生理痛やPMSを軽減する効果がある。

▼メリット

  • 生理痛やPMSが軽くなる
  • 出血量が減り、生理期間が楽になる
  • 月経のスケジュールをコントロールでき、予め予定が分かっている出張や旅行の調整に役立つ
  • 生理痛に対しては、保険適用で処方できる製剤がある

▼デメリット

  • 毎日ほぼ同じ時間に飲み続けなくてはいけない
  • 非常にまれだが、重篤な副作用として血栓症のリスクがゼロではない




 産婦人科医・小川真里子さん

働く方にとって、月経のサイクルを自分でコントロールできるのは大きなメリット。最近は実薬を長期間飲んで月経回数を減らす方法もよく使われています。

ただ、年齢とともに上がる血栓症のリスクからガイドライン上では50歳以降はピルが使用できないとされていたり、体質に合わず服用できないケースもありますので、必ずしも「生理がしんどいならピルを飲めばいい」というわけではないことも知っておいてほしいなと思います。

黄体ホルモン製剤

黄体ホルモン製剤イメージ画像
写真はイメージです


低用量ピルは「黄体ホルモン(プロゲスチン)」「卵胞ホルモン(エストロゲン)」の2種類が入っており、このうち黄体ホルモンだけが入っているものを「黄体ホルモン製剤」と呼ぶ。月経困難症の各症状に有効。

▼メリット

  • 低用量ピルと同じ効果が期待でき、かつ血栓症のリスクがない

▼デメリット

  • 不正出血が続くことがある
  • 1日2回飲む必要がある




産婦人科医・小川真里子さん

ピルが体質に合わない場合、こちらをおすすめすることが多いです。子宮内膜症の治療にも使用する薬です。低用量ピルとは異なり、避妊効果はありません。

LNG-IUS(レボノルゲストレル放出子宮内システム)

子宮内で持続的に黄体ホルモンを放出するリングを子宮内に装着する。一度挿入すると5年間月経時の出血を減少させ、痛みも緩和する。月経困難症や過多月経に対して保険が適用される。

▼メリット

  • 一度装着すると最長で5年間使い続けることができる
  • 保険適用だとおよそ1万円台で装着でき、コストパフォーマンスに優れている

▼デメリット

  • 腹痛、月経日数の延長、月経以外の出血、月経周期の変化などの副作用が起こることがある
  • 出産や性交の経験がない場合、装着時に痛みを感じることがある




産婦人科医・小川真里子さん

最近人気を集めている方法で、婦人科医でも装着している人が多いです。個人差はありますが、異物感や痛みはあまり感じない方が多いですし、月経困難症や過多月経と診断された場合は保険適用で使用することができます。特に出産経験がある方にはおすすめ。避妊効果もあります。

ただ、LNG-IUSと前述の黄体ホルモン製剤はPMSへの効果は確認されていないので、生理痛のほかPMSにも悩んでいる方は医師と相談してみてくださいね。

漢方薬

自然の原料からできた生薬を組み合わせて作る薬で、個人の体質や症状を考慮して処方する。

月経困難症、PMSの症状には、血行や水分代謝を改善させる「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」、女性ホルモンが原因で現れる精神不安を緩和する「加味逍遥散(かみしょうようさん)」、生理痛の痛みや冷えのぼせなどをやわらげる「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」を処方することが多い。

▼メリット

  • 副作用が少ない

▼デメリット

  • 効果が出始めるまでに少し時間がかかる




産婦人科医・小川真里子さん

漢方は副作用が少ないため人気がありますが、1日3回、(生理痛に対しては)2~3カ月は続けて飲まないといけないことを面倒に感じる方も多いかもしれません。

鎮痛剤を飲むなら「すごく痛くなる前」に

「生理痛やPMSの緩和には低用量ピル」というイメージが強かったのですが、それ以外にもさまざまな治療法があるんですね。

小川 そうですね。いくつかの治療法を例に挙げましたが、どんな治療法が体質や生活スタイルに合うかは人それぞれですので、迷われた方はぜひ婦人科医に相談してみてほしいと思います。

これらは「事前につらい生理痛やPMSに備えるための対策」という印象がありますが、実際に生理が始まり腹痛や頭痛を感じた際、多くの人が飲むのは鎮痛薬だと思います。市販されていることもあり、気軽に選べる対策の一つですが、何か注意点などはありますか。

小川 「すごく痛くなる前に飲むこと」でしょうか。鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬)を「最後の手段」と捉えている方も多いのですが、逆に生理痛の原因物質が生まれてしまってからだとなかなか効かないんです。

