「何もないの呪い」を、地元のリサイクルショップが解いてくれた

2021.03.24

「何もないの呪い」を、地元のリサイクルショップが解いてくれた

知らない土地でディープな面白いスポットを探すのって難しい。そんな悩みを相談すべく、地方のリサイクルショップを巡っているミュージシャンのVIDEOTAPEMUSICさんに取材。長野県・塩尻のお店をまわっていると、地元を面白がるコツが見えてきました。

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    こんにちは、ライターの友光だんごです。僕は日本各地を取材しているのですが、記事を読んだ人から言われるのが「よくあんな面白いスポット見つけたね!」ということ。

     

    「うちの地元、何もないから」と言われてしまうようなローカルこそ、ディープなスポットが隠れていることは多いです。僕も知る人ぞ知る場所をいくつも取材していますが、実は、狙って見つけられたことは少なくて。

    ほとんどが地元の方に教えてもらったり、偶然遭遇したことばかりなんです。

     

    でも、この「ディープな面白スポットを自力で見つけるのが難しい」って、僕のような仕事に限らず、皆さんに共通する悩みなんじゃないでしょうか。

     

    この情報化の時代、ガイドブックやネット上に「おすすめ観光スポット情報10撰」みたいな情報は溢れています。でも、そこには載っていない、もっとディープなスポットに行きたい……! そんな人が、このジモコロ読者にも多いのでは。

     

    これまで運よくディープな面白スポットに遭遇してきた僕としても、自分で見つける方法を知りたいんです。誰か教えて〜!!!

     

    そう叫んでいたら、とあるツイートを見かけました。

    元ラブホテルの浴室にぬいぐるみとV系バンドのポスターが貼られたカオスな光景は、1.4万以上のいいねが

     

    「どうやって見つけたの…???」と思わず声がこぼれるこのツイートの主は、ミュージシャンのVIDEOTAPEMUSIC(ビデオテープミュージック)さん。

    古今東西のビデオテープを素材に、映像と音楽を制作されている方のようです。プロフィールに「地方のリサイクルショップを巡り」ともあるし、この人なら「知らない土地でディープなスポットを探すコツ」を教えてくれるのでは?

     

    ということで、VIDEOTAPEMUSICさん(以下、VIDEOさん)とお会いすることに。長野で待ち合わせして、実際に現地をめぐりながら話をうかがっていきます!

     

    VIDEOTAPEMUSIC
    東京都在住。ミュージシャンであり、映像ディレクター。地方都市のリサイクルショップや閉店したレンタルビデオショップなどで収集したVHS、実家の片隅に忘れられたホームビデオなど、古今東西さまざまなビデオテープをサンプリングして映像と音楽を同時に制作している。VHSの映像とピアニカを使ってライブをするほか、MV制作、VJ、DJなど幅広く活動。映像ディレクターとしてはcero、CRAZY KEN BAND、坂本慎太郎など様々なアーティストの映像も手がける。

     

    まずはGoogleマップで「店名」をチェック

    待ち合わせ場所に指定されたのは、長野県の塩尻(しおじり)市から車で20分ほどの場所。ロードサイドのお店です。

     

    「今日はよろしくお願いします。ここは一体……?」

    「塩尻のなかでも特にお気に入りの食堂です。いい雰囲気じゃないですか?」

     

    「たしかに地元のお客さんでにぎわってますけど、今回はもっとディープなお店を知りたくて。あのツイートされてたみたいな……」

    「まあまあ、まずは腹ごしらえしましょう。ヂンギス定食が人気みたいですよ」

    「(ヂンギス?)」

     

    羊肉入りの野菜炒めがメイン。ガッツリ系のヂンギス定食

     

    「ヂンギスってジンギスカンのことだったんですね! おいしいですけど、それにしてもなんでこの店を知ってたんですか? たしかお住まいは東京でしたよね」

    「塩尻には昨年、ANAのとある企画で2週間くらい滞在してたんです。その間に地元の店をいろいろまわって見つけたうちのひとつです。前に来たとき、ヂンギス定食が人気なことも教えてもらいました」

    「VIDEOさん的に、この店のどこがビビッときたんですか?」

    「まず看板が最高じゃないですか。『安くてうまい食事のデパート』って。入ってみたら料理も美味しいし、いい店見つけた!と」

     

    「あとは入ってみたら、メニューもすごい数で」

     

     たしかにすごい数!!! 言われるまで気付きませんでしたが、定食の数が異常にある」

    「ね、メニューの多さからにじみ出るサービス精神を感じます。僕はライブで地方へ行くたびに、地元の面白そうなお店をひたすらまわってるんです。自腹で一泊して、ライブ翌日にレンタカーを借りてあちこち行くことも多いですね」

    「面白い店を探す情熱がすごい。そんなVIDEOさんに、店を探すコツを聞きたいんです」

    知らない土地へ行ったら、まずGoogleマップをしらみつぶしに見ます。国道沿いを拡大しながら、ひとつひとつ店名を見ていきますね。ここもGoogleマップを見ていて『食堂S.S』って名前が気になりまして」

    「Googleマップを拡大して、直接お店を探したことはなかったな……。店名で面白いかどうかなんてわかりますか?」

    店名には、店のできた年代やセンスが現れると思ってて。たとえば焼肉店の場合、『~~苑』みたいな名前だったり、店名に『慶州』とか『南大門』のような韓国の地名が入った店はとりあえずチェックします。歴史があるお店の場合が多いので」

