この数十年、カメラ市場をけん引してきたデジタルカメラ。1995年に生まれた革命的機種・QV-10(カシオ)を皮切りにして一気に浸透。フィルムカメラよりも手軽に撮れて、高画質化や高機能化とともに、一世を風靡してきた。

 

しかし、スマホカメラの高画質化で世界は一変。

 

かつて売れ筋だったコンパクトデジタルカメラの伸び悩みなどが響き、デジタルカメラの出荷台数はピーク時の約7%で、出荷金額も同22.5%ほどにとどまるカメラ専用機を持たない人も増えた。

 

一般社団法人カメラ映像機器工業会より

 

近年ではコロナ禍で外に出にくい環境も試練となり、オリンパスなどはカメラ事業を譲渡してしまったほど。

 

しかし、 そんな中でも、「売れているカメラ」はたしかに存在するという。

 

スマホ時代に、「高くて重い」カメラは果たしてどう対抗できるというのか? ひそかにカメラファンである筆者は、それが聞きたくて中野へ向かった。

 

JR中野駅前の風景

 

 

中野にある、カメラ愛好家の聖地といえばフジヤカメラだ。2階建ての本店・動画館・用品館・ジャンク館の4店舗からなり、朝10時台からファンでごった返す。

 

そんな朝早くから応対してくれたのが、フジヤカメラ本店の店長・塩澤規雄さんだ。彼の口から、このような業界の現状をどんどん語ってくれた。

 

・8年前の機種がいまだ人気上位?コンパクトデジカメ

・撮り鉄に「コンパクト望遠機」が売れる

・店長の愛機はiPhone 12?

・カメラを殺すスマホと「共存」の道を選んだ

 

まずは「スマホ時代のカメラ界」の現状について聞こう。

 

フジヤカメラ本店の店長・塩澤規雄さん

 

カメラの売り上げは下落。中古人気が高まる

広々とした本店1階

 

辰井「スマホが発達して、デジカメの苦戦が伝わるこのごろですけども、お店の売り上げはいかがですか?」

塩澤「まず、ピークが2014年くらいです。そこから年々下がっていますね。ミラーレスも含めたデジタル一眼レフの2021年の売り上げは、ピーク時の1/3ほどでした

辰井「厳しい状況ですね……」

塩澤コンパクトデジタルカメラ、いわゆるコンデジのピークは2012~2013年。そこから約1/5まで下がりました

辰井「……逆に上がっているものはありますか?」

塩澤ないです

辰井「ない?」

塩澤強いて言えば中古は下落が少ないですね。材料費の高騰で新品のカメラは値上がりしているんですが、そこで安い中古の出番が増えた印象です」

 

店頭には「価格改定」の文字が目立つ

 

売れなくなったコンデジと、まだ売れるコンデジ

辰井「かつてカメラ市場をけん引していたコンデジ、5分の1って相当減りましたよね……。なぜ売れなくなったんですか?」

塩澤「スマホの発達が原因です」

辰井「やはり……!」

塩澤「いつも持ち歩くスマホで、きれいに写真が撮れるようになりましたから」

辰井「それでも売れているコンデジはありますか?」

塩澤「最近はセンサーサイズが大きくて高画質なものが売れます。最低でも1インチ。たとえばソニーのRX100や、リコーのGRシリーズとか」

辰井「Webライターも御用達のRX100シリーズ!」

 

RX100。1型センサーを積んだ大ベストセラーカメラ。デイリーポータルZなどのライターがよく使う

 

塩澤「あとはCOOLPIX1000とか。125倍光学ズームですよ

辰井「すごい! 最新のiPhone 13 Proでも光学ズームは3倍ですから。一芸のあるコンデジはまだ売れているんですね」

 

塩澤「ただし量販店では、とにかく安いコンデジが売れるそうです。たとえば9800円ぐらいで今売られている、キヤノンのIXYとか。とりあえず安く買いたい人向けに」

辰井「IXY、かつて憧れでしたよね。とくに中田英寿のCMが印象深くて。当時は中田が好きで、IXY DIGITALにすごく憧れました」

塩澤「かっこよかったですよね、スタイリッシュで」

辰井「当時お金がなくて、自分は中古で安いカシオの200万画素デジカメで済ませていましたが……かつて一世を風靡した往年の中古コンデジは売れますか?」

塩澤「いえ。今のカメラに比べて機能やスペックが落ちるので。安いコンデジがほしい方には売れますが、売上はわずかです

辰井「正直、だいぶ昔のコンデジだと、『今のスマホのほうがいい』って写真も多いですからね……だからハードオフで500円とかで売っているんですね」

 

2022年4月3日現在、価格.comの「デジタルカメラ人気売れ筋ランキング」で7位のDSC-WX350。2014年3月発売(画像提供:フジヤカメラ)

 

