本屋を続けるのはほぼ不可能な時代。「長崎書店」は131年目をどう生き残るのか?

2020.09.17

本屋を続けるのはほぼ不可能な時代。「長崎書店」は131年目をどう生き残るのか?

本を売るだけじゃ生き残れない。熊本で地元民に130年愛され続ける老舗「長崎書店」の苦悩と葛藤。そして、これからの街の本屋に残された希望とは?そのユニークな取り組みを取材しました。

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    本を読みながらこんにちは、ライターの日向コイケです。

     

    突然ですが、みなさん本屋はお好きですか?

    大好きな漫画や雑誌を買いに行くのはもちろん。フラッと立ち寄って手にした本に思いがけない発見をしたり、ずらりと並んだ本棚を眺めて興奮したり……。

    本屋に行くと無性にワクワクするのは、きっと僕だけではないと思います。

     

    とはいえ、今やインターネットを使えば、ほぼなんでも1-2日で届く時代。電子書籍であれば、ワンクリックで読むこともできてしまいます。利便性という点で考えると、本屋に行くこと自体、少なくなっているのではないでしょうか?

     

    事実、全国的に見ても書店の数は減る一方で、2020年5月1時点での書店数は1万1024店。そのうち、売場面積を持つ店舗に限ると9762店。(※アルメディア調べ)

     

    そう、日本の本屋は、いよいよ4桁台にまで減少してしまっているのです。
    まるで止まることを知らない出版不況。このまま街から本屋はなくなってしまうのでしょうか?

     

    しかしそんな逆境の中、ユニークな取り組みで地元に愛され続ける書店があるという噂を聞き、やってきたのは熊本県。

     

    熊本駅から電車と徒歩で20分。熊本市の中心部に位置する上通商店街の先に、たどり着いたのは……

     

    明治22年創業、今年で131年目を迎える熊本屈指の老舗「長崎書店」さんです!

    年齢や性別を問わず、たくさんの人々が集うこのお店の魅力は、なんといってもその企画力。熊本の文化の発信地として、本好きはもちろん、本にあまり興味がない人でもワクワクするようなイベントを数多く手掛けてきました。

     

    過去に長崎書店さんが企画したイベントの一部をざっくり紹介すると……

    ・イラストレーター・江口寿史さんに直談判をして展覧会を実施。商店街やテレビ局を巻き込み熊本市をあげた一大イベントに

    ・熊本にゆかりのある著名人100人に本をセレクトしてもらう「La bunko」では、一ヶ月で1800冊の本を売った。

    ・熊本を拠点に活動する画家・松永健志さんの展覧会では、イベント初日にはお店の前に70人の行列ができ、3日で全作品300点が完売。

     

    などなど、どれも本屋の枠を超えた素敵な企画の数々……!
    こんな本屋が自分の街にあったら、どれだけ生活が楽しくなることでしょう。

     

    次々と街から本屋が消える時代。長崎書店さんの取り組みに、街の本屋が生き残っていくためのヒントがあるかもしれません。

     

    というわけで、4代目社長の長﨑健一さんにお話を伺いました!

     

    話を聞いた人:長﨑健一さん

    1978年12月18日生まれ。熊本市出身。青山学院大学入学。2001年株式会社長崎書店入社、2009年同社代表取締役社長に就任。好きな作家は神谷美恵子、池田晶子、山崎豊子など。

    本一冊の利益が2割? 本屋を続けるのがほぼ不可能な時代

    「今日はよろしくお願いします!」
    「はるばるお越しいただき、ありがとうございます」
    「本屋さんの閉業が相次ぎ、実店舗を持つ店がもう全国で4桁台しか無いという話を聞きました。単刀直入に伺って、最近の本屋さんはどんな状況なのでしょうか?」
    「そうですね……。はじめにはっきり申し上げると、『出版社が出している本を取次から仕入れて売る』という、従来のやり方で本屋を続けていくのは……

