こんにちは、ライターの友光だんごです。今日は熊本市の商店街にやって来ました。

 

ここは「上通(かみとおり)・下通(しもとおり)」と2つの通りがあり、合わせて全長511メートル。全国的に見てもかなり大規模な商店街なんです。

 

特に今いる上通には老舗が多く、書店や宝石店、楽器店に眼鏡店など創業100年を超えるお店が10店舗以上あるそう。今回の僕の目当ては、そんな老舗のなかのひとつ、「甲玉堂(こうぎょくどう)」さんです。

 

ここは文房具屋さんなんですが、事前にネットで調べたところ、なんでも九州で1、2番目に万年筆を売ってるらしいんですよ。今年で32歳とすっかり大人の年齢になったのですが、最近「万年筆」が気になってまして……。

 

というのも、ライターという仕事をしてるので普段は99%、文字を書くのはPCかスマホ。手書きなんて週に一回あればいいくらいの頻度です。手書きで少し字を書くと手が疲れちゃうくらいで、授業の板書にテストにと毎日のように手書きでノートやら何やらを書いていた学生時代の自分が信じられないほど弱っちい手になっています。

 

ただ、そんな状況でも、知人の結婚式とか、大事な書類とか、年に数回「気合を入れて手書きする」機会があるわけですよ。そんな時、ボールペンだとどうにも居心地が悪くなってきました。

 

時計でも「チープカシオ」が好きだったんですが、30過ぎたらもうちょっとちゃんとしたのを使いたくなって。そう、大人の嗜み的な憧れが……。

 

前置きが少し長くなりましたが、初めては「間違いないところ」で買いたい。東京なら銀座でしょうが、ローカルが主戦場の自分なので、ここ熊本の老舗で万年筆デビューしたいと思います。それではいざ、甲玉堂さんへ!

 

※2020年夏に取材・撮影を行った内容に追加取材した内容を加えています。取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで行い、撮影の際だけマスクを外しています

熊本で文房具店を約100年続けてきた

甲玉堂の広報担当・野口さんに話を伺います

 

「甲玉堂さんの創業はいつ頃なんでしょう?」

「大正8年(1919年)です。創業者の鈴木 林(はやし)さんは山梨の甲府出身で、熊本まで印鑑を売りに出稼ぎで来たそうなんです」

 

創業者の鈴木 林さん

 

「印鑑?」

「甲府は昔から印鑑の素材である『玉(石)』の産地で、印鑑が有名なんです。ですから『甲玉堂』という店名も、『甲』府の『玉』の『堂』と書きます」

「なるほど! 文房具感はあまりしない名前だと思ったんですが、創業者のルーツが由来だったとは」

「なにしろ歴史が長いもので、昔の資料はあまり残っていないんですよね。この商店街は第二次世界大戦のときに空襲で全焼していますし、昭和28年には水害で水没もしているので」

「歴史が長いと、いろんなことが起きますね……!!! では、商店街が今の姿になったのはその後なんでしょうか」

「空襲のあと、区画整理で今の道路幅になったそうですね。その後、昭和40年代に現在のアーケードもつくられ、熊本市最大の繁華街になっています」

 

甲玉堂のある上通に老舗が多く、下通は飲み屋の多い繁華街

 

「まさに熊本市の歴史を見続けてきたお店なわけですね」

「いろんな時代の荒波に揉まれつつ、文房具という商売を約100年続けて来ました」

 

万年筆が日本に来たのはいつ?

「『文房具屋』の歴史をあまり知らないのですが、そもそも日本にペンや鉛筆はなくて、筆で文字を書いてたわけですよね」

「そうですね。江戸時代では『文房四宝』と言われ、『紙、硯(すずり)、筆、墨』が主な文房具でした。甲玉堂のできた1919年は、ちょうど海外から日本に万年筆が渡ってきたころなんですよ」

「海外から。万年筆はどこの国生まれなんでしょう?」

「万年筆自体の歴史は非常に長くて、紀元前2400年頃にエジプトで葦(あし)の先端を割り、インクを付けて文字を書いていた『葦ペン』がルーツだと言われています。その後、火山の噴火で滅んだポンペイの遺跡からも青銅製のペンが出土しているそうですね」

「おおお、そんなに歴史が」

現在の『毛細管現象』を利用した万年筆は、1883年にフランスの『ウォーターマン』という会社が発明しました。そのウォーターマンの万年筆が、1895年(明治28年)に初めて日本へやってきたんです」

 