    「そんな見方があったとは!」

    「中華料理屋でも『新京』みたいな今は使われていない古い地名がついていると、地元に根付いた歴史ある店と思って間違いないんじゃないですかね」

    「なるほど。でも、古い店ってハズレの場合もありませんか?」

    僕、あんまりハズレとか思ったことがなくて。この近くの別の食堂に行った時も、店のおばちゃんが自宅の居間にいるみたいなテンションで常連客とずっと梨を食べながらお喋りしてる。都会のチェーン店ではありえない光景だけど、むしろ落ち着くな~って隅っこでコーヒーフロートを飲んでました」

    「そこで落ち着けるとは、面白がり力(りょく)が相当だ……!」

    「偶然見かけた店の名前から、自分の曲名をつけることもあります」

     

    『ポンティアナ』は、埼玉の草加市にあるアロワナのお店『龍魚世界ポンティアナ』からとったそう。店の名前は、店主が買い付けに行っていたインドネシアの街「ポンティアナック」が由来

     

    「店の名前の由来を調べても面白いですし、店名ひとつとってもいろんな情報が見えてくるんですよ」

    「う〜ん、正直『そこまでディープでない店でも楽しめちゃう、VIDEOさんの面白がり力が異常なのでは?』と思ってしまっています」

    「じゃあ、次のお店を紹介しましょう」

     

    知らない土地では、海外系食品店を探す

    「(またちょっと地味そうなお店だな……)」

    「ここはABCブラジルマートといって、海外の食材や雑貨を扱うお店なんです。棚をよく見てください。外国語ばかりでしょう?」

     

    「ほんとだ! 海外のスーパーみたいですね。しかし塩尻の街になぜ?」

    「僕も気になって店の人に聞いたんですが、近所に大手企業の工場があって、ブラジルの方がたくさん勤めてたらしいんですよ。その方たち向けに、現地の食材や雑貨を集めたお店ができたと」

    「それで名前も『ブラジルマート』。でも、どちらかというと生春巻きの皮とかフォーとか、アジアの食材が多かったような?」

     

    リーマンショックで工場で働くブラジルの方が減り、代わりに現在はベトナムの人が増えたそうなんです。世界経済の変化で、お店の商品も変わっているみたいですね」

    「リーマンショックの影響を、こんな長野の小さなお店で感じるとは……」

    「世界の動きもですけど、店を通じてどんな土地が見えてくるのって面白くないですか? 『なぜここにこんな店が?』と疑問を持って調べていくと、土地のルーツや産業、文化につながっていくんですよ」

     

    「さっきの食堂S.Sにトラック運転手のお客さんが多かったのは、店が塩尻と木曽を結ぶ国道沿いにあって、輸送のための主要ルートになっているからだと思います。同じ道沿いにドライブインも何軒かありましたし」

    「たしかに駐車場にトラックがたくさん停まってましたけど、そういうことだったのか!」

    「店の立地の理由を考えていくと、面白いですよ。僕はブラジルマートみたいな海外系の食品店が好きで、知らない土地ではよく探すんです」

     

    ABCブラジルマートのイートインコーナーでは、ブラジルのローカルフードを食べられる。写真は、サクサクとした生地に具を挟んだ「パステル」。具は肉、チーズ、ヤシの新芽などから選んでオーダー可能

     

    「このブラジルマートにはイートインコーナーもありますけど、きっと、海外出身の方たちのコミュニティになってると思うんです。同郷の人と食事したり、繋がるきっかけになったり。母国の味に触れられる場所ってすごく貴重なんじゃないかなあ」

    「なんだかすごくいい店に思えてきました。でもVIDEOさん、ひとつの店からよくそれだけストーリーを引き出せますね」

    「その土地の暮らしを想像する手がかりは、いくらでもありますよ。リサイクルショップもそうです。最新家電や生活用品が売れ筋の場合、その街はそれなりの人口規模で、ファミリー層のお客さんが多いんだろうなとか」

     

    ABCブラジルマートの近くにある総合リサイクルショップ「スマイルサンタ 塩尻北インター店」。長野県内に9店舗あるローカルチェーン

     

    とはいえ農業用の鳥除けも売っているのが長野らしさ。まわりに農家の方も多い証拠

     

    「普通のリサイクルショップから、住民像をプロファイリングしてる! そんなに考えながら日本各地の店を回ってるなんて、ミュージシャンの域を超えてませんか? もはや研究者では」

    「いや、そんな小難しい話でもないですよ! この続きをお話する前に、最後にもう1軒行っていいですか? 僕が塩尻でいちばん衝撃を受けたリサイクルショップです」

    「もしや、ついにあの店……行きましょう!」

     

    VIDEOさんは2020年、塩尻にANA主催のアートワーケーション企画で滞在。地元の祭りや伝承曲を調べ、音楽と映像の作品を制作しました

     

    塩尻のディープスポット「元ラブホのリサイクルショップ」へ潜入

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    友光だんご
    友光だんご

    編集者/ライター。1989年岡山県岡山市生まれ。株式会社Huuuu 取締役/編集部長。犬とビールを見ると駆けだす。

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