「ブックブックこんにちは! この番組は……」

「東京・神楽坂『かもめブックス』の僕、柳下恭平と!」

「札幌・北18条『Seesaw Books』の神輝哉。僕たち二人の書店店主が、毎週水曜日に、好きな本のことを話す30分のpodcastプログラムです」

 

《目次》

    1. 「街」と「町」の違いって?
    2. 神さんの止まらない札幌おすすめガイド
    3. 柳下さんのおすすめ神楽坂ベスト
    4. 「あなたの知らない、あなたの街」の本3

 

 

「街」と「町」の違いって?

「いやぁ、神さん。街ってなんなんでしょうね。『町』じゃなくて『街』

「僕の思うところなんですけど、何かしらの歓楽街的なものを擁した場所なんじゃなかな。スナック以上の色気がある、猥雑さなども混然となっているようなのが『街』というイメージですね」

「人口規模の大きさだけでなく?」

「そうですね。ビジネスだけじゃなく、買い物するエリアがあり、文化があり、飲み屋もある。それぞれのエリアが区分けされていながらひとつになっている感じが街なんじゃないかなぁと思うんです」

「たしかに。今回のテーマは『それぞれの街』なんですけど、町と街って意外と使い分けてますよね」

「僕が札幌について語る時は街の方を意識しています。まぁ札幌も広くて、地下鉄の沿線に飲み屋街もあるので、少し郊外に近づいてくると町という雰囲気かなぁ。東京はどこまでも街な気がしますけどね

「でも中野とかは街と町が混ざっている感じがするなぁ。グラデーションというか。青梅街道沿いは町の感じがありますね」

「たしかに」

「申し遅れましたが、今回はジモコロ連載第3回であり最終回です。言うのすっかり忘れてた! すでに日本酒3合飲んでるからな。そういえば飲みながら、天ぷらって東京っぽいかも、って話をしてましたね」

「そうそう。あとはトンカツも東京のものかもなぁと。白木のカウンターがあって、白い割烹着で職人さんがいて、それぞれの持ち場があって。そういうの、札幌にはあんまりない」

「大阪にも金沢にももちろん天ぷらはあるけど、なんとなく東京の感じはします。江戸時代の天ぷらはもっとフリッターみたいな衣だったという話もありますよね。棒が刺してあって、職人さんたちがパパッと3本くらい食べて次に行くみたいな」

「トンカツは明治以降の東京の歴史を食べている、天ぷらも歴史を食べている感じがします」

「そんなわけで、今回は『それぞれの街』というテーマで話しながら本も選んでいこうと思います!」

 

神さんの止まらない札幌おすすめガイド

「はい、ここではじまります! それぞれの街自慢のコーナー!」

「そのままガイドブックになるような紹介をしていきますよ! これから紹介するお店に顔を出してみたり、飲みに行ったりご飯食べに行ったりしてもらえればと思います」

神さんが札幌を、僕が東京を、それぞれの街の最高なところを紹介していきます。それではまず、神さんから」

「ではまずはSeesaw Booksを起点に考えようかな」

「北18条というエリアなので、札幌駅から見て北の方ということですね」

「まず前提として、札幌という街はグリッドになっているんです。大通りがゼロと考えて、東西南北に1条、2条、3条と数えていきます。まず北18条でSeesawBooksを出て歩いて2〜3分のところに『米風亭HOSODA』という油そばが有名なお店があって、『パイ&クレープ クローバー北18条店』というのも歩いて10秒」

米風亭は札幌に4店舗ある。写真は狸小路1丁目のL字の通りにある「米風亭アマノ」。窓ガラスに映る雪の多さが札幌らしい

「映画の紹介とかもしているコーヒー屋さんもありましたよね?」

『時計のない喫茶店』ですね!丁寧に淹れたこだわりの珈琲を飲ませてくれるお店で、映画の上映もやってくれたり。あとは『石田珈琲店』もこのエリアでは長らくやられているお店です。

それからママカフェ&バー『ログ』も。ここは3階建てで、キッズスペースもあるママカフェなんだけど3階はダンスフロアで、DJブースもあって、夜になると客層が僕らに入れ替わっちゃうというお店もありますね」

「どうしよう、神さんの勢いが止まらない」

「あぁ、『ハヤシ商店』もいいですよ。シゲっていうナイスな店主が実家を店に変えて、世界各国の料理を出している店なんですけど」

「知ってそうで知らない料理ばかり出てきて面白いですよね。地元の人のためのトラットリアみたいな感じの雰囲気で」

「そうそう。東京って地元の人のための、地元の料理屋さんがあるじゃないですか。それだけで成り立つほどの規模のお店って札幌には多くはないけど、『ハヤシ商店』は地元に愛されている感じがします。

