コロナ後は「焼け野原」なんかじゃない。京都のミニシアター・銭湯・クラブの声

2020.05.18

コロナ後は「焼け野原」なんかじゃない。京都のミニシアター・銭湯・クラブの声

緊急事態宣言により、休業や営業時間の短縮を余儀なくされている街のお店。京都在住のライター・おかんが、「サウナの梅湯(銭湯)」「出町座(ミニシアター)」「METRO(クラブ・ライブハウス)」の3つのお店に話を聞きました。それぞれの現状や対策、そしてコロナ後の展望とは?

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    緊急事態宣言の解除も徐々に始まりましたが、外に出かけれらない・お店を開けられない苦しい毎日はもう少し続きそうです。

    こんにちは。京都在住のライター・おかんです。おかんはあだ名です。

     

    ぜんぜん外出できないので、ずっと自宅に引きこもっています。マジで今すぐ街に飛び出して、浴びるほど酒飲んで、街の友達としょーもないことで朝までゲラゲラ笑い合いたい。そもそもお店も休業しているので無理なんですが……。

     

    「不要不急のもの」が、いかに人生に潤いを与えてくれていたのかを痛感するこの自粛期間です。

     

    こうして引きこもっていると、大好きな店のことばかり頭に浮かびます。休業しているあの場所っていまどんな感じなんだろう……。

    どんな思いで休業を決め、どんな対策を打ち、厳しい状況のなかでどんな未来を見据えているのでしょうか。

     

    京都を代表する銭湯・映画館・クラブに、オンライン通話ツール「Zoom」や電話を使って話をうかがいました。

     

    話を聞いたところ

    ・サウナの梅湯(銭湯)

    ・出町座(ミニシアター)

    ・METRO(クラブ・ライブハウス)

     

    「サウナの梅湯」の場合

    「銭湯は大丈夫」の確証がないなか、普段通り開けておけない

    湊三次郎(みなと・さんじろう)さん

    銭湯活動家。ゆとなみ社代表。大学時代、銭湯サークルを作って数百軒の銭湯を巡り、2015年に24歳で「サウナの梅湯」を引き継ぎ銭湯のオーナーとなる。現在、京都で「サウナの梅湯」「源湯」、滋賀で「都湯」「容輝湯」を経営する。

     

    おかん:湊さんは4軒の銭湯を経営していますが、いまどんな状況ですか?

    湊さん:3月30日に報じられた志村けんさんの訃報から、客足がガラリと変わりましたね。それまでは海外からの観光需要がなくなったくらいで平均的な客足でした。いまはもう、ひとつの銭湯で1日の売り上げが2万円くらい。大赤字です。

    おかん:なんと……。

    湊さん:梅湯については、ひとまず5月6日まで営業したあと休業予定。他の都湯、容輝湯、源湯は、5月1日から当面の間、完全休業としています。

    おかん:がっつり休業されるんですね。銭湯は緊急事態宣言における休業要請の対象に入っていないのに……?

    湊さん:お風呂が家にない人は銭湯がライフラインになっているので、休業要請の対象外になっているんですね。であれば、緊急事態宣言下では、お風呂のない人だけが銭湯に来られるようにした方がいいと思っていて。

    湊さん:短縮営業などの施策を打っているところはあるものの、多くの銭湯は以前と変わらない形で営業しています。それって結局、家にお風呂がある人もたくさん来ているわけじゃないですか。そうなると、お客さんの中に感染者がいたり、感染者と接触したりする確率は自然と高くなりますよね。

    おかん:どこのお店も閉まっているので、「銭湯やってるやん! お風呂くらいええやろ」と思う人も多そうですよね……。

    湊さん:浴室内は多湿だからとか、サウナは高温だからとかで「銭湯は大丈夫では?」という噂はたくさん耳にします。ですが、結局のところ銭湯が大丈夫なんて確証はどこにもないわけです。銭湯が感染のハブになる可能性もあるなか、普段通りの開け方をするのは僕はいやだなあと思いました。

