こんにちは、ライターのロマンです。「コイツ、なんてゴキゲンな顔で、ビールを持っていやがるんだ!」と、お思いの方もいらっしゃることでしょう。今の僕もそう思います。こんな風に酒場で酒が飲めるのも、いまや懐かしい風景になってしまっています。
もちろん、ビールを愛していますし、なにより酒場を愛しています。ただ、そういった安直なお話をしに『ジモコロ』へやってきたのではありません。
僕は、東京の出版社に就職後、雑誌の編集者として働いていたのですが、勢いで独立して何のツテもない大阪でフリーランスとしてのキャリアを積みました。そのキャリアの大半は、酒場で出会った街の先輩の力ぞえにより培えたものです。そう、関西は街と仕事がとても密接な街なのです。と、まあ前置きはこのへんにさせていただいて……
今回は、僕の大阪への移住を後押ししてくれた雑誌。そして、その雑誌をこさえるボスとお話をするために、この場をお借りしています。
京阪神を中心に販売されている雑誌『MeetsRegional』。合言葉は、ゴキゲン
そう、僕がなんとしてでも紹介したい雑誌というのが、関西の街と酒場についてを30年間記録してきた月刊誌『Meets Regional』。
30年と一口に言っても想像しづらいかと思うのですが、これまで『Meets Regional』が取材したお店はおよそ3万6千軒。総取材人数は驚異の36万人(※)。とにかく街と人、そして酒場を膨大な数取材してきた雑誌なのです。
※1軒あたり5〜20人が登場。
で、そんなマンモスローカル雑誌『Meets Regional』がどんな本なのかと申しますと……
①街をフックに企画を盛り込んだ、パンチのある誌面構成。
酒場で日々交わされる乾杯のシーンを軸としたゴキゲンなページ作りに加え、街単位で物語を作る、読み物ページ。更には「レゲエの聖地でもある大阪・堺エリアで、窪塚洋介さん(※)に飲み歩いてもらおうよ」という理由で、街に窪塚さんを召喚した飛び道具ページ。……と、オモロければ、なんでもアリなパワフルな誌面が特徴。
※俳優の窪塚さんは、レゲエシンガー・卍LINEとしても活躍
②力のある写真やイラストで、読者を惹きつける表紙。
「たまご」特集の際に浅野忠信さんとcharaさんの娘で、モデルのSUMIREさん(たまご好き)を起用するなど、特集のテーマに合わせたタレントの起用や、涼やかな料理の写真。表紙のためにわざわざ特攻服に刺繍を施した号、漫画家の書き下ろしイラスト……と、表現方法は数あれど、書店やコンビニで目に入った瞬間に『Meets Regional』と、わかるものばかり。
③読者と街、そして飲食店を巻き込んだリアルイベントの開催。
読者の方を抽選で1000名招待し、全員で乾杯するという狂気のイベント『酒祭』。数多の酒造メーカー協力のもと、街の飲食店やイベント、そして読者が一堂に会す宴を開催していたり……と、とにかくヤバいんです。
とはいえ、関西は雑誌の桃源郷というわけではなく、多分にもれず雑誌不況の波は、襲来してしまっているのです。僕が知る限りでも、この数年の間にいくつかの雑誌が廃刊・休刊へと追い込まれています。
では、『Meets Regional』は、なぜ無くならないのでしょうか。
そしてコロナ禍のいまとなっては、この雑誌が主戦場としている"街の酒場"も苦しい状況になっています。僕は、酒場も雑誌も大好きです。だから、もしこの時代に店と雑誌が生き残る術があるのだとしたら……
「めちゃくちゃに知りたい!そんでもって全力で伝えたい!!!!」
と、いうわけで雑誌を愛する男として『Meets Regional』編集長の松尾修平さんに、お話を伺ってきました。
松尾修平(まつおしゅうへい)
『Meets Regional』編集長。兵庫県生まれ。2002年、京阪神エルマガジン社に入社。『Lmagazine』編集室の音楽担当などを経て、2008年より『Meets Regional』編集室。同誌副編集長を経て、2019年より現職。
※新型コロナウイルスの影響により、2020年11月に取材した内容を元に、2021年6月に追加取材した内容を加えて記事化しました。取材時の写真については、撮影中のみマスクを外しているものです
