首都・東京。大都会のイメージを持つこの街で、近年、注目を集めるエリアがある。「東東京(ひがしとうきょう)」だ。

一般には台東区、墨田区、江東区、足立区、江戸川区、葛飾区、荒川区の7区を一括りにして名付けられたエリアだが、東京の西側に比べると家賃が安く、若いクリエイターや外国人の流入が増え、にぎわいを見せているという。

そんな東東京エリアに暮らす人々を描くのが、マンガ『東東京区区(ひがしとうきょうまちまち)』。

今回はこのマンガの作者である、かつしかけいたさんと東東京を歩きながら、東東京の魅力や現在、さらには、「ローカルとしての東京」についてじっくり話した。

写真右から、かつしかけいたさん、筆者の谷頭和希

散歩の出発地は、町屋駅。東京メトロ千代田線と、京成線、都電荒川線(東京さくらトラム)が交差する、東東京エリアのなかでも活気のある街の一つ。今回は、町屋駅から三河島駅を経由し、日暮里まで歩いていこう。

 

☆今回歩いたマップはこちら

 

新旧織り合わさる街、町屋

まず、案内してもらったのは「荒川自然公園」。「三河島水再生センター」の上を公園として開放している公園だ。

かつしか「ここ、白鳥いるんですよ」

谷頭「白鳥!? 都内にいるんですか?」

谷頭「いたわ」

かつしか「看板がありますね。『レオ』と『さくら』っていうんだ」

谷頭「ここから飛んで逃げそうなものだけど、居心地がいいのかしら」

かつしか「この池も広いし、公園全体がとても広いので、心地いいんですよね」

谷頭「あっちには『インセクト・サンクチュアリー』がある」

かつしか「昆虫園ですかね。夏に開くみたい」

谷頭「昆虫の聖域……。東京にこんな場所があったとは。自然豊か」

かつしか「この辺りには、お花見シーズンに来たりします。春になると桜が咲いて、横に都電が走って、向こうにスカイツリーが見える。『東東京』って感じの風景で好きなんです」

谷頭「高台だし、スカイツリーもよく見えますね。東京で、こんなに高い建物が少ないところがあるんだ」

かつしか「このエリアは、わりかし古くて低い建物が残っています」

谷頭「団地も多いですね」

かつしか「木造の密集住宅が、団地に変わっているんですよね。そして、さらにその団地も今、建て替えをしてたりします。木造住宅と団地と、さらにそれを新しくした建物が同時に残っている

谷頭「新旧織り合わさってるんですね。東京の西側に比べると、まだまだいろんな建物が残っているのが、東東京エリアの一つの特徴かもしれませんね」

 

若者が増えた東東京

かつしか「あと、公園の前にある『荒川区立図書館 ゆいの森 あらかわ』にもすごくお世話になりました。『東東京区区』を描くときの資料集めで」

谷頭「めちゃくちゃきれいですね!」

かつしか「この1階に入ってる『カフェ・ド・クリエ』がめちゃくちゃ居心地いいんです」

谷頭「かつしかさん、チェーンのカフェも行くんですね」

かつしか「地元のローカルなことを描いているのに、行きますね。一番作業がしやすい(笑)」

谷頭「わかります(笑)。実際、ここのカフェ・ド・クリエ、親子連れから年配の方まで、いろんな人がいますね。この辺りを歩いていると、若い人も多い」

かつしか「大学のキャンパスも最近、増えました。東東京エリアって上野ぐらいにしか大きな大学がなかったんですが、北千住に電機大ができたり、葛飾区や墨田区、江戸川区にも大学ができました」

谷頭「なるほど。若い人が活動する場所も増えていきそう」

かつしか「増えていると思います。あとは、東京の西側に比べて相対的に家賃が安いので、ギャラリーなんかも増えてますよね。墨田区の京島とか、面白い感じになっています。『電気湯』さんの活動も面白い」

谷頭「確かに、僕の友人でも、東東京に住む人が増えているかも」

 

多文化共生タウン・東東京

私たちは公園を出て、住宅街の中を進んでいく。目立つのは、外国の人々だ。かなりの確率で出会う。しかも、彼らは観光客ではなく、この場所に暮らし、根付いている人々

かつしか「今、通りかかった公園にいた親子、中国語で話していましたね。ここ5〜6年で東東京には、外国の人がとても多くなった印象があります」

谷頭「南アジア系の人もたくさんいますよね。なんなら日本人よりすれ違うかも」

かつしかこの辺りには日本語学校があって、ネパール人の生徒さんも通っているからなのか、ネパール料理屋が多いんです。学生のツケもきく店もあるらしいと聞いたことがあります(笑)」

谷頭「ネパールの学生街なんだ、ここ」

かつしか「そう言ってたら、荒川区役所に付きました。ここ、面白いものがあるんです」

谷頭「なんだこれ! 外国っぽい何かが置いてある」

かつしか荒川区は韓国の済州(チェジュ)と友好都市で、これは済州の伝統的な石像です」

谷頭「またなぜ済州と」

かつしか「1920年代あたりから済州の方たちが、この辺りに移住したらしいんですよ」

谷頭「へえ! 韓国の中でも済州の人が!」

かつしか「三河島周辺はネパール人だけでなくて、在日コリアンの方たちも多くて。韓国系の教会もあるんです」

谷頭「本当に、この土地に根付いているわけですね」

かつしか「せっかくですから、こんな土地に根付いたネパール料理でも食べます?」

谷頭「食べたい!」

 