他にも『ソプラッチリア』という道産食材にこだわった料理屋さんもあって。ここは札幌駅にだいぶ近いかな。この近く、札幌駅西口から出て3分のところにある『ROGA』というカフェのパフェも美味しいんだよなぁ。こちらは地元の顔的なお店だと思います。あ、『サムズカリー』も! みんな店主が面白い人が多いです(笑)」

北海道産の食材にこだわる「ソプラッチリア」

「そこ行った! 鳥のやげん軟骨とトッピングで『バクダン納豆』があるスープカレーの店ですね」

「カレーでいえば『デストロイヤー』とかも大人気です。かかっている手間とか色々考えるとありがたいお店です」

「これ、今気づいたけど取り留めもないな。とりあえず飲み屋街で有名な狸小路まで行きますか」

「駅を跨いで大通りまではビジネス街なんですよ。色々あるんですけど、サラリーマンの方が仕事帰りに一杯とか、接待で使うようなお店が多いんじゃないかな。大通りを渡ってから、俺たちの店が出てくる」

「僕の大好きな『KUMADE』はこのあたり?」

「そうです! 南一条ですね」

ナチュールワインの品揃えも豊富な「KUMADE」。店主のつよしさんは「ブックブックこんにちは」のヘビーリスナー

「札幌のビッグマザーとして知られるKUMADEの店主・つよしくん、大好きなんだよなぁ。ナチュラルワインで知っている人も多いんじゃないかな。全部のシチュエーションに使えるお店ですよね。ご両親の顔合わせから、高校生のデートから、やんちゃなやつまで含めて」

「そこから東に進むと、僕の大好きな『米風亭アマノ』も。ここは店主も最高だし、音もいいんです。あと、そのエリアだと日本酒とアテのおいしい『うつけ』、アイヌ料理の『ケラピリカ』、うちでも一時宿のへルパーをやってくれていた、なおきがやっている『グル』『きんとと』『DORRY BAR』というお店もあります。

さらに東の外れまで行くと僕と同い年のマスターがいて、音楽好きが集まる『ほっこりカルチャーセンター』という名酒場も。(タカ、結婚おめでとう!)あ、『BLANK』『NELD COFFEE CLUB』も忘れちゃいけない。キリがないな……」

『バービリジアン』も好きなんだよなぁ。ウイスキーがおいしくて」

「ごうくん、いつもお世話になっています。『ビリジアン』が入っているのはエムズビルヂングという建物なんですけど『おんど食堂』『ELtope』『食堂ブランコ』『和酒マオフ』なんかにもお邪魔することがありますし、その近隣には『baR menta』『dining bar ISLAND』や『BIA HOI カタコト』も。」

「たしか、イタリアンの美味しいところもありましたよね」

「『FORK』ですね。渡り蟹のパスタがまたおいしくて……」

 

☆記事に登場するおすすめスポットは、記事の最後にマップ形式で紹介しています!

 

柳下さんのおすすめ神楽坂ベスト3

「あのぉ、神さん、そろそろ東京もやらせてもらっていいですか(笑)?」

「そうでした! まだまだ、ススキノ方面のお店もいっぱいあるんですけどね(笑)。時間の関係で辿り着けない」

「聞いてて思ったんですけど、札幌がグリッドで長方形の街だとしたら、東京は同心円ですね。環八、環七とかありますけど、皇居を中心として、内堀通りが環1、外堀通りが環2、未開通だけど、外苑東通り、外苑西通り、明治通り、山手通り、と環状3から6まである。江戸城を中心とした同心円上の街なんです」

「たしかに! 東京で店を選ぶとしたらキリがないですよね。でも柳下さんのお気に入りを知りたいなぁ。銭湯でもいいから! 東京は独特の銭湯カルチャーがありますよね」

「神楽坂の『第三玉乃湯』はいいですよ!」

通りから少し奥まったところに潜む銭湯「第三玉乃湯」

「さすが柳下さん、やっぱり神楽坂!」

「今はなくなっちゃったけど、神楽坂に『くらら劇場』と言うピンク映画館があったんですよ。そこに『ギンレイホール』という映画館もあって、3週間から半年前にかかった映画もかかるし、名画も上映するし。それも2022年に閉館してしまいました」

