「ブックブックこんにちは! この番組は……」

「東京・神楽坂『かもめブックス』の僕、柳下恭平と!」

「札幌・北18条『Seesaw Books』の神輝哉。僕たち二人の書店店主が、毎週水曜日に、好きな本のことを話す30分のpodcastプログラムです」

 

ジモコロはポッドキャストと相性がいい!

「今日はゲストがいらっしゃっています! 友光だんごさんです!」

「どうもこんにちは。ジモコロ編集長の友光だんごです」

「声がいい!」

「いきなり褒めてくれた! お世話になってます!」

「こちらこそお世話になってます。ジモコロ自体がすごくあったかいメディアで、オーナーがアイデムさんで、Huuuu班編集長の初代が(徳谷)柿次郎くんで、だんごちゃんが今の編集長をやっていると。運営元のアイデムさんも素敵なひとたちで、この連載の第一回『10代の居場所の作り方を見つける本』への担当者さんのコメントが素晴らしかった」

「ジモコロのようなオウンドメディアでは、記事チェックの返答がわりとビジネスライクな方もいらっしゃって。でもアイデムのジモコロ担当・藁品さんは、本当に第一の読者みたいな最高の感想をくれるんですよね」

「『自分だったらこんな本を10代に薦めたいです』と柳美里さんの『ゴールドラッシュ』と舞城王太郎さんの『阿修羅ガール』を挙げてくれたんですよね。いいセレクトだったなあ」

「自分だったら、と考えてくれるのがうれしいですよね」

「ね。私ならこれをすすめるかもなぁっていうのが僕らからあんまり見えていないので、そういった意味でも嬉しい感想だなと思って見ていました」

「そして原稿を読んで、ジモコロってポッドキャストと相性がすごくいいんだなと気づきました。顔アイコンと鉤括弧のセリフの掛け合いで見せていくので、それってポッドキャストじゃん! と」

「じゃあもしかしたらジモコロがポッドキャスト化することはあるかもしれないですね」

「ジモコロだったら、各地の方言をめちゃくちゃアーカイブしているメディアにもなりますよね」

 

読書は人生のリハーサル

「さて今回は、だんご編集長からのどうしても相談したい悩みと思いがあるそうですが」

「そうですね。人生の大先輩二人に聞いてほしいことが……」

「そういえばだんごちゃん、前に『僕の最近の悩み聞いてください』って言うから心配して『大丈夫?』ってきいたら『まぁ最近は山場は超えたのと、UFO見たんで大丈夫です』って。長野の山奥でUFOみたらちょっと元気になったらしいんですよ」

「……」

「元気になりすぎて、記事も書いちゃいました」

「ジモコロはUFOを見たっていうことを記事にできる稀有なメディアですね」

「ちなみに僕もUFOを見たことがあります」

「え!!! 神さんも。僕だけ見たことなかった……その話もめちゃくちゃ掘り下げたいところですが、一旦だんごちゃんの相談を聞きましょう。もしかしたら『イエティ見た』とかかもしれないし、」

UFOが落ちた現場! ……ではなく、ニセコの温泉を眺める柳下さんと神さん

「僕、今年の5月にジモコロの新編集長になったんですよね。そのときに、いかに自分の色を出すか、というところに悩んでいまして」

「ちゃんとした悩みだった! どうしよう! ちなみにどういう方針で考えてるの?」

「読者の方にとって、生き方の選択肢を増やすメディアではあると思っているんです」

「うん、うん」

「僕自身、ジモコロを通じて本当に色んな面白い生き方をしている人たちに会ってきて。たった一つの正解を提示するんじゃなくて、『人生にはこんな無限の選択肢があるよ!』というのを、特に若い人にお見せできるようなメディアにしたいんです」