    おかん:お客さんの安全への確証がないなら銭湯でも開けておくべきではない、か……すごい決断だ。

    湊さん:僕は新型コロナに罹っちゃうこと自体は別にいいと思うんです。重要なのは、感染者を爆発的に増やして医療崩壊が起きないようにすること。うちの店の常連さんが、その崩壊を起こすクラスターにはなってほしくないですし。

    おかん:銭湯はお年寄りのお客さんも多いので、その方にうつって重症化したら本当に怖いですもんね。

    湊さん:うちの4つの銭湯で、お客さんにアンケートを取ったんです。そしたら、「お風呂がないから銭湯に行くしかない」という人は京都の梅湯だけだった。他の銭湯では自宅以外に知人や親戚の家などアテがあると答えてくれたので、梅湯以外は完全休業しました。

    おかん:これから梅湯はどうなるんでしょう?

    湊さん: GW最終日の5月6日まで、開店時間を短縮のうえ、薬湯と電気湯を停止しての営業とします(※)。ちなみに以前から、サウナはどの店舗も休止していました。他に頼れる人がいない高齢の風呂なし独り住まいで、他の銭湯は遠いという人もいると思います。開けている限り水道代や電気代がかかってくるので、本当は閉めたいところですが、特定の人にとって必須のインフラである以上は調整が必要かなと。

    (※取材はGW前の4月末に行いました。5月18日現在、梅湯は休業中です)

     

    融資金が下りれば収束まで冬眠、下りなければ廃業

    画像:都湯のTwitterアカウントから引用

     

    おかん:休業するといっても、銭湯の維持費って相当かかるのでは?

    湊さん:そうですね。電気代のかかるサウナは早々に休止し、電気風呂や薬湯など削れるところは削っていますが、なにせ売り上げ自体が下がっているので。4月の赤字見込みは250万円でした。

    おかん:うおお……。

    湊さん:このまま行くと、休業しても6月にはキャッシュが底をつきます。持ち家物件で家族経営のような銭湯ならまだ余力はありますが、うちは全て賃貸なので。いまは日本政策金融公庫に融資の申請をしているところです。

    おかん:なるほど。

     

    湊さん:とりあえず3000万ほどの融資金を申請しています。融資金が降りれば、全員解雇をして失業保険で繋いでもらう選択肢も現実的な手段として検討していますね。休業補償の制度もあるのですが、補償が出るまで時間もかかりますし、同額程度の金額を比較的速やかに受け取れる失業保険のほうがスタッフたちにはいいかなと思って。

    おかん:その場合、銭湯はどうなるんですか?

    湊さん:僕ひとりで最低限の維持をしながら、融資金を切り崩しつつ、各銭湯は新型コロナ収束まで冬眠状態に入ります。

    おかん:融資金が下りなかったら……?

    湊さん:廃業ですね。

    おかん:あああ〜〜〜〜!!!!融資おりてくれ〜〜〜〜!!!!

    湊さん:まあでも、僕はかなり理想を貫きながらやってきてもいます。銭湯が感染源にならないような選択肢を取って、少しずつ身を削りながらやってきましたし。

    おかん:その覚悟ある判断が、きちんと報われる世の中であってほしい……。グッズ販売やクラウドファンディング的なことはされないんですか?

    湊さん:一旦は融資待ちですね。先日グッズ販売も行いましたが、それは現金を得るというよりも在庫があったことが理由で。日ごとに状況が変わるため、いまはまだなんとも言えません。もし何か支援を募ることがあれば、Twitterなどで告知をします。

     

    長期的に銭湯を継続させるために、いま1〜2年我慢する

    画像:ジモコロの湊さんインタビュー記事から引用

     

    おかん:いま何か言える状況ではないかもしれませんが、新型コロナの収束後にやりたいことはありますか?

    湊さん:銭湯は、どうしても経営者の高齢化による廃業が多いんです。今後、感染拡大の煽りを受けて閉めてしまう銭湯も出てきてしまうのではと予想しています。そこをまた引き継げればいいなと。

    おかん:さらに運営する銭湯を増やすんですか!

