千葉で生まれた「ミネラルじいさん」の土掘り物語

2020.09.16

千葉で生まれた「ミネラルじいさん」の土掘り物語

千葉県八街市にある「エコファームアサノ」の浅野悦男さんは、日本では珍しい西洋野菜やハーブを育てる農家。『プロフェッショナル』『情熱大陸』でも取材され、有名レストランのシェフたちが浅野さんの野菜を求めて畑を訪れています。”海賊シェフ” 鳥羽周作さんや“マッドサイエンティスト農家”山澤清さんとも親交のある浅野さんに、話を聞きました。

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    人類の失敗は核と原子力と栄養

    「日々栄養バランスのこと考えて食事してきたんですが、栄養は大事じゃないんですか?」

    「『栄養』なんて概念、元々はないじゃない。縄文人や弥生人は栄養を気にしてものを食べてた? 栄養学みたいなものが普及してるけど、そのわりにガンや成人病や、いろんな病気が増えてる。人類の失敗は核と原子力と栄養

    「そんなにダメなんですか!(笑) さすがに言い過ぎでしょう」

    「栄養はなくてもいいの、ミネラル分があればいいの。例えば馬を考えてみてよ。藁(わら)しか食べてないのに、あんなにムキムキになるんだよ

    「まあ、藁には栄養なさそうですね」

    「でもミネラルは含まれてるの。馬に栄養与えてたら、デブデブになってどうしようもないじゃん。近所の農場でも、藁に米のぬかと人参を入れて食わせてるよ。それでムキムキになるんだから……そうそう、人参はすごいんだ」

    「どうすごいんですか?」

     

    「そりゃもう、精力がつくの。繁殖期のサラブレッドは、種付け前になると人参をたくさん食べるの。それで繁殖させるんだよ」

    「じゃあ『馬の前に人参をぶら下げる』みたいな慣用句があるのも……」

    「夢中になっちゃうんだから」

    「そういうこと!? まあ、性欲と生命力に関係がある、というのはなんとなく想像がつきます。そこにミネラルが欠かせないと」

    ミネラルは自然が作るから、自然でとれる食べ物には含まれてるのよ。例えば土。土はミネラルが豊かだから、そこで育つ人参や芋なんかはミネラルがたくさんになる」

     

    「海水にもミネラルが含まれてるよ。なかでもさ、海洋深層水って知ってるかい?」

    「わかります。ジモコロでも以前、取材した記事がありますね。体にいい、すごい水ってイメージでした」

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    「生命が誕生したのは海でしょう? 海洋深層水の成分はさ、女性が妊娠した際の羊水の成分とほぼ同じと言われてるんだよ。塩分が少し多いだけ。だからうちでも海洋深層水を野菜にかけて育ててる

    「へえ! そんな農法があるんですか?」

    「いいや、実験だな。高知の室戸岬で海洋深層水を研究してるところに手紙を出して、提供してもらってね。それを薄めて野菜にかけたら、レストランのシェフから『今年の野菜、味がなんだか違いますね』と言われたんだ。繊細な舌を持ったプロからね」

    「海洋深層水で、野菜の味に変化が。さっき頂いた野菜の味、今まで食べたことない美味しさだったのは確かなんですよね。味が濃いのにえぐみがなくて、なにより『生命力!』って感じがすごかった……」

     

    「それも海洋深層水のミネラルだよ。海洋深層水で魚の養殖の実験をしたら、すごく成長したって話も聞くよね。うちは孫のミルクを溶くのも、おむつ交換でお尻を拭く時も室戸の水を使ってた」

    「お孫さんはミネラル育ち。じゃあ、僕がこれまで取材してきた漁師さんの生命力に満ちた体は、海のミネラルでできている?」

    「そうだね」

    「山の猟師の生命力も、ミネラルたっぷりのジビエを日々食べているから……?」

    「うん」

    「室伏広治のあの肉体も…………?」

    「全部ミネラル」

    「(それはほんとかな)」

     

    「話を戻すとさ、俺は室戸の海洋深層水を畑に使ってるでしょう。千葉でも汲み上げる計画があったんだけど、中止になっちゃったんだ。でも、その土地で汲み上げたものを、その土地の野菜に使えばいいのよ。本当はね」

