「限界ニュータウン」という言葉をご存じだろうか?

戦後に作られた分譲地だが、家という家がほとんど建っておらず、荒れ果てている住宅地。そんな場所が全国に点在しているという。

「ニュータウン出口」の第5回目はこれまでと少し視点を変え、この限界ニュータウンを取り上げたい。普通の意味での「ニュータウン」ではないが、これもれっきとした「新しい街」だからだ。

お話を伺うのは、『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』の著者で、限界ニュータウンという言葉の生みの親である吉川祐介さん。吉川さんは「限界ニュータウンは日本の都市の未来の姿かもしれない」という。

どういうことか。吉川さんに限界ニュータウンを案内してもらいながら、お話を聞いた。

吉川祐介さん
1981年、静岡市生まれ。2017年にブログ「URBANSPRAWL──限界ニュータウン探訪記」を開設。千葉県北東部の限界分譲地をたずね歩き、調査を重ねてブログに記事を執筆してきた。2022年よりYouTubeチャンネル「資産価値ZERO──限界ニュータウン探訪記」を開始し、ブログと並行して動画配信もおこなっている。著書に『限界ニュータウン 荒廃する超郊外の分譲地』(太郎次郎社エディタス)、『限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話』(朝日新書)、『バブルリゾートの現在地 区分所有という迷宮』(角川新書)。

こんなところに住宅街が?

案内していただくのは、限界ニュータウンが多くあるという千葉県。そのうちの3つの分譲地を周る。

まず、我々が向かったのは、富里(とみさと)市にある住宅地。成田空港から車で数十分ほどのエリアだが、周りは畑や雑木林だけ。こんなところに住宅街が?と思ってしまう。

こんな道を通って、

こんな景色が広がっているところに

吉川:今から案内する場所は、典型的な「限界ニュータウン」です。来てみるとわかると思うのですが、たいていの限界ニュータウンはこのように駅からも遠くて、周りに何もないところにポツンと現れます。

この奥に住宅地があるのですが、悪路で自動車は入れないので歩いていきます。

谷頭:住宅街なのに、車で入れない……。

この奥に住宅街がある……らしい。未舗装の道をしばらく歩く

谷頭:あ、確かに家がありますね。

吉川:この周辺に分譲地が広がっているんです。かなり自然と一体化していますが……。

谷頭:人が住んでいるとは思えないです。かなりの区画が荒地になっていますね。

吉川:そうですね。もはや持ち主と連絡が付かない区画もたくさんあると思います。

谷頭:あ、でもここは、かろうじて住宅街感がまだありますね。ただ、暮らしやすさとは程遠そうです。

吉川:あれはかつての街灯です。撤去するにも費用がかかるので、何もされていないままなんだと思います。

谷頭:住宅街としての機能はまったくない状態ですね。

吉川:ここは1970年代に分譲された場所で、インフラの規格が今と違うんですよね。側溝も古いですし、上下水道は当然通っていません。

「住む」ためでなく「投資」のために作られた住宅地

谷頭:あれ、でもよく見るとネームプレートが建っている区画がありますね。

吉川:おそらく、所有者は東京や神奈川の方でしょうね。まだこの土地を持っていて、年に数回、草刈業者がここの整備をしに来るんだと思います。

谷頭:住んでいないのに土地だけ持っている……。不思議です。

吉川:実は、それが限界ニュータウンの特徴なんです。こうした分譲地の多くは「住む」というより、投資目的で分譲されてきました。実際にこの分譲地の土地はとても細かく売られていて、現実的に生活するには不十分なんです。

吉川:特に、我々がいる千葉にはこうした分譲地が無数にあります。ざっと見積もっても成田空港の周辺だけで数千区画がある。

なぜかというと、成田空港や成田新幹線の開業をネタに「この場所の地価は上がる」と期待させて、投資を促していたんです。

谷頭:なるほど。ネームプレートに名前がある方は、そのときにこの土地を買った可能性が高いんですね。

吉川:そうです。実際には土地の値段はまったく上がらず、今のようになってしまっているわけですが……。

おそらく購入した人の中には、現地へ来てこの土地を見てもいない人がいるんじゃないかと思います。

谷頭:確かに、この立地を見たら買おうとはなかなか思わないかも……。

吉川:こうした分譲地の特徴は、都市部から微妙に離れていて、なおかつ大自然の雄大な風景があるわけでもない、という立地です。かろうじて車があれば生活できるけれど……というような場所ですね。