     

    「ほぼ不可能な時代だと思います」

    「(一気に深刻な表情に……!)やっぱりそんなにヤバいんですか?」
    「日向さんは本が一冊売れた時、書店にどれくらいの利益が残るかご存知ですか?」
    「えーっと、5割くらいですか?」
    「残念ながら、実際はその半分にも満たない2割程度です」
    「に、2割!? じゃあ440円の単行本が売れても、本屋の利益は100円くらいってことですよね? 今までどうやって商売を成り立たせてきたんですか?」
    「もともと書店のビジネスモデルって薄利多売が基本で、毎週・毎月売れる定期刊行の雑誌やコミック本といった、回転率の高いもので利益を出すのが主流だったんです
    「1冊あたりの利益が少ない分、多く売って稼ぐと」
    「ええ。でも今は雑誌の廃刊や休刊が続いていますし、コミック本の売上も紙より電子書籍のほうが上回っている状態でして」
    「じゃあ『鬼滅の刃』みたいに紙も電子書籍も飛ぶように売れている作品は……」
    「もう、めちゃめちゃにありがたいですね」
    「やっぱりそうなんだ」
    「でも、あんな作品は10年に一回みたいなレベルですから……。それに加えて、今はAmazonもありますし、ブックオフのような中古販売店や、チェーン展開する大型書店も増えました。単純に本を手に入れるという点で見たら、街の本屋の必要性は年々減る一方なんです
    「コンビニでも雑誌や漫画を買える時代ですもんね……」
    「そうですね。ですから、よっぽど立地が良いところに自社物件を持っている、とかでない限り、今まで通りに本屋を続けることは極めて厳しい状態だと思います」

    『ただ本を売る場所』ではなく、『行くのが楽しみになる場所』へ

    「そんな厳しい時代において、なぜ長崎書店さんは130年という長い間、本屋を続けることができたのでしょうか?」
    「そうですね……。それに関して言えば、実際ここまで来られたのも、かなりしんどかったですね。それこそ、私の入社後、しばらくは業績が低迷を続け、存続の危機に直面する時期もあったんです」
    「え! そうなんですか?」
    「僕は高校を卒業後、東京の大学に進学しました。ですが、大学3年生の終わり頃に家業がかなり厳しい状態であることを知らされ、卒業を待たず熊本に戻ってきたんです。いまから20年ほど前の話ですね」

     

    「なんと……。やはり時代の変化があったのでしょうか?」

    「ええ、当時はインターネット販売も広まりつつあり、本の売り方が多様化していった時代です。熊本市内にも新しい本屋が次々とでき、長崎書店の売上は落ち込む一方で、店舗の老朽化も進んでいました。そこで、お店を全面的にリニューアルしようと決意したんです
    「どのようなリニューアルを行ったのでしょうか?」
    「店舗の内・外観の改装はもちろん、本屋としての経営方針も大きく変えました。当時、赤字の続いていた外商を辞めたり、スタッフの教育や本の品揃えを一から見直したり……。でもそれだけではまだオーソドックスな本屋のままですよね」
    「そうですね」
    「そこで一番大きな改革として、本の売り場を縮小して、その代わりにギャラリースペースを作ることを提案したんです」

     

    店内のほぼ中心に併設した5坪ほどのギャラリースペース

    「ギャラリー?あまり売上に繋がる気はしないのですが……」
    「実はこれには理由があるんです。イメージの話になりますが、僕は本屋ってすごく立体的な場所だと思っていまして」
    「立体的??」
    「本屋って基本的に誰でもふらっと入れる場所じゃないですか。別に何も買わずに出ることもできますし。つまり、入ることへの敷居は低いけれど、そこに置いてあるもの次第で、いくらでも深みや奥行きが変わる
    「たしかに他のお店に比べて気軽に入れる感覚はありますね。そのぶん思いがけない出会いが多いのかも」
    「だからこそ本屋を『ただ本を売る場所』と捉えるのではなくて、『行くのが楽しみになる場所』にすれば、みんなが足を運びたくなるんじゃないかなって考えたんです」
    「本屋に来てもらう理由を増やすのが目的だったんですね。たしかにふらっと訪れた先で素敵な展示をやっていたら、通いたくなっちゃうなぁ」

