シャインマスカット VS 巨峰! 僕たち私たちの知らないぶどうの歴史と進化

2018.10.31

シャインマスカット VS 巨峰! 僕たち私たちの知らないぶどうの歴史と進化

種なしぶどうってどうやってつくるの? 巨峰とシャインマスカット、どっちが人気? ぶどうのことをもっと知るために、全国でも有数の産地である長野県中野市のぶどう農家・上野善久さんに色々聞いちゃいました。

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    こんにちは! 長野県在住のライター・ナカノヒトミです。

     

    みなさん、ぶどうは好きですか? 私は大好きです!

    なぜなら私の地元である長野県は、全国有数のぶどうの生産地。毎年、秋になると甘くておいしいぶどうが食卓に並ぶのです。

     

    ぶどうの王様『巨峰』の生産量は、長野県が全国一位!

     

    最近では皮ごと食べられる『シャインマスカット』や長野オリジナル品種『ナガノパープル』の登場で、ぶどう業界は賑やか。様々な品種のぶどうがスーパーや直売所に並ぶ様子は、まさに秋の風物詩となりました。

     

    ただ、ぶどう王国の民であるわたし自身、意外とぶどうについてちゃんと知りません。

     

    ・そもそもぶどうってどうやってつくっているの?

    ・どんな歴史があるの?

    ・新品種はどうやって生まれるの?

    ・最近人気のシャインマスカットによって、巨峰の地位は脅かされているのでは?

     

    ぶどうをパクパク食べていたら疑問があふれてきたので、ジモコロ編集長の柿次郎とともに、ぶどう農家である上野善久さんの元へ話を聞きに行きました!

     

    写真左から、ジモコロ編集長の徳谷柿次郎、ぶどう農家の上野善久さん、ナカノヒトミ

     

    「種なし」はひとつずつ手作業でつくられる⁉︎

    上野さんの畑がある中野市は、年間降水量が少なく昼夜の寒暖差が激しいため、ぶどうづくりに最適な環境。巨峰の生産量は県内で1、2位を争います。

    最近ではぶどう栽培にlotを導入したこともニュースになりました。

     

    まずは、上野さんの畑を案内してもらうことに。

    現在、上野さんの畑では巨峰に加えてシャインマスカット、ナガノパープルという品種をつくっています。

     

    詳しくお話を聞こうとしたら、水やりの時間がやってきたということで……

    うわー!

     

    いきなりびしょ濡れだ!!

    ぶどうへの水やりはスプリンクラーで行われます。めっちゃ浴びた。

     

    収穫約1ヶ月前の巨峰は、ちょうど色づき始めた頃。日焼けや鳥から実を守るための「袋かけ」が終わったところです。

    ※取材は8月に行われました

     

    「これはシャインマスカットですか?」

    「そうだよ。触ってみますか?」

    「うわ、めっちゃ堅い! まるでゴムボールみたいです」 

    「これから太陽の日差しを浴びて熟していくと、私たちが知ってるあの甘い果実に変わっていくんです」

     

    巨峰の収穫は9月中旬頃。シャインマスカットはそれよりも少し後の、9月下旬に収穫されたものがおいしいそうです。

     

    「これは4月に植え付けたシャインマスカットの苗です」

    「まだ全然小さいですね!」

    「苗を植えてから3年で実がなり始め、安定して出荷できるようになるには5年かかるんですよ」

    「『桃栗3年柿8年』っていいますけど、ぶどうもそんなに時間がかかるんですね」

     

    「この枝はどうして途中で切ってあるんですか?」

    「『副梢(ふくしょう)処理』というんですが、果実に光がよく当たるように、余分な枝を切ってるんです」

    「なるほど。それでおいしいぶどうが実るんだ」

     

    「そういえば、種無しぶどうはどうやってつくるんですか?」

    「まず種ができないように薬品を散布するんです。ただ、それだけだと果実ができないから、さらにホルモン処理をします」

    「ホルモン処理?」

    「『ジベレリン』という果実の成長を促進する植物ホルモンがあって。まだぶどうの房が小さなときに、容器に入れたジベレリンの液に房を浸していくんです。薬品やホルモンといっても、もちろん人体には安全ですよ」

     

    「浸すのは手作業ですか?」

    「そうそう、ひと房ずつね」

    「ひええ大変だ。そんな種無しの儀式が……あの食べやすさの裏には、農家さんの手間があったんですね」

     

    小粒から大粒へ。「巨峰」はぶどう界の革命児!