谷頭:田舎でもなくて、どちらかといえば「郊外」ですよね。いわゆる田舎暮らしが楽しめるわけでもない。

吉川:そうですね。都市部から離れすぎていない分、投資する側も、将来ここが分譲地として地価が上がるんじゃないか、という期待を持ちやすかった。

当時の分譲地の広告を見ると、住宅を目的にした分譲地とは違い、どこか広告に生活感がないんです。「成田空港開業」とか「成田新幹線(※1)開業予定」のような大雑把なアピールが目立ちます。むしろ成田空港に近くて住むことを目的にした住宅地の方が、成田空港を広告で押し出していません。現実に空港が近すぎると騒音の問題があるので、それをなるべく表に出さない意図もあったと思います。

※1 成田新幹線……東京と成田を結ぶ予定だった新幹線。建設に対する反対運動が起こり、計画は幻になった

谷頭:なるほど……。なんとも皮肉ですね。

 

それでも、限界ニュータウンに住む人がいる

谷頭:一方で興味深いのは、住宅地を見る限り、実際にここに住んでいる人も何世帯かはいらっしゃる、ということです。

吉川:そうなんです。限界ニュータウンの話をすると、そのまま放置しておけば勝手に自然に還るんじゃないか、という人がいるんですが、おそらくそう簡単には自然消滅しないんです。先ほども言った通り、車があればかろうじて生活はできるので、色々なことをきっかけにここで生活する人が出てくるかもしれないからです。

谷頭:確かに区画の中には「売物件」という看板が建っている場所もありますね。最近ではリモートワークも普及してますし、人の少ない土地にあえて住みたい、という需要もありそうです。

吉川:あとは投資目的で、こうした限界ニュータウンの土地を買うケースも増えています。国内だけでなく、外国の方が買うケースもあるようですね。

谷頭:それは賃貸として貸し出す目的で?

吉川:そうです。特にここは成田空港が近いので、外国の方が借りるケースも多いみたいです。投資の観点では、そうした需要も見込めるのでしょう。

それに、ここは土地の値段がかなり安いので、日本人でも「それだったら買ってもいいかな」という人もいます。それこそ最近話題の「0円物件」として売りに出されたら応募も殺到するんじゃないでしょうか。空港職員だったら空港にも働きに行ける立地ではありますし。

谷頭:ひょんなことから限界ニュータウンが再び「住宅街」として見直されることもあるわけですね。完全に自然に帰るわけでもないし、かといってたくさんの人が住むような場所になるわけでもない。だから虫食いが進んだ住宅地になっていると。

吉川:この近くに、限界ニュータウンが近年になって活用され始めた場所があるので見てみましょうか。

 

限界ニュータウンが住宅地になった

車を走らせること20分ほど。千葉県の芝山町に到着した。現れたのは、見た目には普通の住宅地。しかし、ここは10年ほど前は限界ニュータウンだったという。

吉川:ここは1990年代に開発されたんですが、ながらく空き地のままでした。

谷頭:あそこに一区画だけ荒地がありますね。

吉川:かつては、ああいう感じの区画がずっと広がっていました。

吉川:2000年代に書かれた論文では、ここが「放棄住宅地」として研究されているほどです。実際、道路をよく見るとまだ整備が追いついていないのがよくわかります。

舗装はされているものの、歩道の整備が追いついていないように見える

吉川:ただ、現在では少しずつ土地が売り始められていて、新築住宅も立ちつつあります。

谷頭:どうしてここが近年になって開発され直したんですか?

吉川:それには、ここ固有の事情もあるんです。というのも、成田空港の滑走路が延伸するのに伴って、移転世帯が生まれたんですね。その中には仕事の都合で遠くには転居できない世帯も多かったようで、成田空港の近くである芝山町の住宅地が注目されたんです。

吉川:もともと芝山町は住宅が少なく、中古物件もほとんど出ていなかったのに加え、成田市の方は地価が高いんです。そこで、この辺りが注目されるようになりました。ここは鉄道もほとんどなく、車でしか移動できないエリアなので地価が安く、期せずして需要が生まれました。