「いいじゃないですか」

「だからこう、イメージとしては『ワームホール』なんですよね」

「ワームホール? また急にSF用語が」

「すみません(笑)。Huuuu班ではジモコロ記事の編集方針として『入口は広く、奥行きは深く』を心がけてたんです。それを図にすると『T』の字の形だったんですけど」

「ほうほう」

「でも、最近『T』の先がある! と気づいて。入口は広く、奥行きは深く。その先に、全然思いもよらなかったくらいの別の世界が広がっている……って記事が理想だなと。それってワームホールなんですよ!!!」

SFなどにたびたび登場する「ワームホール」。時空のとある一点から、別の遠く離れた一点へと瞬時に移動するトンネルのような領域を指す。「違う世界へジャンプできる、すごいトンネル」とイメージしてください!(だんご)

「二次元の『T』から、三次元の世界へ。一気に広がりましたね」

「とにかく『知らない世界へジャンプできる』記事を作りたい! ということです。お二人って、そういうことを『本』に対して感じることはありますか?」

「前に『柳下さんってなんでそんなにたくさん本を読むんですか?』って言われたことがあって。考えたことがなかったんですよ。逆に、なんで読まないんだろう?って」

「ほうほう」

「たとえば、僕らが今バンドを組んでいて、ここからステージに立つときにはリハーサルをしますよね。でも人生は一回しかないからリハーサルができない。でも、火星の本を読めば火星で生きるためにはこうしたらいいかも、ってわかる。シェイクスピアなんかを読んでいても感じますけど、物語を読むだけで人生のリハーサルができると思うんですよね」

「人生のリハーサル。なるほどなぁ」

 

知らない世界にジャンプをすることは、人生にとって正解なのか?

ジャンプと言えば、スキージャンプ。札幌オリンピックで使われたジャンプ台で記念撮影。

「たとえばお二人の考える『これを読むと知らない世界にジャンプしたくなる本』ってありますか?」

「ジモコロを読んでいる人たちが外に出ていくための一冊、みたいな感じですかね?」

「そうですね。ただ本を読んでるだけじゃなく、何か行動を起こしたくなるくらいの本というか」

「では、僕の一冊から。水野敬也さんの『LOVE理論』です」

「これは端的に言うと、どうやったらモテるかっていう本なんですよ。それだけだったらおすすめしないんですけど、巻末がすごく良くて」

「本編より巻末がおすすめポイントなんですね」

「本編ではずーっとLOVE理論が展開されていくわけですよ。で、最後の最後に、それでももし君がモテなかったら、この袋とじを破けと」

「袋とじ! 中、気になりますね」

「ネタバレを避けて話すと、『理論だけじゃなくアクションを起こせ』というメッセージなんですね。実際に行動するかどうかにかかっている、という」

「恋愛だけに限らない話ですね。気になる人にはとりあえず連絡したり会いに行ったりして、それで人生変わったみたいな人は過去の取材でも何人もいたなあ」

「あとは『ストーナー』という、大学教員がただ生まれて死ぬまでの本。たまに恋に落ちたり、カラフルなストーリーも生まれる。でも基本的にはただ生まれて、いろいろあって死んでいく話

「10代の子が読んで面白いかはわからないんですけど、何も知らない世界にジャンプしない人の話なんですよね。人生として有意義ではないけど、読みごたえのある物語になっていて。人生って、もしかしたらそういうものなのかなって」

「たしかに。ジャンプすることが正解とは限らない……

「そうそう。あとは『自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝』という、ジャンプするにしてもほどほどにしておけよ、という本です。最初にウニやナマコ、キノコを食べた人とか、先人のジャンプによって生かされているな、と」

「面白いなぁ。それぞれの層に向けてセレクトされてますね」

 

今までの当たり前の基準に、一本の線を引き直すことも大きな前進

「じゃあ僕の選んだ本も。まずは『古くてあたらしい仕事』。島田潤一郎という人の出版社の話です。本が成り立つときって、出版社のいろんな部門が、いろんな人の力を借りて、っていうのが必要だと思うんですけど、立ち上がる時はひとりでもできる、という。しみじみと背中を押される本として紹介しました」

