ライターの大坪ケムタです。2月の取材記事なので冬服で失礼します!

みなさんは大阪にある「西成」という地域を知っていますか? 「あいりん地区」「釜ヶ崎」のことをそう呼ぶことも多いです。

 

僕は大好きな街なのでこの10年ちかく何度も訪れているのですが、一般的には『THE物騒』というイメージかもしれません。2008年に暴動が起きたことでも有名ですし。

 

僕がこの街を何度も訪れた理由の一つ、プロレス。釜ヶ崎の公園で開催された時のもの。最前列が竹のバリケード!

物見遊山で集まったオッチャンらの「殺せー!」って声援(?)が飛び交っていて、ほとんど海外に来た感覚でした。

 

そんな西成は高度成長期以降、日雇い労働者が多く集まった地区。「ドヤ」と呼ばれる簡易宿が立ち並び、東京の山谷・横浜の寿町と並ぶ「三大ドヤ街」のひとつです。

一泊1000円以下と激安な安宿に泊まる人だけでなく、路上生活者も多く、公園で炊き出しが行われる光景もよく見られました。

 

ところが、10年近く前からバックパッカーなど外国人観光客が安宿に泊まることが増えると、街の雰囲気が変わってきました。ひとことで言うと『(多少)安全な』方向に!

 

そうなると、街のポテンシャルとしては

・安く泊まれて大阪の中心地まで近い

・安く飲める店が多いグルメ界の極北の地

とすごく便利なんですよ。※実際このあたりの地価はまあまあ高い

 

西成なら、ふらっと入った店でもホルモンに鍋に洋食など、安くてうまい! 

 

僕が好きな「きらく」のホルモンうどん

 

さらに銭湯もオーソドックスな入船温泉・和光浴場から、少し歩いた先のスーパー銭湯・スパワールド(地域的には新世界ですが)まで幅広い。

そして宿も、SNSを見ると怪しい・汚い部屋しかないのかと思われがちですが……1500円も出せば小綺麗なところに泊まれます。

 

なお、和室はせんべい布団の可能性もあるので、快適に寝たいなら100円200円足しても洋室(ベッド付)を選ぶと良いでしょう。

 

この一帯ではあちこちにある激安自販機。30円!

 

大阪人の心のオアシス、激安スーパー玉出。24時間空いてて便利

 

というわけでこの10年、訪れるたびに付近のホテルが綺麗に改装されていくのを実感してました。

一昔前はボロボロだった宿が、楽天トラベルで予約できるようになり、WIFIが入り、外国人観光客向けにハロウィンイベントやインスタスポットが出来、いつの間にかフロントの隣にペッパー君がいた。

 

西成に、1Fがテラス席のホテルだと……?

 

そんな西成の街の変化について、この一帯をくまなくウォッチしてきた人にあらためて聞いてみよう、ということで最初にこの街に自分を連れてきてくれたこの方にうかがうことにしました。

 

ぶっちょカシワギさん。日本橋や千日前・味園ビルなどに様々なお店を経営する、大阪サブカルチャー界の有名人。

昔から西成一帯に通じているこの人に、あらためて、街の変化について聞いてみました。

 

西成の相撲の横綱に話を聞いてみた

「カシワギさんは、もともといつ頃から西成周辺に来るようになったんですか?」

「ぼくは15年くらい前ですね。先輩にくっついて来たんですけど、街の魅力を知って、DVDマガジンを作ろうと思ったんですね。仲良くなったオッチャンに声をかけてカメラ回すようになったんですよ」

「たしかにドキュメンタリー映像としては興味深いものが撮れそうな街ですね」

「毎年夏に慰霊祭があるんですけど、『この街の人らともっと仲良くなるために、祭りに参加しよう』と思って。祭りで開催されてる相撲に出るようになったんです。慰霊祭って言っても、メインは相撲だから」

「相撲がメインコンテンツって、昔の村祭り感ハンパないですね」

 

「それに10回くらい出て、5回くらい優勝して、1回総合優勝して」

「めちゃくちゃ強いんかい!」

「その相撲で仲良くなれた人が多いです。負けたオッチャンとLINE交換して、いまだに正月に『あけましておめでとう』って連絡きますよ」

「一回戦ったらダチ、なシステムですね」

「2018年の夏祭りの相撲大会では、ついに外国人が女相撲の優勝者になりました。ここ3年くらい外のお客さんもどんどん増えてきて。そういう光景を見てたらこの街も変わったなって思います」

「グローバルになったんだ」

「今や相撲大会も本格的になって、プロレスラーとか元力士とかが出るようになった。素人では勝てなくなってきちゃったんで、それもどうかと思うんだけども(笑)」

「外国人横綱で賑わう日本相撲界みたいな状態に」

 

西成に住んでる人はどんな人?