谷頭:先ほどおっしゃっていただいたように、限界ニュータウンの「絶妙な場所」のために偶然、需要が生まれたと。

吉川:はい。さらに最近は新築住宅の建築コストがかなり上昇していることもあって、相対的に新築を持ちたい人が地価の安いところに行くこともあります。

谷頭:最初に行った分譲地は、それでも入居が進まなかったのでしょうか。

吉川:富里の分譲地は1970年代に作られましたが、ここは比較的新しい時期に作られたので、道路も広く、インフラも比較的活用しやすかったことが大きいと思います。それぞれの区画も比較的大きいので、家を建てても駐車場として車が2~3台は置けます。富里の場所はかなり狭い区画で分譲されたので、活用しようにもしきれないんですね。

谷頭:なるほど。分譲された当時の条件も影響している。

吉川:ここは限界ニュータウンの中でも特に変化が激しい場所ですね。私は何度か訪れていますが、来るたびに家が増えている気がします。「限界ニュータウン」をブログで紹介し始めたときは、ここはきっとゴーストタウンになっていくのだろう、と思っていたのですが。

谷頭:ある意味、予想が外れた。時代の変化に合わせて場所の姿も変わっていったわけですね。

吉川:そうですね。そうした「場所の変化」と限界ニュータウンを考える上で重要なポイントがこの近くにあるので行ってみましょうか。

 

不動産は人々の生活の変化に追いつけない

私たちが訪れたのは、小学校。しかしそこには活気がない。

吉川:ここは、先ほどのニュータウンの近くにあった小学校です。ただ、今は廃校になっています。

いま、田舎の不動産、特に住宅市場を考える上で、学校の存在は一番大きいんです。商業施設や駅だったら多少は遠くても我慢できるのですが、家を建てることがもっとも多い子育て世代にとって、近くに学校があるかないかはとても重要です。子どもの成長にも関わってくることですから。

谷頭:確かに、子どもは1人で運転もできないから、学校との距離はとても重要ですね。

吉川:全国の地方の小学校で統廃合が進んでいるいま、家が新しく建つのは、学校が無いエリアではなく、残っている学校の近くなんです。空き家がたくさんあるのに新築が増えているのが疑問視されていますが、その問題も大きいと思います。

谷頭:空き家が増えたエリアには、学校が無くなって家族世帯が引っ越していったところも多いわけですよね。子どものことを考えたら、そうしたエリアの空き家よりも、多少高くなっても学校の近くで新築を建てざるを得ないというわけですね。

吉川:世の中の情勢の変化に不動産市場はなかなか追いつけないんです。不動産は、1回建てたら数十年使います。でも、人々は、常にその時代にあったものを必要とするので、人々のサイクルと建物のサイクルの間にズレが生じる。

谷頭:人口減少や少子化を予測して家を作るわけじゃないですもんね。

吉川:特に学校の統廃合を決めるのは教育委員会の仕事ですが、街のインフラを決めるのは都市計画課や建築課などです。縦割りゆえに、そこの連携がうまく取れない……という話を役場の方から聞いたことがあります。

谷頭:思わぬところで縦割り行政の歪みが出ている。そうやってまた空き家が増えたり、逆に限界ニュータウンが活用されたりするわけですね。

 

限界ニュータウンは未来の日本の姿?

谷頭:時代の変化に対応できずに生まれてしまった空き家や、所有者がわからない家は、行政が解体を行ったり、再開発を主導したりすることはできるんでしょうか?

吉川:基本的にはできないです。よほど、その住居の存在によって子どもの通学路に危険が及んでいたりしない限りはできません。それに、そうやって行政が解体をし続ければ、高い費用を自分で払ってわざわざ解体している人がバカを見てしまう。

その点で考えても、こうした限界ニュータウンを行政主導で解体する優先度はとても低いと思います。

谷頭:なるほど。空き家がどんどんと増えていくのかもしれない。

吉川:ただ、日本の空き家はずっとそうで、それこそ過疎で廃村になったかつての農村なども、基本的には放置されているんです。やはり解体の優先度が低い。

国は「コンパクトシティ」といった言葉で、都市機能がまとまった都市を構想していますよね。ですが、現実に人々はそのようなグランドデザインよりも、自分の事情で家を出たり、家を建てたりしていきます。その時に、やはりスプロール状(※2)に空き家も増えていくのではないでしょうか。

※2 スプロール現象……急速に発展した都市が、都心部から郊外へと無秩序に広がる現象のこと。計画性が欠けたまま土地開発されることで、交通渋滞や環境破壊、公共サービスの効率低下などの問題が発生する。