    「『地産地消』みたいなことでしょうか」

    「山形から奥田くんが来た時も、俺は言ったんだ。『地元にいい食材があるのに、なんで千葉まで来たんだ』とね。せっかくその土地にしかないものがあるのに、どこにでもあるものを使っても面白くないじゃん

    「東京は店も娯楽も食べ物も何でも揃っていて、だから魅力を感じるって人は多いと思います」

    「東京じゃないと仕事もなくて生活ができない人は、いたらいいよ。でも、そうじゃない人は地方に行っちゃえばいいじゃない。地方のやつが『地元が過疎で〜』って言うのを聞くと、バカじゃないって思うのよ

     

    「俺からしたら、東京が一番過疎だもん」

     

    「東京が、過疎……? 人はたくさんいませんか?」

    いくら人がいっぱいいても、繋がりがない。それは過疎じゃん。人間社会なんだから、人の繋がりが一番大事なのよ。コミュニティがないとね。俺は過疎って言ってる田舎の人に『なんでここをベンチャーフィールドって言わないの?』って聞くよ」

    「『何もない』と思ってるけど、そんなことはないよと」

     

    野菜じゃない、草じゃん

    「余計なイメージや物差しに惑わされてるのよ。野菜もさ、なんで野菜っていうの? 野草(やそう)と野菜(やさい)の違いを考えてみてよ」

    「え、何でしょう……人の手が加わっているかどうか?」

    いや、字が違うだけだよ

    「なぞなぞじゃないですか!(笑)」

    「これはいつも言ってるんだけど、子どもにウケるよ(笑)」

     

    「(いい笑顔……)」

    「でもさ、本当に野菜なんて草だと思ってるから。人間が勝手に名前をつけてるだけ。今の野菜は味が薄いとか香りが弱いとか言うけど、そういう風に人間が品種改良したからだよ。勝手だよね」

    「そういえば、前にジモコロで取材した野口さんも、同じようなことを言ってました」

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    「野菜は根付きのまま、丸ごと食べるのが一番ミネラル吸収がいいの。だけど市販されてる野菜は全部根を切られてる。肝心なところを捨てちゃうんだから」

    「土からミネラルを吸収してる根を……」

    「そう。米もヌカを取っちゃうしさ。米のヌカにはミネラルがいっぱい含まれてるから、玄米は体にいいんだよ」

    「へええ。まあ、どんどん『きれい』なものを求めていっちゃってる傾向はあるかもしれませんね。不揃いな野菜を避けて、形がきれいなものを選んだり」

    土に近いものが体にいいはずなのに、近代国家になった瞬間から『土は汚い』って言い始めた。それがおかしいんだよ」

     

    多摩川の河川敷に生えてる草は、誰も肥料や水もやってないのに元気じゃない。でも、野菜は人間が世話をしないといけないし、虫に食われたり病気になったりする。それって、余計なことをするからバランスが崩れてるんだよ」

    「品種改良をして、人間に都合のいいように変えていって……」

    「そう、人間のエゴだよ。環境が整って、ちゃんとミネラルとか必要なものがあれば、勝手に育つ。それを『野菜』っていうから、みんな肥料をあげたくなるの。俺にとっては草だもん」

    「そう言われたら、そんな気がしてきました。野菜は『おいしい草』だった。『栄養』もしかり、いろんな概念じたいをそもそも疑ってみる、みたいなことなんですね」

     

    元気の秘訣は「何でもぜんぶ、丸ごと食べる」

    「今日お話を聞いてて、浅野さんのパワーに圧倒されてます。何食べたらそんなに元気でいられるんでしょう。やっぱりミネラルですか?」

    ミネラルは大事だけど、それだけ食べてもダメなんだ。『補助剤』がなきゃ

    「補助剤? サプリとか?」

    「そんな人工物じゃないよ。例えばカルシウムをとるなら小魚だけど、ナッツと一緒に食べるのがいい。なぜかと言うと、カルシウムを吸収するのに、ナッツに含まれてる他のミネラル成分が助けてくれるから」

    「ああ、なるほど。食べ合わせみたいなことですね。吸収を助ける、別の食べ物があると」

    「でも結局、何でも食べるのがいいよ。野菜でも果物でも肉でも、人間が食べ物だと位置付けたあらゆるものをバランスよく、全部食べる。1日に30種類の食品を食べようっていうけど、1回10種類食べればいいんだから」