    ひと通りぶどう畑の案内をしてもらってから、ご自宅でお話を聞かせてもらいました。

     

    「上野さんは、いつ頃からぶどうづくりを?」

    ““「昭和40年代前半からですね。ぶどうの前は、養蚕(ようさん)農家だったんですよ」

    「養蚕……『蚕(かいこ)』を育てていたんですね」

    中野市周辺はもともと養蚕(ようさん)業が栄えた土地なんです。明治後半に果樹が導入されるまでは、この辺りではお蚕さんが食べる桑の栽培を大規模に行っていたんですよ」

     

    上野さんのお宅にも、養蚕の名残である立派な繭蔵がありました。蚕を育てていた繭蔵は現在、収穫した果物の荷造りをする場所として使われています

     

    ““「欧州から日本にりんごやぶどう、ももなどの苗木が入ってきたのが明治初期。その頃は桑畑の隅に果樹の苗を少しだけ植えていて」

    ““「最初はどんな種類のぶどうがつくられていたんですか?」

     

    ““「この辺りだと『善光寺ぶどう』という品種が主流だったみたいですね。小粒で、食べるととてもすっぱい。今みたいに甘くておいしく食べられるようなものじゃなかったんです

    ““「へーー。ぶどうって小粒なイメージが強いです。昔、給食で出ててきた小さなぶどうをチマチマ食べてた記憶が……」

    ““「『善光寺ぶどう』は粒は小さいけど、房はこんなに大きいんですよ」

     

    ““「ええっ!? そんなに大きな?」

    ““「ぶどうづくりの工程で大切な『摘粒(てきりゅう)』を昔は行ってなかったみたいです。摘粒は、ある程度成長したぶどうの実をもいで間引き、栄養を行き渡らせる作業のこと。例えば、100粒ついた実を40粒くらいまで減らすことで一つひとつの甘みが増します」

    ““「半分以下に!そもそも、ぶどうの実を間引いて大きさを調節してるなんて知らなかったです」

    「ほほー。摘粒をしなかったら栄養がバランスよく行き渡らなくなり、市場に並んでる状態にならないんですね。僕たち私たちは何も知らない…」

     

    ““「他にも、この辺りでは『デラウェア』や『ナイアガラ』など小粒で甘い品種もつくられていましたね」

    「どれも名前が外国語ですけど、海外原産なんでしょうか」

    「そうですね。明治時代に海外から輸入されています。あとは、海外原産のものを日本で品種改良したものとかね。日本の山に生えていたぶどうを改良した品種っていうのはないんじゃないかな

     

    中野市のぶどう品種一覧。知らない品種ばかり…恐るべし、ぶどう王国!

     

    ““「なるほど、明治の開国とともに海外から輸入して、日本人の舌に合わせて研究を重ねて……と」

    「そうそう、試験場で品種改良をするわけです」

    「では小粒から大粒のぶどうに目が向けられるようになったのは、いつ頃からなんでしょうか?」

    ““「『巨峰』が誕生したことがきっかけですね」

    「出た!巨峰!!!」

     

    巨峰は1945年、静岡県下大見村(現在の伊豆市中伊豆町)で農学者・大井上康(おおいのうえ やすし)氏によって開発された品種。第二次世界大戦の最中に開発が進められ、昭和30年代初頭より出回るようになりました

    ““「いきなり大きなぶどうが登場して、びっくりしちゃいそう」

    ““「そりゃあみんな驚いていましたよ! それまでは酸っぱいぶどうや、粒の小さいぶどうしか皆知らなかったわけですから。巨峰の登場は、ぶどう界のひとつの革命ですね」

    ““「巨峰革命だ……!」

     

    シャインマスカット登場で種なしぶどうがメジャーに

    ““「それからしばらくは巨峰の需要が高まったのですが、今から10年前にさらにぶどう界を揺るがす新種が登場しました」

    ““「もしや……?!」

    ““「その通り。シャインマスカットの登場によって、種なしぶどうのシェアが一気に拡大したのです」

    「出た!ぶどう界を牽引するエース、シャインマスカット!!!」

    ““「(いちいちうるさいな)確かにシャインマスカットって甘い上に種がなくて皮ごと食べられるから、それまでのぶどうの『面倒くささ』が全て解消されましたよね」

    ““「そう! シャインマスカットの人気が高まったことで、種なし巨峰の需要が増したのです。20年前は種ありと種なしが半々でしたが、10年前にはほとんど種なしに変わっていったのです」

    ““「種なしブームがきたんだ!」

     

    ““「消費者のニーズと新品種の開発が密接にリンクしていますね。面白いなあ。でも巨峰からシャインマスカットへと人々の趣向が変わっていったら、巨峰農家の方々は大変なのでは?」