「『パイロット』や『プラチナ』など、日本で万年筆などの筆記用具を手がけるメーカーは、その後、大正時代になって相次いで創業していますね」

「海外から全く新しい筆記具がやって来て、国内にもそれをつくるメーカーが誕生した。創業当初の甲玉堂は、そうした最先端の文化を熊本で広める存在だったわけですね。今でいうと、マリトッツォを売ってるみたいな」

「そうかもしれません(笑)。万年筆も、最初は庶民の文具ではなく、政治家や貴族のようなちょっと偉い人が使うものだったそうです。熊本市には当時、陸軍第6師団が駐屯していたので、陸軍に対して甲玉堂は万年筆などを販売していたそうです」

「陸軍の偉い人が使う万年筆を販売していたと」

 

「そうやって軍に対して文具を売りながら、この商店街の店舗では一般向けに、紙製品とか筆とかを売っていたのだと思います。2018年ごろまでは、熊本にある自衛隊基地のなかに甲玉堂の売店がありましたね」

「基地の中に! そういえば小学校にも購買があって文房具を売ってたなあ。商店街にあるようなお店は、意外と一般向けの『BtoC』だけでなく『BtoB』の売上げが大事と聞いたことがあります。パン屋さんなら、学校の給食用にパンを卸したり」

「文房具屋でも、『外販(がいはん)』といって官公庁や会社向けに訪問販売も行いますね。そこで大きな売上げを立てている店もあると思います。うちはどちらかというと、外販が苦手なのですが」

 

「価格競争」ではない、まちの文房具屋さんの生き残り方

店内を案内いただきながら、インタビューを続けます

 

「外販が苦手とは、なぜでしょう?」

外販はどうしても、価格競争的な利益の取り合いになってしまうんですよね。『〇〇社より何円安くするので、買ってください』みたいな」

「ああ〜、文房具って単価がそもそも安いですよね。鉛筆とか消しゴムだと100円以下のものもありますし、そのなかで価格競争をするのは大変そう」

「細かいものをたくさん売らないといけませんし、利益率でいうと洋服屋さんや食べ物屋さんの1/2〜1/3だと思います。だから薄利多売というか、価格を下げてたくさん売るスタイルの店も一時期増えましたけど、だいぶ淘汰されました」

 

「それはネットの登場も大きいんでしょうか?」

「そうですね。利益率が低いところを値下げしているうえ、ネット通販が相当安いので低価格のインパクトが薄れてしまったのだと。甲玉堂は昔から、メーカーの希望小売価格通りの定価販売でやっています」

「そんなポリシーが! でも、それだと何か価格以外にお客さんに選んでもらう強みがないと、なかなか難しくないですか?」

「そこで言うと、『目利き』のスタッフがいることが強みですね」

「目利きのスタッフ、ですか」

 

「うちは全部で6フロアあって、それぞれ扱う文房具の種類が分かれています。1フロアで広いとスタッフはいろんな種類を覚えないといけませんが、甲玉堂では自分の担当フロアのスペシャリストになれる。そして、そのスペシャリストに聞けばお客さまの疑問や要望はだいたい解決します」

「広く浅く、ではなく万年筆フロアなら万年筆のスペシャリストになれると」

「甲玉堂の看板商品である『万年筆』に関しては、ただ販売するだけではなく、お客さまに合う万年筆を選んだり、具合が悪くなったペンを修理したりもしています。ネットで早く、安く買えてしまう時代に、人だからこそ提供できるサービスが、お店の役割かなと思うので」

「なるほど……僕、まさに万年筆が気になってたんですよ! 取材先でメモをとる際のボールペンも、安いやつを適当に買って無くして、を繰り返していて。傘もビニール傘より高めの傘を買った方が無くさないし愛着も湧くって言うじゃないですか」

「でしたら、万年筆がおすすめですよ」

「ネットで見ても選び方がよくわからなかったので、教えてほしいです!」

 

はじめての万年筆選び

「初心者はどういうものを選ぶのがいいですか?」

「私も実は高い万年筆は持っていなくて、普段使っているのは千円くらいの商品。最初はそれくらいのラインでもいいと思いますよ

「え、思ってたより全然安い! 高いものに比べて書きづらいとかはないですか?」

万年筆って、使い続けると書くのがラクになるんですよ」

「書くのがラクに…? 大学卒業のお祝いで親から万年筆をもらったんですけど、なんか書きづらくて使いこなせなかったんですよね」

「ボールペンは、ある程度筆圧をかけることでボールを転がして、紙にインクを付着させる仕組み。万年筆の場合は、毛細管現象といって紙にペンが付いた瞬間にインクが伝わります」