    湊さん:街に愛された銭湯が消えていくのはやはりもったいないですし、ちゃんと収益化できる可能性のある場所もたくさんあります。いま運営している銭湯はもちろん、今後も引き継ぐ銭湯は増やしていきたい。銭湯文化を長期的に継続させるために、いま1年か2年我慢するというのが、僕にできるポジティブな行動かなと。

    おかん:休業要請に入っていないのにしっかり感染リスクを回避して「冬眠」する考えも、銭湯文化を受け継ぎ広めてきた湊さんだからこそかもしれませんね。復活したら1日3回入りにいきます!

     

    ミニシアター「出町座」の場合

    休業要請により、やむなく休館となった

    田中誠一(たなか・せいいち)さん

    「出町座」支配人。2017年、惜しまれつつ閉館した京都のミニシアター「立誠シネマ」が生まれ変わる形で「出町座」としてオープン。映画館・本屋・カフェの複合施設として、新たなカルチャーを発信し続けている。

     

    画像:田中さんから提供

     

    おかん:商店街にある「出町座」は、地域密着型のミニシアターです。映画館も新型コロナの影響をかなり受けていると思いますが、出町座はいかがでしょうか。

    田中さん:4月17日に緊急事態宣言が京都でも発令されました。映画館は休業要請の対象だったため、出町座としては4月18日から映画の上映を休業しています。施設内には、運営が別の本屋とカフェもあり、そちらは営業しています。

     

    画像:田中さんから提供

     

    おかん:休業前の段階で、集客にはどれくらい影響がありましたか?

    田中さん:3月からじわじわと客足が減ってきてはいたのですが、大阪と兵庫で先立って緊急事態宣言が出てから、大きくダウンしましたね。早くから休業に踏み切った映画館もありますが、それぞれいろんな立場があります。開けているところも閉めているところも、かなりの葛藤があって今日に至るのではないでしょうか。

     

    全国の小規模映画館のための基金「ミニシアターエイド」

    おかん:なにか休業にともなって対策を打っていますか?

    田中さん:休業要請が発令される前の4月13日から、全国の111劇場・96団体(4/24時点)のミニシアターを対象にした「ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」が立ち上がりました。廃業の危機に立たされる全国のミニシアターを存続させるためのクラウドファンディングで、出町座および僕たちの会社が運営している他の劇場も加盟しています。

     

    おかん:どういった内容でしょう?

    田中さん:営業再開した際に参加劇場で使える「未来チケット」の購入、もしくは純粋な寄付金としての「応援」を選ぶことができます。4月末時点で2億円を超える金額が集まりました。ミニシアターは経済規模が小さく、個人経営の館も多いので、本当にありがたいことです。

    おかん:2億円! すごい。全国各地の映画好きや映画に関わる人たちが手を取り合ったんですね。

    田中さん:参加団体で集まったお金を分配すると、現時点で150万円ほどが入る予定になります。うちはシマフィルムとして出町座、福知山シネマ、舞鶴八千代館の3館を運営する会社としてこの額を頂くことになります。もちろん命をつなぎとめる大切なお金です。しかし……この金額は、あくまで繋ぎにしかなりません。

    おかん:150万円あれば、出町座さんはどれくらい保つものなんですか?

    田中さん:う〜ん、維持費で2週間ぶんあるかないかというところですね。

    おかん:み、短い……。

    田中さん:映画館って、広いスペースが必要なのでものすごく費用がかさむんです。

     

    「点」だった全国のミニシアターを「線」で繋げて「面」に

    画像:田中さんから提供

     

    おかん:街の映画館って、文化のハブというか、すごく大切な場所じゃないですか。飲食店や旅館に助成金を出す自治体も増えているので、その支援がミニシアターにも向けられて欲しいですね。

    田中さん:そのことなんですが、助成金の対象とならない理由は、ミニシアターがいままで「点」でありすぎたのかなと個人的には思っていて。

    おかん:と、いいますと?