     

    取材時に行っていた「科学道100冊」フェアでは、科学に関する本がずらりと並ぶ。

    「本の在庫量や配送サービスで言えば、僕たちのような地方書店は、大手書店やネット販売にはかないません。その代わり、この熊本という地に足をつけて、その土地の文化や芸術を発信する拠点となれば、『街の本屋』としての価値も広がると思ったんです」
    「そのための一歩として、ギャラリーを併設したと」
    「ええ、とはいえ、私もスタッフもギャラリーの運営経験はなかったので、最初は本当に手探り状態からのスタートでした」
    「今までの企画の中で、なにか印象に残っているものはありますか?」
    「リニューアル後すぐに行った、熊本にゆかりのある100人にお気に入りの本を紹介してもらう『La!Bunko』というイベントでは、うちしかできないことを初めてできた気がして、本当に充実感がありましたね」

     

    2010〜2013年にかけて行われた同フェアでは、熊本市長や小山薫堂といったそうそうたる顔ぶれが参加

    「フライヤーも素敵ですね!」
    「このイベントは『メイドイン熊本』を意識して、フライヤーのデザインも熊本の方にお願いしたんです。そうやって地域の面白い人やものを伝えることも、街の本屋の役割の一つだと強く感じましたね」
    「イベントを通して、熊本の文化を発信したと」
    「あとは、2016年に行った江口寿史さんの展示も印象に残ってますね」

    「江口寿史さんって『ストップ!! ひばりくん!』や『すすめ!! パイレーツ』で有名なあの!? どういった展示だったのでしょうか?」

    「この上通商店街一帯を会場に、眼鏡屋には眼鏡をかけた女の子、楽器屋には楽器を持った女の子、といった具合に各店舗に合わせた作品を飾ったんです。商店街が江口さんのイラストで染まったのを見た時には、とても感動しましたね」

     

    展示イベントの様子。この他にも商店街のいたる所に江口寿史さんの作品が並んだ

    「商店街も巻き込んだんですね。でも江口寿史さんといったら、漫画・イラスト界の大巨匠じゃないですか! よく実現しましたね」
    「実はこのイベントを催す前の年に、江口さんの画集が発売されて、東京や京都で巡回展があったんです。ただ、ご出身である熊本ではなにも予定されておらず、そのことが僕はとてもショックで
    「縁のある地元でこそ開催すべきだと」
    「ええ。だから、東京で行われた出版記念のイベントに参加して、無理を承知でご本人に『熊本で巡回展をしたい』とご相談したんです。そうしたらすぐに快諾してくださって」
    「すごい、直談判したんですね!」
    「本屋の良いところは、本を通して出版社や作家さんとの繋がりを持てることなんですよね。本や画集を売る上でパートナーのような関係ですから、基本的には書店に好意的な方が多い。これもギャラリーを作ってから気づいたことかもしれません」
    「こうしてお話を聞くと、本当にユニークな取り組みですね。企画をする上で心がけていることはありますか?」
    「うちの場合、熊本以外で商売することは考えていませんので、とにかく地域の人達のニーズを汲み取ることは常に意識しています。この作家さんを呼びたいけれど、熊本の人は喜んでくれるかな、とか」
    「あくまでも地元の人達がどう受け取ってくれるかが大事だと」
    「そうですね。そのなかで得た知見をまた売り場や企画に生かして、お客さんに喜んでもらう。その繰り返しでしか続いていかないですよね。お互いに熊本の『文化の土壌』を育て合うというか

     

