わしらは「和紙」のために働いてるんだって! お金は和紙でできてるんだって!

2021.06.30

わしらは「和紙」のために働いてるんだって! お金は和紙でできてるんだって!

福井県越前市・五箇地域で伝統工芸品である「越前和紙」の工房見学を行っていたところ、「和紙=お札」という事実が判明。実はとっても身近だった和紙について、「卯立の工芸館」の村田菜穂さんと、鯖江の森一貴さんのお話しを元に伝えます。

人気記事

    ジャブッ…… 

     

    ジャブッ……

     

    「はい、こんな風に和紙はつくられてるんですよ。日本では和紙が重要な素材ですけど、この越前では昔から手漉きが……」

     

    「ふんふん…」

     

    (このあと何食べよっかな……そば……ソースカツ丼……)

     

    「あの………聞いてます?」

     

    「あ、ごめんなさい! つい気が散ってお昼ご飯のことを」

    「ちゃんと聞いててくださいね。で、皆さんの持ってるお札の透かしも、この和紙の技術でできていて…

    「え、お札? お札って和紙でできてるんですか?」

    「そうですよ。日本のお札づくりにも、越前の紙漉き職人が関わっています。日本が誇る技術ですねえ」

    「ちょっと待ってください」

     

    「これが……」

     

    「和紙!!!????」

     

    「急にリアクション大きいですね?」

    「いや、和紙の工房見学に来たものの、和紙って身の回りにないしあんまり興味わかないな〜と思ってたので」

    「正直すぎ!」

    「すみません。でも、お札が和紙ってことは……お金=和紙。めちゃくちゃ和紙って身近だし重要じゃないですか!!!」

    「だからそう言ってるじゃないですか。千円札も五千円札も一万円札も和紙ですよ

    「つまり、毎月もらってる給料も和紙。わしらは和紙のために働いてたのか……」

    「急に訛った」

     

    はい、ということで今日は福井県の越前市に来ています。福井のものづくりといえば、お隣り鯖江(さばえ)市の「メガネ」が有名。でも、メガネだけじゃなくて和紙もすごいんです!

     

    旧国名である「越前国」では、和紙づくりがさかんだったそう。越前市の五箇(ごか)地域にある「卯立(うだつ)の工芸館」は、手漉き和紙の技術を伝える工房なんです。

     

    完全に油断していたところ、とんでもなく重要だったらしい「和紙」。背筋を伸ばして、村田さんの話を詳しく聞いていこうと思います。

     

    ※取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで行い、撮影の際だけマスクを外しています

    明治新政府も、日本画の巨匠も使った越前和紙

    伝統工芸士として、卯立の工芸館で働く村田菜穂さん。専門は「雁皮(がんぴ)漉き」

     

    「和紙に興味持ってくれました?」

    「完全に興味を持ちました。和紙のことが気になってしょうがないです」

    「よかったです。皆さんはいま当たり前に白い紙を使ってますけど、昔は真っ白な紙なんて、本当に位の高い人しか使えなかったんですよ。天皇陛下や、将軍さんみたいな」

    「へええ! 白い紙といっても、コピー紙みたいなやつとは別ですよね?」

    「ええ。一般的なコピー用紙は西洋で生まれた、機械式の紙なんです。木材からつくった『パルプ』が原料の、いわゆる『洋紙』ですね」

    「機械式の紙。それに対して、和紙は手でつくると」

    「いまは機械でつくる和紙もありますけど、ここでは昔ながらの『手すき』の手法でつくる和紙を紹介してます。こちらが素材の一種の『楮(こうぞ)』です」

     

    クワ科の植物「楮」。ジンチョウゲ科の「三俣(みつまた)」や「雁皮(がんぴ)」、また「麻」も和紙の素材に使われる

     

    「茶色い!」

    「そう、原料はこんな色なんです。皮は茶色かったり、黒い部分もあったりする。だから、白い紙をつくるのって大変なんですよ」

     

    いわゆる普通の和紙。茶色っぽい

     