    田中さん:日本のミニシアターって、すごく独特な文化なんです。そもそも、個性豊かなミニシアターが全国各地に散らばっているという国はとても稀。そして、多様な国の映画を鑑賞できるのは世界的にもすごく珍しいんです。しかも、今日の映画文化は、公的な支援を受けず、各地のミニシアターが独自で地域と連携して成り立たせてきました。

    おかん:ある意味、「好きだから勝手にやってた」の蓄積で成り立っているというか。

    田中さん:そうですね。現代の資本主義的なグローバリズムとは一線を画すものであり、各館が独立した「点」として、ニッチなカルチャーを成り立たせてきた。そのため、行政や国の公的な支援を求める必要が出てきた今、どこの管轄に帰属するかがはっきりしないんです。

    おかん:管轄の帰属?

    田中さん:行政区分でいうと、商売の場だから経済産業省や厚生労働省の管轄という側面もあるし、文化芸術に接する場でもあるという意味では文部科学省の管轄という部分もある。海外だと公的な博物館や美術館、シネマテークで上映されるような作品も日本のミニシアターでは日常的に上映されるので。

    おかん:ああ〜なるほど、日本的な縦割りの弊害が…。

    田中さん:じゃあ今のこの困窮状況に即応するのは文化庁なのか? はたまた経産省なのか、厚生労働省なのか。国の対応スピードは一旦置いておいて、単純にミニシアターの文化というものが国にきちんと把握されていないんですね。

    おかん:どこの管轄なのかわからない限りは、どの官庁に責任を預ければいいかわからないですしね。

    田中さん:「ミニシアター・エイド基金」は、運営資金を集めるというだけではなく、「点」であった全国のミニシアターを「線」として繋げ、ミニシアター界隈全体を「面」として、日本の大切な文化の場であることを国に知ってもらうための活動でもあります。この状況にならなければ、こうした動きは起こらなかったかもしれません。存続が危ぶまれるいまだからこそ、できることは全てやりたいと僕は思います。

     

    チケット代を製作者・配給会社・劇場で分配「仮設の映画館」

    おかん:なにか、いち消費者がミニシアターにできることってあるんでしょうか?

    田中さん:終わりの見えない自粛を受けて、つい先日「仮設の映画館」というプロジェクトがスタートしました。複数の配給会社が劇場公開するつもりだった映画を持ち寄って、さまざまな映画を動画共有サイト「Vimeo」で観賞できるサービスです。

     

    「仮設の映画館」http://www.temporary-cinema.jp/

     

    おかん:鑑賞代を払って、映画を自宅PCで観るということですか?

    田中さん:はい。ただこのチケットには仕組みがあって、購入する際に「どこの映画館で観るか」を選ぶことができるんです。観たい映画を上映する予定だった映画館が一覧で出てくるので、そのどこか選択してチケットを買うと、そのお金が選択した映画館に分配されます。

    おかん:ほ〜〜〜!

    田中さん:さらに、映画は映画館だけで成り立つものではありません。製作者・配給会社・劇場がそれぞれ存在して、映画を観客の方が観てくれて、はじめて成り立つもの。チケット代は選択した映画館だけではなく、製作者と配給会社にも分配されます。

    おかん:本当に、物質的な映画館そのものがWeb上に移行した形になるんですね。

    田中さん:ただ、映画館のスクリーンで、あの座席で、あの雰囲気のなかで観賞するのとは別物です。だから、あくまでこのサービスは「仮設の映画館」です。いつか必ず本当のスクリーンで上映するために、みなさんに今は心身を健康に保つことだけを意識して、無理せず過ごしてほしいです。

    おかん:未来の「また映画館に集まれるとき」を見据えているんですね。

    田中さん:未曾有の事態で多くの戸惑いや葛藤が生まれました。これはもう世界の成り立ちが大きく変わると思います。確実に。

    おかん:そんな気はします。

    田中さん:しかし、新型コロナが収束したあと焼け野原しか残っていないかと言われると、僕はそうじゃないと思います。ネガティブな感情だけではクリエイティブは生まれてきません。焼けたあとの大地に生まれくるものを感じながら、表現活動をしていくことが大事なんじゃないかな。