「昔は日銭稼いで生きるオッチャンらがドヤに住んで、手配師が来ては仕事場に連れてって、てのが多かったと思いますけど、最近はそういう仕事も減ってるみたいで」

「自分も、昔はこの辺を朝通ってるとよく『働かんか?』って感じで声かけられましたけど、今はぜんぜんないですね。年齢もあるのかもしれないですけど」

「最近はおっちゃんたちに街の清掃とか公的な仕事が与えられたりしてますね」

 

おじさんたちが路上清掃を行っている。

 

「話してみてどういう人が多い印象です?」

「オッチャンらは基本的に寂しがり屋で人懐っこいんですよ。人が嫌いなタイプは少ないですね。ホームレスにしてもわざわざこんな都会の人の多いところにいるわけで、街外れに住んでるような人嫌いなタイプの人とは違うんですよね」

「実はコミュニケーションしたがるタイプも多いと」

「ここに集まってくる時点で、わりとワイワイするのが好きな人が多いんですよ。だから話してみると、いろいろ自分のこと話したがる人が多いですね」

 

「若い人が相手だと、おごってくれたりしますね。そうやって後先考えずにおごるから、身を持ち崩す人が多いんじゃないかと思いますけど。ハハハ」

「そうまでしておごる……!?」

「普段から炊き出しとかあるから、『分け与える』みたいなことが当たり前なのかも。『みんなで食おうや!』みたいなノリはある。中に入ると思ったよりはみんな優しい印象ですよ」

「西成って住む場所としてはどうですか? 一昔前は激安物件ばかりで、僕も住もうかなと考えたことがあったんですが」

「後輩が駅のすぐ裏のマンションに引っ越すんですけど、家賃がインターネット代込みで4万らしいんですよね」

「えぇ~ネット込みで!? 広さは? 風呂は? トイレは?」

「すごい食いつくな……。6畳風呂トイレインターネット付、共益費も込みで4万くらいです。その家賃でほぼ底値だと思います。このあたりは未だに6万出せば新築狙えますよ」

「すげえなあ……まだそんな値段変わってないんだ」

 

 

西成は本当に怖い街?

「ここ最近でかなり小綺麗になったとはいえ、西成=おっかない街って印象はまだあると思うんですよね」

「まあ危険度ゼロとは言いませんよ。歩いてて何か起きる危険性は0.1%くらいはある。ただそれは歌舞伎町とかでも同じじゃないですかね」

「否定はできない」

「『ひょっとして幻覚とか見えてます?』っていう本当にヤバい人は……声がでかくて薄着だったりといった感じで何となく特徴があるんで、僕は近づかないようにしてます」

「そんな特徴が」

「変わった人はほんと多い。車道のど真ん中で正座してるオッサンとか。以前は深夜2時まで路上でペット屋やってる人とかいましたよ。亀とか売ってて。そこらへんの川とかで捕まえたやつだったのかも」

「捕まえるの大変では? 溺れちゃうかも」

「僕もそう思って聞いたんですが、オッチャンいわく『溺れたら、無理せず身を委ねて陸に近いところまで流されろ!』とのことでした」

 

「そういう露店は有名でしたよね。通称“泥棒市”。服とかビデオとか、なんでもある。出元がぜんぶ謎だけど」

「本体ないのにリモコンだけとか、片方だけの靴とか売ってたんですけど、最近は露店も見なくなりましたね」

「えっ!そうなんだ!」

「近くに小中一貫校が作られたんです。それで『通学路の雰囲気が悪いのは良くない』ってことで、露店とか出せなくなったんですよね。代わりに有料でフリマとか出来るようなスペース作ったりもしたんですけど、使ってるオッチャンはあまり見ませんね」

「なるほど、そういう流れで泥棒市もなくなったんですね」

「他にも“やばい何か”を売る人が多くいる通りとかあったんですけど、24時間常駐でパトカーがいるようになったりして、前に比べたら健全になりましたね

「本当に治安はマシになってきてるんだ」

 

2020年から先の西成は?

「もともと西成って、なんばと天王寺の間にあって、東京でいう新宿と池袋の中間みたいな、交通の便は悪くない場所なんですよ。だから開発するにはいい土地だっていうんで、これまでも観光客向けにしようって動きはあったんです」

「都市開発の話はずっと前からあったんですね」

「実際、90年代には駅の傍にフェスティバルゲートっていう屋内遊園地が作られました。……が、誰も来なくて、結局ドンキとパチンコ屋になりました。やっぱりこの街は変われないな~って思ってるところに、外国人観光客が増えてきたんです」

 

