豊かな自然の中で、いつもの暮らしを営める。そんなキャンプ場を、なぜ都市圏でホステル事業を展開してきたBackpackers’ Japanが始めたのか?
ジョンさん、石崎さん、教えてください!
自然の中で感じた心地よさを、日常に持ち帰ってほしい
「これまでホステル事業を展開してきたBackpackers’ Japanがキャンプ事業を始めたのには、どんな経緯があったのでしょう?」
「キャンプ事業は新規事業を社内公募したときにジョンから出た案だったのですが、キャンプ場をやりたいわけじゃなくて、人と自然が接続するための事業をやりたいという想いから出てきたことが一番印象的でした」
「形としてはキャンプ場だけど、本当にやりたいことはもっと別にあって、それが見えたという。『人と自然が接続するための事業をやりたい』という思いとは?」
「人と自然の話で言うと、僕自身は趣味のダイビングを通して船のデッキに上がったときに風の気持ちよさを知ったのですけど。でも風の気持ちよさって海の上だけじゃなくて、街の中でも同じように感じられるものですよね」
「窓を開けたり、自転車を漕いだり」
「そうそう。そういうふうに日常の中でも、自然の中で感性が働いて心地よさを感じられる瞬間があるはずなんですけど、都市と自然との物理的な距離からなのか、それが少なくなっているように感じていて」
「本来はあるはずのものが見えない状態になっている、あるいは、働くはずの感性が鈍くなってるみたいな」
「とも言えますし、自然がどんどん遠いもの、非日常になっていっている感覚がありました」
「都市に住んでいる多くの人が、なんとなく抱いている感覚かもしれないです」
「だからこそ、自然の中で『心地いいな』で終わるのではなく、その感覚を日常に持ち帰って、日常の中にも自然を通して心地よさが生まれる瞬間を増やしたかったんです」
「私たちが日常の中で感じられなくなっている感覚を、日常に取り戻すんだと」
「そうです。たとえば、街に帰っても、サッと風が吹いたら『風って気持ちいいな』という感覚を呼び起こして、自分のものになった状態で街のなかで生活できるとか」
「遠出してお金と時間をかけなくても、街の中で本来あるはずの自然を感じられる。それってすごく豊かなことですよね」
「自然と都市はコインの表と裏のように表裏一体で、分け隔てられているものではないことを感じてもらいたくて、istは『普段の暮らしを自然の中で』を掲げ、Hutやラウンジでそれが体現できるようにしています」
「それと、僕はこれを聞いたとき鳥肌が立ったんですけど。ジョンが新規事業を提案する中で、『キャンプをした人が、家に帰って花瓶に花を飾るような生活を送ってほしい』と言っていて」
「キャンプをした結果どうなってほしいかまで見えてるっていう」
「それもあるし、今、キャンプが流行っているからキャンプ事業をやる、ではないところにオリジナリティを感じました。社会に送り出す事業として価値があるのか決めるときに、僕は事業を起こす人の信念を一番大切にしたくて、ジョンからそれを感じ取りました」
効率性に寄らずにつくる「人の想い」が滲み出る、Backpackers’ Japanの空間
「istは『人と自然が接続する』ための事業であり、その機能を特に強く持っているのがHutやラウンジとのことですが、空間づくりにおいてこれまでBackpackers’ Japanが手がけてきたNui.やCITAN、Lenなどと通じるものはありますか?」
「istの空間すべてに言えることは、そこで働く人たち、つくった人たちの想いが込もった空間になっていること。それは、Backpackers’ Japanが手がけてきた空間との最大の共通点だと思います」
「そうですね。大工さんとは共同生活をしていて、窓一枚のつくりにしても、『こうしたい』という思いを日々伝え合っています。Hutにもラウンジにも、開け閉めができない大きな窓を大工さんにつくってもらいました。それは、窓を通して一枚の絵画のように風景を見せたかったから。開け閉めができるようにしちゃうと窓枠が景観を損なってしまうと考えたんです」
nestの窓
「River Bサイトにあるnestは、Nui.からBackpackers’ Japanに関わるヒロさんという大工さんがつくってくれたんですけど、ヒロさんはもともと、『キッチン横の窓はつけないほうが落ち着いた空間になるからつけたくない』と言っていたんです。でもそこは僕の『このエリアのこの角度だから見える、美しい夕陽を見せたい』という想いを汲んでくれて」