 

「だからコツさえ掴めば、滑らせるように文字を力を入れなくても書けるんです」

「なるほど。僕はそのコツを掴む前に離脱しちゃってたのか……!」

「万年筆はボールペンに比べて太いので、線の強弱もつけやすいです。だからやわらかい印象の文字になれますし、その時の体調や気持ちが文字に現れやすいんです」

「おお、まさに手書きの味っぽい」

「メールやSNSの普及で、手書きの機会はすごく減ってます。だから、大事な時だけでも手書きの文字を添えると、印象的になりますよ。甲玉堂でネットショップもやっているのですが、お買い上げ時に明細書に一言『〇〇様、ありがとうございます』と書き添えると喜んでいただきますね」

「ああ、僕も別のネットショップで商品を買った時、同じような経験があります。直接じゃなくても、人の温かみみたいなものが感じられて嬉しかったなあ…」

「そうだ。せっかくなので、万年筆担当のスタッフの話も聞いていきますか?」

「はい! スペシャリストに相談したいです!」

 

はじめての万年筆選び

万年筆売り場担当の高島さん

 

「万年筆の値段って、なにで変わってくるんですか?」

「ペン先が金(きん)かステンレスか、がまず大きいですね。だいたい外国製は3万円以上、日本製は1万円以上になるとペン先が金になっていることが多いです」

「見た目はそんなに変わらないですね」

「ステンレスはだんだん錆びちゃうんですよね。金は錆びないので、ずっと使えます。あとは金がすごく柔らかいので、書き心地も違いますよ」

「なるほど! やっぱり色々持ってみるのがいいですか?」

「はい。握り心地も違いますし、どんどん試し書きしてみるのがいいですよ。あと、最初の万年筆にはパイロットの『カクノ』がおすすめです」

 

「1000円くらいなんですけど、使い心地もよくて、『万年筆らしさ』もしっかり味わえます」

「まさに入門用。ちょっと書いてみますね」

 

「さっき野口さんがおっしゃってた『滑らせるように書く』を意識すると、今までよりも書きやすい気がします!」

「書けば書くほど、ラクになっていくと思いますよ」

「万年筆でサラサラっといい文字を書ける大人になりたい……ボールペンとかに比べて、書いてて気持ちいい感じもしますね」

「そうなんですよ。私もパソコンを使う機会のほうが多いですけど、手書きのよさってやっぱりあると思うんです。それを一番味わえる道具が万年筆なんじゃないでしょうか」

「そうか、万年筆も『道具』ですよね。ちょっといい包丁とか自転車みたいに、少しお金をかければ長く、その行為を楽しめる」

「そうだと思います。甲玉堂でも手書きのよさを文化として残していきたいので、ペンや万年筆に力を入れていますし、体験イベントやワークショップも積極的に開催しています」

 

子どもに手書きや絵を描く楽しさを伝えるため、子ども向けのイベントも積極的に開催

 

「絵を描いて、それがすごく褒められる経験をすると、絵がどんどん好きになるはず。将来、『私の作品づくりとの出合いは甲玉堂です』なんて言われると嬉しいですし(笑)」

「いいですね! それに、文字も同じじゃないかと思いました。そして褒められるいい文字を書くには、いい道具が必要……まずは入門用の万年筆を買っていきます!」

「ありがとうございます。これからも手書きを楽しんでくださいね」

 

おわりに

ということで、最後に万年筆「カクノ」と便箋、ノートを購入しました。

 

いままで書く道具にあまりこだわってなかったのですが、ちょっといいペンを買うだけで、手書きする際の気分が上がるし、『文字を書きたい!』となりますね。これから万年筆を使いこなす大人を目指して、徐々にステップアップしていこうと思います!

 

※応募受付は終了しました。

☆プレゼントのお知らせ

レトロな雰囲気がかわいい「液状のり フエキくんグルー」と、甲玉堂がコラボしたオリジナル商品を抽選で4名の方にプレゼントします。甲玉堂のシンボルマーク「万年筆」があしらわれた、ここだけのデザインですよ!

 

★応募方法|@jimocoro をフォローしてこのツイートをコメント付きでRT→当選はDMでお知らせします!

 

※当選はDMでお知らせしますので、必ずアカウントのフォローをお願いします。
※お届け先は日本国内に限らせていただきます。

 

編集:くいしん