「背中を押すっていうのも大事ですよね。自分自身のジャンプだけではないというか」

「ですよね。もう一冊は、不良少女とかにおすすめな『うらおもて人生録』。色川武大名義で書かれている人生相談の本です。出来の悪いという言い方がいいのかわからないけれど、学校から弾かれた子達にめちゃくちゃ愛を持って接しているという本で」

「へーーー!」

「僕の選書はちょっと地味だなと思うんですけど、ジャンプという言葉って『どーん!』と華やかに飛び立っていくイメージがあったんです。でも、やっぱり自分にはそんなことはあまり現実にないというか。宝くじでも当たらない限り、億万長者にはなれないわけで」

「まあ、そんなにわかりやすい変化って意外とないかもですね」

「僕がSeesaw Booksを始めるときも、柳下さんとか、いろんな人が背中を押してくれた。何かを動かすためには行動しかない。あと、水木しげるさんの自伝もいいですよね。彼も歳をとって、たしか40~50歳になってから食えるようになってるんですよね」

ついつい満腹に食べすぎちゃう二人。20代の神さんが通ったラーメン屋さんを再訪し、満腹になる神さん

「『アンパンマン』のやなせたかしさんも、60〜70歳でデビューしてますもんね」

「ジェンダーの話とかわかりやすいですけど、今まで当たり前だと思っていたことに線を引き直すというのもありますよね。それを背負いながら基準を引き直すことで一歩前に進めるんじゃないかとか。これってまぁまぁしんどいんですけど」

「メイ・サートンが書いた『ミセス・スティーヴンズは人魚の歌を聞く』というのも、二人の若い人がインタビューについて聴きにいくという本なんですけど、メイ・サートンは同性愛者なんですね」

「この本は1993年に出ているんですが、この時代にカミングアウトするという前例があまりなかったので、当時メイ・サートンという人格がすごく攻撃されたんですよ。ジェンダーとかも、偉大な先輩たちが積み上げてきたものなので、アクションを起こしてきた人たちがいると」

「『ジャンプ』はわかりやすい変化だと思うんですけど、自分の中で線を引き直すというのも大きな前進だなと思うんですよね」

「なるほど〜! お二人の話を聞いてだいぶ整理されてきたんですけど、ジャンプというか、ワープのほうがニュアンスが近いかもしれない。『えいや!』と飛ぶことだけが違う世界へ行く方法じゃなくて、もっといろんな方法があるのかも。前に進まず『ここにいる』ことを選ぶのも、大事な人生の選択ですし」

「たしかに、僕もジャンプした感覚なしに気づいたらここにいる感じだなぁ。『なんでシェルターやってるんですか?』って取材されたときに困っていたことでもあって。自分にとっては自然なことというか、普通のことの延長線にあるというか」

「メディアってそういう見出しにしがちというか、ドラマチックにしがちだと思うんですよね。結果としてドラマみたいな人生が起きているみたいな。気づいたら全然別の世界にいた、もめちゃくちゃワームホール的だな……」

「本も大事だけど、やっぱり人との出会いがあってこそだと思うんですよね。人に会い続けて、閾値に達してジャンプになるというか。本ばっかり読まずに公園をふらふらしたらいい、っていうのもありそうですね」

「悩みは終わりました?」

「はい。やっぱりそういうことだなと思いました」

「よかったです。じゃあ次はUFOを一緒に見にいきましょう」

「柳下さんだけ見れないんだろうなぁ……」

「では、今回も聞いてくれてありがとうございました。かもめブックスと」

「Seesaw Bookと」

「ジモコロの」

「ブックブックこんにちはでした!」

 

☆今回の収録の音声版が、Podcast『ブックブックこんにちは』でも聴くことができます。
視聴はこちらから

構成:山本梨央