     

    ライブハウス「METRO」の場合

    閑散期の終わりが見えた矢先の感染拡大は大打撃だった

    ニック山本(にっく・やまもとさん)

    日本最古のクラブ「METRO」のオーナー。クラブやレゲエシーンが知られていなかった90年代初頭に「METRO」をオープン。京都の音楽シーンに多大な影響を与え続けてきた。日本初のレゲエバー「RUB-A-DUB」、オーガニックハーブティー専門店「Natural Riddim」も経営している。

     

    画像:山本さんから提供

     

    おかん:「METRO」といえば京都を代表するクラブ・ライブハウスのひとつです。わたしも学生時代から幾度となくお世話になっていました。どのような流れで休業に至りましたか?

    山本さん:比較的、関西では新型コロナの感染拡大による影響が早期に出てきていました。3月頭からいろんなアーティストがキャンセルになって、スケジュールはスカスカに。関西のアーティストだけでライブハウスを回すことも考えましたが「ちょっと無理やろうな」と……。

    おかん:METROは東京や海外のアーティストのライブもすごく多いですしね。

    山本さん:そもそも1月2月というのは、ライブハウスの売り上げがガクンと落ちるものなんです。基本的にアーティストが篭って、レコーディングをする時期なので。

    おかん:あ、そうか。初夏〜秋にかけてはフェスもありますし、冬場に楽曲制作することが多いのか。

    山本さん:そうそう。それで、うちも毎年、冬になると銀行から融資を受けているんです。閑散期は借り入れしたお金でしのいで、3月くらいからライブやイベントが増えて、借りたお金を返しつつ売り上げで運営を回していく、と。こうした営業の仕方をとっているライブハウスは結構多いんじゃないかな。

    おかん:知らなかったです。ちなみに、ライブハウスの固定費って毎月どれくらいなんでしょう?

    山本さん:METROは毎月300万くらいはかかっちゃいますね。

    おかん:おおお、固定費もすごい。「いつでも人にエンタメを与える場」を維持するのって、本当に大変だ……!

    山本さん:ただでさえ季節的な収入減があったところに、新型コロナによるキャンセル続きでもう大打撃でした。このままじゃ廃業の可能性もあるので、クラウドファンディングをしたんです。

     

    クラファンを通じて「METROは必要な場所だ」と認められた気がした

    おかん:京都のライブハウスのなかでもいち早く休業してクラファンをおこなっていたので、すごく話題になりましたよね。

    山本さん:いやもう本当にねえ……ありがたくて。うちも1990年の創業以来、経営が危ぶまれることは何度かありましたが、今回ばかりは音楽業界全体の危機だったので。ダメなんじゃないかとも思いました。

    おかん:特に音楽業界は、コロナの影響を一番といっていいくらい受けているかもしれません。

    山本さん:でも、こうして多くの人が賛同してくれて、お礼を言っても言い尽くせないです。正直、休業を決めてからはずっと安眠できない日が続いていたんです。支援金が集まって、ぐっすり寝られる日が来ました。

    おかん:400万円の目標に対して、支援は1300万円以上ですもんね……。本当にすごい。

    山本さん:ライブハウスでの音楽は「不要不急」です。なくても死ぬわけじゃない。ただ、今回のクラウドファンディングをきっかけに「METROは必要な場所だ」と多くの人が考えてくれているのが可視化されたというか。そこはうぬぼれじゃなく……。

    おかん:ええ、わかります。

    山本さん:これだけMETROに多くの愛情を注いでくれている人が多いのだから、今度は僕たちが皆さんに還元していかなければいけないなと。収束してお店が開けられるようになったら、リターンとは別で、感謝を込めてイベントを開催したいです。アーティストにはギャランティをお支払いするけれど、お客さんは無料で楽しんでもらえるような。

    おかん:利他の極みすぎる!

