ゾンビは時代の教科書!? 人種問題も寛容さも学べる「ゾンビ学」がおもしろい

2021.11.17

ゾンビは時代の教科書!? 人種問題も寛容さも学べる「ゾンビ学」がおもしろい

いまやホラー映画では鉄板となっているゾンビ。実はゾンビってその時代の社会や人間の教科書だったんです。ゾンビを知ることでコミュニケーションのコツも学べちゃうかも? 近畿大学でゾンビの研究をされている岡本健先生に話を聞いてみました。

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    ライターの吉野です。

     

    みなさん「ゾンビ」と聞いてどんなイメージが思い浮かびますか?

     

    ゾンビものでは血がビシャーと出たり、人がすぐに噛み付かれるし、 B級ゾンビ映画ではおバカ感満載なものもありますよね。

     

    ゾンビのイメージってこんなんですよね…

     

    私自身、ゾンビに対して「なんか襲って食べてくるやつ」とめちゃくちゃ単純なイメージを持っていたのですが、ある日ツイッターで近畿大学の岡本健先生が教える「ゾンビ学」というものを目にしました。

     

    「いや、ゾンビが学問になるわけない!」と不思議に思い、おそるおそる公開講義を受けてみたんですけど、

     

    そしたら…、実はゾンビって面白いほど世の中がわかる教科書だったんです!

     

    ゾンビ学について簡単にまとめてみると、、、

    ・ゾンビ映画からは人間の醜い部分や綺麗な部分が垣間見える

    ・コミュニケーションに悩んでいる人はゾンビを見習うべし

    ・ゾンビはめちゃくちゃ自由で寛大な存在

    ・看取りや人種の問題を学ぶことができる

     

    これだけでもすごい情報量ですよね。ゾンビ学を知っていると、人間をより深く知れるような気がしてきます。

     

    岡本先生の著書

    岡本先生の著書『大学で学ぶゾンビ学』

     

    これからの世の中との付き合い方について手がかりを得るべく、岡本先生に詳しくお話を伺おうと思います。

     

    最近のゾンビは子どもや女性に大人気

    取材はzoomで行いました。岡本先生の背景には「ゾンビ研究所」の文字が!

     

    「ゾンビ学って大学の教科としてあるんですか?」

    「いや、そんな名前の科目があったら問題になりそうです(笑)。大学に『ゾンビ学』という科目がある訳ではなく、『現代文化論』の中でゾンビについて話しています。吉野さんは高校生の頃、大学の授業にどんなイメージを持っていましたか?」

    「やっぱり大学は勉強しに行くところなので、難しいし、講義が長い、とにかく勉強しないと怒られるみたいなガチガチのイメージがありました」

    「そんなイメージを持つ学生が多い中で、とにかく大学は自分が知りたいことをどこまでも追求できる場所だと伝えたかったんです。単純なイメージのゾンビでも調べていくと、深いこともわかってくるし、社会や文化が繋がって見えてくる。それが学問でゾンビを扱おうと思った大きな理由です」

    「なるほど…! ちなみに、ゾンビの授業をやっていて学生たちから嫌がられたりしませんか?」

    「5年前からこの授業をやっているんですが、特に女子学生からの反応が良いんです

     

    ゾンビ学女子生徒の写真女子学生のみなさんのゾンビコスプレ。これも研究の一環(たぶん…)

    「えっ、ゾンビものってグロい描写が多いので意外です」

    「先日、学生向けに『どこでゾンビを知りましたか?』というアンケートをとったんですが、そしたら『お母さんがバイオハザードをプレイしているのを隣で見てた』っていう答えがありまして」

    「どんな教育してるんだ」

    ゾンビと言えば80年代のホラー映画ブームの時のイメージがある方も多いかもしれませんが、今の学生の中には、映画のみならず、ドラマやゲーム、イベントなどでゾンビに馴染みがある人が結構多いんです。それにハロウィンでゾンビメイクをしたり、新しい趣向のお化け屋敷がブームになったりして、若い人や女性の中でゾンビ好きな人が増えてきている印象です

    「たしかに、ハロウィンの時にゾンビのコスプレをしている女の子も多いです」

    「今、児童書や絵本でもゾンビものが盛んで、オススメなのはゾンビハムスターねずこ』です。死んでしまったハムスターのねずこが『ヒマワリのタネを思いっきり食べたい…』って生き返って、飼い主だった男の子と交流する話です。この間、うちの子どもにも読んであげたんですけど、意外にも涙をそそる内容でした」

    「ゾンビって老若男女問わず人気のコンテンツになってきてるんだなぁ」

     

    ゾンビはハイチの民間信仰から始まった!?