    ““「世間のニーズに合わせて、様々な品種をつくるようになっていますよ。品種によって栽培方法が大きく異なるわけではありませんから。うちも何品種もつくっていますし」

     

    ““「でも、一番儲かるのはやはりシャインマスカット……?」

     â€œâ€œ「そうですねぇ。ただ、うちはそこまでシャインマスカットの作付面積が大きくないので、儲けはそこそこですよ(笑)」

    「市場価格って、実際どのくらい違うんでしょう?」

     

    「現在の市場価格を見てみると、シャインマスカットは巨峰の倍以上の価格になっていますね

    ※取材時点で巨峰=5kgあたり10,835円、シャインマスカット=5kgあたり26,420円

    ““「倍以上!」

    「シャインマスカットは市場価格が高いだけじゃなくて、すごく強くて、日持ちする品種なんです。だからうちは霜が降りる11月に収穫して、冷蔵庫に入れて保存してから12月のクリスマス前に出荷します」

    「そんなにもつんですね」

    「貯蔵にはカビの危険もあるから、技術的には難しいですけどね。巨峰よりもシャインマスカットのほうが日持ちしますよ」

    「長い期間出荷できるということは、農家さんの収入的にも助かりますよね。すごい品種だ」

     

    シャインマスカットに次ぐ新品種がまもなく市場に!

    「お話を聞いていると、シャインマスカットをつくる農家さんがどんどん増えていきそうです」

    ““「うーん、うちとしては巨峰のブランドを再構築をしていきたい思いも正直ありますね」

    ““「それはどうしてですか?」

     

    「だって種ありの方が、種なしよりもおいしいんですよ」

     

    「ええっ、そうなんですか!」

    「自分でつくって食べてみると、種ありのほうが断然いい。コクがあるというか……」

    ““「個人的には、植物として種ありの果実の方が美味しそうに思います。種があるほうが生命力が強そうですし。いまの市場的に、種ありの需要はどんな感じなんでしょうか?」

    ““「高級スーパーでは種ありぶどうの需要があるので、現在でも店頭に置きたいという店があるみたいですね。例えば兵庫県の芦屋あたりのスーパーとか」

    ““「お金持ちの人たちは、種ありぶどうのおいしさを知っているのか……」

    「種ありのシャインマスカットも食べてみたいな……新しい品種の開発にはどれくらいの時間がかかるんですか?」

    ““「約10年はかかるんじゃないかな。二種類の品種を様々な条件下で交配させる作業の繰り返しは根気がいります。市場性があるものをつくるとなると、かなり骨が折ますよ」

    ““「トライアンドエラーですね……! 新たな品種ができたら、またぶどう業界が揺るぎそう!」

     

    ““「それでいうと昨年、長野県の試験場で『ブドウ長果11』という新たな品種が出来たみたいです」

    ““「へー! 長野で! どんな品種なんですか?」

    ““「シャインマスカットと『ユニコーン』という黒紫色のぶどうを掛け合わせた、皮ごと食べられる品種です」

     

    ““「気になります。でも、このぶどうが食べられるのはまだ先なんですよね……?」

    ““「ええ、5年後ですね」

    ““「5年後か…その頃には40歳だから、白髪が増えてそうだな…」

    「(……5年後を考えるのがこわい)」

    ““「まあ、また秋にうちへいらっしゃってください!収穫したての巨峰やシャインマスカットをぜひ召し上がっていただきたいです」

     

    ““““「えっ、本当ですか!やったー!!」

     

    おわりに

    最後に、上野さんから伺った「おいしいぶどうを選ぶコツ」をお伝えします。

     

    ・軸の部分を必ず見る

    ・軸に青みがあるものが新鮮でおいしい!

    ・スーパーで販売されているぶどうは軸が茶色みがかっているものが多いので、直売所や産直センターで買うのがオススメ

     

    ぶどうの旬は11月ごろまで。長い歴史と農家のみなさんの手間暇を感じながら、おいしいぶどうを食べていただけたら幸いです!

    私も引き続き、ぶどうを浴びるほど食べたいと思います!

     

    それではまたー!

     

    写真:小林直博

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    ナカノヒトミ
    ナカノヒトミ

    1990年長野県佐久市生まれ。中央大学文学部卒業。2014年より一般社団法人信州若者会議においてwebメディア「SALMON1000」でのライティング、長野県のUIターン事業「若鮭アカデミー」に携わる。2016年4月からは株式会社地元カンパニーにて「地元のギフト」制作に携わり、全国各地の生産者への取材を行う。

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