     

    「多様性」を訴え続けるハコでありたい

    画像:山本さんから提供

     

    おかん:METROってすごく特殊なハコなんですよね。バンドはもちろん、ポップス、テクノ、アニソンなど、あらゆるジャンルのイベントを開催していて。世界で人気のアーティストから、大学の軽音楽部、DJ、ダンサー、パフォーマーまで何でも受け入れてくれる懐の広さがあると思うんです。

    山本さん:そうなんですよ。METROはね、そんな言葉がなかった30年前から「多様性」を理解し、お互いが認め合う場所になればいいと思って始めた場所なんです。

    おかん:ほう。

    山本さん:80年代、僕は当時まだマイナーだったレゲエに出合い、人生が変わったんです。1982年にはじめてジャマイカに行って、本場のレゲエを見てね。褐色の肌が裏打ちのリズムに輝いていて、すごく綺麗だった。

    おかん:現地の光景に受けた衝撃が、METROに繋がっている。

    山本さん:あまりにハマってしまって、脱サラしてジャマイカとニューヨークを3年ほど行ったり来たりしていました。ジャマイカでレゲエを、ニューヨークではブラックミュージックや、クラブカルチャーを学びました。そして日本に帰ってきたんです。ジャマイカで奥さんにも出会って、子どももできた。

    おかん:息子さんはラッパー・芸術家として活躍されていますよね。

     

    ラッパー・インタラクティブアーティストのDaichi Yamamotoさん

     

    山本さん:ええ。それで、僕の子どもは日本とジャマイカのミックスになるわけです。80年代後半なんて、まだ全然ミックスの子は珍しくて、幼稚園でいじめられて帰ってくる。

    おかん:確かに、30年ほど前は物珍しさがかなりありましたよね……。

    山本さん:僕はそれが悔しくていつも怒ってたんですが、ある時、「よくわからないから人は差別するんだ」と気づいたんです。

    おかん:よくわからないから人は差別する?

    山本さん:うん。だから「違い」をかっこいいと認めてもらえれば、そこにリスペクトが生まれて差別はなくなるんじゃないかと。レゲエやブラックミュージック、それ以外のロックでもブルースでもポップスでも、違うカルチャーを知れて認め合う場所をつくろうと思って、METROを立ち上げたんです。

    おかん:これがMETROが愛され続けてきた理由の真髄なんですね……。マジで震える!

    山本さん:コンセプトを大事に、利益ばかりを追求しないでやってきました。ほら、いまはどうしても新型コロナの影響で世の中がギスギスしてしまっているでしょう。ことが落ち着いたら、必ず何かやります。「いろんな人がいて、いろんな人がいるからこそ世の中は面白い」とわかる何かを。きっと遊びにきてください。

     

    終わりに

    「憎き新型コロナだけど、人間にとって何が大事かを教えてくれたよね。価値観も生き方も変革が起こると思う。人は結局、起こりうることのなかからしか学べないから」

     

    取材の最後、山本さんが話していた言葉が、取材を終えた今も、私の中でぐるぐるリフレインしています。なくても生きていける場所たちに、私たちの人生は少なからず彩られ、生きる力を与えてもらっていた。そのことを、今になって痛感しています。

     

    苦境に立たされる「不要不急の場所」たち。しかし、苦境にあえぐばかりではなく、できることを模索しながら、そのうえさらに自分たち以外の人にむけた展望もしっかりと抱えていました。

     

    彼らの話を聞いて、なんかこう……「絶対にまた行くから!!」とやる気が湧いてきました。

    いつかまたみんなで、交互浴で整い、物語に感動し、イケてる音楽に身体を揺らす。そんな夜を待ちましょう。

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    おかん
    おかん

    1989年生まれ。京都市在住。学生時代は日本画を学び、京都の編集プロダクションに5年勤めたのち独立。Webや雑誌を中心に、ローカルコンテンツや食べ物屋・お酒をテーマにした記事をよく執筆する。「スナックおかん」なるフードイベントも各地で開催中。

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