     

    「じゃあ浅野さんも、バランスよく何でも食べてます?」

    「そうだよ。自分の野菜も食うし、店で買ってきたものも食う。ホッケを買ってきたら、頭から尻尾まで全部食べちゃう。みんな行儀がいいから骨を残すけど、よく焼けばきれいに全部食べられるんだから」

    「その全部も!(笑)」

    「なに言ってるの。カルシウムを吸収するのに小魚がなんでいいかというと、内臓も骨も丸ごと全部食べちゃうからなんだ。野菜なら根まで食べるし、何でも全部食べればいいの。エビやカニもそう。いま流行ってる昆虫食も、丸ごとだからミネラルがとれるのよ」

    「野菜の根や魚の骨、食べずに捨ててたなあ……」

     

    「ミネラルは自然でしか作れないんだよ。人類の発祥より、地球ができたほうが圧倒的に前でしょう。よく農業の話をするときに『土づくりはどうするんですか?』って聞かれるんだけど、『土が作れるわけない』って言うんだ

    「人工的に、土は作れない?」

    「人間が生まれるよりずっと前から、土はあったんだから。なのに、それを作るなんて馬鹿げてる。ましてや先人から受け継いだ土を壊したりしちゃダメなんだ。作れないんだから、大事に守っていくしかない。成田闘争って知ってるかい?」

    「生まれる前のことですけど、なんとなくは。成田空港を作る時に、滑走路になる予定の土地の方との衝突があった……」

    「俺は該当地域じゃなかったんだけど、成田で農家やってた同世代の人たちは、みんな当事者だよ」

    「じゃあ、反対デモが身近にあったんですね」

    「知り合いの農家さんに、なぜやるのか聞いたの。そしたらこう言ってた。『空港に反対してるんじゃない。満州から引き揚げて、血の滲むような思いで開墾した畑を、突然明け渡せって言われたからなんだ』と」

    「その畑の土は、よそでは作れない……」

    「そう、いい畑の、いい土だったんだから。土を人間がどうこうしようなんて、おこがましいよ。手をかけなくていいの。いい土で育てれば、野菜は自然とおいしくなるの

     

     

    「いやあ……いろんな話をありがとうございました。この記事を読んで、浅野さんの野菜を食べたいと思う人がいると思うんです。若い子も気軽に行ける店があれば、最後に教えてもらえませんか?」

    「そうだね、六本木の『ブリコラージュ ブレッド&カンパニー』がいいんじゃない? うちの野菜を使ってる店のなかではリーズナブルだし、若い子も行きやすいんじゃないかな」

    「僕も行ってみます!」

    「うん、今日は色々言ったけど、俺も50年農業をやってきて、一番多い野菜でも50回しか作ったことがない。まだまだ勉強中だし、新しいものを知りたいと思ってる。また遊びに来てよ」

    「ありがとうございます。また来ます!!!」

     

    おわりに

    後日、「ブリコラージュ ブレッド&カンパニー」さんに行ってきました。写真は「ファーマーズサラダ 夏野菜と沖縄TESIOのモルタデッラ」(1400円/パン付き、ドリンク別)。

     

    浅野さんの作ったサラダゴボウ、落花生、シチリアナス、黄色ビーツ、アロマレッド人参、キオッジャが使われたサラダは野菜の味が本当に濃くて、美味しい!

     

    常時6〜7種類のエコファームアサノの野菜を仕入れているそうですが、内容はその時ごとに変わります。メニューも季節ごとに変わるため、ぜひ足を運んで、その時季の味を楽しんでみてください。

     

    浅野さんにお会いしたのは、ちょうどコロナの噂が聞こえ始めたころ。その後、感染が拡大するなかで、どうにも不安から逃れられない日々を過ごしていました。しかし、この記事を書きながら浅野さんの言葉と再び向き合い、僕はなにか救われるような気持ちになりました。

     

    おいしいものを(できればなんでも、全部)食べて、日々すこやかに生きていく。そうしてまた、浅野さんの畑に遊びに行こうと思います。

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    友光だんご
    友光だんご

    編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。犬とビールを見ると駆けだす。

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