    「目先の利益を追うだけでは、長く続けられないと」

    「とはいえなかなか厳しい状況ですので、目先の利益を追わざるを得ないのも分かるんです。ただ、本屋を続けるのであれば『何のために続けるのか』に向き合うタイミングが、必ずくると思います」
    「長崎書店さんは何のために本屋を続けているのでしょうか?」
    「うちでいうなら、地元に根を下ろして『熊本の文化を育てる』という目的は大きいですね。だからこそ、お客さんや地域への理解を深めようという姿勢が生まれてくる。言うは易しですけどね(笑)」
    「そう考えると、本屋ってとても長い時間軸の中で商売をしているんですね……」
    「そうですね。でも、それを着実にやりつづければ、スタッフだって育っていくし、いくら電子書籍やネット書店がさらに大きな位置を占めるようになっても、きっとその土地ならではの価値を伝えられる場所になっていけると思うんです」

    「本を苦手な僕が、本を好きになれた」。本が持つ力とは?

    事務所に堂々と掲げられた社訓

    「あの、少し野暮な質問になるんですが、さきほど大学を中退して家業を継いだと仰ってましたよね。出版業界が厳しい状況に関わらず、なぜその決断ができたのでしょうか?」
    「それはやっぱり……、自分にとってのよりどころだったからですよね」
    「よりどころ?」
    「幼い頃から『長崎書店の健一くん』として周囲に認識されて育ってきて、そのことを誇らしく感じていたというか……。熊本に戻る時はとにかく家族と家業を守りたい、その一心だったと思います」
    「長崎書店が、長﨑さんにとってのアイデンティティのような場所だったんですね」
    「そうですね。だから、未だに『昔から本が好きで本屋を作りました!』という人にコンプレックスを感じる時もあるんですよ
    「え!?そうなんですか?」
    「もともと幼い頃は少年ジャンプとファミコンが大好きな少年だったので、どちらか言うと昔は本が苦手な方で……。そんな自分に本屋の社長が務まるのだろうか、と学生時代は不安もありました」

     

    「これまでのエピソードのあとにその話を聞くと、意外すぎますね」
    「でも、本屋で働くようになり毎日本に触れるうちに、若い頃には興味のなかったジャンルの本も読むようになったんです。それこそ仕事が切羽詰まっていた時期には、山のようにビジネス書を読みましたね(笑)」
    「ここなら、読む本には困らないですよね」
    「他にもたくさんのジャンルの本を読んで、それをきっかけに、物語の舞台になった場所を旅行したり、自分が好きな作家さんのイベントに行ったりと、自分の人生の楽しみ方が広がっていったんです
    「なるほど。本屋に勤めていたことで、本の魅力に気付くことができたと」
    僕のような元々本に興味のなかった人でもそうなれたと思うと、本屋ができることってまだたくさんあると思うんです。長崎書店がそういうきっかけを与えれるような場になったら、嬉しいですね」

    取材を終えて

    130年という長い時を超え、地元の人に愛され続ける老舗「長崎書店」。
    そこには、地元に根を下ろしたお店だからこその可能性を探りながら、「熊本の文化を育てる」という信念と気概がありました。

    長崎書店が灯してきた文化の明かりは、これからもきっと熊本を照らし続けることでしょう。

     

    そして、そんな本屋を残すために僕たちができること、それはまず本屋に足を運ぶこと

    とてもシンプルな答えですが、街の本屋にはまだまだ秘めた魅力があることを、長崎書店さんは教えてくれたように感じます。

     

    単純に本を買うだけならば、たくさんの選択肢に溢れる昨今。ぜひ今週末は近所の本屋に行ってみてはいかがでしょうか?

    そこにはきっと、思いがけない出会いや発見があるかもしれません。

     

    それではまた!

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    日向コイケ
    日向コイケ

    1992年生まれ、Huuuu inc.所属。 好きなものはHIPHOPとカツ丼と銭湯。四畳半の風呂なし物件で快適に暮らす方法を実験中。

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