    「元が茶色や黒色が入ってるから、そのまま紙にすると真っ白にはならなそうですよね」

    「そうなんです。でも、浮世絵を描く人なんかは『もっと白い紙がほしい』と言ってきますよね。白くするには、素材から黒や茶の部分を削ります。すると、どんどん量が減っていくじゃないですか」

    同じ量の素材でも、白い紙のほうがつくれる量が減る、と……。そうか、だから真っ白な紙は高級品だった!」

    「そういうことです。そうでなくても今みたいに量産できませんから、昔は貴重な紙に、みなさん命がけで字を書いてたんですね」

    「いまと全然感覚が違ったんだなあ。機械式の洋紙のほうが大量生産できそうですが、効率を求めて洋紙が生まれたとか?」

    「う〜ん、西洋で洋紙が生まれたのは、水の違いが大きいと思います」

    「水の違い?」

    「軟水じゃないと、手すきで使われる『トロロアオイ』が粘らないので」

     

    トロロアオイの花。根から抽出される粘液が「ネリ」と呼ばれ、紙漉きの際に使用される

     

    「粘りが重要なんですか?」

    「はい。手漉きの流れをざっくり説明しますね」

     

    「まず楮や雁皮といった素材となる植物の皮を煮て、水にさらしながら固い筋などの『ちり』を取り除きます

    「ふむふむ、地道な作業だ…!」

    「ちりを取り除いた植物の皮を、さらに棒で2時間くらい叩きます。植物の繊維をほぐすためですね」

     

    「『ベルセルク』に出てくるガッツの剣みたい。そして重い! これで2時間ってめちゃキツくないですか?」

    「腕がパンパンになりますね(笑)」

    「毎日紙漉きしてたらガッツ並みの肉体になれそう…」

    「で、1本1本バラバラになった繊維を、水に入れて攪拌します。こうやってジャバジャバ混ぜて…」

     

    「混ざったところを、この『簀桁(すけた)』ですくいます」

     

    「お、『和紙を漉く』ってこのシーンが印象深かったです」

    「ただし、ここで水に粘りをつけておかないと、均一で美しい仕上がりの紙にならないんですね。粘りがあるから、桁を揺するとゆっくり水が垂れて、簀の上にきれいな紙ができていくんです」

     

    「なるほど〜。だんだん層が重なって厚くなっていく……」

    「欲しい紙の厚みになったら、圧力をかけて紙の水分を絞ったあと、乾かして完成です」

     

    漉きあがった直後の和紙

     

    「乾く前は透明っぽいんですねえ。ちょっとおいしそう」

    「またご飯のこと考えてます? ヨーロッパで同じように紙を漉こうと思ったら、軟水を用意しないとできないんです。あちらは硬水ですから、トロロアオイが粘らなくて」

    「だから和紙が日本で生まれて、海外では洋紙になったと。水の違いで文化も変わるんだなあ」

    「越前はいい水があるのも、紙漉きがさかんになった理由のひとつですね」

    「ほうほう。その越前和紙っていつ頃からつくられてるんですか?」

     

    「1300年以上前からと言われてます。室町時代には公家や武士階級の公用紙として使われたり、明治新政府の紙幣『太政官金札』にも、越前和紙が使われたんですよ」

    「おおお、めちゃくちゃ由緒正しい。政府から認められた紙だったと」

    「ええ、ヴェルサイユ条約(※)の調印用紙にも使われた、と聞いています。あとは画材としても重宝されて、大正時代には日本画の巨匠・横山大観からのオーダーで、5m40cm四方の紙を納品したそうです。最近ではオランダの芸術家、テオ・ヤンセンの作品にも使われていますね」

    「すごい和紙だ……ちゃんと聞いてなくてすみませんでした……」

     

    ※1919年に結ばれた、第一次世界大戦における連合国とドイツの間で結ばれた講和条約

     

    クシャクシャポイして、また漉き直せる

    「でも、いまの日本は洋紙が主流じゃないですか。どこで和紙と洋紙の需要が入れ替わったんでしょう?」

    「いろいろ要因はあると思いますけど、日本人の住環境の変化は大きいんじゃないでしょうか。だんごさんの家に和室ってあります?」

    「……ないですね。洋室だけです」

    「今は和室のある家のほうが少ないでしょうね。日本で西洋式の家が増えるにつれて、和紙の需要も下がっていきました。和室には、和紙がたくさん使われてますから」

    「たしかに、この卯立の工芸館もよく見るとそこら中に和紙が……」

    「どうしました?」

    「え……和紙だらけでは……?」

     

    この掛け軸も和紙だし…!