「ガチネパ」を堪能する

ということで連れてきてもらったのは、「ディディ バイ」。

なんでも、この辺りは、「ガチネパ」と呼ばれる、ネパールの郷土料理を出す店も増えているという。店内には、現地の人と思われるお客さんが数人。メニューはネパール語で書かれているものもある。私たちは、ランチメニューとして出されていたカレーを頼んだ。

谷頭「インドカレーと全然違う……! これがネパールのカレーか」

かつしか「スープは豆のスープみたいですね」

谷頭「スープ、優しい味……。ネパール料理だとスパイシーすぎるかも、と思ってましたが、予想以上に食べやすい」

かつしか「ネパールのお客さんも多いみたいです。この間来た時もネパールの学生たちがいました。メニューも、ネパール語と日本語で書かれている」

谷頭「ほんとうの郷土料理、という感じですね。メニューを見ると、餃子っぽい食べ物とか、いろいろあるんですね。ふと思ったんですが、コロナ禍のときって、こうした海外の人たちはどうしてたんですかね?」

かつしか「すでにこちらに生活の基盤がある人たちも多いので、特別、外国出身の方たちが少なくなったという感じはしませんでした。日本人が外に出れないことを嘆いていたように、海外出身の人も、地元住民として、外に出れないことを嘆く人が多かったようです」

谷頭「もう、地元住民と同じだ」

かつしか「もう少し歩くと、今度は、歴史あるコリアンマーケットがあるんですけど、そこもせっかくだから行きます?」

谷頭「行きたい!」

 

韓流ブームよりも前から日本を見続けてきた、韓国市場

なんでも、そこは小さいながら韓国系のお店が集中しているエリアらしく、この地域の多国籍感を強く象徴する場所なのだという。近づいてみると、確かに路地のようなところにさまざまなお店が密集している。

かつしか「キムチなんかも量り売りで売っています。美味しそう!」

谷頭「アカスリのタオルも売ってる! 色ごとに刺激の強さが違うんだ。すごい、売ってるのを初めて見ました」

韓国海苔のふりかけ「ジャバン」を買う、かつしかさん

かつしか「この店、創業が1951年ですね。戦後わりとまもなくできてる」

谷頭『冬のソナタ』よりもK-POPブームよりもずっと前から、この地で商売を営んできたんですね。いろいろな苦労もあったんだろうな……」

こうして韓国市場でガチ韓国の雰囲気を楽しんだ一行。そのまま、三河島駅から日暮里の方へ歩いていく。

 

もっともナチュラルに多文化共生が進んでいる街かもしれない

谷頭「しかし、日暮里駅周辺も、本当にいろいろな外国の人がいるんですね」

かつしか「最近だと、中国のイスラム系の人々の料理である『清真料理』を出す店も増えてきましたね。羊肉の料理を提供したりする」

谷頭「そこにあるスーパーも、看板なんかに韓国語の表記が一緒に書いてありますね」

谷頭「いやあ、生活に海外が溶け込んでるなあ。本当の意味で多文化共生が、1番ナチュラルな形で進んでる地域かもしれない

かつしか「最近できた戸建てだと、イスラーム系のお名前の表札が掲げられていたりしますね」

谷頭「すごい、溶け込んでますね」

かつしか「ただ、まだまだ自治体の対応が追いついていない部分もあって。東東京の小学校に子どもを通わせている人から聞いたんですが、ムスリムの子どもたち向けの、給食のハラル対応ができていないので、お弁当を持たせているみたいです」

谷頭「言葉の問題もありそうです」

かつしか「子どもたちはずっと日本に住んでいる場合も多いのでまだ大丈夫なんですが、親御さんが日本語があまり得意でない場合は、学校からのプリントの内容がうまく伝わらないこともあるとか」

谷頭「そこも対応が進んでいってほしいですね」

 

「ローカル感」満載の日暮里のタワマン

谷頭「さて、日暮里まで来ました」

かつしか「日暮里駅前にあるタワーマンションが、いい意味で『ローカル感』があるんです。『タワマン』という言葉から想像できないような。ここです」

谷頭「たしかに、タワマンですね! 見た目は、あまり変わらないように思えるけれど」

かつしかタワマンの低層階にいろんな店が密集して、商店街のようになっているんです」

谷頭「ただよう異国感……。駄菓子屋もあるんだ」

かつしか「昔、日暮里には駄菓子横丁というところがあって、その名残ですね」

谷頭「タワマンに土地の歴史が反映されている……!」

かつしか「上がってみましょうか。中には、ガチな外国料理屋がたくさん入っているんです。ほら、ここはミャンマー料理屋です」

谷頭「ミャンマー料理屋という響きを初めて聞きました」

かつしか「魚のすり身を揚げたものや、豆腐を使った料理もあって美味しかったです」

谷頭「日本人の口に合いそう。いや、しかし、めちゃくちゃいい感じのローカル感だな。こちらは、ベトナム料理か」

谷頭「そして、インド、ネパール料理も……。アジアのマーケット感がすごい」

かつしか「でしょう?」

谷頭「僕の中の『タワマン』のイメージが、見事に粉砕されました。恐るべき、日暮里」

 

『東東京区区』に込めた思い。かつしかけいたさんインタビュー