吉川:僕が危惧しているのは、このまま日本で人口減少が続いて、こうした虫食い状の住宅地が市街地の方にも増えていったときのことですね。そのときにも外側から綺麗に住宅が放棄されていくわけではなく、やはり虫食い状に空き家が増えていくと思うんです。

それこそ、都市の市街地の中に、限界ニュータウンのようなエリアが生まれてしまうのではと。

谷頭:かつては都市が広がっていくときに虫食い状に広がっていったのが、人口減少時代は、逆に虫食い状で縮小していく、ということですね。

吉川:一般的な郊外住宅街でもこうしたことが起こるかもしれません。

谷頭:しかも、それは遠くない未来に起こるかもしれないですよね。そう考えると、限界ニュータウンの風景は、未来の日本で起こる風景そのものなのかもしれない……。

吉川:そうだと思います。

 

生まれてしまった「限界ニュータウン」をどう活用するか

谷頭:限界ニュータウンの景色が、来たる日本の姿なのかもしれない、という話はよくわかりました。

その解決には、もちろん行政の力が必要ですが、一方で吉川さんは『限界ニュータウン』で「限界ニュータウンを活用する」として、こうして生まれてしまったニュータウンを個々人がうまく利活用していく道もあるんじゃないか、と書かれていますね。

吉川:はい。今回は最後に、そのようにニュータウンを活用している例を見たいと思います。

 

最後に訪れたのは「横芝光町」。吉川さんが実際に住んでいた街だ。

吉川:ここは元々「大蔵屋」という会社が分譲した場所なのですが、やはり投資目的での取引が多くて、典型的な限界ニュータウンになっています。

そもそもここはロードサイドのお店も遠いですし、土地が安いといっても、ここまで奥まっていなくても同じぐらいの値段の土地があるので、価値がなかったんです。

谷頭:だんだんとこの光景、見慣れてきました。

吉川:見て分かるように、今でも空き家が多いのですが、ただ最近はここをうまく活用している例もあるんです。

例えば、都心に住んでいる人が別荘のように使うという例ですね。この区画は、芝生を敷いて綺麗に整備して、トレーラーハウスを置いています。

谷頭:めちゃくちゃオシャレでいいですね。限界ニュータウンは人も少ないし、静かに過ごせそう。

吉川:ほかにも一区画まるまるバスケットコートにしている、という例もあって。ここの方は近くに別荘をお持ちなのですが、この区画を買ってコートに転用しているようです。

あとは土地を買って、小屋を自分でDIYして作り足している区画もあります。とにかく土地の値段は安いので、それぞれが工夫して使い道を見つけることができるんです。

谷頭:そういう意味では、いろいろな知恵があれば限界ニュータウンをうまく使うこともできるわけですね。

吉川:ただ、ここのように色々な土地に転用できるのは、そもそもが住宅地としてほとんど使われていなかったことも大きいと思うんです。

例えば、隙間なく住宅地が立ち並んでる住宅地で空き家が増えても、融通が利かない気もします。周りにそこそこ住宅があるので、転用がしにくいですよね。

谷頭:確かに。その意味でも、活用できる場所は限られているのかもしれない。

吉川:はい。ただ、活用したい人が増えているのも事実です。昔は僕のところに「空き地を売りたい」という連絡がたくさんきていたんです。親族がかつて投資目的で買った土地の固定資産税を払い続けている…ということで、そういう土地を抱えてしまった人の方が問題意識が強かったんだと思います。

最近では「購入したい」という連絡をもらうことも増えています。例えば、「楽器を練習する場所にしたい」とか「車の整備ができる土地にしたい」という話は聞きますね。僕自身は家庭菜園ぐらいしか活用方法を思いつけないので、それは面白いと感じました。

 

おわりに

「限界ニュータウン」に限らず、生活スタイルや社会の変化で日本全国に空き家が生まれるかもしれない時代。戦後に私たちが作った「ニュータウン」が今後、どんどんと荒廃していくかもしれないのだ。

しかし、わずかではあるが、その「すでに生まれてしまった街」を活用していこうという動きもある。吉川さんが語るその言葉の中に、「ニュータウン出口」の一端を見たような気がした。

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<開催予定の出版イベント>
4/13(日)梅田ラテラル「もっと限界ニュータウン2025 春」

4/26(土)高円寺パンディット1号店「無管理マンション地獄変」

<ニュータウン出口 連載一覧>

撮影:杉山慶伍