超現場主義編集長は、酒場をダサいと思っていた
「今日は、宜しくお願いします!」
「昨日ぶりやね。ロマンくんはうちの雑誌に企画を持ち込んでくれたり、編集としてページを持ったり、ライターとしても活躍してくれているわけやんか。もっといえば、毎週遊ぶ飲み友達でもある。なんか変な感じやなぁ、こうしてうちの応接室で話すんも。ちょっと待ってな……」
「こんな機会、あんまりないからね、飲み仲間に送らな」と、おもむろにスマホを持って僕の顔を撮り始める編集長。これが、日常です
「僕の写メはどうだってええんですよ。今日は、松尾さんに『Meets Regional』(以下、ミーツ)の話を聞きに来たんですから」
「せやった、せやった。で、今日は何の話を聞きに来たの?」
「まずは、聞いてください。創刊30年目を迎えた『ミーツ』ですが、これだけ雑誌不況が叫ばれる時代にも関わらず、街の酒場ではみんなが『ミーツ』の話で盛り上がっている。これって、異常なことやと思うんです」
「たしかに、そうやね」
「で、この異常な状態にこそ、10年ほど前から囁かれている雑誌不況の突破口。そして、ローカルメディアの可能性みたいなもんが潜んでいるのではないかと」
「熱いなあ。いつもふたりで飲んでいるときに、この話死ぬほどしてるやん。こうして、わざわざ呼び出さんでも」
「まあ、そうなんですけどね。今日はふたりでいつも話していることをしっかりまとめて、全国の方へ伝える会やと思ってください!」
「わかりました」
「松尾さんはミーツの編集部に入って10年。それまでは、今は休刊している『エルマガジン』の編集部にいらっしゃったんですよね。その当時から、酒場へ出向いていたんですか?」
『Meets Regional』を発行する京阪神エルマガジン社から発刊されていたカルチャー雑誌『エルマガジン』
「ぜんぜん。むしろ『酒場ってダサない?』って思ってました」
「ほんまっすか?」
「当時は、音楽ページを担当していたので、毎晩クラブやライブハウスに入り浸っていたんですよね。それが仕事だったこともあって、酒場へ出向く時間がなかった。まあ、なんも知らんかったってのが本当のところやね」
「そんな時代があったとは。これ、初耳っす」
「ただ、クラブやライブハウスで飲みだすうちに、酒を嗜むオモロさには気がついていってて。先輩に勧められた店に、ちょこちょこ顔を出すようになったんですね」
「松尾、酒場デビューですな」
「これはあとから気がついたことなんやけど、行く店行く店で、“今月の『ミーツ』はよかった”、と話している人に出会うことが多かった。もっといえば、“『ミーツ』の〇〇さんがさっきまでいてたで”、と聞くこともすごく多くて」
「『ミーツ』やそれをこさえる編集者は街に認知されていて、話題にもあがっていた……と」
「せやねん。これは、雑誌を作る上で可能性がとてもある話なんですね」
「可能性?」
「『エルマガジン』は、最先端の音楽やカルチャーを扱う雑誌で、とても素晴らしい雑誌だった。もちろん、それを応援してくれる人はいたし、今でも『復刊しないの?』と言われる。ただ、雑誌というのは売上部数だけじゃなく、広告収入もあって続けられる世界なんですよ。売れない本には広告がつかないし、結果として出版できなくなって、廃刊してしまう」
「悲しいけれど、それが現実ですね」
「でもね、『ミーツ』はそうじゃないんですよ。主語が街や酒場、そして酒やご飯だから需要が消えない。だからちゃんと広告が入るし、部数も多い。酒場文化、ローカル、紙媒体、この3つが絶妙にかみ合っているんです」
「なるほど」
「で、登場人物も街にいる人。それにね、今の関西は街の人、酒場の人がかっこいい時代やから」
「なるほどなあ。それで言うと、昨年のファッション第二特集『街の人と春の服』は、まさにそうですよね」
毎年、春と秋にファッションを題材に第二特集を展開。昨年の春は街の人、そして酒場に生息する人が、モデルに
「そうそう。普通にモデルが着るのでは『ミーツ』らしくない。ロマンくんは酒場や街をよく知ってるからわかるやろうけど、見た目はもちろん生き方もイケてる人が多い。特別な人やモデルを起用しなくても、街にスターがいるやん!ってね」