「こっちの人が『ドヤ』と言ってた安宿を、ゲストハウス感覚で使うようになりましたよね」

「そうですね。そのうち“ちょっと良いドヤ”みたいなホテルが増えていって、少しずつ町が盛り上がってきましたね」

「僕は半年に一度くらいのペースで西成に来てるんですけど、来る度に新しいホテルとかゲストハウス見ますね」

「前に友達に聞いた話だと、2018年から19年の2年間で、大阪市全体でホテルが106軒増えたらしいですね。いちばん多いのは西成で、この辺だけでも50、60は増えてるんじゃないかな」

「そんなに!」

 

注:友達に聞いた話なので正確な数字ではありません

 

「今もホテルはどんどん増えてて。今度、新今宮駅の裏に星野リゾート経営のホテルが出来るんですよ」

「駅の裏って、あの長年ずっと原っぱだった土地? なんで今……」

 

「それはやっぱり観光客に需要があるから。新今宮駅って関西国際空港から特急一本で来れるんですね。そして関西を訪れる外国人に人気がある場所は、京都の伏見稲荷、兵庫の姫路城、そしてUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)」

「まあ定番スポットですね」

「新今宮駅って環状線から特急がつながってるんで、伏見稲荷もUSJも一本で行けるんですよ。姫路もそんなに乗り換えせずに行けるから、新今宮が滞在中のターミナルになる」

「考えてみればマジで便利な場所だな」

「他にも大きく変わったなと思ったのが、グルメ雑誌が西成特集をやったんですよ。そしたらホルモン屋とかに観光客が並ぶ現象が起き始めて。テレビでも少し取り上げられたりして」

 

一人サイズの鍋料理で有名なお店『なべや』に並ぶ人々

 

「昔は近寄りがたい街だったのに」

「全国が西成の魅力に気づいた。そして西成側もそんな人々にオープンになってきてるなと。昔なら取材とか難しかったんですが」

「あと最近はYouTuberもよくネタにしに撮影に来てますよね」

「まあわりと悪趣味な感じで取り扱ったりしてるのも多いんで、住んでる人としてはどうなんやろ?てのはありますけどね……」

 

 

昔ながらのシンボル・あいりん労働福祉センター

この地域のシンボル的な場所、あいりん労働福祉センター

 

『あいりん労働福祉センター』が2019年に老朽化を理由に閉鎖したのも大きな変化です。仕事がある人もない人も、皆ここに集まっていた建物だったんですが、ついに閉鎖されましたね」

「『労働福祉センター』って具体的に何をする場所なんですか?」

「要はハローワークのでかいやつです。上に病院があったりして、みんなこの周辺に集まってきてた。閉鎖じゃなくて、また作り直すって話はあるんですが、どうなるかはわからないです」

 

「これから駅周辺の開発も進むし、良かれ悪しかれ、この街は今よりさらに変わっていくでしょうね。これまでは労働者のための街だったのが、外貨を稼ぐ街になっていくのかなと」

「じゃあ労働者たちはどこに行けばいいの?って話にもなってきますが……」

「でも今までと同じように危険なままだとジリ貧だし、外国人観光客が増えたからこそ食べていけるようになった人もいる。僕にはどちらが正しいかは言えないです。そもそもこの変化の波は止められるようなものじゃない」

「むむむ……」

「それにオッチャンたちと話してると、街に若者が来たりするのがそれなりに楽しいんだろうなって感じるんです。寂しがり屋が多いんでね。普通の女の子が西成で飲むのもよく見るようになったし、雰囲気良くなってますよ」

「2025年には大阪万博も予定されてますし、それまでは開発は進みそうですね。西成もどんどん変わっていくんでしょう」

「“奇妙で危険だった西成”はすでにかなり減りつつあるんで、興味ある人は早めに来たほうがいいですよ」

 

 

まとめ

……という取材をしたのが2月。その後、コロナ禍で日本中が大きく変化して、現在では海外からのお客さんはかなり減っているそう。せっかく増えてきたホテルも経営が苦しくなっているような状況です。

大阪の景気が良くなるだろうと予想される万博まで、まだ5年もある。

西成、大丈夫なの!?

「大阪万博の前に、まずは今年の11月に大阪都構想の選挙があります。結果次第で、カジノ構想やイベント特区とかの話が動き出すはず。なんとか、良い方向に変化してほしいですね」

 

最後に、オッチャンたちはどう過ごしてますか?と質問をしたところ―

 

「オッチャンたちはいつの時代も変わらないですよ。最近は暑いから上半身裸で元気に歩きまわってます(笑)」

 

とのこと。タフだな~!

 

取材時(2月)に見かけた、鳩に囲まれるオッチャン

 

昭和から平成になったタイミングで変わっていったものが、西成ではまだそのままだと言われていましたが……そんな西成はこれからどう変わっていくのか。

他にない濃さが詰まった街なので、できるだけ魅力を残したまま変わってくれることを祈ります。