辰井「ちなみにコンデジって、古い機種が軒並みランキング上位にいますけど……なぜですか?」

塩澤『単に新しい機種が出ていない』のがあると思います。売れる台数が限られてきたコンデジは、新機種を作りづらいですからね」

 

スマホ時代でもカメラが必要なワケ

辰井「よく『スマホカメラがあれば、普通のカメラっていらないんじゃないの』っていう声もありますが、どう答えますか?」

塩澤『いらないです』とも言えます

辰井「ええ?」

塩澤「それで間に合っている人なら。ただクオリティにこだわるなら、やっぱりカメラ専用機は違います。わかりやすいのは先ほどもチラッと出た『センサーサイズ』ですね。大きければ大きいほど高画質で撮れますから」

 

センサーサイズ表。あくまでセンサーサイズは画質を決める要素のひとつであり、「フルサイズに負けない絵作りをするAPS-Cのカメラ」なども存在する(表は筆者による)

 

辰井「スマホのセンサーサイズも大きくなっていますが、スペース的に限界がありますからね」

塩澤「ええ、ピントが合ったものをより鮮明に写せますし、表現の質が変わります。ボケの大きさも変わりますし、暗所でのノイズが出にくくなりますよ

辰井「悪条件だと違いがわかりやすいかもしれませんね」

塩澤「あとはF値を変えて写り方を調整できますし、ズームレンズを使えばデジタルズームに頼らない連続ズームができます

辰井「たしかにスマホだと背景のボカし具合は擬似的にしか変えられないですし、画質が劣化するデジタルズームを使わざるを得ないですからね」

 

カメラはF値を変えることによって表現の幅が出る(図は筆者による)

 

店長は「iPhoneだけで済ませる」?

辰井「ちなみに、どんなスマホをお使いですか」

塩澤「iPhone 12 pro maxです」

 

辰井「画質の評価が高いですよね」

塩澤「実はiPhoneで動画を撮るのが趣味なんです。手ブレが少ない動画をサクッと撮れますから」

辰井「iPhone 12は、夜の撮影にも強いと聞きます」

塩澤「あとはとにかく、手軽ですね。正直これだけで済ませることも多いです(笑)

辰井「(笑)。それでも、カメラを持ち出すのはどういうときですか……?」

塩澤「結婚式とか。よりきれいに思い出を撮りたいときですね。あとは望遠で撮りたいとき

辰井「先ほど『125倍光学ズーム』のカメラもありましたが、望遠はまだまだカメラが強い領域なんですね」

 

一眼レフ→ミラーレスに急速に移行するワケ

ミラーレス一眼(左)と従来の一眼レフ(右。画像提供:フジヤカメラ

 

辰井「そもそも、なぜ一眼レフからミラーレス一眼へと急速に移行しているんですか?」

塩澤「ひとつは、コンパクトなカメラへの需要です。ミラーがない分小さくできますし、ミラーレスのほうが構造上もシンプルにできるので、画質を高めやすいんです」

辰井「そうなんですか?」

塩澤「ええ。レンズの設計の自由度も上がるので、レンズ職人からは『すごくいいレンズが作りやすくなった』と聞きますね」

辰井「このジモコロの担当編集者、最近一眼レフのEOS 6D Mark IIを新品で買ったんですよね……ちょっと遅いんでしょうか?」

塩澤「キヤノンの一眼レフは『EFレンズ』というレンズがたくさん市場に出回っています。かつてプロがみんな使っていたようなレンズも中古で安く売っているので」

辰井「資産がたくさんあるわけですね」

塩澤「いいものを安く買えて、現役でも使えるんです」

 

左は、キヤノンのフラッグシップ一眼レフで事実上・最後のモデルともいわれる、2020年発売のEOS-1D X Mark III。右が筆者の担当編集者・友光だんごが社用カメラとして愛用するEOS 6D Mark II

 

ビデオカメラはなぜ消えた?

あまり売れなくなったビデオカメラ

 

辰井「ちなみに最近、ビデオカメラをあまり見ない気が……?」

塩澤「ハンディカムタイプのビデオカメラは売れなくなりました。一般のミラーレスカメラで4K動画が撮れるので」

辰井「カメラ1つで間に合う?」

塩澤「ええ。画質を決めるセンサーサイズも小さいので、動画の画質ですら劣ってしまうんですよ

辰井「ビデオカメラの得意な動画ですら叶わなくなったら、衰退しますよね……」

塩澤「ですが、メリットもあるので細々と残っています。片手で軽く扱えて、ズームは強いですし。あとはテレビでもよく使われるGoProが使われますね」

 

若者に「静かなフィルムカメラブーム」が来たが……

辰井「スマホ時代の若者に、売れているカメラってあるんでしょうか?」

塩澤フィルムカメラを探しに来る若者は増えました

辰井「ほお! フィルム独特の写り方ってありますよね」

塩澤「少し前は高いカメラが売れましたけど、いまはグッと安い、1万円前後のコンパクトカメラが売れています。カメラとレンズが一体型のものですね」

 