「『ミーツ』らしい形ですね。これ、僕がライターさせてもらったんですが、本当にみんなかっこよくて。ずっと、興奮していたなあ」
読者に諦められている。30年で3万6千軒を取材した、ミーツの現在地
「ここで、改めて質問です。松尾さんにとって『ミーツ』とは」
「また、急やな。ヘタですか。インタビュー」
「ヘタでしたね。でも答えてもらいます」
「いろんな人に諦められている雑誌です」
「?????」
「わかりづらいよね。うーん……、“『ミーツ』がやるなら、しゃーない” ってのが、読者や取材先のみなさんの根底にあるんですよ」
「と、いうと?」
「『ミーツ』は30年で、3万6千軒近いお店を取材しているんです。その長い歳月と膨大な取材を通して、雑誌のキャラクターを構築し、街へしゅませて(※)いる。で、そのキャラクターというのが、ゴキゲンでヤンチャ、そして『コイツの言うことならしゃーないし、許したるか……』という立ち位置」
※しゅませる……関西の方言で「染ませる」の意
「なんとなくは解ったんですが、もう少し詳しく聞かせてください」
「例えば、飲食店の取材に行くとするじゃないですか。普通なら、ご飯やお酒が美味しかったという店の話を主題に記事をつくりますよね。でも、ミーツの場合は違う。酒場にいてる人の話が9割で、残り20文字だけ、店のことを書く。そんなこともあるわけです」
「店側からしたら『取材に来たはずやのに、なんでやねん!』と、なるのではないでしょうか」
「その『なんでやねん!』を許してもらえる雑誌が『ミーツ』。苦情じゃなくて、ツッコミですね」
「でも、ツッコミされるポジションに立つのって相手との関係が大切ですよね?」
「そうなんですよ。例えば、ロマンくんと僕は『あーでもないこーでもない』と、くだを巻きながら酒場で杯を交わし、仕事も一緒にしている。今日の取材もそんなふたりの関係性から生まれていますよね」
「ですね」
「酒場でも、仕事でも同じやけど、僕がツッコミなこともあれば、ロマンくんがツッコミなこともある。これは二人で過ごした時間や濃度、そして二人のキャラクターがあるからこそ生まれている関係性ですよね」
「たしかに。一国の主とも言える、松尾さんに夜中に電話をかけて呼び出すなんてことを普通にしていますが、これも関係性があるから……か」
「せやね。『ミーツ』の場合は、幾人もの編集者がその看板を背負って、街や酒場に足を運び続けてきた。言うなれば、街に抱かれ続けてきた。そうして街とミーツの関係性が強固になった。だから、街や酒場、そして読者とツッコミあえる関係へ昇華できたワケです」
たまご特集内の企画「ウフマヨに夢中。」こちらの企画で、一番大きく扱われている写真は街の人がウフマヨをカットするシーン。つまり、主語は「街」と「人」
「そもそも、雑誌をつくりながら、街にこれだけ体重をかけるのってしんどくないですか?」
「体力はいるよね」
「改めて聞きますが、松尾さんっていったいどういう一日を過ごしているんですか?」
「朝7時に起きて、1時間くらいランニング。10時くらいに出社して11時まで自分の仕事をする。それ以降は、編集部や他部署とのミーティング、取材なんかを20時くらいまで。で、飲みに出ます。長ければ朝まで。基本的には、これの繰り返しです。ただ、今はコロナの影響で街に繰り出す機会が減りましたけどね」
「鉄人だ」
「まあ、太い情報は街にしか落ちていないし、酒場は会議室みたいなもんですからね。会社にずっといるより、よっぽど濃い情報が転がっている。だから、通い続けているんです」
「なるほどなぁ〜」
「ロマンくん、一個提案なんやけどね。こうして二人で応接室で話すのもいいんやけど、今から街の人たちに会いに行かへん? 酒場の人からみた『ミーツ』の話のほうが、よっぽどおもろいと思う」
「よし、行きましょうか」
「せっかくなので、『ミーツ』でもイジってる大阪で今一番面白いエリアに行きますか」
「うっす!」
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