ギンレイホール跡地。右側には「くらら劇場」の面影も

「よく使うのは、『竹ちゃん』『竹子』。無限のキャパシティがある居酒屋です。今から10人いけますか? って言ってもいける。イベントの打ち上げに便利で。あとは神楽坂上の交差点にある『伊太八』というラーメン屋も、なんか行っちゃうんだよなぁ」

 

「あなたの知らない、あなたの街」の本

「今日は神楽坂で収録しているんですけど、お上りさんきぶんで盛り上がっちゃってるなぁ」

「調子に乗りすぎましたね(笑)」

「さて、今週の選書テーマは『あなたの知らない、あなたの街の本』です」

「つまり、僕が札幌の本を神さんに、神さんが東京の本を僕に紹介するということですね。では僕から。こういうときは定番でいいなと思って、札幌といえばいくえみ綾さんとかいろんな漫画の舞台にもなっているんですけど、東直己さん著『探偵はBARにいる』です」

「はいはい、ススキノ!」

「当て書きというわけではないけれど、映画版は大泉洋さんと松田龍平さんのダブル主演で。二人を見ているだけでも画が持つという。映画観ちゃうと、意外と読まないまま終わる小説な気がしているんですけど、これね、面白いんですよ」

「たしかに」

「小説読んでから映画を観ても想像ができるし。たとえばハリーポッターはどっちが先がいいとか議論があると思うんですけど、『探偵はBARにいる』はどちらが先でもいい」

「映画か原作かってたしかにどちらが先かは迷いますよね」

「もう一冊、同じく東直己さんの著書で、もしかしたら古い本なので手に入りにくいかもしれないのですが『札幌刑務所4泊5日』というルポルタージュがあります」

「札幌刑務所を体験したくて、ちょっと悪いことをしたんだとか……。ハードボイルドだけじゃなくて、神さんが知らない、意外に読んだことのない札幌の本なんじゃないかなと思って挙げました。ちなみに花輪和一さんの『刑務所の中』も北海道ですね」

「僕の方は、東京の本を考えたときにエリアごとに生まれる作品も違うなと思って。中央線で生まれる漫画・小説と、浅草など東側だと違うんじゃないかなと思うんです」

「あぁ、たしかに全然違いますよね。神さん、今回はどのエリアに?」

「東側にしました。選んだのは、古今亭志ん生の著作『なめくじ艦隊』です。並んだ長屋をなめくじに例えて表現しているんですけど、古今亭志ん生の自伝ですよね。無茶苦茶な生活を送っているのに悲壮さを感じさせないカラッとしたユーモアが面白くて」

「落語は札幌より東京の方がイメージ強いですね」

「そうそう。札幌でも落語はあるんですけど、まさに東京の文化という感じがします。東京で寄席の前を通ったりするだけで『本当にこういうのがあるんだ!』って気持ちになっちゃいますもんね」

「そうか、それは東京っぽさの一つかも」

「あとは『東京ラブストーリー』。昔、僕はドラマから入りましたけど、どちらかというと漫画の方が印象が強くて。当時すごい大人に感じたけど、今見たら27歳とかで若いんですよね。社会人になって数年ちょっと。だけど時代性があって、バブリーな感じも描かれていて」

「たしか後日談とかもありますよね。それでいうと安野モヨコさんの『ハッピー・マニア』もいいよなぁ」

「あともうひとつ、東京に出たら、僕、まずは海外に一人旅しようと思っていたんです。親元から離れて自由だ!という解放感のせいだったのかな」

「なるほど!」

「東京は世界のゲート、みたいな雰囲気があって、高架下にタイ料理屋さんがあったりして。アジアの中の東京という気持ちにもなる。そういう点で、高野秀行さんの冒険ものとか。アジアなど旅行先のことを書いてあるけど、畳敷の部屋で読んだりするのが東京の思い出というか」

「都築響一さんの『TOKYO STYLE』とかね。えっと、落語の話に戻ると、僕は関西に行くと桂枝雀師匠の本を漁ったりするんです。それに比べると東京の上野・浅草あたりの長屋育ちの話とかはたしかに東京っぽいですね。廓(くるわ)育ちの桂歌丸師匠とかも東京だよなあ」

「そうそう」

「はい、ということで、なんにもまとまりませんでした! 今回は、本当の意味ですみませんでした! ありがとうございましたって言おうとして、すみませんが先に出ました!」

「終わりにしましょう、飲みにいきましょう(笑)!」

 

◉神さんの「札幌」おすすめガイド

◉柳下さんの「神楽坂」おすすめガイド

 

☆今回の収録の音声版が、Podcast『ブックブックこんにちは』でも聴くことができます。
視聴はこちらから

構成:山本梨央