フィルムカメラでの写真。この質感が、若者に人気

 

辰井「若者はフィルムカメラを何に使っているんですかね?」

塩澤「最近は現像に出すとき、写真データももらえるので、Instagramに上げるとか

辰井「へえ、写真しかもらえない時代じゃないんですね。ちなみに当時フィルムカメラを買っていた世代はもう買わないんですか?」

塩澤「いえ、昔の憧れのカメラがいま何分の1かの値段で買えるので、『それなら』と買う中年の方もいます」

辰井「じゃあ、フィルムカメラは売り上げを支えていますね」

塩澤いえ、割合は少ないのでそこまでではないです

辰井「経営を下支えするほどではないのか……」

 

YouTuberと撮り鉄が支えるカメラ市場

辰井「YouTuberさんが使う動画機としては、好調ですか?」

塩澤「『YouTuberです』って言って買いに来る人は少ないので、わからないですけど……動画機能を気にして買う方は増えましたね」

辰井「たとえばどんな機種が売れますか?」

塩澤「SONYのα7シリーズや、パナソニックのGHシリーズ。『パナチューバー』という言葉があるほど、パナソニックのカメラを使うYoutuberは多いですね。当社でもGH-5などが人気の機種になりました

 

辰井「HIKAKINやはじめしゃちょーも、一時期はこぞってGH5を使っていましたからね。撮り鉄需要はいかがですか」

塩澤「上々です、撮り鉄の方は多いですから」

辰井「どんなカメラが売れていきますか?」

塩澤「連写が速くて、フォーカスの追従性が高いカメラです。たとえばキヤノンのEOS 7D Mark IIやニコンのD500、オリンパスのマイクロフォーサーズ機など」

辰井「センサーサイズの小さいコンパクトな一眼が人気?」

塩澤「ええ。フルサイズで望遠システムを組むと超高額で重くなってしまうので、小回りの利く機材を選ぶ方が多いです

 

(画像提供:フジヤカメラ

 

スマホと「二台持ち」がカメラの生きる道

辰井「カメラ専用機はどうなると思いますか?」

塩澤スポーツや報道の現場ではなくならないとは思います。デジタルズームで画像が劣化するのは致命的ですから。あとは広告です

辰井「それは画質の問題ということ?」

塩澤「ええ。広告に求める画質のクオリティは高止まりするはずですから」

辰井「意外な用途でカメラが売れている例はありますか?」

塩澤「数は多く出ないですが、工事現場用のカメラがあります。防水防塵防滴で、落としても壊れないタフな1台です」

 

リコーのG-900。26方向からの2.1mからの落下試験にクリアするなど、過酷な現場に対応。工事用電子小黒板機能も搭載する(リコーPDFより

 

辰井「存在を知ったら使いたい人も出そうですね。ちなみに、半導体不足は深刻だと聞きますが……」

塩澤大変です、売りたくても売れない……ソニーなんかはかなりの機種で受注停止になりました

辰井「ただでさえ売れ行きが落ちて苦戦しているのに……」

塩澤「新品がないので、仕方なく中古で間をつなぐ人が増えましたね。あとはなんといってもコロナです。一時は客足が途絶えましたから」

辰井「大変な中を生きてこられたんですね……今後、カメラの生きる道はどこにありますか?」

 

スマホに連動できるカメラが増加(画像提供:フジヤカメラ

 

塩澤スマホと共存の道です。写真を楽しむツールとして、スマホもカメラも存在してくれるように」

辰井「もうスマホは手放せないですからね」

塩澤「スマホとつないだWi-Fiやライブビュー機能はありますけど、もっと便利な使い方は模索していってもいいのかなって」

辰井「現状ではWi-Fi接続ですら面倒くさいですよね。結局SDカードでやりとりしちゃうんですけど、もう少し何とかなってほしい」

塩澤「ええ。ソニーはXperiaシリーズで、スマホをカメラのモニター代わりにする機能を出していますし、スマホを持つことありきで、さらなる使いやすい便利機能が待たれますね」

 

辰井「フジヤカメラさんの生きる道はいかがですか?」

塩澤「当社は新品も中古も扱うんですが、十分使える、中古のカメラの魅力を知ってほしいです」

辰井「ファンからすれば宝の山ですよね、中古市場」

塩澤「ええ、最新のものと遜色ない性能が安く楽しめますから。それを理解していただければ、当社としてもやっている意味があります」

辰井「カメラブーム、来てほしいですね」

塩澤「『こんな写真の楽しみ方もいいよ』って。それを提供できるのが我々、カメラ店なので」

 

スマホカメラはこれからも発達を続け、カメラ業界はさらなる窮地を迎えるかもしれない。

それでもカメラファンだけが見られる、スマホだけで完結しない未来の姿がある。それを見たい人が多くいれば、カメラ専用機が織りなす楽しい世界は末永く続くはずだ。

 

取材協力:フジヤカメラ