ですからぜひ、痛みを我慢せずすごく痛くなる前に飲んでください。毎回決まって生理痛を感じる方の場合、痛くなりやすい期間は朝昼晩、時間を決めて飲むようにするのがおすすめです。

そうなんですね。「痛み止めは“クセ”になりやすいから、本当に痛いとき以外は飲まない方がいい」とかつて教えられた記憶があるのですが……。

小川 確かに親御さんや先生に昔そう言われた、とおっしゃる方が多いのですが、鎮痛剤は月に数日飲んだぐらいでは依存性を持ったりしませんから、安心して飲んでくださいね。

内診にどうしても抵抗があれば「やりたくない」と伝えても大丈夫

生理痛やPMSでつらさを感じている人の中には、どうしても「婦人科を受診する」こと自体に高いハードルを感じてしまう方もいらっしゃると思うのですが、小川先生はそういった方にどのように声かけをされていますか。

小川 婦人科に行くことにハードルを感じる、という気持ちはよく分かります。みなさん行きたくないですよね、私でもそう感じることがありますから……。

でも、だからこそ「いざというときはここに行く」というかかりつけの婦人科を早めに見つけておいてほしいと思うんです。本当に症状がしんどいときに婦人科を探すのは大変ですし、人気の病院はなかなか初診の予約がとれないこともありますから。

例えば、自治体から子宮頸がん検診の案内がきたことがある方も多いと思います。これはほぼ全ての自治体で、20歳以上を対象に2年に1回一部自己負担(無料〜2,000円ほど)で検診が受けられるものなので、ぜひこの機会を活用して、気になっていた病院の雰囲気を探ってみてほしいと思います。

自分に合う病院は、どのようなポイントに注目して探せばよいのでしょうか?

小川 まずは病院のWebサイトを見ていただいて、その病院が得意としている疾患に生理痛やPMSなどがあるかを確認してみてください。

ネット上の口コミなどもひとつの参考にはなりますが、残念ながら荒らされていることも少なくないので、やはり実際に一度足を運んでみてお医者さんと話してみてほしいです。同じ症状で悩んでおり、すでに病院にかかっている友人や知人の意見も参考になると思います。

また、仕事が忙しくてなかなか婦人科に行く時間をとることができない方は、オンライン診療をおこなっている病院に絞って探すのもよい方法だと思います。初診は対面になるところも多いと思いますが、継続的に薬を処方する必要がある場合など、通院の手間がなくなるだけでも負担がかなり軽くなるかなと。

婦人科にはだいたいどの程度の頻度で通うことを想定すればよいのでしょうか?

小川 例えば保険診療でピルを処方してもらう場合などは、初診のあとはまず1カ月後、その後は3カ月ごとに診療を受ける、といったケースが多いかと思います。

なるほど。ちなみに、対面で診療を受ける場合、内診はやはり避けて通れないのでしょうか。下着を外して台に乗って開脚して……といった一連の流れに抵抗があって婦人科に行くのをためらってしまう、という方もいるように思うのですが……。

小川 内診は子宮や卵巣の状態を知るための最良の方法ではあるのですが、もし内診に強い抵抗がある場合「したくない」と医師に伝えていただくのはまったく問題ありませんよ

その場合は、お腹の上から超音波を当てることで腫瘍の有無などを確認する方法もありますし、なんらかの疾患が疑われる場合はMRIを撮ることもできます。内診をしないと絶対に次のコマに進めないわけではない、というのは私からお伝えしたいです。

もし「内診したくない」という気持ちを尊重してくれなければ、ぜひその病院はやめて、ほかの婦人科を探してほしいと思います。

それはとても心強いです。最後に、生理痛やPMSに悩む働く女性がより働きやすくなるためには、医療・社会がどのように変化していくとよいと小川先生は思いますか。

小川 男性も含めて全員が、生理痛やPMSについての基礎知識を持っておくことがまず大切だと思います。

その上で、生理のときは外出先でトイレに行くだけでも面倒ですし、家で仕事ができるだけでかなり気持ちが楽になる方も多いと思うので、勤務場所や勤務時間がよりフレキシブルに選べるようになるといいですよね。

婦人科に頻繁に通えない方のためにオンライン診療をもっと普及させるなど、受診しやすくなる環境や仕組みの整備に国がもっと介入してくれたら、とも思います。

生理との付き合い方やよい対処法は、人によって本当にさまざまです。まずは生理に関する正しい知識を全員が持つことで、より働きやすい、暮らしやすい環境が徐々に育まれていくのではないかと考えています

取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部

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