「お互いに意図を伝え合って、納得して」
「そうです。逆に、キッチンとダイニングテーブル両方の機能を持つ一枚板をヒロさんが『曲げたい』と言っていたとき、Backpackers’ Japanは『真っ直ぐのほうがいいんじゃないか』と思っていた」
「でもそこにはヒロさんの、『曲げることで料理する人と食べる人が向かい合うことができて、料理する人がひとりにならない』という思いがあって、僕らも納得したんです」
一つひとつに機能を持たせた段差にもヒロさんのこだわりが現れている。「普通はキッチンとテーブルは別々の高さでつくるけど、段差で足元の高さを変え、一枚につなげて使えるように。また、3段の段差を人工的に見せるのではなく、この地形の等高線がそのままここにあるようなイメージでつくっています」
「初めから『こういう形にする』とどちらか一方が決めているわけではなくて、つくりながら対話をして、一緒にいい空間づくりを目指していくというスタンスなんですね」
「つくる過程だけでなく、そもそも同じエリアに同じ設計の建物を入れたほうが効率がいいけど、効率性だけを重視してつくるのではなく、広大な土地の特異性を活かしながらその場所その建物からしか見られない景色や過ごし方を提供したいという想いが一番にあるんです」
大工さんとのやりとりでは、「ラウンジの天井を貼ってくれたアユミさんの言葉も印象的」とジョンさん。「作業中にふと、『ジョンくんは何をもってこの事業をやっていて、どういう空間をつくろうとしているの?』と聞いてくれた。そういうことを聞いてくれることが、すごく好きだし、気持ちいいなと感じた」
「だから僕は、Backpackers’ Japanって半分くらい大工さんたちつくり手の力でできあがっていると言ってもいいと思ってる。そしてそうやって一緒につくりあげる空間は、自分たちの『愛情』や『哲学』、『こだわり』など思いを込められる場所で、その想いを橋渡しできるものだとも思っています」
istの大工さん。左から、アユミさん、ヒロさん、テッセイさん。「ここに来ている大工さんは、音楽で言う『ジャムセッション』のようなことを自然とやっている人たち。譜面のない状態で誰かがリズムを刻み始め、そこに対していろんなメロディーを合わせていくように空間づくりをしていると思います」とテッセイさん
「この窓の先に広がる景色が素敵だ、ずっと見ていたい、という感動は、僕らだけではなく来た人も感じ取ってくれるものだと思います。Hutやラウンジがあることで、僕らは自然ついての思いや、大工さんがその思いを汲んでつくってくれたことを語ることができる」
「だからこそまずは、来てみてほしいし、Hutに泊まってみてみてほしいとイチ宿泊者として思いました。来たら感じ取れるものがきっとあるはずだ、って」
「ラウンジもHutも、そこに説明は必要なくて。来た人がなんかいいなと思ってくれればもうすべてが滲んでいると思うんですよね」
「キャンプ目的ではない地域の方や隣県の方でも遊びに来てくれる場でありたいですし、自然の中で過ごす気持ちよさが普段の暮らしにつながるものを、これからもっと増やしていけたらいいなと思っています!」
おわりに
たくさんのマイナスイメージからキャンプを遠ざけていた自分が、「istにまだまだいたい」という気持ちになったことに驚きました。
それは、Hutやラウンジを通じて、ストレスフリーに過ごしながら自然を楽しめたことにあるのかもしれません。
それを可能にしているのが、暮らしの快適さを担保しながらも生活と自然を断絶せず調和させようとする、絶妙な空間づくりにあると感じました。自然を絵画のように見せる一枚の窓、等高線をイメージしてつくられた段差など、言語化されていない細かな部分にそれは現れています。
istにはHutやラウンジをはじめとした、キャラクター豊かな自然へと好奇心が向かう仕掛けがまだまだたくさんあります。標高1300メートルに広がる自然が、眠っている好奇心の扉を開いてくれるist。ぜひ訪れてみてください!
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