    岡本先生と数々の資料

    「もともとゾンビのルーツって何だったんですか?」

    「起源をたどると、ハイチなどで民間信仰されている『ブードゥー教』に伝わる呪術で、呪術師が死体を蘇らせて使役するというものがあります。本当に死んだ人が動き出したとは考えにくく、薬漬けにされていただけじゃないかという説もあり、真相はよくわからないのですが…

    「実際に見たらトラウマレベルの光景…」

    「それがアメリカに伝わります。たとえば、作家のウィリアム・シーブリックが1929年に『魔法の島』という本を書いています。それを参考にして、1932年に『ホワイト・ゾンビ』で初めて映画の中にゾンビが登場しました。新婚夫婦が挙式をあげるために訪れたハイチで、新婦がゾンビパウダーを飲まされて、ゾンビになってしまうんです」

    「その時からゾンビは人を襲っていたんですか?」

    実は、当時は今のゾンビみたいに噛みついたり、食べてしまう描写は全くなかったんです。そもそもゾンビには食べさせてはいけないものがあったりします『塩を食べさせてはいけない』という決まりがあったという話も

    「高血圧だから、減塩してたとか?」

    それは私ですね(笑)。先ほど紹介した『魔法の島』に書かれていたんですが、ゾンビを働かせていた人が、ちょっとゾンビを休憩させてあげようと思い、塩気のあるクッキーをあげました。そうすると、それを食べたゾンビが絶叫し始めて、全速力で自分の墓まで行って砕け散ったんだそうです

    「ひえ…」

     

    岡本先生の資料。ゾンビ映画、こんなにあるなんて

    岡本先生の資料。ゾンビ映画、こんなにあるなんて

     

    「その後の映画などで人を食べたり、感染したりといった性質がくっついて来ます。ゾンビの原因がウイルスや放射能の時もあり、その時代の人々が持っていた不安が反映されていったんです

    ゾンビは社会の風刺なんですね!」

    「そうなんです。最近では、スマホでゾンビになってしまうスティーヴン・キング原作の『セル』や、SNSを通じて感染する『パンデミック・サイト』という映画があって、時代ごとに出てくる新しいメディアもきちんと投影されています」

    「ほうほう」

    「それにゾンビの性質もどんどん変わってきていて、めちゃくちゃ速く走るゾンビや意識のあるゾンビも出てきました

    「そんなのもうゾンビじゃないでしょ!(笑)」

    ほんとに(笑)。最初の死体が蘇るゾンビの場合は、火葬の国はあんまり関係ないよねってなるんですけど。ウイルスの設定だと人種や文化に関係なく世界中の人が感染してくものなので、世界中でゾンビものが広がって、創意工夫がなされ、次々に『進化したゾンビ』がつくられていきました」

     

    先生もゾンビメイク!

    先生もゾンビメイク!

    「何でもありの中でも、ゾンビの定義ってあるんですか?」

    「それは…実は一言で言うのが難しいんですよね。定義すると外れるものが絶対に出てくるので

    「???」

    「例えば、意識がない存在だとゾンビを定義したら、『いや、意識はあるけどゾンビって呼ばれている奴いるよね』と、何かを定義するたびにそれから外れていくゾンビが絶対にいるんです。なので、ゾンビを一言で定義するのってとても難しくて

    「明確な定義がないのがゾンビなのかあ。そうすると、ゾンビものはジャンル分けも難しそうですよね。ホラーや恋愛ものでもゾンビが出てきちゃうと、全部ゾンビものってことになりそうで」

    「たとえ元の原型をかなり崩されていたとしても、ゾンビという名前で呼ばれる作品が出続けることって、ジャンルの寛容性があるからなんだと思います。ゾンビの魅力ってそんな最高に自由なところなんですよ

    「ゾンビって今の時代に求められるものなんだなぁ…」

     

    もし家族や恋人がゾンビになったら!?