     

    この壁紙も、よく見ると和紙!!

     

    照明も和紙!!

     

    襖(ふすま)も和紙だし……!!!

     

    障子だって、和紙!!! 和紙だらけ!!!

     

    これも…… あ、これはガラスでした。

     

    「気が済みました?」

    「はい、落ち着きました。今の家と比べてみると、身の回りから全然和紙って無くなってるんだなあと思いました。それこそ『お札=和紙』だって気付いてないくらい、意識しなくなってる」

    「素材の植物をつくる農家さんも、つくり手も減ってます。やっぱり使う人がいないとね。和紙も紙なので、使ったらクシャクシャポイでいいんですよ。どんどん使ってほしいです」

    「なんか、つくる工程を聞いちゃうと恐れ多いですね。クシャクシャポイ……」

    「ポイしたやつを返してもらえれば、新しい紙にすき直せますよ。お父さんが使った紙をすき直して、お子さんが使うなんてことも可能です」

    「へえ、紙を受け継ぐ!」

    「どうです? この魅力的な販売方法(笑)。リサイクルやエコなんて言葉が生まれる前から、日本人はものを大事に使ってたんですね。白い紙をつくったあと、余ったくずを漉いて『ちり紙』をつくったりもしてました」

     

    こちらが「ちり」。楮(こうぞ)などの外皮のくずや、紙を漉く際に出るくず紙を漉き返したものを『ちり紙』と呼んだそう

     

    「おばあちゃんがティッシュペーパーを『ちり紙』って呼んでましたけど、もしかして……」

    「はい、語源は和紙から来てますね」

    「意外と和紙、日本人の暮らしに隠れてる……」

    「そうそう。ちなみに越前市の学校の卒業証書は、子どもが自分で漉いた和紙なんです。お札のように、透かしを入れるんですけど」

     

    こちらが卒業証書をつくるため、実際に使われているもの。左が「透かし」を入れるための「桁」、右が透かしを入れた卒業証書用の紙

     

    この「桁」を使ってすくと、模様の部分だけ紙が薄くなる。すると、その部分が「透かし」になる。透かしって紙の厚さの違いだったのか……!!!

     

    「透かしってかっこいいですね〜。ほかにも使えそう」

    「透かし入りの名刺もできますよ。透かしのぶん、ちょっと分厚くなっちゃうけど。お札の紙も分厚くしてあるんですよね。厚くて光が通らない部分が、黒く見える。薄いところは光が通って、白く見えるんです」

     

    よ〜く見ると、髪の毛や目鼻、髭の部分が盛り上がって分厚くなっている

     

    「おおお、ほんとだ。まじまじ見たことなかったけど、お札って繊細な加工ですね……」

    「日本は偽札防止をはじめ、紙幣製造の技術がとても高いんです。日本の造幣局によその国も注文してくるくらい、信頼されてるんですよ」

    「ほかの国の紙幣もつくってるとは! でもなんか、言ってしまえばお札もただの『紙』じゃないですか。それがこんなに価値を持つなんて、不思議な話ですね……」

    「この近くに、『紙の神様』をお祀りしてる神社もありますよ。そこへ行けば、もっといろんなことがわかるんじゃないかな」

    「行ってみます!」

     

    和紙に信用を載せると、お札になる?

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    友光だんご
    友光だんご

    編集者/ライター。1989年岡山県岡山市生まれ。株式会社Huuuu 取締役/編集部長。犬とビールを見ると駆けだす。

    友光だんごの記事をもっと見る

    同じカテゴリーから記事を探す

    オススメ記事

      合わせて読みたい

      日本人が意外と知らない「和紙」の世界

      open & close

      上へ

      こちらの記事もオススメ