    大学で学ぶゾンビ学

    「ちなみに、明日リアルにゾンビが大量発生したらどうやって生き延びればいいですか?」

    「無理です。ゾンビと向かい合った時点で負けですね。ゾンビには何のリスクもないですが、人間にとってはリスクしかありません

    「諦めるのが早くないですか」

    「ちょっと引っ掻かれたらアウトかもしれない生き物と取っ組み合いしてる時点で負けですよ。銃が上手だったらいいですけど。一朝一夕でうまくなるものでもないでしょうから…。だからなるべく見つからないように安全なところに身を隠すのが一番だと思います」

    「もし見つかってしまったら?」

    「事前に安全な場所でどういう種類のゾンビかを観察して、対処ですね。走るか、走らないかは要チェックです」

     

    「逃げる時の方法は?」

    「めっちゃ生き残りたいんですね。自転車が優秀だと思います。車やバイクはガソリンスタンドの供給が生きていないと、燃料がなくなってしまうので」

    「う〜〜ん、知恵を聞いても、全然生き残れる気がしない」

    希望は捨ててはいけません! もしゾンビが出たら最初は驚くと思うんですけど、そのうち慣れてきたり、対策が編みだされたりして、共存できることもありえますゾンビってずっと歩いているから、それを利用した無限のエネルギーっていうことで、発電とかにも使われるかもしれないですし(笑)

    「そんな明るい未来が来てほしい! でも、もし自分の家族や恋人がゾンビになってしまったら?」

     

    みんな、ゾンビにならないで…

    みんな、ゾンビになんかならないで…

    「それはゾンビものならではの問題で、ゾンビって噛まれてからしばらくは人間の状態だけど、お別れの場面が必ず出てきます。だけど、よく考えてみたら身近な人がそれまでの状態から変わってしまうことって今の社会でもよくある話で

    「というと?」

    「たとえば認知症ですね。認知症はその人の気持ちの問題ではなく、脳で分泌されるホルモンの問題で、今までとは違った性格になってしまいます。それまで普通に話していた人が急に感情的になったり、自分の家族が誰か分からなくなってしまうんです」

    「たしかに…」

    「最近のゾンビもので、普通に意思疎通ができていた人が急にそうではなくなる恐怖を描いているものもありますが、まさに認知症のメタファーだなと。その点で、高齢社会に対するひとつの視点を表していると思います。他にも人間同士のコミニュケーションの部分に踏み込む内容のものも多くなりました」

    「どういったものがあるんですか?」

    「漫画『異骸-THEPLAYDEAD/ALIVE-』では、​​ゾンビが定期的に人間に戻ったりするんです。人間側は『この存在をどう扱えばいいのか』で悩むし、ゾンビ側も意識が戻った時に縛られてしまっているのに気付いて人間不信になって、お互いに疑心暗鬼になる様子が描かれてます」

     

    ゾンビ学

    「人を信用できなくて悩むのって、実際の人間関係でもめっちゃあります…」

    「今はコミニュケーションが排他的になっていることも多くて。SNSの炎上もそうですけど、対象を見つけ、攻撃することに快感を覚えていく人も増えているように感じます。今後は、そうした欲求にどうやって対処していくかが、コミュニケーションにおける課題だと思うんですよね」

    「SNSでの誹謗中傷が大きな社会問題になってますもんね」

    「それには自分の発言で誰かが傷つかないような工夫や配慮が必要です。人間同士やゾンビとのコミュニケーションの歯がゆさを描くゾンビものを見て、自分も相手も尊重できるコミュニケーションのあり方を学ぶことも多いです」

     「ゾンビとのコミュニケーションから、人間同士のコミュニケーションが学べるんだ! ゾンビものって、違う人種間で起こる問題にも切り込んでいってる気もします」

    「そうですね。人種問題を作品で描くためにも、ゾンビはいい発明だったと思います。特定の人種を差別的に描くのを避け、ゾンビを『我々とは違う他者』の比喩として描くことができますから」

    「確かに、それならクリエイターも表現しやすそう。 ゾンビって社会や人種の問題すべてを射程に収められてるんですね…!」

    「ゾンビ映画って、残酷な内容が多いですよね。でも、例えばみんなが人類のために戦おうとなった時に、ひとりがどんな風に愚かな行動をとるのかなど、人間の残酷な部分、綺麗な部分がこれでもかと言うほど詰め込まれているので、人々の行動や社会について、かなり考えさせられる。まさに『人間の教科書』だと思うんですよ

    コミュニケーションに悩んでいる人は、あえてゾンビ映画を見るのがいいかもしれない」

     

    コロナを経たゾンビ作品には注目!

    岡本先生の資料2

    「先ほど『ゾンビものは人々の不安が反映されている』とおっしゃっていたのですが、コロナ禍はこれからゾンビものにどんな影響を与えると思いますか?」

    「今後、普通の人とゾンビの区別が曖昧な作品が増えると思います。バイオハザード:ヴェンデッタ』というフルCGアニメの映画があるんですが、その中では、ウィルスに感染するだけではゾンビにならず潜伏していて、トリガーが与えられるとゾンビ化します。ゾンビになった後でもワクチンで人間に戻るんですよ。騒動は収束しても、感染者がどこまで拡がっているかわかりません。またトリガーでゾンビ化するかもしれない

    「ハッピーエンドかと思いきや、続編を匂わせて終わるやつだ」

    ゾンビものではありませんがシン・ゴジラ』のラストもそうですよね。東京駅でゴジラが凍ってしまって、いつ復活するかわからない状態のまま。あれは福島の原発事故を明らかに想起させていて、解決方法がわからない未知の問題で、事故対応は今も続いている。ゴジラの姿はそういった状況を表しているんです」

     

    先生の研究領域は、ゾンビだけに限らず、コンテンツツーリズム(いわゆる映画やアニメの聖地巡礼)を始めとした観光学・観光社会学にも及ぶ

    先生の研究領域はゾンビだけに限らず、コンテンツツーリズム(いわゆる映画やアニメの聖地巡礼)を始めとした観光学・観光社会学にも及ぶ

     

    「問題がはっきり解決しない時代に…。コロナウイルスも絶滅は難しくて、『withコロナ』で生きていくしかないって話も聞きますもんね」

    世界的な感染症パニックを経験したことで、クリエイターがどんなゾンビを生み出すのか、あるいはもう出さないのか、非常に注目しています。世界中の人々がウイルスに苦しみ、ワクチンを打つか打たないかで悩むような事態が現実のものとなりました。その振り返りが作品の中でなされるはずです」

    「いやーっ、今日はゾンビの話だけでお腹いっぱいになりました」

    「ちなみに、ひとつアドバイスを。ゾンビ映画はメイキングから先に見ると、あんまり怖くなくなりますよ。グロいシーンでもスタッフ、キャストみんながとても楽しそうに撮っていたり、手間暇かけてつくられている様子などを見ると、どんなにしょぼいものでも許せちゃうんです(笑)」

    「そんな裏ワザが!(笑) これからもゾンビものを絶え間なくチェックしていきます! 」

     

    おわりに

    岡本先生と生徒さんたち

     

    いつも楽しく見ていたゾンビコンテンツが、人間のリアルな姿を裏返したものだとは思いませんでした。

     

    これからゾンビ映画を見る時はそのまま見るのではなく、「当時どういう社会だったのか。人々のどんな感情が反映させられているのか」などに注目しながら見てみようと思いました。

     

    歴史の教科書を見るだけでは分からない当時の人間の内面まで学ぶことができる「ゾンビ学」が、苦しい時代を生きる私たちの「くらしの知恵」になる日もそう遠くはないのかもしれません。

     

    岡本先生のお話やゾンビ学のことが気になった方は、岡本先生の著作を読んでみてくださいね!

     

    https://www.amazon.co.jp/%E3%82%BE%E3%83%B3%E3%83%93%E5%AD%A6-%E5%B2%A1%E6%9C%AC-%E5%81%A5/dp/4409241109

     

    編集:くいしん

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    この記事を書いた人

    吉野 舞
    吉野 舞

    1995年生まれ。兵庫県淡路島出身。文章を書いたり、写真を撮ったりします。今年の目標は、東京23区の銭湯を全制覇すること。最近、全国どこにでも行って色んな人と繋がるので「5G」というあだ名を付けられました。

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